【建築士の独立開業】手続きやメリット・デメリットを解説
工務店・ビルダーの建築士として働いている人のなかには、将来的に独立開業を目指している人もいるのではないでしょうか。
建築士として独立開業するには、法令で定められた手続きを踏む必要があります。また、法人と個人事業主では、収入の安定性や働き方が異なるため、それぞれのメリット・デメリットを把握しておくことが重要です。
この記事では、建築士として独立するための手続きをはじめ、法人と個人事業主のメリット・デメリット、独立開業を成功させるためのポイントについて解説します。
目次[非表示]
- 1.建築士の独立開業の手続き
- 1.1.①建築士事務所の登録
- 1.2.②管理建築士講習の受講
- 1.3.③事務所の設置
- 2.法人と個人事業主のメリット・デメリット
- 2.1.法人で独立開業する
- 2.2.個人事業主で独立開業する
- 3.建築士の独立開業を成功させるためのポイント
- 4.まとめ
建築士の独立開業の手続き
建築士として設計事務所を独立開業するためには、以下の3つの手続きを行います。
①建築士事務所の登録
『建築士法』第23条では、設計等の業務によって報酬を得る際、建築士事務所を設けて、都道府県知事の登録を受ける必要があると定められています。
第二十三条 一級建築士、二級建築士若しくは木造建築士又はこれらの者を使用する者は、他人の求めに応じ報酬を得て、設計、工事監理、建築工事契約に関する事務、建築工事の指導監督、建築物に関する調査若しくは鑑定又は建築物の建築に関する法令若しくは条例の規定に基づく手続の代理(木造建築士又は木造建築士を使用する者(木造建築士のほかに、一級建築士又は二級建築士を使用する者を除く。)にあつては、木造の建築物に関する業務に限る。以下「設計等」という。)を業として行おうとするときは、一級建築士事務所、二級建築士事務所又は木造建築士事務所を定めて、その建築士事務所について、都道府県知事の登録を受けなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『建築士法』第23条
登録の有効期間は、登録日から5年間です。
また、同法第23条の2では、建築士事務所の登録を受ける際、所在地の都道府県知事へ登録申請書の提出が必要であると定められています。都道府県ごとに、建築士事務所協会等の指定があります。
建築士事務所の登録が必要な業務は、以下の6つです。
▼建築士事務所の登録が必要な業務
- 建築物の設計
- 建築物の工事監理
- 建築工事契約に関する事務
- 建築工事の指導監督
- 建築物に関する調査・鑑定
- 建築に関する法令または条例に基づく手続きの代理業務
(出典:e-Gov法令検索『建築士法』)
②管理建築士講習の受講
『建築士法』第24条において、建築士事務所の開設には、建築士事務所を管理する専任の建築士(以下、管理建築士)を配置する義務があると定められています。
第二十四条 建築士事務所の開設者は、一級建築士事務所、二級建築士事務所又は木造建築士事務所ごとに、それぞれ当該一級建築士事務所、二級建築士事務所又は木造建築士事務所を管理する専任の一級建築士、二級建築士又は木造建築士を置かなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『建築士法』第24条
管理建築士になるには、国土交通大臣が定めた登録講習機関において、管理建築士講習の受講が求められます。
管理建築士講習を受講するには、同法第24条第2項で定められる以下の要件を満たす必要があります。
▼管理建築士講習の受講要件
- 1級・2級・木造建築士の資格を取得している
- 建築士として3年以上設計業務に従事している
なお、建築士事務所には“専任”の管理建築士を配置しなければならないため、1人の建築士が複数の建築事務所の管理建築士となることや、1つの建築士事務所登録に複数の管理建築士を置くことはできません。
(出典:e-Gov法令検索『建築士法』)
③事務所の設置
建築士事務所を開設するには、事務所の設置が必要です。
シェアオフィスについては、固定区画を維持できることが条件となっており、区画を表示した賃貸借契約書等の書類を提出する必要があります。ただし、バーチャルオフィスの登録は認められていません。
また、法人と個人事業主では、建築士事務所の登録申請に必要な書類が異なるため注意が必要です。それぞれ必要な書類は以下のとおりです。
▼法人
- 建築士事務所の登録申請書
- 所属する建築士の名簿
- 役員の名簿
- 略歴書
- 誓約書
- 定款の写し など
▼個人事業主
- 建築士事務所の登録申請書
- 所属する建築士の名簿
- 略歴書
- 誓約書 など
登録申請先や必要な書類の詳細は、各都道府県のホームページまたは建築士事務所協会でご確認ください。
法人と個人事業主のメリット・デメリット
独立して建築士事務所を開設する方法は、法人と個人事業主の2通りあります。ここでは、それぞれのメリット・デメリットについて解説します。
法人で独立開業する
法人で独立開業するメリット・デメリットの主な例を紹介します。
▼法人で独立開業するメリット・デメリット
メリット |
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デメリット |
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法人の場合、会社法や商法によってさまざまな規定があるため、社会的な信用度が高くなりやすいといえます。また、会社の登記簿謄本には、資本金や役員に関する情報が記載されているため、取引先・銀行からの信用も得やすくなります。
ただし、法人登記の申請や定款の作成、従業員への社会保険料の支払いにコストがかかる点には注意が必要です。会計処理や税務申告についても、個人事業主より厳しいルールが設けられているため、複雑になりやすいといえます。
個人事業主で独立開業する
個人事業主として独立開業するメリット・デメリットの主な例は以下のとおりです。
▼個人事業主として独立開業するメリット・デメリット
メリット |
|
デメリット |
|
個人事業主の場合、自身の裁量で仕事を進められるため、家庭やプライベートと両立しやすいことが強みです。建築士事務所の申請手続きについても、法人と比べて簡単なため、スピーディに開業することが可能です。
ただし、法人と比べて社会的な信用度が低くなりやすいため、取引や融資に影響が出る可能性もあります。また、事業で使用する資産を個人名義で管理していると、相続や事業継承の際に、資産の分割が複雑化しやすくなるため注意が必要です。
建築士の独立開業を成功させるためのポイント
建築士として独立開業するためには、必要な手続きを行うだけでなく、運転資金の確保や人脈形成も必要です。
事業が軌道に乗るまで時間がかかることもあるため、開業資金に加えて、数ヶ月間の諸費用を賄える程の十分な運転資金を用意しておくことが重要です。
運転資金として確保しておく費用項目は、以下の4つです。
▼運転資金の費用項目
- オフィスの賃料
- 税理士への委託費用
- 光熱費、OA機器のリース料金
- 税金・社会保険料
また、独立開業後に案件を獲得するためには、人脈形成が必要です。住宅やオフィス等の設計業務については、企業の担当者・工務店・建設会社などの紹介から成約につながるケースも少なくありません。
幅広い人脈を形成しておくことで、開業後に顧客を獲得しやすくなります。安定した収入を得るためにも、同業他社・異業種の方との関係性を構築しておくことも大切です。
まとめ
この記事では、建築士の独立開業について以下の項目を解説しました。
- 建築士として独立するための手続き
- 法人と個人事業主のメリット・デメリット
- 建築士の独立開業を成功させるためのポイント
建築士として独立開業するためには、建築士事務所の登録や、管理建築士講習の受講、オフィスの設置が必要です。
また、建築士として独立する方法には法人と個人事業主の2通りあります。手続きの複雑さや社会的信用度などを考慮したうえで選定するとともに、開業を成功させるためにも、十分な運転資金の確保と人脈形成が欠かせません。
開業後は自らの力で案件を獲得していくことが大切です。紹介を得るための人脈も必要ですが、自社で集客力を身につけることも重要といえます。
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