住宅会社がとるべき今後の戦略・施策とは!?市場トレンドと今後の展望について
不動産を取り巻く環境は、社会情勢や経済、法律といったさまざまな要素に影響され、年々変化していくものです。住宅会社の経営戦略を立てるうえでは、こうした環境の変化を敏感に察知し、状況に合った方針を検討していく必要があります。
今回は2023年後半現在における住宅市場の状況と今後の展望、住宅会社として考えていかなければならないポイントについて見ていきましょう。
目次[非表示]
- 1.市場:建築資材の価格高騰
- 2.市場:インフレ・円安・低所得
- 3.トレンド:2024年問題について
- 3.1.2024年問題とは
- 3.2.2024年問題が建設業に与える影響
- 4.今後の展望
- 5.取り組んでおきたい商品戦略
- 5.1.早めの資材発注を行う
- 5.2.一般家庭に響くようなブランディング
- 5.3.情報コンテンツの充実
- 6.取り組んでおきたい営業戦略
- 7.この記事を監修した人
- 7.1.三輪 歩己
市場:建築資材の価格高騰
2023年現在、不動産市場を取り巻く大きなテーマとして取り上げられているのが「建築資材価格の高騰」です。たとえば、国土交通省の「最近の建設業を巡る状況について【報告】(令和5年4月18日 不動産・建設経済局)」では、以下のように建築資材価格が軒並み上昇傾向にあることが示されています。
建築資材の種類 |
前年比(2023年3月時点) |
生コンクリート |
+20.3% |
厚板 |
+10.0% |
セメント |
+18.2% |
H型鋼 |
+11.8% |
異形棒鋼 |
+13.7% |
型枠用合板 |
+15.6% |
ストレートアスファルト |
+3.1% |
これには、原材料費の高騰とともに、エネルギーコストの上昇も大きく関係しています。また、一戸建ての主要な建材となる木材についても、仕入れコストの高騰が続いている状態です。
林野庁のデータによれば、2023年1~7月の木材輸入量は全体的に前年と比べて大幅に減少していることが明らかにされています。国産材の自給率も高くないため、供給不足により木材の価格も上昇してしまうのです。
その結果、住宅価格も全体的に高騰しているのが、現在の不動産市場の大きな特徴といえます。
市場:インフレ・円安・低所得
不動産価格の高騰とともに、もう一つ重要なテーマとして挙げられるのが、住宅購入者の動向です。ニュースなどでも頻繁に取り上げられているように、現在はインフレや円安により、消費者物価指数が上昇を続けてます。
それに対して、給与水準の上昇は追いついておらず、相対的に消費者が置かれている立場は弱くなってしまっています。不動産価格も上昇傾向のため、現実的に住宅を購入できる層はある程度限定的になっているのが現状だといえるでしょう。
また、住宅ローンの金利については長らく低金利の状態が続いており、現在も若干の上昇が見られるのみでそれほど大きな変化はありません。しかし、今後は全体的に金利が上昇する可能性が高いため、低所得世帯にとってはますます住宅購入のハードルが高くなってしまうと考えられます。
トレンド:2024年問題について
住宅市場に影響のあるテーマとして、「2024年問題」があります。ここでは、2024年問題の影響や内容について確認しておきましょう。
2024年問題とは
「2024年問題」とは2024年4月を境に、働き方改革関連法により、年間時間外労働の上限が罰則付きで設けられることによって起こるさまざまな影響の総称です。特にドライバーの慢性的な長時間労働によって支えられてきた運送業は、2024年問題による影響を強く受けるため、すでに深刻な人材不足や運送料金の高騰が予測されています。
運送業が対応できなければ、当然ながら物流全体のコストも上がることが予想されるため、産業全体に与える影響も大きいといえるでしょう。
2024年問題が建設業に与える影響
まず、物流コストが上がれば建材のコストも上昇するため、ますます住宅の供給コストも高くなっていくと考えられます。そのうえで、建設業も運送業と同じように、長時間労働によって支えられてきた側面があります。
厚生労働省の「毎月勤労統計調査」(令和5年6月分)によれば、月間実労働時間の平均は142.4時間となっているのに対し、建設業は171.2時間でした。これは、全業種のなかでも2番目に高い数値です。
2024年問題によって、労働力の減少による影響を強く受けてしまうため、人材の安定的な確保が大きな課題となります。多くの人材を確保しようとすれば、それだけ大きな人件費が発生するため、ますます建設コストを高騰させてしまう可能性も十分にあるでしょう。
今後の展望
これまでの内容を踏まえると、住宅業界では大きく分けて2つの課題があると考えられます。まずは、「人材不足による諸課題への対応」です。
人材不足や賃金上昇などの課題を踏まえたうえで、営業の効率化によってアウトソーシングを行っていくなどの選択肢も有効となるでしょう。たとえば、「初回接客」を外部の営業担当者に依頼したり、点検業務をアウトソーシング化したりといった施策が挙げられます。
人員の確保ももちろん重要ではありますが、このように自社で行う業務を精査し、事業の独自化と差別化を行うことも今後の住宅会社には必要な取組みといえるでしょう。
そして、もう一つの課題は「見込み客の獲得」です。これについては、「商品戦略」と「営業戦略」の2つのポイントから詳しく見ていきましょう。
取り組んでおきたい商品戦略
ここでは、商品戦略の面から今後の課題を解消するポイントについて解説します。
早めの資材発注を行う
現状を見る限り、建築資材の価格高騰はいつまで続くのかを断言することはできません。早期に価格が下がると考えるのは現実的ではないため、早めの資材発注を心がけることがコスト管理につながります。
一般家庭に響くようなブランディング
住宅会社としては、この先ますますブランディングの重要性が高まっていくといえます。見込み客を獲得するには、「競合他社との差別化」「知名度の向上」「自社のファンの創出」などがカギとなります。
そのため、目先の契約を追い求めるだけではなく、企業全体としての長期的なブランディング戦略を立てることが大切です。それには、「一般家庭を意識した商品開発」「自社サイトの充実」「ターゲットを意識した積極的な情報発信」が欠かせないプロセスとなります。
住宅の場合、ターゲットは一般家庭の消費者となることを念頭に置き、信頼性を大事にしながらも分かりやすい情報提供を心がけましょう。また、口コミの影響力を軽視せず、目の前の顧客を引き続き大事にしていくことも重要な戦略です。
情報コンテンツの充実
顧客との信頼関係を築くためには、日頃から地道な情報発信を継続することも大切です。それには、住宅購入に役立つコンテンツを制作し、発信し続けるといった方法も有効です。
たとえば、施工事例を掲載したコンテンツを配信したり、社内インタビューや顧客の声を届けたりすることで、企業と顧客の距離を縮めることができるでしょう。
取り組んでおきたい営業戦略
営業戦略の面から見れば、従来の勝ちパターンだけに依存するのではなく、住宅にまつわるサービスを幅広く捉えることが重要となります。たとえば、営業効率化の代わりに、住宅コンサルとしてのサポート面に工数を置くといった戦略も有効です。
また、購入後のアフターサポートに力を入れて独自化を図るのも一つの方法です。建築技術の向上により住宅の寿命は長くなっていることから、中古市場の活性化も期待されており、サポート面のサービスは今後も需要が増えていくと考えられています。
そのうえで、企業としての価値を高めるためには、SNSの運用をはじめとする情報発信が重要な課題です。自社に合った媒体を見極め、戦略的に運用することで、認知度の向上や若い世代との関係構築につながります。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:住宅業界を取り巻く課題は?
A:2023年現在において、住宅業界を取り巻く課題は「建築資材の高騰」「インフレや金利上昇に伴う消費の冷え込み」「2024年問題に伴う人材不足」の3つに大別できます。これらの影響に対処するため、住宅会社は事業の独自化や営業の効率化を図る必要があります。
Q:2024年問題とは?
A:働き方改革関連法により、2024年4月から年間時間外労働時間の上限が規制されることで起こり得るさまざまな影響の総称です。特に影響を受けるのは物流や建設業とされており、深刻な労働力不足やコスト高などの課題が想定されています。
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この記事を監修した人
三輪 歩己
不動産鑑定士、宅地建物取引士、日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)、 相続診断士、J-REC公認不動産コンサルタント
名古屋市立大学薬学部卒。 大学在学中に不動産鑑定士2次試験合格。日本土地建物株式会社にて、 不動産鑑定や不動産証券化業務に従事。その後外資系不動産ファンド等にて 物件購入・管理・経営企画等業務に従事。約20年間の鑑定・宅地建物取引業の 経験を活かし、2020年に不動産パートナーズ株式会社を設立し、代表取締役に就任。 同社では、不動産鑑定業・宅地建物取引業に加え、不動産専門の相続診断士として 活動を行う。