住宅トレンド

動き始める“住生活基本計画”の見直し。これから10年間の住宅業界の在り方とは?

国土交通省は、2021年から2030年までの今後10年間における住宅政策の指針として、“住生活基本計画(全国計画)”の見直しを進めています。

2016年3月に策定された現行計画をベースに、社会情勢や生活環境など幅広い分野の変化を踏まえて、4つの視点から再整理されることとなりました。

今回の住生活基本計画の策定によって、住宅業界の在り方はどのように変わるのでしょうか。

本記事では、現行の住生活基本計画が見直される背景や、見直しの論点となる4つの視点について解説します。

目次[非表示]

  1. 1.住生活基本計画とは? 見直しが進められる背景
    1. 1.1.住宅ニーズの変化
    2. 1.2.空き家の増加、既存住宅の流通
    3. 1.3.需要と供給のミスマッチ
  2. 2.新たな住生活基本計画は4つの視点から見直し
    1. 2.1.居住者からの視点
      1. 2.1.1.1:子育て世帯のニーズや、子どもの目線に立った住宅づくり
      2. 2.1.2.2:高齢者が安心して健康に暮らせる住まいの実現
      3. 2.1.3.3:外国人も含めた住宅確保要配慮者へのニーズに対応
      4. 2.1.4.4:新たな住まい形態を視野に入れた提案
    2. 2.2.住宅ストックからの視点
      1. 2.2.1.1:新築住宅市場から既存住宅市場への転換に向けた対策
      2. 2.2.2.2:増加する住宅ストックの活用と、空き家対策(活用・除却・抑制)
      3. 2.2.3.3:新設住宅の供給に関する取組み
    3. 2.3.産業と地域からの視点
      1. 2.3.1.1:新設住宅市場の縮小を見据えた、住生活産業の成長・促進
      2. 2.3.2.2:AIやIoTなどの新技術による住生活の向上
      3. 2.3.3.3:住宅産業における担い手不足への対応
    4. 2.4.まちづくりからの視点
      1. 2.4.1.1:地域の高齢化・空き家発生に備えた住宅団地の再生対策
      2. 2.4.2.2:コンパクトシティ・都市のスポンジ化への対策
      3. 2.4.3.3:災害に備えたまちづくりと、その他政策分野との連携
  3. 3.未来を見据えて、住宅業界の多角化が検討される
  4. 4.まとめ

住生活基本計画とは? 見直しが進められる背景

住生活基本計画とは、住生活における安定の確保・向上に関する施策を計画的に実行するための基本方針です。住生活基本計画は5年ごとに見直されていますが、今回の見直しにはどのような背景があるのでしょうか。


住宅ニーズの変化

一つは、人々の住まいに対するニーズの変化です。
国土交通省がまとめた資料によると、住まいに対して次のような変化が見られます。

■新築か中古かの選択理由について「新築にこだわらなかった」と答えた人

中古戸建住宅取得世帯
2014年は42.5%。2018年には43.1%に増加

中古マンション取得世帯
2014年は32.6%。2018年には39.4%に増加

■土地・建物の所有について「土地・建物の両方を所有したい」と答えた人

2007年は81.7%。2017年には75.7%に減少

■住まい選びに仕事や通勤の利便性を重視する人

2007年は30.0%。2017年には38.5%に増加

■生活拠点を2つ持つ“デュアルライフ”を始める人(推計)

2013年は10.6万人。2018年には17.1万人に増加

経済情勢やライフスタイルの変化によって、人々のニーズは変化しています。
こうしたニーズの変化は、今後の住宅業界において無視できない要素になるでしょう。

(出典:国土交通省『平成27年度 住宅市場動向調査~調査概要~』『令和元年度 住宅市場動向調査~調査概要~』『既存住宅流通を取り巻く状況と活性化に向けた取り組み』『住生活基本計画の見直しに当たっての主な論点』)


空き家の増加、既存住宅の流通

次に、空き家の増加です。

国内の空き家は、1998年から2018年までの20年間で約1.5倍に増加しています。

空き家は老朽化による崩落の危険性があるほか、衛生環境や治安の悪化を招き、エリアの資産価値が低下する恐れもあります。増え続ける空き家は喫緊の課題となっています。

既存住宅の流通シェアを見てみると、1994年の約8.6%から2018年には約14.5%に増加していますが、欧米諸国の既存住宅流通シェアと比べると、1/6から1/5ほどと依然として少ないのが実情です。

これからは、築年数がたった住宅活用の仕組みづくりや、価値向上のための新たな取組みを視野に入れる必要があるでしょう。

(出典:国土交通省『平成30年住宅・土地統計調査の集計結果』『住生活基本計画の見直しに当たっての主な論点』


需要と供給のミスマッチ

最後に、需要と供給のミスマッチという課題が挙げられます。

国内における新設住宅着工戸数は、1967年に100万戸を超えて以降、オイルショックやバブル景気などの影響を受けながらも2009年まで同水準で推移しています。

2009年におきたリーマンショックの影響で約77万戸まで減少しましたが、その後はゆるやかに上昇し、2015年から2018年には約95万戸前後で推移している状況です。空き家が増える一方で、安定した新規供給が続いていることが分かります。

しかし、住宅ストックは総世帯数よりも上回り、住宅の量的には充足しています。

十分なストックがありながら、依然として新規供給が続いている理由には、ニーズに合う良質な住宅ストックが足りていないことが考えられるでしょう。

このような需要と供給のミスマッチを解消するためには、長期優良住宅やバリアフリー住宅など、長期的な視点で見た良質なストック形成が課題といえます。

(出典:国土交通省『既存住宅流通を取り巻く状況と活性化に向けた取り組み』『住生活基本計画の見直しに当たっての主な論点』『住生活基本計画の見直しに当たっての主な論点(住宅ストックについて)』

新たな住生活基本計画は4つの視点から見直し

現行計画は、居住者・住宅ストック・産業と地域の3つの視点で策定されています。

1968年以降、日本の住宅総数は世帯総数を上回り、住宅政策の目標が“量”から“質”へと移行してきました。現行計画においても、質の向上がテーマの一つとして掲げられてきましたが、今回の見直しは、さらに“まちづくり”を加えた4つの視点で再整理されています。

ここでは、見直しの論点とされる4つの視点について解説します。

(出典:国土交通省『住生活基本計画(全国計画)のポイント(平成28年3月18日閣議決定)』総務省統計局『1-1 総住宅数と総世帯数』


居住者からの視点

居住者からの視点では、若年世帯や子育て世帯、高齢者や生活確保要配慮者が安心して暮らせる環境の整備を目標としています。

1:子育て世帯のニーズや、子どもの目線に立った住宅づくり

近年、共働き世帯が増加傾向にあり、住まい選びに子育てや教育のしやすさを重視する人が増えています。住まいづくりにおいては、子育て世帯・共働き世帯の視点に立ち、ライフスタイルやニーズに応じた住環境の整備が求められています。国内における少子高齢化が問題となるいま、安心して子どもを産み、育てやすい住宅を提供することは人口減少対策のひとつとなるでしょう。

2:高齢者が安心して健康に暮らせる住まいの実現

2018年における日本の高齢化率は約28%。実に4人に一人が65歳以上の高齢社会です。国土交通省の資料によると、75歳以上の単独世帯数は、2015年の336万世帯から2030年には504万世帯まで増加すると見込まれています。

加えて男性・女性の健康寿命も延伸傾向です。2010年から2016年の7年間で約1~2年延びており、高齢者一人でも安心して暮らせる住まいの実現が早急に求められていることが分かります。バリアフリーといった住宅設備だけでなく、暮らしをサポートできる医療・福祉・介護との連携も含めた取組みが目標として掲げられています。

3:外国人も含めた住宅確保要配慮者へのニーズに対応

外国人労働者の受け入れ拡大に向けた改正入管法の施行に伴い、在留外国人のさらなる増加が見込まれています。2019年から5年の間に、過去最大値となる約35万人の外国人労働者の受け入れを想定している現状です。今後は、外国人も含めた住宅確保要配慮者にどのように対応するかも論点のひとつとなっています。

4:新たな住まい形態を視野に入れた提案

デュアルライフやシェアハウスなど、新たな住まい形態も広がりを見せています。「家を所有する」「貸りる」という、従来とは異なる価値観や暮らし方を考えることも必要です。サブスクリプション型居住サービスやシェアリングエコノミーなど、住宅形態・サービスの多様化が目標として掲げられています。

(出典:国土交通省『住生活基本計画の見直しに当たっての主な論点』内閣府『第1節 高齢化の状況|令和元年版高齢社会白書(概要版)』法務省入国管理局『新たな外国人材の受入れについて』


住宅ストックからの視点

住宅ストックからの視点では、次の世代に継承されていく住宅循環システムや、安全で質の高い住宅ストックの更新、空き家対策などが主な目標です。

1:新築住宅市場から既存住宅市場への転換に向けた対策

空き家の増加が問題となるいま、新築住宅市場から既存住宅市場への転換が大きな課題です。定期的な維持管理やリフォームの実施、インスペクションなどにより、安心かつ安全に暮らせる良質な住宅ストックを増やす必要があるでしょう。そのためには、耐震や省エネなど、現代にふさわしい住宅の性能を確保できる対策が求められています。

2:増加する住宅ストックの活用と、空き家対策(活用・除却・抑制)

築40年を超える分譲マンションの戸数は、2018年の81万戸から2038年には367万戸まで増加する見込みです。住宅ストック活用を促進するためには、築年数への対策も不可欠といえます。マンション管理方法やメンテナンスなど、住宅の管理・維持に向けた取組みも論点に挙がっています。空き家については、市場流通を活性化させる対策だけでなく、除却や発生抑制にどう対応していくかという課題も盛り込まれています。

3:新設住宅の供給に関する取組み

新たに供給が進む新設住宅においては、需要と供給のミスマッチを解消することがポイントです。国民性やニーズ、市場実態を踏まえたうえで、住宅価格や質を見直す必要があるでしょう。策定委員会では、新築住宅が供給過多になっているエリアは供給量を制限する施策が必要といった声もみられました。

(出典:国土交通省『住生活基本計画の見直しに当たっての主な論点』『住生活基本計画の見直しに当たっての主な論点・(住宅ストックについて)』


産業と地域からの視点

産業と地域からの視点では、住生活産業の担い手確保や地域経済の活性化、居住者の安全性を確保するための災害対策などが目標となっています。

1:新設住宅市場の縮小を見据えた、住生活産業の成長・促進

新設住宅着工戸数の減少が見込まれるいま、既存住宅市場・リフォーム市場のさらなる活性化が期待されています。今後、新設住宅市場の縮小を見据えて、海外展開や住宅の維持管理、リフォームといった新たなビジネス展開も視野に入れる必要があるでしょう。

2:AIやIoTなどの新技術による住生活の向上

インターネット技術の発展により、社会の情報化やデジタル化が進んでいます。人々のライフスタイルや働き方も変化し、テレワークの導入割合も2016年の14.2%から2018年には19.8%まで増加しています。AIやIoTなどの新技術が住宅産業にどのような影響を及ぼすのか、住生活向上に向けた新たなサービス展開も注目されています。

3:住宅産業における担い手不足への対応

生産年齢人口の減少は住宅産業の人手不足の要因のひとつです。建設産業の従事者も減少しており、なかでも大工の就業者数は1995年の76万人から2015年には35万人まで減少しています。今後、外国人も含めた人材確保や生産性向上に取組むうえで、どのように課題を解決していくのかが求められます。

(出典:国土交通省『住生活基本計画の見直しに当たっての主な論点』


まちづくりからの視点

今回の見直しにあたって、現行計画から新たに加わったのが“まちづくりからの視点”です。住宅・地域・交通などの政策的な連携により、住宅再生や災害に強いまちづくりを目指す施策が想定されています。

論点には次の3つが挙げられています。

1:地域の高齢化・空き家発生に備えた住宅団地の再生対策

郊外の住宅団地では、居住者の高齢化や生活利便性の低下が原因となり、空き家の発生が懸念されています。国土交通省の資料によると、350の市区町村のうち、住宅団地の問題として244の地域が「高齢者が多い」、147の地域が「生活利便性の低下」と回答。住宅再生対策が求められていることが分かります。

2:コンパクトシティ・都市のスポンジ化への対策

コンパクトシティの推進や都市のスポンジ化の対策として、空き家・既存住宅の利用促進が求められています。住宅の需要・供給バランスを整えるためには、地方自治体と住宅産業が連携を図り、空き家・既存住宅活用の活性化に向けた取組みが必要となるでしょう。

3:災害に備えたまちづくりと、その他政策分野との連携

近年では地震や台風・豪雨などの自然災害が激甚化し、発生頻度も増加しています。これらの災害に備えて住宅の安全性を向上させることはもちろん、地域の防災政策とスムーズな連携を図れる体制構築も重要です。災害発生時にどのような対応が求められるか、国や地域と連携して施策を検討する必要があります。

(出典:国土交通省『住生活基本計画の見直しに当たっての主な論点」

未来を見据えて、住宅業界の多角化が検討される

社会情勢や人々のライフスタイルの変化に対応するため、住宅業界の在り方も転換が求められています。

今回見直しが進められる住生活基本計画は、高齢化や子育て、産業、まちづくりなどの幅広い分野と関連した多面的な住宅政策が盛り込まれています。

今後は居住者のニーズに対応できる住宅ストックの形成や、適切な維持・管理が大きな課題です。また、AI・IoTなどの新技術の活用や、地域・交通、民間企業と連携した安心して暮らせるまちづくりも重要なポイントとなるでしょう。

社会の変化や時代のニーズを踏まえて、住宅産業の枠を広げた幅広い分野での展開が期待されています。

まとめ

住生活基本計画は、2021年の策定をめどに見直しが進められています。

居住者・住宅ストック・産業と地域・まちづくりの4つの視点がベースとなり、幅広い分野と関連づけた多角的な政策が検討されています。

少子高齢化や空き家の増加といった問題を抱えるいま、今回の見直しは抜本的な解決策となるのでしょうか。

住宅市場の縮小化が見込まれるなか、住宅業界の存続・成長のためにも居住者のニーズやライフスタイルに合う質の高い住宅ストックが必要です。

さらなる事業成長や安定した経営を目指すためには、商品開発から人材育成などの経営活動を支援する住宅ネットワークサービスの利用も視野に入れてみてはいかがでしょうか。
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編集部
編集部
工務店・ビルダー、新築一戸建て販売会社様を支援すべく、住宅営業のノウハウや人材採用、住宅トレンドなど、様々なジャンルの情報を発信してまいります。

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