質問されても大丈夫! 低炭素住宅の認定基準見直しと建築のメリット・デメリット
近年、世界規模で地球温暖化問題に関する意識が高まっています。
2020年10月には、日本政府が“2050年までにカーボンニュートラルを目指す”ことを宣言しました。カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から植林・森林による吸収量を差し引いて、実質的にゼロにすることを指します。
建築物の分野においても、カーボンニュートラルの実現に向けた低炭素化が促進されており、一定の基準に適合する低炭素住宅を新築する場合に、国の認定制度が設けられています。
工務店・ビルダーでは、顧客から低炭素住宅や認定制度について質問されるケースがあると想定されるため、正しい知識を身につけて分かりやすく説明できるようにしておくことが大切です。
この記事では、低炭素住宅の概要や認定制度における認定基準、施主側のメリット・デメリットについて解説します。
2023年の住宅市場のトレンドについては、こちらで解説しています。併せてご覧ください。
≫ 2023年の住宅市場トレンド&動向予測!金利やストック対策・ZEHに注目?
(出典:環境省 脱炭素ポータル『カーボンニュートラルとは』/国土交通省『低炭素建築物認定制度 関連情報』)
目次[非表示]
- 1.低炭素住宅とは
- 2.低炭素住宅の認定基準
- 2.1.外皮性能(UA値・ηAC値)
- 2.2.一次エネルギー消費量(BEI)
- 2.3.その他講ずべき措置
- 3.低炭素住宅を建てるメリット・デメリット
- 4.まとめ
低炭素住宅とは
低炭素住宅とは、市街化区域等内の建築物のうち、建築物での生活・活動に伴って発生する二酸化炭素を抑制するための措置が講じられている住宅のことです。『都市の低炭素化の促進に関する法律』(略称:エコまち法)で定められています。
下記の3つの要件を満たす住宅であれば、所管の行政庁に認定申請を行うことで認定を受けられます。
①省エネ基準を超える省エネ性能を持つこと。かつ低炭素化に資する措置を講じていること
②都市の低炭素化の促進に関する基本的な方針に照らし合わせて適切であること
③資金計画が適切なものであること
引用元:国土交通省『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』
▼低炭素住宅のイメージ
画像引用元:国土交通省『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』
(出典:国土交通省『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』『低炭素建築物認定制度 関連情報』)
低炭素住宅の認定基準
2022年10月にエコまち法が改正され、低炭素住宅の認定基準も見直されました。
住宅の外皮性能と一次エネルギー消費量については、ZEH(※1)・ZEB(※2)水準の省エネ性能を満たす必要があります。以下では、2023年3月現在の認定基準(住宅)について解説します。
※1…ZEH(net Zero Energy House:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロ以下にすることを目指した建物のこと。『ゼッチ』と呼ばれている。
※2…ZEB(net Zero Energy Building:ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)とは、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと。『ゼブ』と呼ばれている。
(出典:国土交通省『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』)
外皮性能(UA値・ηAC値)
外皮性能(UA値・ηAC値)については、ZEH・ZEB水準を満たすことが基準とされています。法改正後の認定基準は、以下のとおりです。
▼外皮性能(UA値・ηAC値)の認定基準
画像引用元:国土交通省『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』
UA値は、建物の外壁や窓、床などを通して内気・外気の出入りやすさを示した指標です。数値が低いほど、熱が出入りしにくいため、断熱性能が高いと判断できます。
ηAC値は、住宅の外皮を通して、冷房期の日射熱の入りやすさを示した指標です。数値が低いほど日射熱が入りにくく、遮蔽(しゃへい)性能が高いと判断できます。また、この数値により、冷房設備が効率よく稼働できる住宅であるかどうかも判断できます。
今回の法改正では、UA値がより厳しい基準に引き上げられていますが、ηAC値については改正前・改正後の変更はありません。
(出典:国土交通省『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』『誘導基準の見直し(建築物省エネ法) 及び 低炭素建築物の認定基準の見直し(エコまち法)について』)
一次エネルギー消費量(BEI)
低炭素住宅として認定を受けるには、一次エネルギー消費量についてもZEH・ZEB水準に適合させる必要があります。
住宅における一次エネルギー消費量は、電気・ガスを使用する給湯設備や照明設備、換気設備の使用にかかった二次エネルギーを化石燃料・原子力燃料などの一次エネルギー消費量に換算します。
法改正後の認定基準では、一次エネルギー消費量のBEI値が0.8以下とされており、省エネ基準よりも20%以上削減することが定められています。
▼一次エネルギー消費性能の認定基準
画像引用元:国土交通省『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』
(出典:国土交通省『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』『誘導基準の見直し(建築物省エネ法) 及び 低炭素建築物の認定基準の見直し(エコまち法)について』)
その他講ずべき措置
低炭素住宅の認定基準には、ZEH・ZEB水準の省エネルギー性能に加えて、“その他講ずべき措置”に関しても見直しが行われました。
認定を受ける必須項目として、再生可能エネルギー源を利用する設備の設置に関する要件が追加されています。
具体的には、再生可能エネルギー利用設備を導入していること、かつ省エネ量と創エネ量の合計が省エネ基準の50%以上であることが求められます。
▼その他講ずべき措置
画像引用元:国土交通省『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』
また、上記に加えて低炭素化に関する措置のいずれかを講じていることも条件として定められています。以下の9項目のうち、1項目以上を満たす必要があります。
▼低炭素化に資する措置(①~⑨のうち1項目以上)
画像引用元:国土交通省『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』
これらの措置を講じる、または所管行政庁が認める低炭素住宅である場合には、認定基準を満たすものと見なされます。
(出典:国土交通省『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』)
低炭素住宅を建てるメリット・デメリット
低炭素住宅を建てる際には、メリット・デメリットがあります。工務店・ビルダーでは、低炭素住宅の認定基準とともにメリット・デメリットを理解して、施主に対して適切な情報提供ができるように準備しておくことが重要です。
メリット
低炭素住宅のメリットには、以下が挙げられます。
▼メリット
- 快適な住環境になる
- 光熱費の負担を抑えられる
- 税制優遇措置を受けられる
- 容積率の不算入
低炭素住宅の要件を満たすためには、高断熱・高気密な住宅設計が必要です。高断熱・高気密の住宅は、夏は涼しく、冬は暖かく過ごしやすいため、1年を通して快適な住環境を実現できます。冷暖房機に依存しすぎない生活によって、光熱費の削減も期待できます。
また、低炭素住宅の認定を受けた一定の新築住宅に対しては、税制優遇措置が設けられています。条件を満たせば、所得税・登録免許税が減税される点もメリットです。
低炭素化のために必要になった床面積については容積率に算入されないため、建築時の延床面積が制限されてしまう心配もありません。
(出典:国土交通省『低炭素建築物認定制度 関連情報』『認定低炭素住宅に関する特例措置』)
デメリット
低炭素住宅の建築にあたっては、以下のようなデメリットもあります。
▼デメリット
- 追加コストがかかる可能性がある
- 認定できるエリアが限られる
低炭素住宅の要件を満たすためには、設備投資が必要です。省エネルギー化のための設備を導入することで、建築の追加コストが発生する可能性があります。
また、低炭素住宅が認定されるエリアは市街化区域内のみとされているため、建築可能なエリアが限定されることもデメリットの一つです。
工務店・ビルダーでは、建築エリアを確認するとともに、低炭素住宅による光熱費削減や税制上の優遇措置を踏まえて、住み始めてからのトータルコストを考慮して施主への提案を行うことが大切です。
まとめ
この記事では、低炭素住宅について以下の内容を解説しました。
- 低炭素住宅の概要
- エコまち法に基づく低炭素住宅の認定基準
- 低炭素住宅を建てるメリット・デメリット
世界規模で地球環境保護の取組みが進められている今、低炭素住宅についても関心が高まることが考えられます。
工務店・ビルダーでは、低炭素住宅の認定基準を把握するとともに、メリット・デメリットについて施主へと正しい情報提供を行うことが求められます。
LIFULL HOME'Sでは、住宅市場のトレンドについてのお役立ちコラムを多数掲載しています。併せてご覧ください。
≫ 住宅トレンド
また、低炭素住宅と長期優良住宅の違いについては、こちらの記事で解説しています。
≫ 低炭素住宅と長期優良住宅は何が違う? 違いや各メリット・デメリットを解説