住宅業界の働き方改革! 知っておくべき労働基準法改正のポイントをおさらい
働き方改革によるさまざまな法律・制度の変化は、多くの業界に影響をもたらしています。住宅業界も例外ではなく、速やかな対応が求められる企業も決して少なくはありません。
今回は、働き方改革について知っておかなければならない基礎知識をまとめて解説します。基本的な概要や目的、主な変更点、住宅会社に求められる対応について一つずつ確認していきましょう。
目次[非表示]
- 1.働き方改革の概要
- 1.1.働き方改革の狙い
- 1.2.働き方改革に関する主な動き
- 2.何が変わる?いつから取り組む必要がある?
- 2.1.時間外労働の上限規
- 2.2.勤務間インターバル制度の導入促進
- 2.3.年5日の年次有給休暇の取得
- 2.4.月60時間超の残業の割増賃金率の引き上げ
- 2.5.不合理な待遇差の禁止
- 3.猶予期間が設けられている
- 4.住宅会社が対応すべきこと
- 4.1.オンラインを活用した商談の実施
- 4.2.顧客管理の一元化
- 4.3.コミュニケーションツールの活用
- 4.4.罰則も設けられているので対応が必要
働き方改革の概要
「働き方改革」とは、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの社会課題を解決に導くために、多様な働き方ができる社会を目指す取組みを指します。厚生労働省によれば、働き方改革は「働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにするための改革」と定義されています。
ここではまず、働き方改革の基本的な内容を確認しておきましょう。
働き方改革の狙い
働き方改革では、具体的に「長時間労働の蔓延」「非正規従業員と正規従業員の格差是正」「労働人口不足の解消」といった課題の解決を目的としています。特に、国内では少子高齢化による生産年齢人口の減少が続いており、日本全体の国力や生産力の低下が早くから懸念されていました。
そうしたなかで、労働生産性の向上や高齢者をはじめとする多様な人材活用の必要性が高まり、働き方改革の推進につながっているのです。
働き方改革に関する主な動き
働き方に関する法律やルールは、古くからさまざまな形で制定・施行されてきました。そのなかでも、特に「働き方改革」というワードが表出したのは、2016年9月に「働き方改革実現会議」が設置されたあたりのこととされています。
2017年3月には、実現会議によって「働き方改革実行計画」がまとめられ、9つの分野について具体的な方向性が示されました。その後、2018年6月に「働き方改革関連法」が成立、2019年4月から順次施行されました。
2023年現在では、ルールの内容や対象者によっては一定の猶予期間が設けられながらも、政府主導で着実に推進されています。
何が変わる?いつから取り組む必要がある?
働き方改革関連法の施行により、労働に関するさまざまなルールが変更されています。ここでは、代表的な変更点として、特に住宅業界と関わりの深いものを4つご紹介します。
時間外労働の上限規
制長時間労働による弊害を解消するために、原則として、残業時間の上限を「月45時間・年360時間以内」とする決まりです。臨時的かつ特別な事情がある場合は、労使の合意に基づいて時間の延長を行うことも可能ですが、その場合でも以下の上限を超過することは禁止されています。
開始時期 |
|
基本の規定 |
|
例外規定 |
臨時的な特別な理由と労使の合意がある場合は、以下の上限まで延長可能
|
なお、時間外労働の上限規制には、後述する例外措置が設けられています。
勤務間インターバル制度の導入促進
前日の勤務終了から翌日の出社までに、一定時間以上のインターバルを設け、十分な休息時間が確保できるようにするためのルールです。労働時間等設定改善法の改正により、企業に対して勤務間インターバル制度の導入促進の努力義務が課せられるようになっています。
開始時期 |
|
推奨インターバル時間 |
|
年5日の年次有給休暇の取得
年次有給休暇の確実な取得が実現されるために、労働基準法の改正によって定められた制度です。本来、10日以上の有給休暇が付与される労働者に対しては、最低年5日間の年次有給休暇を取得させることを企業に義務づけています。
開始時期 |
|
月60時間超の残業の割増賃金率の引き上げ
月60時間超の残業に対して、もともとは割増賃金率「大企業50%」「中小企業25%」が設定されていました。2023年4月以降は、中小企業における比率が引き上げられ、どの企業においても50%と定められました。
開始時期 |
|
不合理な待遇差の禁止
「同一労働同一賃金」の考え方に基づき、雇用形態による不合理な待遇差を防止するために行われた改正です。具体的には、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で、不合理な待遇差を設けることが禁止されています。
開始時期 |
|
猶予期間が設けられている
2023年10月現在において、特に多くの企業に対して影響が大きいとされるのが、時間外労働の上限規制に関する変更点です。なぜなら、2024年4月のタイミングで、当初設定されていた5年の猶予期間が終了するためです。
特に影響が大きいのが、猶予対象とされていた「自動車運転業」や「建設業」などの業種です。これらの業種はもともと長時間労働の傾向が強く、急進的な制度の変更による影響が大きいと考えられたため、猶予期間が長く設けられていました。
2024年4月までであれば、時間外労働の上限規制を適用しなくても、法律違反にはあたりませんでした。しかし、2024年4月以降は「上限を超える残業時間設定は禁止」となるため、運送業や建設業では深刻な人手不足が課題とされています。
こうした課題によって起こる諸問題は「2024年問題」と呼称され、国全体で対策すべき喫緊の課題として取り扱われています。
住宅会社が対応すべきこと
働き方改革の一連の流れのなかで、住宅会社は環境の変化にどのような対策を講じるべきなのでしょうか。基本的な方向性としては、ほとんどの業界と同じように残業時間を減らすために、業務効率化や生産性の向上に取り組むことが求められます。
オンラインを活用した商談の実施
住宅業界では、特にBtoCのサービスを取り扱う企業において、長らく対面による営業活動が基本とされてきた経緯があります。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による社会的な影響によって、オンラインによるサービスも着実に広がっていきました。
たとえば、オンライン内見やIT重説といった非対面型のサービスが広がったのは、コロナ禍による大きな動きの一つと考えられます。これらの施策は感染症対策という側面ももちろんありましたが、同時に運営側の負担を軽減するのにも大きく貢献しました。
オンライン商談を活用すれば、移動時間が省略され、その分のゆとりを準備や休息に充てることも可能です。そのため、働き方改革への対応にも有効な施策となるでしょう。
顧客管理の一元化
営業活動においては、顧客の対応や関連データの管理も大きな負担を発生させます。これらの管理をCRMなどのツールで一元化すれば、情報収集や情報共有の労力が大幅に削減され、コア業務により多くの時間を注げるようになります。
また、一元管理が成功すれば、顧客の応対記録や進捗などもスムーズに把握できるため、業務の引き継ぎを手軽に行えるようになるのも利点です。
コミュニケーションツールの活用
顧客とのやりとりについては、最適なコミュニケーションツールを活用することで、生産性の向上が期待できます。住宅業界に特化したコミュニケーションツールを導入すれば、顧客情報や物件情報を簡単に管理できるようになり、業務の負担が大幅に軽減されるでしょう。
また、共有ミスや情報の行き違いも予防でき、無駄を省いた効率的な営業活動が実現されます。
罰則も設けられているので対応が必要
働き方改革関連の流れによって生まれた変更点には、努力義務とされているものもあります。しかし、残業規制は罰則規定を伴う厳しい法律となっているため、正確にルールを把握しておかなければなりません。
具体的には、上限規制に関するルールに違反した場合、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処される可能性があります。前述のように、2024年4月からは建設業や運転業務、医師などに設けられていた猶予期間も終了するため、事実上はほとんどの業界・業種に適用されることとなります。
住宅会社においても、人材難や人件費の高騰による影響を受ける可能性は十分にあるといえるでしょう。競争力を失わないためには、新しい技術や柔軟な働き方に対応していき、引き続きサービスの質を向上させ続けることが重要です。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:働き方改革でどんなルールが変わった?
A:代表的な変更点としては、「時間外労働の上限規制」「年次有給休暇の取得」「正規・非正規雇用の不合理な待遇差の禁止」などが挙げられます。特に、時間外労働の上限規制は、さまざまな業界に影響があると考えられます。
Q:時間外労働の上限規制を守らないとどうなる?
A:時間外労働の上限規制は罰則つきの規定となっており、違反した場合は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処される可能性があります。ただし、上限規制には一部例外も設けられています。
LIFULL HOME'Sでは、工務店・ビルダーの業務課題に役立つセミナー・イベントを随時開催しております。ぜひご活用ください。