建築物に求められる省エネ性。国も認める建築物の条件とは?
世界全体が取り組むべき課題として、エネルギー需給の見直しが挙げられます。世界のエネルギー消費量は近年増加傾向にあり、経済成長に伴ってさらにエネルギーの需要が大きくなると予想されています。
なかでも日本は、世界に比べてエネルギー自給率が低く、東日本大震災以降さらにエネルギー需給バランスが厳しくなっています。さらに新型コロナウイルス感染症の拡大によるリモートワークの普及で、各家庭のエネルギー消費量も増加しています。
(出典:経済産業省『電力需給検証 新型コロナウイルスによる電力需要への影響評価 2020.10.27』)
このような状況が続けば、今後の経済活動や国民生活への支障が懸念されています。
特にエネルギー消費量が著しく増加しているのが“建築物部門”で、全エネルギーの3分の1を占めている状況です。これにより建築物の省エネルギー対策が必要不可欠となり、政府は省エネルギーに向けたさまざまな施策を打ち出しています。
本記事では、建築物の省エネ化に向けた法律の概要を解説し、住宅業界が目指すべき省エネ住宅のあり方について考えていきます。
目次[非表示]
- 1.建築物省エネ法とは
- 2.適合義務と表示制度について
- 2.1.対象となる建築物
- 2.1.1.規制措置:一定規模以上の建築物の新築と増改築が対象
- 2.1.2.誘導措置:すべての建築物
- 3.住宅の省エネ性能の評価基準とは
- 4.住宅づくりにどうかかわってくるのか
- 4.1.説明義務制度が新設
- 4.2.省エネ住宅はアピールが可能
- 5.BELS認定を目指して
- 5.1.BELS認定のメリット
- 5.1.1.5段階評価で分かりやすい
- 5.1.2.第三者による評価で信頼できる
- 5.2.ZEH(ゼッチ:ゼロ・エネルギー・ハウス)との違いは?
- 5.3.今後もZEHの拡大が見込まれる
- 6.まとめ
建築物省エネ法とは
日本の建築物部門におけるエネルギー消費量の増加に伴い、省エネ対策の強化として2015年に施行されたのが、“建築物省エネ法”です。
この法律は、住宅等建築物のエネルギー消費性能の向上を目的に制定され、建物の規模や使用目的によって、性能基準の適合義務や認定制度の基準が異なります。2021年以降にはすべての新築住宅に対して省エネ基準への適合が義務化される予定です。
(出典:国土交通省「建築物省エネ法の概要 」)
新築住宅の建設や既存住宅のリフォームなどを行う際は、建築物省エネ法に基づいた計画が必要となるほか、住宅がどれだけ省エネ性能に適合しているかが今後の住宅価値の判断基準になるとされています。
適合義務と表示制度について
建築物省エネ法では、それぞれ建築物の規模に応じた“規制措置(義務)”と、建築主に省エネ性能の向上を促すことを目的とした“誘導措置(任意)”という2つの措置があります。
規制措置に関しては、非住宅となる特定建築物の新築と増改築が対象となり、エネルギー消費性能基準に適合していることが求められるほか、基準と比べて不十分な場合には建築確認が取れず、施工ができなくなります。
また、300m2以上の住宅と非住宅において新築や増改築をする場合には、所管行政庁への届け出義務があります。
一方、誘導措置では任意となっており、一定基準に適合された建築物に対して“省エネ基準適合認定マーク(eマーク)”を表示できることにより、建築業界が自ら省エネ性能の向上を図ることを目的としています。
建築物の販売や賃貸を行う事業者は、新築や既存住宅にかかわらず、その建築物の省エネ性能を表示するよう努めなければならないとされています。
(出典:国土交通省「建築物省エネ法の概要 」)
対象となる建築物
建築物省エネ法では規制措置と誘導措置という2つの措置があり、対象となる建築物には次のような基準が設けられています。
規制措置:一定規模以上の建築物の新築と増改築が対象
一定規模以上の建築物とは、2,000m2以上の非住宅と、300m2以上の住宅あるいは非住宅となります。これらの建築物の新築や増改築をする場合は、用途や規模に応じた省エネ基準に適合しているかどうかが判断されます。
誘導措置:すべての建築物
住宅や非住宅にかかわらず、すべての建築物の新築や増改築、修繕、模様替えなどが対象となります。
省エネ性能を向上するための計画が一定の誘導措置の基準に適合している場合には、所管行政庁より“性能向上計画認定”を受けることができます。認定を受けると、容積率特例などのメリットがあります。
なお、既存の建築物が省エネ基準に適合している場合においても、所管行政庁より認定を受けられます。認定後は、省エネ基準適合認定マークを建築物の契約書や広告に表示できるため、建築物の評価アップにつながります。
(出典:国土交通省「建築物省エネ法の概要 」)
住宅の省エネ性能の評価基準とは
住宅における建築物省エネ法の評価基準には、住宅の外壁や窓などの“外皮性能”と、冷暖房設備などの“一次エネルギー消費量”の2つが用いられています。
外皮性能については、次の2つの方法によって評価されます。
①UA値:外皮平均熱貫流率
住宅の内部や外壁、屋根、開口部などから通過して外部へと放出される熱量を、住宅の外皮面積全体で割り、平均した数値。値が小さいほど熱が逃げにくいため、省エネ性能が高いことになります。
②ηAC(イータエーシー)値:冷房期の平均日射熱取得率
窓や窓以外からの熱伝導によって侵入する熱量を冷房期間で平均し、外皮面積全体で割った数値。日射によって住宅内に入る熱量によって、冷房効果を評価します。数値が小さいほど、住宅に入る日射の熱量が少なくなるため、冷房効果が高いことになります。
一次エネルギー消費量については、以下の設備によって消費したエネルギーを合算して算出され、省エネ性能を評価するときの指標となります。
- 冷暖房設備
- 機械換気設備
- 照明設備
- 給湯設備
- その他
これらの一次エネルギー消費量の値が小さいほど、省エネの効果が高くなります。
(出典:国土交通省「建築物省エネ法の概要 」)
住宅づくりにどうかかわってくるのか
これから住宅づくりを行おうという方にとって、建築物省エネ法の改正はどうかかわってくるのでしょうか。
説明義務制度が新設
説明義務制度は対象が延床面積2,000m2以上から、300m2以上へと拡大します。
この制度では、建築主は登録省エネ判定機関の省エネ適合性判定を受け、適合判定通知書を建築確認時に提出しなければならなくなりました。
省エネ適合性がなければ、着工することはできません。着工後も再度検査が行われます。完了検査の際にも、省エネ適合性判定を実施して、着工前、工事終了後の2段階で厳しく確認されることになっています。
また、同制度では、300m2未満の小規模住宅・建築物の設計では、建築士から建築主に対して、以下の内容を書面を用いて説明することが義務化されます。
- 省エネ基準への適否
- 適合しない場合には省エネ性能確保のための措置
この書面は建築士事務所で15年間保存する必要があります。
ただし、行政への手続きは不要です。
また、建築主が説明を望まない場合、書面で意思表示することで説明義務は適用外となります。
300m2ときくと、一見大きい住宅のように思えますが、延床面積が300m2以上というと、建坪が45坪程度の2階建てであれば該当することもあります。
同制度は、2021年4月より施行されます。
省エネ住宅はアピールが可能
建築物を省エネ化することは、住宅会社や建築会社にも良い効果をもたらします。なぜなら、省エネ性能が認められている住宅に関しては、住む人にとってもメリットが大きく、成約が期待できるからです。
住む人は、住宅の省エネ性が高いことにより、冷暖房や照明などのエネルギーが削減できるため、毎月の電気やガス使用料をコストダウンできます。
さらに、省エネ基準に適合している住宅には住宅ローン減税、固定資産税の軽減、ローン金利の引き下げなどのさまざまな優遇制度が受けられます。
住宅性能認定表示制度では、住宅の省エネ性能を第三者からの公平な評価が受けられるため、適合認定を受けた住宅に関しては大きなアピールとなります。また、こうした認定書を売買契約書に追加することで、住む人からの高い評価を得られるでしょう。
BELS認定を目指して
2015年に省エネの促進に向けた法律のなかで、「住宅事業建築主や建築物の販売や賃貸を行う事業者は、対象の建物についてエネルギー消費性能の表示をするよう努めなければならない」と定められました。
これにともない、国土交通省では省エネ性能を第三者から評価する表示制度“BELS”を制定しています。新築や既存を問わず、すべての建築物においてエネルギー消費性能の見える化を目指し、性能の高い住宅が市場でより高く評価されることを目的としています。
BELSの認定を受けた場合は、建築物の敷地や広告、契約書にeマークをつけられるため、消費者やテナントへの大きなアピールとなります。
評価については、外皮性能と一次エネルギー消費量が基準です。建築物の新築やリフォーム、改修においてBELS認定を目指すためには、断熱性を高くする、日射と通風をコントロールした窓の設置などを考慮した設計が必要です。
BELS認定のメリット
BELS認定には、さまざまなメリットがあります。詳しく見てみましょう。
5段階評価で分かりやすい
BELSは、建物の省エネ性能を5段階で評価します。「★★★★★」が最高ランクであることはいうまでもありません。
この星は、BEI値で区分されます。
- ★★★★★:BEI ≦ 0.80
- ★★★★ :0.80 < BEI ≦ 0.85
- ★★★ :0.85 < BEI ≦ 0.90
- ★★ :0.90 < BEI ≦ 1.00
- ★ :1.00 < BEI ≦ 1.1
(出典:国土交通省『改正建築物省エネ法の 各措置の内容とポイント』)
住宅の省エネ性能の知識がなくても分かりやすいのは大きなメリットといえます。
第三者による評価で信頼できる
お客さまにとって、住宅の性能は関心度が高いのではないでしょうか。ハウスメーカーや工務店によって独自の調査や検査を行い、性能を評価しているケースも見られます。
BELSは第三者機関による評価のため、信頼性が高まります。
ZEH(ゼッチ:ゼロ・エネルギー・ハウス)との違いは?
BELSは性能を示すための制度で、ZEHは住宅の種類のことです。
ZEHは、給湯・照明・冷暖房などの一次エネルギーの消費量の収支がゼロになることを目標とした住宅です。太陽光発電システムなどでエネルギーをつくり、そのエネルギーよりも消費するエネルギーが少なくなるのを目指します。
経済産業省・国土交通省・環境省が連携してZEHの推進に取り組んでおり、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等による住宅における低炭素化促進事業として補助金の申請も可能です。BELSは、この補助金制度を申請する際の要件の一つとなっています。
今後もZEHの拡大が見込まれる
2030年の二酸化炭素削減目標を達成するため、普及が促進されているZEH。低炭素性能の優れた素材や再生可能熱エネルギーの活用、先進的な省エネ型浄化槽の普及を促進することで住宅の低炭素化を目指すとされています。
2020年10月、第203回臨時国会で、菅総理が「グリーン社会の実現」として、「2050年までに脱炭素社会の実現を目指す」と表明。
我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。
(出典:首相官邸『令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説』)
このことから、官民一体となった省エネルギーの徹底や、再生可能エネルギーの導入が進められることが予想されます。
ZEHは各家庭から排出される二酸化炭素削減が期待できる住宅です。脱炭素社会の実現を目指すためにも、これまで以上にZEHの積極的な拡大が進んでいくのではないでしょうか。
まとめ
地球環境の保護は、皆が取り組む必要がある課題です。建築物部門のエネルギー消費量が増加傾向にある現在において、建設業界全体で省エネ性能向上を目指した取組みに注力する必要があります。
2019年5月に改正が成立・公布された建築物省エネ法は、2021年よりすべての新築住宅に対して省エネ基準への適合が義務化されました。
持続可能な社会をつくるためにも、官民一体となった取組みが求められていることが分かります。日本のエネルギー消費量を削減するためにも、省エネ住宅の必要性が高まるのではないでしょうか。
エネルギー消費性能の向上に向けた“建築物省エネ法”を遵守した建築や改修を行うだけでなく、既存住宅においても省エネに関する表示制度の認定を目指すことで、住宅への評価向上が期待できるでしょう。
省エネ性能の高い住宅は、住宅としての価値向上が期待できるだけでなく、コスト削減といったメリットもあります。
省エネ住宅は、建物の耐震基準のように一般化されていくべきことです。
建築物省エネ法の改正に伴い、消費エネルギーの削減を視野に入れてみてはいかがでしょうか。