マーケティング

商品企画の「魅力的な付加価値」設定

商品企画は対象のお客様層ごとに進めます。客層は大きくはお客様のライフステージで分け、ライフスタイルと住宅価格帯で味付けを調整します。客層ごとにお客様は異なった生活視点をお持ちですので、採用する商品特徴や付加価値はこれに合わせて検討を進めます。

家事動線の合理化や、収納の工夫等については各客層ともほぼ共通している上、「不満の解消」分野ですので「実現して当たり前」の「暮らしのマイナス領域」への対処策ですからここでは、商品企画としては取り上げていません。

心豊かな暮らしを実現する「暮らしのプラス領域」での商品企画について、2つピックアップしてその考え方を提示します。

目次[非表示]

  1. 1.「リビング」は商品企画のメインゾーン
  2. 2.ご結婚前もしくは、まだ子供のいらっしゃらないご夫婦を対象客層とした場合
  3. 3.将来の暮らしにも対応可能
  4. 4.思春期を迎えた子供がいる家族を客層とした場合
  5. 5.住宅性能が高いから実現可能な空間
  6. 6.まとめ

「リビング」は商品企画のメインゾーン

住宅内で過ごす時間の内、起きている時間の約9割を過ごすと言われているリビングは、商品企画を進める際に最も着目すべきゾーンです。リビングに要求される内容は客層ごとに様々で、子供のいない若いカップル、幼児期の子育て中の家族、思春期を迎えた子供がいる家族、子供が巣立った後の夫婦がメインで、時々子供たち一家が来るような家族、老夫婦の終の棲家の場合などのライフステージに分けられます。

こうしたファミリー層とは異なる、高齢の親と中年の子供、シングルマザー、生涯結婚する気のない独身者などの層も潜在的に多く全世帯の1/3を占めています。

どの客層をターゲットにするのか、ある程度客層の幅を持たせておくことも営業的には必要なのかなど、商品企画の戦略検討が重要です。

ここではファミリー層の「まだ子供のいない若いカップルだけの客層」と「思春期を迎えた子供がいる家族という客層」を取り上げます。


ご結婚前もしくは、まだ子供のいらっしゃらないご夫婦を対象客層とした場合

この客層はリビングではそれぞれがスマホかタブレットを持ちながら過ごす場面が多いのも特徴ですが、子供という二人に介在する家族がいないため、二人の間で自然にコミュニケーションが発生する工夫が商品企画の着目点です。

若い年代の二人は料理も一緒に行うか、交代で行うなどのケースが多いため、キッチンとの関係でリビングを考える必要があります。キッチンとリビングとの距離を近づけて、仮にどちらかが調理中でも会話が発生しやすい様にします。

また、ダイニングテーブルも二人だけが日常の暮らしですので大きなテーブルを必要としません。これらを満足するLDKスタイルは「アイランドキッチン」と「ソファーダイニング」の組み合わせです。「アイランドキッチン」は複数人が一緒に料理をつくる際の利便性、「ソファーダイニング」はソファーに座ってゆったりとした食事ができ、ソファーの高さに合わせた低めのテーブルで寛ぎ感を出したダイニングとリビングの兼用機能を保有しています。

通常のLDKスペースでこの「ソファーダイニング(LD)」と「アイランドキッチン(K)」は距離が近く会話が自然に生まれます。また、残りのスペースは「フリースペース」として「ゴロゴロ」するにしても、「ヨガやストレッチ」の軽い運動系をするにしても、VR系のゲームをするにも十分なスペースがあり二人の暮らしを満喫できます。

このような暮らし視点の商品特長の訴求を営業が行う場合には、お客様の「体感体験」が不可欠であることは言うまでもありませんから、商品企画と同時にモデル住宅の企画を並行して進めることが必要です。

将来の暮らしにも対応可能

フリースペースを持つことで、将来お子様が誕生したら、この形式を止めて通常のLDK配置にすることも可能です。また、ダイニングテーブルを大型のスーパーテーブルに置き換えて「ダイニングテーブル中心」の暮らしで仕事もお子様の勉強も同じテーブルで行うという、親子の自然な触れ合いを意図した展開も可能です。

プラン上、スペースがあればキッチンの横並びでダイニングテーブル(通常サイズ)を配してリビングに相当するスペースを可能な限り大きくとって「フリースペース」で家族が同じ場所で個人の好みのコトがそれぞれできるという暮らしも可能です。

若い客層を対象にされたHM社様は、「ソファーリビング」と家族が増えた場合の将来展開の新商品投入(発売)後6カ月間でコロナ禍の2020年下期に54棟/下期で対前年同期比約150%の受注を確保されました。

思春期を迎えた子供がいる家族を客層とした場合

このライフステージのお客様が家を建てるということは、受験期も重なって案外少ないのですが、「思春期の入口を5年後には迎える」という家族が住宅を建てるということはよくあるパターンです。施主ご夫婦の年齢も40才前後が多く、資金的にもゆとりのある層が多いというのがこの客層です。

親への反発/反抗で家族の距離感が生まれ、家族以外の親しい異性などの関係も生まれ、お子様の一人立ちへ向けた準備の時期です。「親から見ると難しい時期」でもあります。別の観方をするとこの家族の仕上げの時期でもあり、やがて子供たちがそれぞれの家族を持ち、孫たちを連れて帰ってくる大切な「家族の場所」でもあります。

「家族が自然に集まるリビング、相互のストレス回避の工夫」を着目点にします。
思春期のお子様は食事後も直ぐに子供部屋に入ってしまう傾向があります。休日の昼間は外出することも多くなると思いますが、家にいるときも子供部屋で過ごすことが多くなります。

こうした状況への回答が「家族が自然に集まるリビング」という商品企画です。

1.「明るさ感」の確保

リビングがいつでも「明るい」ことが「家族が自然に集まるリビング」を創るポイントです。逆に言うと「明るくないリビング」に人は集まらないということです。

  • 窓の大型化(タテ/ヨコのサイズ)、窓面も1方向1面からの採光だけではなく多方向多面からの採光。
  • 吹き抜けを介して部屋の奥まで冬期間でも日差しが届く工夫。

休日の昼間の自然光(天空光含む)の採光と夜間の照明の工夫(リビング中心の照度とLDK空間全体の明るさ感Feu値のアップ)をモデル住宅設計時に徹底検討します。

2.「拡がり感」の確保

近年LDKの大型化要求も強くなってきていることもあり、大空間のLDKを確保します。ただし、LDK一体空間としては可能な限りの大型化を目指しますが、実際のリビングスペースは互いの距離が3.6m以内(社会距離:普通の声で話をして詳細まで聴きとれて、表情も読み取れる距離)になるように設置します。

会話が成立しやすい距離内に家族が集まってコミュニケーションがとりやすく、かといって互いにストレスを感じないように、視線は様々な方向(外部空間、LDKの対角線方向、吹抜の斜め上方向)へ抜けるようにします。

このような設計手法で体感の空間としては実際の床面積の2~3倍程度に感じるようにしストレス低減を実現します。これによって思春期の子供を含む家族が自然に集まり、ストレスを感じずに共に過ごすことができるようになります。

3.「落着き感」の確保

リビングを過ることなく各部屋へ移動できる動線設定で、LDKの大空間で家族の動きは互いに認識することができながらも落着き感のあるリビングを生み出します。穏やかな時間が自然にささやかな話から、親子の対話へ繋がって行きます。

住宅性能が高いから実現可能な空間

LDK一体で、吹抜もある大空間でも安心の耐震性能、真冬時の1階床面の温度と吹抜上部の2階の天井面の上下温度差が2℃以内という快適環境を生み出せる構造/工法だからこういう暮らしが可能という、自社の「ハード」が支える、思春期の子供がいても家族が仲良くなれる暮らしの実現「ソフト」という総合力のアピールが有効です。

思春期のお子様と仲良く暮らせるという、お客様にとって「プライスレス」な価値を持つ商品を投入されたKM社様の2チームで、2021年度の受注棟数は75棟/年の対前年同期比111%、1棟当たりの受注金額4855万円(税別)で対前年同期比135%を確保されました。

まとめ

商品企画は対象のお客様層ごとに、異なった生活視点をお持ちですので、その暮らしの実態を理解して進めることがポイントです。住宅という商品は「暮らしの器」ですから、商品企画の視点は常に「器」の中味である「対象客層の暮らし」です。その「暮らしが心豊かになる」ためにはどうすればよいのかというのが商品企画のポイントです。

2例の事例を提示しましたが1例目は比較的簡単な商品企画、2例目は「ハード」と「ソフト」の連携とこれを売りこなす営業の訓練、個々の住宅への設計へ落とし込める設計の訓練も併せて必要となる本格的な商品企画の事例です。

そういう意味では商品企画は自社体制と客層、地域特性に適したものにする必要があります。他社での成功事例が自社に適合するということでもありません。オーダーメードの商品企画が必要です。


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株式会社ハウジングラボ 松尾俊朗
株式会社ハウジングラボ 松尾俊朗
松下電工勤務で木造軸組改良工法(木と鉄の混構造/テクノストラクチャー工法)をはじめ様々な注文住宅事業形成手法を開発。ハウジングラボ設立後、様々な形態の161社の注文住宅事業サポートを実施。幅広い視点で各社の強みを活かした各社独自の注文住宅事業へナビゲート。

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