2024年税制改正でフラット35金利引き下げ。子育て世代の住宅購入を後押しするには
住宅の販売戦略は、顧客のニーズだけでなく金利動向や法改正、政策提案といった社会的な動きによっても左右されます。特に、国民生活に密接な住宅に関しては、年度ごとに法律や制度の調整が行われるケースが多いため、常に最新の動きをチェックしておく必要があります。
今回は子育て世帯を対象にした「2024年の住宅ローン金利優遇」をテーマに、知っておきたい基礎知識と、営業におけるアプローチの考え方について解説します。
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2024年から住宅ローン「フラット35」の金利引き下げの見通し
少子化が深刻化するなか、政府は少子化対策の具体的な施策として、2023年6月に「こども未来戦略方針」を閣議決定しました。そのなかで示されたのが、従来とは次元の異なる少子化対策の実現に向けて打ち出された、「こども・子育て支援加速化プラン」です。
これは、「若い世代の所得を増やす」「社会全体の構造や意識を変える」「すべての子どもや子育て世帯を切れ目なく支援する」といった3つの基本理念に基づき、出産・育児や教育の支援、育休制度の拡充などの施策をまとめたものです。また、住宅に関する取組みとしては、子育て世帯を対象とした住宅金融支援機構の長期固定金利住宅ローン「フラット35」の金利引き下げが盛り込まれています。
2024年の予算編成で具体的に検討され、スムーズにいけば2024年度から実施される見通しであり、住宅の販売にも大きな影響を与えると想定されています。
子育て世代へのメリット
少子化にはさまざまな要因が関係していますが、そのうちの一つには住環境に関する課題があります。収入面ではあまり問題がない世帯でも、「住まいの広さが不十分であるために、子どもを多く持てない」といった声も上がっています。
そこで、「こども・子育て支援加速化プラン」では、若者世代や子育て世帯に対する住宅支援の強化を打ち出しています。ここでは、加速化プランが子育て世帯のどのようなメリットをもたらすのかを具体的に見ていきましょう。
公的住宅の活用
具体的な取組みとして、政府は子育て世帯が安心して居住できる住宅を増やすために、子育てに適した公的住宅を10年間で約20万戸確保するという方針を打ち出しました。また、空き家の活用を促進するエリアを設定し、対象区域の所有者に改修やサブリースを働きかけ、子育て世帯向けのセーフティネット住宅として利用するなどの案も検討されています。
これらの取組みにより、子育て世帯が優先的に居住できる住環境を整え、住まいに関する課題を解消するのが狙いです。
子育て世帯を対象としたフラット35の金利引き下げ
フラット35の金利優遇については、特に広い住宅を必要とする多子世帯へのサポートを考慮し、ポイント制によって支援の度合いを段階分けして実施される仕組みが検討されています。ポイント制そのものは、すでに2022年から導入されており、以下のように「住宅性能」や「管理・修繕」「建てるエリア」に応じて、金利の引き下げ幅や引き下げ期間が決まるというシステムです。
条件 |
ポイント数 |
|
住宅性能 |
【フラット35】S(ZEH) |
3ポイント |
【フラット35】S(金利Aプラン) |
2ポイント |
|
【フラット35】S(金利Bプラン) |
1ポイント |
|
【フラット35】リノベ(金利Aプラン) |
4ポイント |
|
【フラット35】リノベ(金利Bプラン) |
2ポイント |
|
管理・修繕 |
長期優良住宅 |
1ポイント |
予備認定マンション |
1ポイント |
|
管理計画認定マンション |
1ポイント |
|
安心R住宅 |
1ポイント |
|
インスペクション実施住宅 |
1ポイント |
|
既存住宅売買瑕疵保険付住宅 |
1ポイント |
|
エリア |
子育て支援 |
2ポイント |
地域活性化 |
1ポイント |
|
地方移住支援型 |
2ポイント |
合計ポイント数に応じた金利引き下げ率件 | |
---|---|
1ポイント |
|
2ポイント |
|
3ポイント |
|
4ポイント |
|
従来のこうした制度を活用し、子育て世帯においては子どもの数が多ければ多いほどポイントが加算され、さらに金利が引き下げられる仕組みとなる見通しです。しかし、2023年11月時点では、まだ具体的な金利の引き下げ幅が公表されているわけではありません。
なお、対象者についてはすでに明らかにされており、「フラット35の申し込み時点で18歳未満の子どもがいる子育て世帯」あるいは「夫婦いずれかが39歳以下の若年夫婦世帯」が利用できることとされています。また、利用にあたって、特に所得制限は設けられない予定です。
この制度が機能すれば、子育て世帯は住宅の資金計画を立てやすくなり、住宅の売れ行きにも何らかの影響が生まれると考えられます。賃貸の世帯は持ち家の取得に、持ち家の購入を考えている世帯はより広い住宅の取得に前向きになっていくといえるでしょう。
住宅建築会社にチャンス到来! 施策案とトーク例を紹介
現在の政策の動きを踏まえると、住宅業界においては、子育て世代を対象とした住宅販売に力を入れる重要性が高いといえます。ここでは、子育て世代をターゲットとした施策例やトーク例を見ていきましょう。
具体的な施策案
まずは、過去名簿の掘り起こしを行い、対象となる世帯のデータを収集することからスタートしましょう。今回の金利優遇措置では、現在子どもがいる世帯だけでなく、どちらかが39歳以下の夫婦世帯も対象とされているので、年齢によるターゲティングはしやすいといえます。
そのうえで、対象世帯に対しては住宅ローン金利優遇とマッチした「手の届きやすい住宅プラン」を策定し、Webサイト・SNS・メルマガなどで広告を打ち出すのが有効と考えられます。金利優遇が対象世帯にどのようなベネフィットをもたらすのかを明確にする意味でも、企業側が具体的なプランと掛け合わせて提示するのは効果的といえるでしょう。
子育て世帯を対象としたトーク例
まずは前提として、住宅における営業トークは、あくまでも「ヒアリング」を主体とすることが大切です。いきなり金利やお金の話をするのではなく、顧客がどのような希望や悩みを抱いているのかを丁寧に聞き出し、そのうえで適していると感じたら今回の金利優遇政策について触れてみるのがいいでしょう。
そのうえで、加速化プランは「3年間の集中的な取組み」であることに触れ、今が買い時であるということを知ってもらうのがポイントです。
トーク例 |
このように、営業トークに用いるとしたら具体的な数字がセットとなるため、営業担当者はきちんと仕組みとメリットを理解しておく必要があります。
子育て世帯へのアプローチを準備しておこう!
現段階では、子育て世帯への住宅支援策として、フラット35のポイント制を活用した金利優遇が「こども・子育て支援加速化プラン」の中心的な取組みとなっています。そのうえで、子育て支援は国が抱える主要な課題でもあるため、今回のプラン以外にもさまざまなサポート制度が拡充される可能性は大いにあります。
また、国だけでなく自治体においても、子育て世帯を巻き込むためのさまざまな住宅制度が実施されているのが現状です。国の制度と組み合わせることで、よりスムーズに住宅の購入を決断してもらえる可能性もあるので、住宅建築会社としては幅広くアンテナを張っておく必要があります。
子育て世帯は住宅会社にとってもメインの顧客層となるので、この機会にしっかりとアプローチの施策をそろえて、チャンスを逃さないようにしましょう。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:こども・子育て支援加速化プランとは?
A:2023年6月に閣議決定された、子育てに関する新たな支援制度の総称です。出産・育児に関する支援や育休の取得制度、住宅支援といった幅広い施策を打ち出した内容となっています。
Q:2024年から子育て世代の住宅ローン金利が下がるって本当?
A:こども・子育て支援加速化プランにより、子育て世帯や若年夫婦世帯を対象として、早ければ2024年から「フラット35」の住宅ローン金利の引き下げが行われる見通しです。金利引き下げの基準については、以前からフラット35で使われていたポイント制が活用されることとなっています。
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この記事を監修した人
三輪 歩己
不動産鑑定士、宅地建物取引士、日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)、 相続診断士、J-REC公認不動産コンサルタント
名古屋市立大学薬学部卒。 大学在学中に不動産鑑定士2次試験合格。日本土地建物株式会社にて、 不動産鑑定や不動産証券化業務に従事。その後外資系不動産ファンド等にて 物件購入・管理・経営企画等業務に従事。約20年間の鑑定・宅地建物取引業の 経験を活かし、2020年に不動産パートナーズ株式会社を設立し、代表取締役に就任。 同社では、不動産鑑定業・宅地建物取引業に加え、不動産専門の相続診断士として 活動を行う。