住宅会社が考えるべきコストダウン。管理の無駄を省く方法とは?
住宅市場は、少子高齢化による世帯数の減少や、住宅業界の人員不足といった社会問題を受け、需要と供給の縮小が懸念されています。
近年、中古市場やリノベーション住宅が人気を集めており、住宅の建設や購入において、「コストパフォーマンスの高い住宅を選びたい」という要求が増えつつあります。
こういった市場の変化から、工務店やハウスメーカーなどの住宅業界では今後ますます価格競争の拡大が予想されており、企業が収益を得るためにはコストダウンが必要不可欠といえます。
本記事では、住宅業界が抱えるコストダウンの課題において、どのような対策方法があるのか解説します。
目次[非表示]
- 1.住宅事業にとって重要なコストダウン問題
- 1.1.少子高齢化による新築住宅の需要の縮小
- 1.2.人員不足による労働生産性の減少
- 1.3.勤労世帯の収入の減少
- 2.企業ができるコストダウン
- 2.1.原価管理によるコストダウン
- 2.2.管理の効率化によるコストダウン
- 2.3.発注方式の見直しによるコストダウン
- 3.コストダウンは業務改善と同時に進めよう
- 3.1.①課題の洗い出し
- 3.2.②改善したい事項を明確にする
- 3.3.③原因を追究する
- 3.4.④改善策を立案する
- 3.5.⑤目標を設定・実行する
- 3.6.⑥効果を検証する
- 4.まとめ
住宅事業にとって重要なコストダウン問題
住宅事業に関わる企業にとって重要な焦点となるコスト問題。その改善が求められる背景には、何が挙げられるのでしょうか。
少子高齢化による新築住宅の需要の縮小
現在の日本は少子高齢化社会。今後も人口の減少が予想されており、住宅を取り扱う住宅事業者にとって無視できない深刻な問題です。今後も人口が減少していくということは、住宅を求める世帯が減っていくということ。業界全体の縮小も予測されます。
新設住宅着工戸数も減少の一途をたどっています。国土交通省によると、2020年度の新設着工戸数は年率換算で78万4,000戸、80万戸を下回りました。新型コロナウイルス感染症による消費の落ち込みもあり、今後も減少が予想されます。
(出典:国土交通省『建築・住宅関係統計情報 建築着工統計調査(時系列)』)
人員不足による労働生産性の減少
労働人口の減少については、多くの業界にとって深刻な問題です。
なかでも建設業界は人員不足が顕著に表れ、業界全体で人材確保に向けた取組みが急務となっています。
建設業界では労働人口の3割が55歳以上と高齢化が進んでいるほか、ほかの産業に比べて、時間当たりの労働生産性も低いことが分かっています。
中小規模の建設会社や工務店では、複数の企業と請負契約を交わしていることが多く、作業工程や管理が煩雑になってしまっているというケースも少なくありません。複数の案件を同時に進行させる必要があるため、業務効率が下がってしまうというケースも見られます。
今後、建設業界は若手への技術継承が必要になる一方で、雇用を増やすための施策も必要です。住宅・建設業界では安定して人員を確保し、適切に業務を回していくことが求められます。
(出典:国土交通省「建設産業の現状」)
勤労世帯の収入の減少
また、住宅購入者の基盤となる、勤労世帯の30代の所得や雇用環境の変化も一因だと考えられています。
勤労世帯の平均年収や金融資産は、1998年の808万円をピークに減少を続け、2019年は729万円。平均貯蓄額は1,352万円から1,320万円に。
しかし、その一方で負債額は増加しています、1998年は574万円(うち、住宅土地は536万円)だった負債額は2019年には794万円(うち、住宅土地は739万円)へと増加。厳しい状況に置かれていることが推察されます。
(出典:国土交通省『平成30年度 住宅経済関連データ 勤労者世帯の平均年収・貯蓄額・負債額の推移』)
さらに、消費者ニーズは、“安くて経済的なもの”から、“付加価値には対価を払う”傾向へという変化が見られます。
現在では、新築のみにこだわらず、予算や仕様を重視するという理由から、中古住宅やリノベーション住宅への関心も高まっています。これにより、不動産会社をはじめ、工務店や住宅メーカー、建材メーカーなどの幅広い分野の企業がリフォーム事業に参入しています。
企業同士の価格競争に打ち勝つためには、コストダウンの努力が求められるでしょう。
企業ができるコストダウン
上述のとおり、住宅事業者は複数の課題を抱えています。今後、どのような対策を講じるかで、業界の明暗が分けられるといっても過言ではありません。
しかし少子高齢化といった環境要因は、企業努力では改善できない問題です。
たとえば、少子高齢化対策のために、「子育て世代に広くてリーズナブルな住宅を提供しよう」というのは簡単ですが、企業にとって容易に実現できるようなことではありません。
業界を維持していくためには、社会の変化に合わせて需要と供給のバランスを取っていくことが不可欠。先行きが不透明な世の中で企業が収益を得ていくためにはコストダウンが急務といえるでしょう。
では、企業ができるコストダウンには何があるのでしょうか。詳しく見てみましょう。
原価管理によるコストダウン
企業ができるコストダウンとして、“建設費の削減”が挙げられます。
請負生産が基本となる建設業界では、施工期間や発生する作業、必要とする資材などが施工内容によってさまざまです。現場によって事情が異なる原価管理を適切に行わなければならず、コストを最小限に抑えて利益率を高めるためには、着工前の原価予算設定が必要不可欠といえます。
しかし、ときには施工に1年以上の期間を要する場合もあり、施工の進捗に応じた収支管理や間接費などを考慮しなければならず、原価管理は複雑となります。また、外注することがある場合は、資材費や人件費、経費のほかに、外注費を含めた原価を算出しなければなりません。
建設費のコストダウンを図るには、施工内容別の実行予算を作成するとともに、施工段階に応じた予算と実績の差異を分析して、供給過剰にならないようにコントロールすることが重要です。
そのためには、複雑な原価管理を効率化する“ITツール”の活用も検討するべきといえるでしょう。
管理の効率化によるコストダウン
住宅業界のコストダウンを進めるにあたって、従業員の作業効率化も考えなければなりません。
効率よく業務を行うためには、IT管理ツールを活用して営業管理を徹底したり、顧客分析などのマーケティング業務を他社に委託したりすることで、従業員の生産性や作業効率の向上につながります。
また、ハウスメーカーや工務店においては、集客から営業・成約・着工までのワークフローを見直すことも重要です。1件の成果を得るために無駄なフローがあると、人件費や経費の無駄を生んでしまいます。
発注方式の見直しによるコストダウン
設計から施工まで1つの会社が行う設計施工一括発注方式への対応にも、コストダウンの余地があります。
設計施工一括発注方式は、以下の2つに分けられます。
- 基本設計は設計事務所、実施設計・工事を施工会社が行う
- 基本設計・実施設計・工事をワンストップで施工会社が行う
特に、実施設計から工事までを一貫して行う方式は、発注者の要求が基本設計の時点である程度固まっています、そのため、工事費を確定した後には設計や仕様の変更などが起きにくいため、コスト変動のリスクが低減します。また、設計から施工への移行がスムーズなため、工事期間の短縮も可能です。
コストダウンは業務改善と同時に進めよう
コストダウンというと、固定費の削減を思い浮かべる方は多いでしょう。だからといってやみくもに削ってしまうと住宅の品質を下げてしまうおそれもあります。
コストダウンを実施する際は、コストばかりではなく、全体的な業務改善に目を向けることがポイントです。
業務改善は、以下の流れで行います。
①課題の洗い出し
日常業務を細かく見直し、労力がかかる業務や、二度手間となっている業務、無駄な業務などを洗い出します。
- 問題の業務が何のどの業務か
- 問題の業務はほかのどの業務と関連しているか
- 問題の業務はどの部署の誰が関わるか
全体的な流れを把握し、問題の業務がどこに位置しているのかも確認しましょう。
②改善したい事項を明確にする
①で洗い出した課題を整理して、全体の流れを把握したら、特に改善したいことを明確にします。
- 無駄な作業をなくす
- 属人化を改善する
- 業務の偏りをなくす
- ツールを導入する
- 情報共有をスムーズにする
このように、どのように改善したいのかを明確にしましょう。
③原因を追究する
明確になった課題の根本的な原因を追究します。
- なぜ二度手間になっているのか
- なぜ負担が大きいのか
- なぜ時間がかかるのか
- なぜこの業務が必要なのか
全体の流れが滞ってしまう原因を明らかにします。
④改善策を立案する
原因が判明したら、それを取り除くための改善策を立案します。
問題となっている業務が本当に必要なのか、重複していないかといった基本的な部分をはじめ、どうすれば改善できるのか、具体的な施策を考えましょう。
たとえば、顧客情報の共有がスムーズでないことが、業務効率化を阻害する原因となっていた場合、顧客管理システムの導入も有効な改善策です。
▷顧客管理についてはこちらの記事もご参照ください。
工務店の営業プロセスを見える化! “顧客管理の見直し”で売り上げアップを
⑤目標を設定・実行する
コストダウンにも目標は不可欠。実際にどれくらいの削減ができたのかを把握することで、モチベーションの維持にもつながります。
目標を設定したら、改善策を実行しましょう。その際は忘れずにデータを計測します。
⑥効果を検証する
これまでの結果と、改善策実行後の結果を比較して効果を確かめます。
目標にまったく届かない、改善どころかさらに悪化したという場合は、あらためて「なぜこのような結果になったのか」を検証します。
そもそもの原因が把握できていなかったのか、改善策が的外れだったのか、オペレーションが悪かったのかなど、仮説はいくらでも出てくるはずです。業務改善は、仮説・検証・実行を繰り返すことが不可欠です。改善を目指して継続して取り組みましょう。
まとめ
住宅業界では、顧客ニーズの変化や市場規模の縮小によって、住宅建設におけるコストダウンが避けられない課題となっています。しかし、資材費を削減して住宅の品質を下げてしまうのではなく、品質を保ちながら無駄なコストを削減する方法を考えなければなりません。
コストダウンを実施する際は、コストだけに目を向けず、全体的な業務改善に目を向けることがポイントです。
その際は、まず課題を洗い出し、「なぜ改善が必要なのか」「どう改善できるか」などを検討しましょう。そして、目標値を決め実行します。実行後は必ず効果検証を行って目標を達成するようPDCAを回しましょう。
また、資材費や労働費、外注費などの原価管理のほか、作業工程を最適化して業務効率を高めることも不可欠です。適正な管理を行うためには、ITツールの導入も有効な手段の一つです。
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