建設業の職人不足が深刻化!その原因と対策について解説
日本全体の課題である労働人口の減少に、多くの業界で人手不足が深刻になっています。なかでも建設業界では職人不足が顕著です。
少子高齢化に加えて、若年層の就業率も低いため、なおさら職人不足は加速しています。技術の習得に時間を要する建設業界が今後も事業を継続していくためには、若い世代への技術継承が不可欠です。早急な人材採用と育成が喫緊の課題になっています。
本記事では、建設業界における深刻な職人不足の原因と、その対策について考えます。
目次[非表示]
- 1.職人が減少する理由とは
- 2.高い需要と低い供給力のバランスが課題
- 3.職人不足に効果的な対策
- 3.1.3Kイメージを払拭して雇用を促進
- 3.2.多能工育成で効率の向上を図る
- 3.3.生産性を向上する
- 3.3.1.BIMツールの活用
- 3.3.2.施工管理システムの活用
- 3.3.3.顧客管理システムの活用
- 4.まとめ
職人が減少する理由とは
建設業界における就業者は近年減少傾向にあります。2020年11月度の建設就業者数は505万人といわれており、ピークであった1997年の685万人から約26%減少しています。
(出典:統計局『労働力調査(基本集計) 2020年(令和2年)11月分結果』)
さらに、総務省の労働力調査によると、建設業就業者のうち約34%にあたる176万人が55歳以上で、29歳以下は58万人で約11%。就業者の高齢化が進んでおり、若い世代への技術継承が大きな問題となっています。
(出典:統計局『労働力調査 基本集計 全都道府県 全国 年次 』)
建設業界の人手不足が拡大している原因には、大きく2つの理由が考えられます。
①若者離れ
建設業界の人手不足は、いわゆる若者離れが大きく影響していると考えられています。
若者の就業率が低い理由には、建設業界における労働環境が挙げられます。
建設工事の現場では、約65%の人が4週間に4日以下の休日で働いており、製造業や運輸業などと比べても所定内労働時間が長いことが分かっています。
建設業界は休日が少ないほか、体への負担も大きい職種です。プライベートを優先させたいという考えが若年層に多いことからも、若者離れが進んでいると考えられます。
内閣府が行った若者の就労への意識調査によると、「収入よりもプライベートや家庭を優先したい」という意識が強く、仕事にはやりがいや人とのつながりを求める傾向があると分かっています。
仕事を選ぶときに重視するポイントについては、「安定していて長く続けられること」が最も多い結果となりました。
若者離れが進む原因には、古くから慣習化された労働環境が残る建設業界が、現在の若者が希望する就業条件と合わないということが考えられます。
労働環境をあらためて見直し、休憩時間や休日の確保、若者の意見に耳を傾けるなどの改善が求められるでしょう。
(出典:国土交通省『建設産業の現状と課題』/内閣府『特集 就労等に関する若者の意識』)
②職人が定着しない
建設業界は若手の採用が厳しいだけでなく、離職率の高さも懸念されています。
その原因として挙げられるのが、仕事量や負担に対する賃金の安さや労働時間の長さです。年間出勤日数は全産業と比較して26.9日多くなっているのに対して、年収額については全産業のなかでも低くなっています。
休日に関しても、完全週休2日制を導入している企業は全産業において49%であるのに対し、建設業界は27.4%と大きな開きが見られます。こういった労働環境や待遇差が離職を招く大きな原因と考えられています。
厚生労働省による「建設業の離職者が仕事を辞めた理由」についての実態調査では、
・休みが取りづらい
・雇用が不安定である
・労働に対しての賃金が低い
という意見が目立っています。
建設業就業者の定着率向上を目指すためには、雇用形態の見直しや社会保険への加入、仕事に見合った賃金の制定などに取り組み 、労働時間や休暇について、現職の人たちの要求に耳を傾けることが大切です。
(出典:国土交通省『建設産業の現状と課題』/厚生労働省『建設業における若年労働者確保の課題について』)
高い需要と低い供給力のバランスが課題
新型コロナウイルス感染症の拡大でさまざまな業界が経済に影響を受けていますが、建設市場の需要は引き続き高い状態にあります。防災対策や老朽化したインフラの維持・整備工事などにより、年々拡大傾向です。
しかし、建設市場の需要に対して、職人の供給が追いついていないのが現状といえます。
これらの需要に対して継続的に労働力を供給するためには、そのときに必要な労働力を確保するだけでなく、業界全体の若者離れや離職などを防いで将来の担い手を確保することが必要です。
そのためには働きやすい職場環境を整備しつつ、現在働いている労働者たちの育成が不可欠といえます。企業として対策を講じることが職人不足解消への有効手段です。
職人不足に効果的な対策
建設業は長時間労働や休日不足、低賃金などの課題を抱えており、こうした労働条件の低さも職人不足の原因と考えられています。
人材育成に対する意欲も低いとされており、日々の生活や将来に不安を抱えている就業者も見られます。
厚生労働省は、この状況を改善するために、魅力ある職場づくりを推進し、雇用管理の改善に取り組む事業主に対する支援を行っています。
(出典:厚生労働省『建設分野における雇用管理改善に向けて』)
長時間労働の抑制や週休2日制の導入、給与の改善、福利厚生の充実などの労働条件を見直し、人材育成に体型的に取り組むことで、若年層の入職促進ややりがいを持って働けるような仕組みづくりが期待されています。
そのほか、職人不足を解消する方法として、以下のような方法も挙げられます。
3Kイメージを払拭して雇用を促進
建設業には「きつい・汚い・危険」というイメージが持たれています。しかし、建設業のすべてはこのイメージにあてはまるわけではありません。根本的な問題は業界に対する理解不足にあります。
ネガティブなイメージを払拭する施策には、現場見学会やインターンシップの実施、高校生や専門学校生を対象にした出前講座の実施などが挙げられます。
事前に理解を深めてもらうことができれば、応募者も安心して就職できるほか、ミスマッチの防止にも役立つでしょう。
もちろん、若年層ばかりではなく、女性技能労働者や外国人労働者に目を向けることも必要です。将来を見据えて、積極的に雇用促進に取り組みましょう。
多能工育成で効率の向上を図る
建設業界での業務効率化やコスト削減に効果のある施策として、“マルチクラフター”と呼ばれる多能工が注目を集めています。
マルチクラフターとは、建設工事においてさまざまな作業や工程に対応できるスキルを有する個人や生産システムのことを指します。
従業員がひとりでできる仕事の質を向上することにより、施主や元請けからの業務管理が効率化し、品質の安定化につながるというメリットがあります。
さらに、人材を有効活用することで受注できる仕事量も増えるほか、同一人物が作業することによって作業工程の説明の手間なども省けます。
マルチクラフターの育成により、人件費の削減や品質差異の減少にもつながるなどのメリットがあります。
ただし、マルチクラフターを育成するためには、多能工の技術を学ぶための教育費や多能工に対応した発注システムの導入などが求められます。技術を取得した労働者には技術力に応じた給与の改定や評価も求められ、体制が整備されなければ離職率を高めてしまう原因になり得ます。
また、全労働者が多能工になる必要はなく、専門的な分野を絞って知識やスキルを向上させることも大切です。
企業と労働者の双方にとって効率の良い業務を行うため、多能工について学ぶ機会を設けることを検討してみてはいかがでしょうか。
(出典:国土交通省『マルチクラフター(多能工)を育成しよう!!』)
生産性を向上する
待遇の改善や学習機会の確保だけではなく、職人不足に対しては、施工のオートメーション化といった業務効率の向上も手段として挙げられます。
複数の企業では、すでにICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)やAI(Artificial Intelligence:人工知能)などを活用した、生産性の向上を目指した取組みが運用されています。
たとえば、ドローンを使用した3Dでの測量や、BIM(Building Information Modeling:ビルディング・インフォメーション・モデリング)ツールの利用も生産性の向上に有効です。
BIMツールの活用
BIMツールは、建物のモデルを3次元で作成し、情報管理に必要なデータを一括で管理できるシステムです。
従来まで使用されてきたCADツールとは異なり、より手軽に図面や形状の組み立てが行えます。
立体的かつ具体的にイメージできる3次元モデルは、施工主へのプレゼンや元請けへの対応に有効です。建物を設計するだけでなく、構造計算や設備、コストの管理なども行えます。
効率の良い施工計画を企画できるため、多くの企業で導入されて普及率も高まっています。
施工管理システムの活用
現場と社内の連携や情報共有ができていないことが生産性の低下を招き、実際に作業する職人に負担を強いているケースも見られます。
事務作業の効率化は職人がスムーズに働くことにつながります。
施工管理システムの活用は業務を効率化して、生産性の向上が期待できます。写真や資料などを案件情報と紐付けて一元管理できるため、施主や関係者との情報共有に役立ちます。
対応記録や工事の進捗も集約して管理でき、業務効率化も推進できます。インターネットを介するシステムなら部門の垣根や距離的な制限を受けずに情報共有できるため、指示漏れや情報共有漏れを防止します。リアルタイムの情報をスムーズに更新できれば、職人の作業も滞りなく進めることができるでしょう。
また、OB点検やメンテナンス管理といったアフターフォローまで任せられるため、顧客エンゲージメントの向上にも効果的です。
顧客管理システムの活用
顧客管理システムは、顧客情報と案件情報を紐づけて一元管理できるシステムです。
情報を一元化すれば、従業員間・部門間での引継ぎがスムーズになり、負担軽減に役立ちます。
営業部門や、設計部門、施工部門など、社内を横断して進捗管理ができるため、ミスや漏れの防止にもつながります。
リードから引き渡し後のフォローまで任せられるため、顧客エンゲージメントの向上にも有効です。
まとめ
建設業界の職人不足は大きな問題です。
高齢化が進み、若年層の就業率が伸び悩んでいるだけでなく、若者離れや離職率の上昇も深刻となっています。
しかし、老朽化が進んでいるインフラの維持管理や、災害復旧工事などで建設需要は上昇傾向にあります。需要に対して労働力の供給が追いついていないのが現状です。
この問題を解決するためには、将来に向けた人材育成や雇用の促進が不可欠といえます。
このような状況下で求められるのは、各企業による労働環境の改善や見直しです。職人の労働条件や待遇を改善し、働きがいのある職場づくりに取り組みましょう。
また、魅力的な職場にするためには、生産性の向上も必要です。施工や、事務作業に役立つツールやシステムを有効活用して、業務効率化をめざしましょう。
働きやすい職場づくりができれば、若年層の採用活動によい効果をもたらすだけではなく、定着率の上昇なども期待できます。
社内の業務効率化や労務管理を改善し、深刻な職人不足解消に取り組んでいきましょう。
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