新型コロナウイルスが与えた住宅業界と市場の変化
人々の生活や社会経済に影響を与えている新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)。
住宅業界も大きな影響を受けています。
コロナは、住宅展示場の来場者数減少や買い控えだけではなく、住宅づくりに対する意識にも変化を与えています。
本記事では、コロナが住宅業界に与えた影響や人々の意識の変化、今後の住宅づくりのポイントについて解説します。
目次[非表示]
- 1.住宅業界への影響
- 1.1.部品調達の遅れによる工期遅延
- 1.2.外出自粛による集客・販売数の減少
- 2.住宅づくりに対する意識が変化
- 3.コロナ禍における住宅づくりのポイント
- 3.1.ウイルスを持ち込まない・拡げない
- 3.2.家事が楽になる動線を設計する
- 3.3.リモートワーク・オンライン学習ができるスペースを設置する
- 3.4.テクノロジーの導入で省エネを実現
- 4.IoT化で快適な住まいを実現
- 4.1.IoT技術利用で実現可能とされること
- 4.2.“ZEH”で自給自足ができる家へ
- 5.まとめ
住宅業界への影響
コロナが社会に与えた影響は大きく、住宅業界も例外ではありません。
コロナは、商談や営業活動だけでなく、工期遅延や資金繰りにも影響を与えています。
部品調達の遅れによる工期遅延
住宅に欠かせない設備や部品などのなかには、海外の工場で生産されている製品もあります。
2020年、コロナが猛威を振るい始めたときは多くの工場が営業の自粛や稼働時間を短縮させて感染拡大予防に取り組みました。
コロナで稼働状況が悪化すれば部品調達に遅れが発生します。設備や部品が届かなければ、工事を進めることもできません。工期が遅れれば、施主さまへの引き渡しにも影響を与えます。
工事代金の一部を引き渡し後に支払うように定めている契約の場合は、引き渡しが遅れるとその後の資金繰りにも影響することもあります。
外出自粛による集客・販売数の減少
コロナの感染拡大に伴い、対面での接客が懸念されるようになり、店舗や住宅展示場に飛び込みで訪れる人が減少したことで、販売数の減少による業績の低下に悩まされているというケースも少なくありません。
また、対面での商談を避けてオンラインツールを使用した商談に切り替える企業も見られます。オンライン化の普及により、Web会議システムやオンラインミーティングツールの利用が活性化しています。
▼コロナが住宅業界に与えた影響についてはこちらの記事もご参照ください。
コロナの影響で住宅業界が変わる? 企業に求められる対策と今後の課題
住宅づくりに対する意識が変化
コロナで長い自粛期間を経験したことで、人々の住宅づくりに対する意識も変化しています。
変化のきっかけは、リモートワークやステイホームが推進され、平日・休日の隔たりなく自宅で過ごす時間の増加により、現在の住宅の課題が浮き彫りになったことだと考えられています。
家事負担の増加
コロナ禍では、日常的な家事に加えて、定期的な換気や手洗い・消毒などコロナ対策特有の家事も増えています。自宅で過ごす時間が増えたことで食事をつくる回数も増加。大きな負担となっています。夫婦ともにリモートワークを行っているケースでも家事負担は女性に偏っている状況も見られます。
仕事に集中できない
子どもがいる世帯では、登校や登園ができない子どもの世話やサポートなどが必要です。子どもを見ながら仕事をする必要があるため、リビングをワークスペースにするケースも見られます。子どもの声やテレビの音などで集中できないケースも少なくなく、生産性が低下したという声もあります。
光熱費の増加
リモートワークや外出自粛では、ガスや電気、水道などの使用量が増加している世帯も見られます。エアコンや照明、パソコン機器などの利用時間が増加したことが原因だと考えられます。
外出自粛で一挙に広まったリモートワークに対して、さまざまな課題が浮き彫りとなっています。場所に捉われない働き方があたり前となっている今、光熱費を抑えられる仕組みや、家事負担を軽減する動線設計、リモートワークを前提とした間取りなどが必須となっていくでしょう。
コロナ禍における住宅づくりのポイント
自宅で過ごす時間が増え、自宅で行う家事も増加している今、住宅の重要性を理解した方も多いのではないでしょうか。
コロナ対策ばかりを考えるのは窮屈ですが、これからの住宅づくりには、コロナと生きていくという視点も必要です。
以下では、コロナ禍における住宅づくりで押さえておきたいポイントを紹介します。
ウイルスを持ち込まない・拡げない
自宅にウイルスを持ち込まないためには、外出後の手洗いやうがいが不可欠です。
玄関に洗面ボウルを設置したり、玄関から洗面所やバスルームに直行できる動線を設計したりすれば、帰宅後どこにも触れずに手洗い・うがいができます。
また、玄関に大きな収納スペースを設置するというのもよいでしょう。ウイルスの付いているおそれのあるモノを室内に持ち込まないことで、より安心して過ごすことが可能です。
このほか、大きな宅配ボックスの設置もウイルスを持ち込まない工夫のひとつ。宅配ボックスを設置すれば、対面せずに荷物を受け取ることができるほか、不在時も安心です。
3密の回避で通販やネットショップの利用頻度が増えている今こそ、便利な設備といえます。
家事が楽になる動線を設計する
家事の負担を減らすためには、使いやすい動線設計が重要です。
たとえば、キッチンを設計する場合は女性が使いやすいように設計されることが多いです。そのため、体格の違う男性は使い勝手が悪く、家事をパートナーに任せきりにしてしまうケースも見られます。
家事負担をひとりに集中させないよう、家族全員が使いやすいような間取りや動線を意識しましょう。アイランドタイプのキッチンにして、動線を増やしたり複数で作業できるスペースを確保したりするのもよいでしょう。
洗濯などに負担を感じる場合も同様です。洗濯室から物干しスペースまでを同一線上に設計したり、家事室やファミリークローゼットを設置したりすることで、家事の負担は軽減できます。
リモートワーク・オンライン学習ができるスペースを設置する
リモートワークとひとことでいっても、業務内容はさまざまです。
会議や商談などが多い仕事や、集中力が必要な仕事など、内容によって適したワークスペースも異なります。
また、子育て中の世帯の場合は、子どもを見ながら作業できる環境や、もしくは完全に分離できるような環境が必要なケースもあるでしょう。
子どもを見ながらのリモートワークの場合は、リビングの一部にワークスペースを設置したり、パーテーションやロールカーテンなどで仕切ったりして、仕事と子どもの世話を両立できるような工夫が必要です。子どもの気配を感じられれば、子育て中でも安心して仕事ができます。
オンライン会議や、商談などが多い場合や集中して作業する必要がある場合には、個室や半個室のワークスペースが必要です。階段下や小屋裏などの空間を活用しましょう。
テクノロジーの導入で省エネを実現
ハウスメーカーや工務店は、最新のテクノロジーを幅広い分野で活用し、住む人の利便性を向上するAIやIoT(アイ・オー・ティー:モノのインターネット)技術の導入、そして省エネ性能の向上にも取り組んでいます。
AIやIoTなどテクノロジーを導入した住宅は、家事の負担や光熱費などの軽減を可能にするため、住む人にとってのメリットが大きく、住宅の評価基準として今後欠かせなくなるでしょう。
モノとインターネットでつながるIoT技術は、息つく暇もなく開発・導入が進められており、高齢者の見守りサービスをはじめ、AIスピーカーや遠隔地からの家電操作など、現代に即したサービスが順次展開されています。
コロナ禍でさらにオンライン化した生活に対応するためも、住宅業界は次世代の設備やサービスの導入を考えていく必要があるでしょう。
IoT化で快適な住まいを実現
IoTは、モノのインターネットと訳されているとおり、さまざまなモノと人をインターネットでつなぐ技術です。仕事や生活をもっと便利で豊かにする仕組みで、住宅業界においても躍進が期待されています。
IoT技術利用で実現可能とされること
IoT技術を利用すると、家電や設備との情報共有が可能になります。
たとえば、IoTデバイスを照明設備に取り入れることでスマートフォンから照明のオンオフができる、「行ってきます」の言葉に反応してすべての照明が切れるなど、利便性の高い住宅が実現できます。
非接触で、家電のオンオフや施錠ができるため、感染拡大防止にも役立ちます。
人が在宅していなくとも定時になると自動的に明かりが灯る、住人の言葉に反応して作動するなどの機能は、防犯や防災の面でも役立てられます。
住宅に“見守り機能”を付加することによって、住人の状況をいつでも把握できるため、子どもだけで自宅で過ごす場合も安心できます。
また、コロナ禍では、離れて暮らす家族の様子を見に行くことも難しい状況です。
生活支援サービスとの連携を図れば、健康的な食事についてのレシピ情報の提供、必要な食材の配達、ソーシャルワーカーの派遣を行うことも可能になるでしょう。
そのため、IoT技術は、高齢者や被介護者が住まうことを想定した住宅とも相性がよいといわれています。
IoT技術は応用性が高く、積極的に住宅に取り入れていきたい技術です。この技術を用いることで、人々の生活の質を向上することができ、住宅としての価値向上が期待できます。
“ZEH”で自給自足ができる家へ
IoT技術のほかに注目したいのが、ZEH(ゼッチ)です。ZEHは、ネット・ゼロ・エネルギーハウスの略称です。
住まいの省エネ性能を向上しエネルギー消費量を削減、そして太陽光発電などでエネルギーを創造し、給湯や冷暖房など一次エネルギーの収支をゼロにする住宅を指します。
先進国のなかでもエネルギー自給率が低いといわれている日本において、エネルギーを自給自足できるZEHへの対応は、住宅業界全体で取り組みたい課題とされています。
ZEHは、蓄えたエネルギーによって、停電時でも安全快適に生活することができるため、住む人に心強い存在です。リモートワークが広がる現代にも重宝される機能だと考えられます。
また、自宅で過ごす時間が増えることによる光熱費の増加は、長い目で見れば大きな問題といえます。これからの住宅づくりには、省エネを実現するZEH認定住宅の需要の高まりが予想されます。
まとめ
コロナの感染拡大は、人々の生活や社会経済に影響をもたらしており、住宅業界も例外ではありません。
コロナは、現在の住宅が抱える課題を浮き彫りにし、これからの住宅づくりへの意識にも影響を与えています。
コロナ禍での住宅づくりは、ウイルスを持ち込まない仕組みはもちろん、家事の効率化や高齢者の生活サポートなど、それぞれのライフスタイルに適合する住宅が求められるでしょう。
また、自宅で過ごす時間が増えたことで光熱費が負担になっているケースも見られます。エネルギー自給率の低さが顕著な日本において、省エネ化をはじめとするエネルギー活用が住宅価値の向上につながるでしょう。
住宅づくりには、住む人や環境だけでなく、時代の流れに配慮することが必要です。今回挙げたZEH認定を目指すのもひとつの方向性といえるでしょう。
技術の進化に伴い、AIやIoTなどの最新テクノロジーを積極的に取り入れていくことは、快適な暮らしをつくることにもつながります。
お客さまに理想の住宅を提供するためにも、時代の変化をしっかりと捉えていくことが大切です。