住宅デザインは変遷する。過去と近年の流行傾向を見てみよう
住宅デザインは、その時代のライフスタイルや家族構成、流行などとともに変遷を遂げてきました。
日本の伝統を重んじたデザインや、海外の建築スタイルを参考にしたデザインなど、世間にはバラエティに富んだ住宅デザインがあふれています。
注文住宅の建設にあたって、住宅デザインの推移を知ることは、デザインやサービスの新しい切り口が見つかるきっかけにもなるでしょう。
本記事では、現在までの住宅デザインの変遷をたどりながら、近年の流行についてご紹介します。
目次[非表示]
- 1.日本の住宅と海外の住宅
- 1.1.住宅に対する意識と価値の違い
- 2.住宅デザインの変遷
- 2.1.高度経済成長時代
- 2.2.住宅が商品化され、洋風デザインにシフト
- 2.3.住宅業界も持続可能性に着目
- 2.4.職住融合でステイホームを実現
- 3.近年流行のデザインとは
- 3.1.ナチュラルデザイン
- 3.2.モダンデザイン
- 3.3.バイオリフィックデザイン
- 4.間取りにも流行はある?
- 5.デザインだけじゃない! 性能・建材にも流行がある
- 6.まとめ
日本の住宅と海外の住宅
近年、中古住宅の再利用に注目が集まっていますが、日本の住宅分野においてこの傾向は比較的新しく生まれた概念といえます。
高度経済成長期からいわゆるバブル期にかけては、経済的な余裕がありました。そのため新築住宅への需要が高く、中古住宅を活用するという概念はほとんど見られませんでした。
この時代に多くの新築住宅が建てられ、バブル崩壊後の今ではこのときに建てられた建物の価値は下がる一方。そのため、日本で家を建てる場合は子どもの世代には引き継がないというケースが多い傾向にあります。
住宅の寿命も短く、木造では築30年前後、鉄筋コンクリート造でも60年前後が平均といわれています。
海外と比較してみると、日本の既存住宅(中古住宅)のシェアは低い結果となっています。日本の既存住宅における流通シェアが14.7%なのに対し、アメリカは83.1%、イギリスは88.0%、フランスは68.4%という高い割合。
住宅の寿命に関しては、アメリカが約67年、イギリスでは約81年と、日本と比べて倍以上の年数となっています。この内容は、国土交通省の「平成30年度 住宅経済関連データ」にて公表されています。(※2019年7月16日現在)
つまり、欧米諸国の市場では住宅をリフォームして次の世代に引き継ぐということが一般的であることが分かります。
住宅に対する意識と価値の違い
欧米諸国の住宅が日本の住宅寿命よりも上回っている理由としては、大きく2つ挙げられます。
1つ目は、気候による耐久性への影響が少ないことです。
アメリカでは、木造建築物が主流でありながら築100年以上の住宅も珍しくなく、定期的に修繕を行いながら後の世代に引き継がれて利用されます。
木造でも長期間の使用ができるのは、日本と比べて湿度が低く、降水量が少ないためです。梅雨の時季など湿度が高い日本と比べて、アメリカは木造住宅の維持に適した環境といえます。
2つ目は、住宅に対する価値観の違いです。
日本では築年数が新しいほど資産価値が高く、築年数がたつと住宅価格が下落する傾向があります。
一方アメリカでは、傷んだ箇所の修繕やメンテナンスを定期的に行うことで、住宅の価値が下がりにくい傾向にあります。
しかし、現在の日本の住宅は基礎部分に鉄筋コンクリートを使用しているほか、耐震性や耐久性も向上しています。質の高い住宅は高築年数でも価値が下がりにくいため、耐震性や耐久性を備えた住宅づくりをすることが重要といえます。
日本で住宅を建設する場合は、デザインはもちろんのこと、こういった気候や災害に対する考慮も必要になってきます。
住宅デザインの変遷
日本における住宅デザインの流行について、年代別の特徴を見ていきましょう。
高度経済成長時代
1940年代頃、住宅不足の状況下において、住宅の大量生産を目指して建てられたのが“プレハブ住宅”です。
プレハブ住宅とは、あらかじめ工場で生産された木材や部材を用いて現場で建設する住宅を指します。生産工程が標準化されているため、短期間かつ均一した品質を確保できることから、大量生産が可能でした。
1970年代には、子ども部屋を確保するために2階部分の増設が増え始めます。大半の新築住宅が2階建てになり、家族団らんとプライベートな空間を分割したスタイルが一般的となっていました。
住宅が商品化され、洋風デザインにシフト
1980年代に入ると、オイルショックによってプレハブ住宅の市場が落ち込みます。そこで大手住宅メーカーは競合相手との差別化に乗り出し、住宅が“商品化”される時代へと移行しました。
和が一般的だったデザインは、フローリングを取り入れ洋風へシフトし、バブルにかけて豪華絢爛なデザインが好まれるようになりました。
注文住宅市場では、アメリカのイギリス植民地時代に流行した“アーリーアメリカンスタイル”や、イギリスの伝統を感じさせるアンティークな“ブリティッシュスタイル”が人気を博しました。
2000年代に入ると地中海やプロバンスといった柔らかい雰囲気の“南欧スタイル”をはじめ、現在でも人気の高い“北欧スタイル”、シンプルな“モダンスタイル”など、多様な様式が取り入れられるようになっていきました。
住宅業界も持続可能性に着目
環境問題の深刻化により、住宅業界でも“サステナブル(持続可能性)”への関心が高まりました。2015年の国連サミットでSDGsが策定されたことから加速度的に広がり、サステナブルという考え方は、住宅デザインの分野にも浸透し始めています。
住宅デザインにおけるサステナブルには、以下の点もポイントとなっています。
- 地域で育った木材を使用した住宅
- 古民家などの廃材・古材を活用した住宅
- 日本の伝統技術で設計・建築した住宅
- 無添加の素材を使用した住宅
- ZEH住宅
サステナブルデザインは環境に過度な負担を与えず、資源を無駄にしないことが大切です。環境への意識が高まるなか、持続可能な社会を構築していくためにも、今後のさらなる広がりが予想されます。
職住融合でステイホームを実現
2019年、働き方改革が順次施行され、さまざまな企業で多様な働き方が取り入れられるようになりました。同年末以降、新型コロナウイルス感染症が世界的に広がり、テレワークの導入企業がさらに増加。職住融合の動きが広がりました。
コロナ時代の住宅デザインには、以下のようなアイデアがあります。
- 玄関に手洗いができる場所を設置する
- 玄関からバスルームまで直行できる動線を確保する
- Webミーティングができるワークスペースを設置する
「毎日通勤する」という働き方が絶対ではなくなったいま、生活の拠点も都心から郊外へと移りつつあります。現在の住宅デザインには、「ウイルスを持ち込まない」「自宅で仕事ができる」の2点への配慮が必要です。
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近年流行のデザインとは
ナチュラルデザイン
近年の一戸建て住宅では、“ナチュラルデザイン”の人気が高くなっています。
都市部から離れた町への移住がブームになっていることもあり、“自然に囲まれて暮らす”というスタイルが多く見られます。
自然素材を利用した暖かみのある住宅は幅広い世代に人気が高く、中古住宅のリノベーションでは、柱や梁(はり)などの構造材をあえて見せるデザインも好まれています。
モダンデザイン
ナチュラルデザインとともに安定した人気があるのは、“モダンスタイル”です。ボックス型で構成された外観にモノトーンでまとめられたスタイルは、スタイリッシュで都会的なイメージがあることから、飽きることなく長年住みやすいデザインといえます。
そのほかに、無垢材を融合した“ナチュラルモダン”や、和風建設の要素を取り入れた“和モダン”も好まれています。
バイオリフィックデザイン
2000年以降、住宅デザインには自然を取り入れたデザインが見られるようになりました。バイオリフィックとは、もともと「人間は本能的に自然とつながりたがっている」という概念からきた言葉で、空間デザインや都市デザインなどに活用されはじめています。
バスルームから眺められる庭や坪庭などで、自然を意図的に生活に取り込むことがポイントです。
間取りにも流行はある?
これまでは子ども部屋を確保するためとして、部屋数の多い間取りが一般的でした。
しかし、少子化による子どもの数の減少や、子どもがいない核家族世帯が増加していることから、部屋数を細分化せず、広々としたリビングのある間取りが好まれるようになっています。
LDK部分についても、これまではキッチンを分離したスタイルが一般的だったのに対し、キッチンからリビングが眺められる一体感のあるLDKが人気です。
また、リビングを経由して各部屋に移動する動線を確保したり、LDKに十分なスペースを確保したりすることで、リビングに家族が集まれるような設計が見られます。
また、さきほど述べたように職住融合の間取りにも注目が寄せられています。
パーテーションや可動式の仕切りで半個室のワークスペースをつくる、階段下などを活用して個室をつくるなどさまざまなアイデアが実践されています。必要に応じて間取りを変えられるような柔軟性がポイントです。
このように、時代の流れに沿って流行のデザインが変化していること、そして家族形態の変化によって、暮らし方のニーズも変わってきていることが分かります。
デザインだけじゃない! 性能・建材にも流行がある
時代に合わせて変遷しているのはデザインだけではありません。設備や建材などにも流行があります。
この章では、最近の設備や建材の流行を見ていきましょう。
省エネルギー住宅
最近では、電力不足も深刻です。かねてより、省エネはさまざまな分野での課題になっていましたが、リモートワークの普及に伴いさらに電力不足が深刻になりました。自宅で過ごす時間が増えたことで、光熱費が増加し、家計を圧迫しているという声も少なくありません。
そのため、最近では省エネ性能を搭載した住宅に注目が高まっています。
たとえば、自給自足ができる住宅として知られているのが“ZEH(ゼッチ)”です。
ZEHは、ネットゼロエネルギーハウスの略称。太陽光発電などでエネルギーをつくるとともに、省エネ性能を向上してエネルギーの消費を削減する仕組みとなっています。給湯や冷暖房などにかかる光熱費の収支をゼロにするのが目的です。
停電の際にも蓄電した電力を使うことができるため、有事の際にも心強いでしょう。自宅で過ごす時間が増えている今だからこそ、ニーズが高まっていると考えられます。
IoT住宅
IoT(アイ・オー・ティー:Internet of Things)はモノのインターネットと訳されているように、モノにインターネットを接続させ人々の利便性を高める技術のことです。最近では、住宅づくりにもIoTが取り入れられています。
IoT住宅では、スマートフォンやパソコンなどのインターネットデバイス、または登録した音声などを介して、住宅に使用している家電や設備を操作することが可能です。
たとえば以下のようなことができます。
- 照明を操作する
- 施錠する
- 音楽をかける
- 浴そうに湯はりする
- カメラで室内の様子を確認する
- 非常時に通知する
これらはごく一部です。IoT技術は応用性が高いため今後さらなる展開が期待できます。
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住まいに広がるIoT化。IoT住宅で快適な暮らしづくりを提案
健康住宅
ホルムアルデヒドによる健康被害などが多発したことで、最近では自然素材を活用した住宅づくりも流行しています。
健康住宅は、漆喰や無垢の木材を使用した壁や床、天然由来の断熱材など、化学物質を含まないもしくは少ない建材や接着剤の活用が特徴。自然を生かして快適さを高める点もポイントとなっています。
まとめ
住宅デザインは、時代や家族形態の変化によって変わっていきます。
近年の傾向としては、自然素材を取り入れた暖かみのあるスタイルや、日本の伝統スタイルを残した古民家風のリノベーションに注目が集まっています。
また、デザインの考え方にも変化が見られ「持続可能性」や「職住融合」などもポイントとなっています
間取りは、一人ひとりのプライベート空間を確保しながらも、家族のコミュニケーションを活発にする広々としたLDKが多く見られます。その一方で、コロナの感染拡大予防によるリモートワークの増加から、必要に応じて間取りを変えられるような柔軟性も求められています。
住宅設計をする際は、これらのトレンドを参考にし、住む人に快適な暮らしを提案することが大切です。
また、高齢化やエコ化推進に対応するために、住宅のバリアフリー化をはじめ、省エネ対策、インターネットと住まいを融合させたIoT化なども視野に入れてみてはいかがでしょうか。