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従業員の“一人親方問題”とは? 注意したい3つのリスクと今後の方向性について

従業員の“一人親方問題”とは? 注意したい3つのリスクと今後の方向性について

会社と雇用関係を結ばず、技術者が個人事業主となる“一人親方”。

「個人事業主として仕事を遂行できる能力がある」と認める一方で、長時間労働の規制逃れや社会保険料削減などの目的から、従業員を一人親方として偽装するケースも発生しています。この状況を受けて、国土交通省では一人親方問題に対する検討を進めています。

(出典:国土交通省『建設業の偽装一人親方対策に本格着手~建設業の一人親方問題に関する検討会(第1回)を開催~』

一人親方問題は、労働者の処遇悪化や建設業界における公正・健全な競争環境を阻害しかねません。企業側は、起こり得るリスクを十分理解しておくとともに、法令遵守のうえで適切な対応が求められます。

本記事では、一人親方問題による事業上の3つのリスクと、今後の方向性について解説します。

目次[非表示]

  1. 1.一人親方問題の現状について
  2. 2.一人親方問題の3つのリスク
    1. 2.1.1.違法就労になる可能性
    2. 2.2.2.建設業許可がない一人親方との下請け契約
    3. 2.3.3.労災未加入による損害賠償請求
  3. 3.一人親方問題に対する今後の方向性について
  4. 4.まとめ

一人親方問題の現状について

現在、建設業では将来の担い手不足が大きな課題となっています。少子高齢化や生産年齢人口の減少が見込まれるなか、よりよい処遇・労働環境に改善することは、人材確保のために必須です。

政府は、建設業の労働環境改善に向けた施策のひとつとして、2012年から本格的に社会保険未加入対策を進めています。

さらに2019年4月からは働き方改革の一環として、長時間労働の上限規制、有給休暇の付与義務などを規定し、労働環境の改善を強く要請している状況です。

しかし、技能者を雇用する企業にとっては、社会保険加入や法令規制の強化によって法定福利費や割増賃金といった経費の負担が増えることは避けられません。

その結果、経費の負担削減を目的として、雇用している従業員を独立させて外注化する“偽装の一人親方化”が進むと懸念されています。

2019年に国土交通省が建設企業を対象に実施したアンケート調査では、従業員が9人以下の小規模企業において、一人親方が44.5%でほぼ半数の割合を占める結果となりました。

また、一人親方として独立した人数の変化(5年間)については、26.1%が「増加」と回答、今後も一人親方の増加が見込まれます。

(出典:国土交通省『建設業における社会保険未加入対策』『一人親方対策について』

社会保険に加入しない一人親方が増加すると、将来受け取れる年金額が少なくなるなどの処遇悪化につながるほか、保険未加入企業が競争上有利となるといった問題が生じます。
技術者側の問題だけでなく、従業員を一人親方化する企業にとっても適切な判断が求められています。

一人親方問題の3つのリスク

企業が従業員の一人親方化を検討する際は3つのリスクに注意する必要があります。法律上定められているルールを守るとともに、企業と従業員間でトラブルに発展しないよう事前対策することが大切です。

1.違法就労になる可能性

一人親方は、会社と雇用関係を結んでいないため、請負や委任といった契約形態によって独立して業務を行います。

ただし、請負・委任の契約形態であっても、働き方が「労働者と同様」と判断される場合には一人親方として認められません。このように、実体が労働者であるにもかかわらず、従業員を一人親方に移行させて業務を行わせることを“偽装請負”といいます。

偽装請負は違法就労として法律上で禁止されており、違反すると罰則を受けるだけでなく、建設業許可が取消になる可能性があります。

通常の請負契約では、事業者が一人親方に対して社会保険料や労災保険料を支払う必要はありませんが、一人親方が労働者として取扱われる場合には、事業者に法定福利費の支払い義務が生じます。

法定福利費の納付を怠っていた場合には、保険料をさかのぼって徴収されるケースもあるため、企業にとっても大きな負担となり得ます。

請負契約になるか、雇用契約になるかの線引きは曖昧になりやすいため、一人親方を使用する企業側にも注意が必要です。

(出典:厚生労働省『法違反の防止、是正等に関する資料』『建設事業を営む事業者の皆さまへ』

2.建設業許可がない一人親方との下請け契約

建設業許可を受けていない一人親方は、請負金額が税込み500万円未満の軽微な工事しか請け負うことができません(建築一式工事については、1,500万円未満または150m2未満の木造住宅工事)。

一定額以上の工事を一人親方に依頼する場合には、一人親方側に建設業許可が必要です。元請けから材料の提供があった場合にはその費用も合算して判断するため、要件を満たしているか慎重に判断する必要があります。

また、無許可の一人親方と下請け契約を結ぶことは建設業法違反(法28条1項6)となり、不正行為を行った企業は指示処分や営業停止を命じられるケースもあります。一人親方に業務を依頼する場合は、建設業許可を取得しているか事前に確認しましょう。

(出典:国土交通省四国地方整備局『建設業法令遵守について』

3.労災未加入による損害賠償請求

企業が従業員を雇用している場合は、企業が労働者に対して労災保険の加入・保険料の支払い義務があります。

しかし、一人親方として働いている場合は、労災保険の加入は任意です。そのため、労災保険に特別加入していなければ、万が一労災事故が起きた際に労災保険の補償を受けられない危険性があります。

また、雇用関係のない請負契約と判断される場合であっても、実質的に元請け事業者が使用者、一人親方が労働者となる場合は労働者性が認められ、労災の責任や労災保険の加入責任が元請けにおよぶケースもあります。

多額の損害賠償が発生することもあるため、企業側のリスクを把握しておくことも重要です。

なお、建設業の一人親方のうち、労災事故にあった被災者の約45%は労災保険に特別加入していなかったとの発表もあります。

従業員やその家族の生活を保護するため、そして企業側への責任追及のリスクを回避するためにも、事業主が一人親方に対して適切な労災保険への加入手続きを進める必要があります。

(出典:厚生労働省『建築工事に従事する一人親方の皆様へ』厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署『建設事業を営む事業者の皆さまへ』

一人親方問題に対する今後の方向性について

2019年の働き方改革関連法として施行された有給休暇取得の義務化。2012年から始まった建設業の社会保険加入対策に続いて、政府はこれまで以上に建設業の処遇改善や社会保険加入対策に本格着手しています。

2020年10月1日から新たに施行される改正建設業法では、社会保険への加入が建設業許可・更新の要件となっています。偽装請負となり得る一人親方の基準を明確化し、2021年には具体的な施策を取りまとめると発表しています。

また、2020年6月には、国土交通省が社会保険加入・働き方改革の規制逃れを目的とした一人親方化の対策として『建設業の一人親方問題に関する検討会(第1回)』を設置。一人親方のさらなる処遇改善に向けて協議が行われました。今後も必要に応じて議論される見込みです。

(出典:国土交通省『建設業法、入契法の改正について』『建設業の一人親方問題に関する検討会』

さらに2024年4月以降は、働き方改革関連法案の一部である時間外労働の上限規制について、これまで猶予措置とされていた建設業にも適用される予定です。

これらの建設業法の一部改正や残業規制の施行を契機に、一人親方や建設業全体の処遇・労働環境改善に向けた取組みのさらなる強化が求められています。これからどのような施策が実施されるか、企業は一人親方の使用ルールについて、動向を注意深く見ていく必要があるでしょう。

まとめ

建設業の処遇・労働環境改善を図るために、国を挙げて社会保険加入対策が進められています。

建設業の保険加入率に上昇が見られる一方で、法定福利費や労働関係諸経費の削減を意図して技術者を独立させる一人親方化や、雇用関係の実体があるにもかかわらず偽装請負といったケースの増加も懸念されています。

一人親方問題は、技術者の処遇悪化につながるだけでなく、企業にとっても重大なリスクが潜んでいます。

偽装請負は違法就労として罰則を受ける可能性があるほか、建設業許可のない一人親方との契約は建設業法違反となる場合があります。

そして、労災保険の加入推進も必要です。万が一労災事故が起きた際、元請け側に責任がおよび損害賠償を請求されることもあるため、適切な保険加入は不可欠といえます。

これらの状況を踏まえ、国土交通省は一人親方対策に対する検討会を設置し、建設業のさらなる処遇改善を進めています。

企業は政府による施策や規制について正しく把握するとともに、今後は一人親方の使用方法についても見直しが求められるでしょう。

なお、一人親方問題の対策や社会保険加入が推奨される背景には、建設業の担い手不足が挙げられます。企業は、一人親方が安心して働ける環境を整備するとともに、人材確保・育成に向けた取組みが必要です。

「優秀な技能者を確保できない」「受注に対応できる担い手が足りない」という企業は、人材課題を解決できるサービスも検討してみてはいかがでしょうか。併せてご参照ください。

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編集部
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