マーケティング

商品企画の基礎力は「時代が要請する機能」

「住宅という暮らしの器」としての商品が保有すべき基本機能は3つです。

  1. 「安全/安心/快適」 耐震性能、耐久性能、温熱環境性能などの「性能」
  2. 「生活利便性」   収納、動線などの「生活のしやすさの工夫」
  3. 「心豊かな暮らし」 「個人の価値観」と「時代が求める暮らし方」 

この内、商品企画で取り上げるのは「安全/安心/快適」と「生活利便性」と「心豊かな暮らし」の「時代が求める暮らし方」です。「安全/安心/快適」は躯体性能設定という会社としてのハード分野におけるポリシーによって決定されます。

「生活利便性」は「生活利便性向上のアイデア提示」が商品企画ですが、商品企画というよりも、むしろお客様のご要望に対する設計対応力の分野の色合いが濃い分野です。

「心豊かな暮らし」の「個人の価値観」への対応は確かに設計対応力分野ではありますが、これに比べてもう一方の「時代が求める暮らし方」はその時代の流れの中にいるお客様には気づきにくく、その部分は住宅供給側というプロが分析して昇華することで「商品企画」の「核になる要素」です。また、この分野は商品企画の「基礎力」でもあります。ここを他社に先駆けて進める商品企画は受注アップ力へとつながり成功します。

商品企画は時代背景によって、少しずつ変化する暮らしの底流を理解することから取り組みます。この部分について具体的に「今に続く時代の底流」を「振り返りながら」考えてみましょう。

目次[非表示]

  1. 1.子供の居場所は「子供部屋」から「LDK」へ
  2. 2.事例「スーパーテーブル」と「ゴロゴロリビング」「2畳の子供部屋+プレイルーム」
    1. 2.1.1.スーパーテーブル
    2. 2.2.2.ゴロゴロリビング
    3. 2.3.3.2畳の子供部屋+プレイスペース
  3. 3.特徴ある新商品の訴求方法
  4. 4.「サンクンリビング」
  5. 5.特徴ある商品企画を進めるポイント
  6. 6.まとめ

子供の居場所は「子供部屋」から「LDK」へ

2011年3月11日発生の東日本大震災が全国の子どもたちに与えたインパクトは、大人たちが考える以上に大きく、その後の暮らし方に大きな変化をもたらしました。震災発生後全てのTV番組は震災の被害状況のニュースに変更され、子供たちは連日連夜その惨状や避難所での困難な生活を目の当たりにすることになりました。

当時は、まだ幼く、もの心つく前の子供から、大人に近い高校生までが心理的に大きな影響を受けました。大きな災害発生時などの非常時には、「最後に頼りになるのは家族」という映像メッセージが結果として多く発信され、その影響を強く受けました。

2000年前後生まれの「アラゼロ」世代への調査(博報堂生活総合研究所「子ども20年変化」)結果は震災発生の前後で「子供たちの価値観変化」が如実に現れました。「友達より家族」「友達より両親」という価値観の変化です。

メディアを介して全国同時に幅広い子供世代へもたらした価値観変化の底流が、住宅の在り方を変えることにつながることを理解し、商品企画へ具体策として落とし込んだ住宅会社/工務店は実績を大きく伸ばしました。

事例「スーパーテーブル」と「ゴロゴロリビング」「2畳の子供部屋+プレイルーム」

「いつ起こるかわからない災害へのそこはかとない不安」「最後に頼れるのは親と兄弟姉妹」という「東日本大震災後の子供たち世代の漠然とした価値観変化」へ応える商品企画の具体化ポイントを3つに絞りました。

1.スーパーテーブル

・子供部屋で一人で過ごす時間よりも、家族と一緒に居たいという「無意識の要求」から宿題も「ダイニングテーブル」で、両親も仕事をするなら一緒にという自然な流れで、なんでもみんなと一緒に出来る「スーパーテーブル」をダイニングに設置(電源などの設備機能や教科書、参考書の収納などのライブラリー機能などの周辺機能の付加)。

2.ゴロゴロリビング

・宿題も終わり、食事が済んでも何となく家族と一緒に居たい。TVはついていても各自スマホや、タブレットで自分の世界に入っており、家族が何となく一緒にゴロゴロくつろいでいる安心感が欲しいため、ソファーなどは置かず自由な寛ぎ方へ(床仕上げなどは様々なバージョンを用意)。

3.2畳の子供部屋+プレイスペース

・子ども部屋は寝るだけの機能に絞り、兄弟姉妹と一緒に遊べて勉強も一緒にできるスペースを創設。子供2部屋分の12畳スペースを使って2畳+2畳の子供部屋2部屋。子供部屋には2段ベッド形式のベッドと収納を設置(1段目は洋服などの収納スペースで、寝るのは2段目)。8畳のプレイスペースにはカウンターを設けて勉強も可能にしたマルチスペースの仲良し空間。

これは一つの商品企画事例です。
この会社は2012年から、この新商品を投入し、モデル住宅で商品特長をお客様に体感体験していただく、「気づき共感営業」手法も併せて導入したことによって、当該総合住宅展示場チームは対前年同期比165%の実績を上げられました。その後も同タイプのモデル住宅展開を図り順調に成長されています。

特徴ある新商品の訴求方法

商品企画で「スーパーテーブル」と「ゴロゴロリビング」「2畳の子供部屋+プレイルーム」を導入するということは特徴的で、一般には見慣れない「商品特長」を訴求することになりますから、こうした状況を踏まえた対応が必要になります。

具体的には、お客様がこのモデル住宅に住むとしてという視点で、新しい暮らしを体感体験していただくことで初めてご理解を得ることができます。新たな暮らしへの触発と気づきへ導く、気づき共感営業手法の導入も不可欠な要素です。

「サンクンリビング」

リビングの床面を掘り下げた「サンクンリビング」は比較的古くからあるリビング形態の一種ですが「ネット社会の進展」という時代の底流が改めて「サンクンリビング」を進化させ、商品特長として強力な武器になっています。

ソファーをなくして和室的な寛ぎ方が自由で、かつ4人家族から友人が集まるホームパーティ時の20人位の大人数まで、人数フリーというのが当初のサンクンリビングの特長でしたが、その後のネットの進展で、TV中心の一方向を観ているリビングの過ごし方から、各自のスマホとタブレットが中心のリビングになり、くつろぎ方のスタイルも家族各様に自由になり、ソファーを組み込みゆったりと座ってくつろぐことも、その足元に子供たちが転がって遊ぶことも、ヨギボーでゆったり過ごすこともと、自由度を様々にアップしています。前述の東日本大震災前後の子どもたちの価値観変化にもサンクンリビングが持つ落着き感、多用途性が更に評価を高めました。

サンクンリビングを採用されて既に22年経過された会社は、毎年業績を向上されエリアNo1の着工数を連続して達成されておられますが、その間「サンクンリビング」を常に改良して磨き込み、工夫を積み重ねて行くことで様々なバリエーションが生まれ「自社商品の看板商品特徴」として定着しています。

特徴ある商品企画を進めるポイント

例に挙げた商品特長は導入時には、まず「新商品企画による特長がもたらす新たな暮らし方」をよく理解することで、営業が自信を持ってお客様を触発し、気づきを与えることができます。また、設計が応用運用できるように「商品企画を社内で消化」してから運用開始することもポイントです。

このプロセスを経ずに「モノとして新商品を導入」してしまうと、一見「クセが強い」ためお客様に敬遠されたりすることがあると、新商品に対しての社内でのモチベーションが下がってしまい失敗します。社内で商品企画意図を十分にこなれた状態へ持って行き共有化することが大切です。

まとめ

商品企画の80%程度は「時代が要請する機能の保有」という「基礎力」がポイントになります。時代の中にいると「暮らしがどのように変化しているのか」ということに気づきにくいのも事実です。

特にLDKが発明され、世に出てから今年で80年。時代は「単一の価値観」から、「多様な価値観」へと大きく変化しています。戸建住宅事業での商品企画の重要性は今後益々重要度を増してきます。世の中の進化、変化が「暮らしにどのような変化をもたらすのか」を洞察する力が必要です。外部の力も有効に使って俯瞰的に暮らしの変化への対応視点を持って、商品企画を進める時代です。


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株式会社ハウジングラボ 松尾俊朗
株式会社ハウジングラボ 松尾俊朗
松下電工勤務で木造軸組改良工法(木と鉄の混構造/テクノストラクチャー工法)をはじめ様々な注文住宅事業形成手法を開発。ハウジングラボ設立後、様々な形態の161社の注文住宅事業サポートを実施。幅広い視点で各社の強みを活かした各社独自の注文住宅事業へナビゲート。

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