入居や建築確認のタイミングが重要?「住宅の売り時」とは|住宅ローン減税の改正内容と注意点
不動産営業に携わるうえでは、住宅関連の法令や税制の変化にも敏感にアンテナを張っておく必要があります。なかでも、「住宅ローン減税」は節税効果が大きく、マイホームの購入を大きく後押しする制度として広く知られています。
しかし、税制は社会情勢や市場の動向に伴って変化していくものであり、必ずしも前年と同じ仕組みが適用されるとは限りません。そのため、不動産事業者は常に新しい情報を把握したうえで、適切な戦略を立てる必要があります。
今回は、2023年現在における住宅ローン控除の現状と今後の見通しについて詳しく確認しておきましょう。
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住宅ローン減税の概要
住宅ローン減税(控除)とは、住宅の購入時に「住宅ローンの利用を含む一定の条件」を満たすことで受けられる優遇措置です。具体的には購入後の一定期間にわたり、毎年の住宅ローン残高に応じて、所得税・住民税から税額控除されるという仕組みです。
もともとは「原則として購入後の10年間にわたり、毎年の住宅ローン残高の1%が控除される」という仕組みでしたが、2022年の税制改正によって2025年の12月31日まで延長されたと同時に、内容にも大幅な変更が加えられました。
現行の制度においては、「控除率が各年末の住宅ローン残高の0.7%」に引き下げられています。また、入居時期によって控除対象となる住宅ローン借入限度額が異なります。
入居時期によっては、そもそも住宅ローン減税の対象外となってしまうケースもあるので注意が必要です。入居のタイミングと控除の関係性については、次の見出しで詳しく見ていきましょう。
2024年以降に入居すると控除額が引き下げられる?
住宅ローン減税の現状について理解するうえでは、「2024年」を一つの分岐点として捉える必要があります。ここではまず、2023年時点における住宅ローン減税の概要を解説したうえで、2024年以降の変更点をご紹介します。
2023年時点における制度の概要
住宅ローン減税は、住宅の種類によって適用される条件が異なります。まずは、制度内で区分されている住宅の種類を簡単に押さえておきましょう。
住宅の種類 |
特徴 |
長期優良住宅・低炭素住宅 |
それぞれの基準を満たしたうえで、所管行政庁による認定を受けた住宅 |
ZEH水準省エネ住宅 |
以下の条件(※)をどちらも満たす住宅
|
省エネ基準適合住宅 |
以下の条件(※)をどちらも満たす住宅
|
その他の住宅 |
上記のいずれにも該当しない一般住宅 |
※結露の発生を防止する対策に関する基準を除く
そのうえで、2023年時点における制度の内容は、次のとおりです。
新築住宅・買取再販住宅の場合
住宅の種類 |
借入限度額 |
控除期間 |
長期優良住宅・低炭素住宅 |
5,000万円 |
13年間 |
ZEH水準省エネ住宅 |
4,500万円 |
|
省エネ基準適合住宅 |
4,000万円 |
|
その他の住宅 |
3,000万円 |
既存住宅の場合
住宅の種類 |
借入限度額 |
控除期間 |
長期優良住宅・低炭素住宅 |
3,000万円 |
10年間 |
その他の住宅 |
2,000万円 |
たとえば、6,000万円の住宅ローンで新築の長期優良住宅を購入した場合は、そのうち5,000万円までを住宅ローン減税の対象として計算できます。一方、同じ条件で新築や買取再販の一般住宅を購入した場合は、6,000万円のうち3,000万円までしか対象とならず、減税効果が減少してしまうということです。
2024年以降における制度の概要
一方、2024年以降に入居した場合は、次のように対象となる借入限度額が引き下げられます。
新築住宅・買取再販住宅の場合
住宅の種類 |
借入限度額 |
控除期間 |
長期優良住宅・低炭素住宅 |
4,500万円 |
13年間 |
ZEH水準省エネ住宅 |
3,500万円 |
|
省エネ基準適合住宅 |
3,000万円 |
|
その他の住宅 |
0円 |
既存住宅の場合
住宅の種類 |
借入限度額 |
控除期間 |
長期優良住宅・低炭素住宅 |
3,000万円 |
10年間 |
その他の住宅 |
2,000万円 |
上表のように、2024年以降の入居は、いずれの新築・買取再販の住宅においても最大控除額が引き下げられています。そのうえで、特に「その他の住宅」に区分される一般住宅は、適用除外となってしまうので注意が必要です。
ただし、既存住宅に関しては、2024年以降の入居でも前年までと同様の条件が適用されます。
一般住宅に関する注意点
これまで見てきたように、2024年の分岐点を迎えるうえで、特に大きな影響を受けると考えられるのは新築・買取再販の「一般住宅」の購入です。長期優良住宅、低炭素住宅、ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅に該当しないその他の一般住宅は、前述のように入居が2024年以降になると、住宅ローン減税そのものを利用できなくなってしまうのです。
それでは、「入居の時期」とは、具体的にどのタイミングで判断されるのでしょうか。国土交通省の資料によれば、次のように示されています。
対象外となるタイミング
|
建築確認の締め切りが2023年末までであることを考えると、基本的に現在以降に発注される新築・買取再販の一般住宅は、住宅ローン減税の対象外になってしまうといえるでしょう。
今後の住宅ローン減税の見通し
2023年時点においては、住宅ローン減税の適用期間は2025年12月31日までとされています。2026年以降の内容は今後の税制改正で決められるため、現時点では判断することができません。
しかし、住宅ローン減税そのものは1972年から続いている制度であるため、その後も何らかの形で引き継がれると考えるほうが自然です。ただし、今回の記事でも見てきたように、2022年の税制改正においては期間の延長と引き換えに控除率の引き下げが行われています。
特に、一定の環境性能を満たさない住宅については、今後も適用対象外となる可能性が高いといえるでしょう。そのため、今後も内容が変更される場合がある点には注意が必要となります。
「いまが買い時」と営業トークにつなげられる?
前述のように、2026年以降の住宅ローン減税についてはまだ何も決まっていません。しかし、2022年の税制改正の流れを踏まえれば、控除率の引き下げや条件の厳格化が行われても不思議ではありません。
また、現時点では控除期間が13年と設定されているものの、短縮される可能性は十分に考えられます。そのため、不動産事業者としては、「いまが買い時である」という営業トークにつなげられる側面もあります。
もちろん、金利や税制の先行きについて断定的に話すことはできませんが、これまでの改正内容や経緯を踏まえた丁寧な説明ができれば、十分な説得力を持つといえるでしょう。そのうえで、不動産事業者としては、住宅ローン減税以外の制度にも目を向けておく必要があります。
住宅の購入に関しては、住宅ローン減税以外にもさまざまな優遇措置が設けられており、そのうちの多くは時限的なものです。今回の内容とともに、各種税制の優遇措置や法令の変化などの情報収集も行い、納得感のあるロジックを組み立てることが大切です。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:住宅ローン減税は2022年の税制改正でどう変わった?
A:控除率が1%から0.7%に引き下げられ、その代わりに新築・買取再販の住宅では控除期間が原則13年間に延長されました。また、省エネ性能に応じて、控除対象となる借入限度額が区分されるようになっています。
Q:住宅ローン減税は2024年を境にどう変わる?
A:新築・買取再販の住宅においては、控除の対象となる借入限度額が若干引き下げられます。また、新築・買取再販の一般住宅については、住宅ローン減税の対象外となるので注意が必要です。
Q:住宅ローン減税の2024年以降の見通しは?
A:2022年の税制改正によれば、適用期間は2025年12月31日までとされていますが、これまでの経緯を踏まえると制度そのものがなくなるというケースは考えにくいといえます。一方、控除率の引き下げや、条件の厳格化といった変更の可能性は想定されます。
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