私道通行権とは?よくあるトラブルや対策方法について解説
目次[非表示]
- 1.私道通行権とは?
- 2.私道通行権の種類
- 2.1.囲繞地通行権
- 2.2.通行地役権
- 2.3.使用貸借・賃貸借契約
- 2.4.通行の自由権
- 2.4.1.① 位置指定道路(建築基準法第42条第1項第5号)
- 2.4.2.② みなし道路(二項道路/建築基準法第42条第2項)
- 3.私道の通行トラブルの事例
- 3.1.袋地取得時のトラブル
- 3.2.私道の所有者が通行を妨げている事例
- 3.3.みなし道路の通行を拒否される事例
- 4.私道の通行トラブルの対策
- 4.1.誠実に協議する
- 4.2.自治体に相談する
- 4.3.弁護士等の専門家に相談する
- 5.執筆者
私道通行権とは?
私道通行権とは、他人の敷地を通らなければ公道に出られない場合などに、通路として利用するための権利を指します。以下に私道とその通行権についての基礎知識を整理します。
私道と公道は、所有者や管理者の違いで区別されます。個人や企業が所有・管理しているものが「私道」、国や地方公共団体が所有・管理しているものが「公道」です。厳密に区別するには、法務局で公図や登記簿を確認することが確実です。
私道を通行するには、①所有者の許可を得る、または②法律に基づく権利が必要です。ただ「通らないと困る」という理由だけでは、正当な通行権が認められるわけではありません。
私道通行を巡るトラブルは、土地購入時によく発生します。多くの場合、前の所有者が近隣との慣習的な通行を書面化せず、新所有者に引き継がなかったことが原因です。また、土地の利用方法が変わると、私道所有者が状況を見直すこともあります。
私道がなければ公道に出られない土地の場合、不動産会社から説明を受けるのが一般的ですが、相続や親の土地活用のケースでは説明が省かれることも多いです。私道通行権については、次に説明する法律の視点で整理する必要があります。
私道通行権の種類
私道通行に関するトラブルはさまざまな形で発生します。ここでは、主なトラブルとその背景を解説します。
囲繞地通行権
囲繞地通行権は、土地が公道に接していない場合に、公道に通じるために他人の土地を通行する権利を指します。これは、民法第210条~213条で認められた権利であり、囲繞地の所有者が必要不可欠な通行を確保するためのものです。
具体例として、住宅地で新たに分譲された土地が囲繞地となるケースが挙げられます。囲繞地通行権は、「通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない」とされており(民法第211条第1項)、自転車や自動車での通行可否を巡り、相手方にとって不利益が大きくなる場合に紛争となることもあります。
なお、土地の分割で囲繞地となった場合を除き、償金が必要です(民法第212条、第213条)。
通行地役権
地役権とは、特定の目的のために他人の土地を利用する権利のことを指します。根拠は民法第280条で規定されている地役権です。通行地役権は、土地の利用や交通の便を確保するために設定される場合があり、法的に認められた権利として有効です。
たとえば、農道を共有する地役権の場合、土地の利用目的が変わった際に、地役権の範囲や内容について再交渉が必要になる場合があります。
通常は、地役権設定のために権利金が必要となり、地役権設定契約を土地所有者と締結することになります。
使用貸借・賃貸借契約
私道について、所有者と契約して貸してもらうという方法もあります。無償で借りる場合は「使用貸借契約」となり、有償の場合は「賃貸借契約」となります。
私道の通行が使用貸借契約や賃貸借契約に基づいている場合、契約条件の変更や解除がトラブルの原因となることがあります。たとえば、契約が曖昧であったり、利用料の未払いが発生したりすることが問題になる場合があります。
通行の自由権
建築基準法第42条で規定される「位置指定道路」と「みなし道路」について、開設済み道路部分の通行が日常生活に不可欠であり、所有者による封鎖などで妨害された場合、人格権(生活権)の侵害として妨害排除請求が認められる可能性があります。
① 位置指定道路(建築基準法第42条第1項第5号)
位置指定道路は、建築基準法第43条第1項の接道義務を果たすために、特定行政庁の指定を受けて開設された道路です。典型例として、宅地分割時に新設される道路があります。
② みなし道路(二項道路/建築基準法第42条第2項)
みなし道路(二項道路)は、幅4メートル未満の狭い道を法律上の道路とみなすものです。建築基準法施行前に存在した小道が想定され、建築の際には道路中心線から左右2メートル以内に建物をセットバックする必要があります。このため、みなし道路の端部分は個人や法人の所有地となります。
(出典:e-Gov法令検索『民法』)
(出典:e-Gov法令検索『建築基準法』)
私道の通行トラブルの事例
以下に、実際に起こり得る私道通行に関するトラブル事例を挙げ、その対応策を考察します。
袋地取得時のトラブル
袋地を取得した場合、民法に基づき囲繞地通行権を主張できます。ただし、必要最小限の道幅を示し、私道所有者が損害を被る場合には相当額の償金を提示する必要があります。また、権利金の提示や通行地役権の設定を交渉する方法も考えられます。
私道の所有者が通行を妨げている事例
私道上に所有者が車を駐車したり、バリケードを設置したりして通行を妨げる場合、トラブルが生じる可能性があります。私道は基本的に所有者が自由に利用でき、通行を認めるかどうかも所有者の判断に委ねられます。
しかし、以下の条件下では通行権が認められる場合があります。
1. 袋地の所有者が必要最小限の範囲で通行する場合(民法第210条)。 |
また、建築基準法上の道路に該当する私道では、建築物や擁壁の突出が禁止されています(建築基準法第44条第1項)。
みなし道路の通行を拒否される事例
みなし道路とは、実際には公道ではないものの、一般に公道として利用されている道路のことを指します。
みなし道路(二項道路)における通行拒否では、通行の自由権を主張して話し合いが必要です。事前に役所でみなし道路の認定を確認し、トラブル回避のため、通行条件を細かく取り決めることが重要です
私道の通行トラブルの対策
私道の通行トラブルが発生した場合、以下のような対策を取ることが有効です。
誠実に協議する
トラブル解決の第一歩は、当事者間での誠実な協議です。お互いの立場や状況を理解し合い、妥協点を見つける努力が求められます。協議の際には、第三者の立ち会いを依頼することで、より公平な解決が期待できます。
自治体に相談する
私道の通行問題は、地域社会全体に影響を及ぼす場合があります。そのため、自治体に相談し、調停やアドバイスを受けることが有効な手段となることがあります。自治体は地域の特性を理解しており、適切な解決策を提示してくれることが多いです。
弁護士等の専門家に相談する
法的な問題が絡む場合は、弁護士などの専門家に相談することが重要です。法的根拠を明確にし、必要に応じて調停や訴訟を行うことで、トラブルの解決を図ることができます。
弁護士に相談する際には、これまでの経緯や関連する資料を整理して提示することが効果的です。迅速かつ適切な対応を行うことで、無用な対立を防ぎ、円満な解決を目指すことが可能です。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:私道通行権とはどのような権利ですか?
A:私道通行権とは、他人の所有する土地(私道)を通行する権利を指します。特に、自分の土地が公道に接していない場合、公道へアクセスするために必要な通行権が法的に認められることがあります。たとえば、囲繞地通行権や地役権などがその典型です。ただし、これらの権利は必要性や契約条件、通行の影響などを慎重に考慮したうえで適用されるため、すべてのケースで認められるわけではありません。事前の確認や専門家への相談が重要です。
Q:私道通行に関するトラブルが発生した場合、どのように解決すれば良いですか?
A:私道通行に関するトラブルが発生した際には、まず当事者間で誠実に協議を行い、解決の糸口を探ることが大切です。状況が複雑な場合は自治体に相談し、調停やアドバイスを受けるのも効果的です。また、紛争になりそうな場合には弁護士など専門家に早期に相談することも重要です。
執筆者
弁護士法人コスモポリタン法律事務所
杉本 拓也(すぎもと たくや)
単なる法的助言を行う法律顧問ではなく、企業内弁護士としての経験を活かして、事業者様により深く関与して課題を解決する「法務コンサルタント」として事業者に寄り添う姿勢で支援しております。国際投融資案件を扱う株式会社国際協力銀行と、メットライフ生命保険株式会社の企業内弁護士の実績があり、企業内部の立場の経験も踏まえた助言を致します。