<新着>省エネ住宅のトップランナー基準が2027年度を目標に見直し。現行の基準と改正内容は
住宅の省エネ性に関する制度の一つに、「住宅トップランナー制度」と呼ばれる取り組みがあります。住宅トップランナー制度では、一定以上の戸数を供給する事業者に対して、住宅トップランナー基準という特別な基準が適用されます。
今回は住宅トップランナー基準の概要や目的、2025年に予定されている改正の内容について詳しく見ていきましょう。
目次[非表示]
- 1.省エネ住宅のトップランナー基準とは
- 1.1.住宅の省エネ性能を底上げするための基準
- 1.2.対象となる事業者と現行基準の内容
- 2.トップランナー基準と省エネ基準の違い
- 2.1.省エネ基準の2つの評価項目
- 2.1.1.■外皮基準
- 2.1.2.■一次エネルギー消費量基準
- 2.2.2025年から省エネ基準はすべての新築住宅に適用される
- 2.3.住宅トップランナー基準にはより厳しい数値が適用される
- 3.現行基準(外皮基準・一次エネ基準)の達成状況
- 3.1.外皮基準の達成状況
- 3.2.一次エネルギー消費量基準の達成状況
- 4.トップランナー基準の見直し・今後の予定
- 4.1.外皮基準とBEIの厳格化
- 4.2.太陽光発電システムの設置推進
省エネ住宅のトップランナー基準とは
住宅トップランナー基準とは、一定以上の住宅供給事業者に対して設定される省エネ性能の基準です。2017年に導入された「住宅トップランナー制度」において、具体的な基準として用いられています。
ここではまず、住宅トップランナー制度の概要について、内容や目的、対象者を確認しておきましょう。
住宅の省エネ性能を底上げするための基準
住宅トップランナー制度とは、建築物省エネ法に基づき2017年から導入されている制度です。現在、住宅の省エネ性能においては、後述する「省エネ基準」がスタンダードとなっています。
住宅トップランナー制度では、省エネ基準を上回るトップランナー基準を国が定め、大手住宅事業者に努力義務として課します。市場で流通するよりも高い省エネ性能を目標に掲げることで、技術力やコスト削減能力を引き上げ、やがては中小事業者が供給する住宅までを対象に性能の底上げを図るというのが制度の目的です。
現状では努力義務となっているものの、達成状況が不十分である場合は、国土交通大臣から事業者に対して勧告を行うことができるとされています。さらに、勧告に従わなければ公表・命令(罰則)などが行われる可能性もあるので注意が必要です。
なお、命令については、「事業者に正当な理由がない」「省エネ性能の向上を著しく害する」といった場合に限り、社会資本整備審議会の意見を聞いたうえで行うことができるとされています。
住宅トップランナー制度の概要
(出典:国土交通省『住宅トップランナー基準の見直しについて』)
対象となる事業者と現行基準の内容
住宅トップランナー基準の対象事業者は、年間の住宅種別供給戸数によって決められます。
見直し前の基準は、次のように定められています。
住宅種別 |
対象事業者 |
住宅トップランナー基準 |
目標年度 |
|
外皮基準 |
一次エネルギー消費量基準※ |
|||
建売戸建て |
150戸以上 |
省エネ基準に適合 |
15%削減 |
2020年度 |
注文戸建て |
300戸以上 |
25%削減 |
2024年度 |
|
賃貸アパート |
1,000戸以上 |
10%削減 |
2024年度 |
|
分譲マンション |
1,000戸以上 |
強化外皮基準に適合 |
20%削減 |
2026年度 |
※省エネ基準からの削減量
(出典:経済産業省『住宅トップランナー基準の見直しについて』)
このように、住宅トップランナー基準は外皮基準・一次エネルギー消費量基準の2項目にわたって設定されており、いずれも省エネ基準がベースとなっています。
トップランナー基準と省エネ基準の違い
上記のように、住宅トップランナー基準について知るうえでは、まず省エネ基準を理解しておく必要があります。ここでは、省エネ基準の基本的な概要と、トップランナー基準との違いを見ていきましょう。
省エネ基準の2つの評価項目
省エネ基準とは、建築物省エネ法における基準の一つです。住宅に関する省エネ性能のなかでも、特に重要性が高いとされる「外皮基準」と「一次エネルギー消費量基準」の2項目について基準値が設けられています。
■外皮基準
外皮基準とは外壁や床、屋根、天井などの断熱性・気密性・遮音性・耐久性のことです。外皮基準が優れるほど室内の温度差が少なく、冷暖房効率は高くなるため、省エネ性能が向上します。
住宅の外皮基準は「UA値(外皮平均熱還流率)」と「ηAC値(冷房期の平均日射熱取得率)」で構成されており、地域ごとに異なる基準が設定されています。
■一次エネルギー消費量基準
一次エネルギー消費量とは、家庭内で消費されるエネルギー(空調・冷暖房・換気・照明・給湯器)の総称です。具体的な数値は以下の「BEI」という数値で計算され、省エネ基準では「BEI1.0以下」が基準値となっています。
BEI=設計一次エネルギー消費量÷基準一次エネルギー消費量 |
(出典:国土交通省『省エネ基準の概要』)
2025年から省エネ基準はすべての新築住宅に適用される
2022年の建築物省エネ法改正により、省エネ基準は2025年4月から原則すべての新築住宅に適合が義務付けられることとなっています。従来、省エネ基準の適合義務は300平米以上の中規模・大規模非住宅に限定されていましたが、2025年からはすべての非住宅・住宅に適合が義務化されます。
建築確認手続きに省エネ基準への適合性審査が組み込まれるため、実質的には新設される建物のスタンダードになるといえるでしょう。
省エネ基準適合義務化
(出典:国土交通省『2025年4月(予定)から全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務付けられます』)
住宅トップランナー基準にはより厳しい数値が適用される
現行の住宅トップランナー基準では、先にも述べたように外皮基準は分譲マンションを除き、省エネ基準と同等の数値が適用されています。分譲マンションについては「強化外皮基準」が適用されており、これは省エネ性能よりも高いZEH基準と同等のレベルです。
また、一次エネルギー消費量については、省エネ性能がBEI1.0以下であるのに対し、「分譲マンションが0.80以下」「建売戸建てで0.85以下」「注文戸建てで0.80以下」「賃貸アパートで0.90以下」といずれもより厳しい数値が適用されています。等級で見ても、一次エネルギー消費量の省エネ基準が等級4であるのに対し、トップランナー基準では等級5~等級6にあたる数値が必要とされています。
現行基準(外皮基準・一次エネ基準)の達成状況
経済産業省では、住宅トップランナー基準のうち、2022年度の時点ですでに適用されていた建売戸建て・注文戸建て・賃貸アパートに関する調査が行われています(分譲マンションでは2023年度から開始)。ここでは、調査データをもとに具体的な達成状況について詳しく見ていきましょう。
(出典:経済産業省『住宅トップランナー基準の見直しについて』)
外皮基準の達成状況
2022年度時点において、すべての住戸で外皮基準が省エネ基準を達成している事業者の割合は、建売戸建て住宅で91.7%、注文戸建て住宅で57.4%、賃貸アパートで25.0%となっています。賃貸アパートに関する数値は低いですが、調査対象業者数が12社と少ないため、供給戸数で見ることも重要です。
年間供給戸数で見れば、外皮基準に適合している割合は建売戸建て住宅・注文戸建て住宅ともに99.7%となっており、賃貸アパートにおいても97.1%が基準を達成しています。そのため、2022年の時点で目標はおおむね達成していると考えられるでしょう。
現行基準(外皮基準)への達成状況について
(出典:国土交通省『住宅トップランナー基準の見直しについて』)
一次エネルギー消費量基準の達成状況
一次エネルギー消費量基準の達成状況については、「平均BEI目標を達成している事業者の割合」と、「BEI目標を満たしている戸数の割合」がそれぞれ公表されています。平均BEIとは、その事業者が供給しているすべての住宅のBEIを平均した数値のことです。
平均BEI目標をクリアしている事業者割合 |
BEI目標をクリアしている戸数割合 |
|
建売戸建て |
91.7% |
86.7% |
注文戸建て |
89.7% |
81.3% |
賃貸アパート |
75.0% |
90.3% |
一次エネルギー消費量基準についても、住宅戸数で見れば80~90%程度の割合で目標が達成されているといえるでしょう。
トップランナー基準の見直し・今後の予定
当初の住宅トップランナー制度は、建売戸建て住宅で2020年度、注文戸建て住宅、賃貸アパートについても2024年度までに達成目標年度を迎えます。そこで、新たな目標年度と水準が必要とされ、基準の見直しが行われています。
最後に、住宅トップランナー基準の変更内容と今後の予定について見ていきましょう。
外皮基準とBEIの厳格化
「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」(2021年8月)においては、2025年に以下のような目標を設定し、2027年度を目標年度とする旨が示されています。
■BEI=0.8程度および強化外皮基準(注文住宅トップランナー以外) |
これにより、トップランナー事業者が供給するすべての住戸で、省エネ基準以上の強化外皮基準が適用されることとなります。また、BEIの目標平均値もそれぞれ0.05~0.1程度引き下げられ、より厳しい基準となる見込みです。
太陽光発電システムの設置推進
同検討会では、太陽光発電設備の設置推進への見通しも示されています。2022年度時点で、新築戸建て住宅の太陽光発電設備設置率は31.4%となっているところ、2030年には6割にまで引き上げるという目標が設定されています。
さらに、2050年には設置が合理的と判断される住宅・建築物における標準搭載を目標としており、今後もさらに導入が進められていくと考えられるでしょう。
(出典:経済産業省『住宅トップランナー基準の見直しについて』)
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:住宅トップランナー制度とは?
A:一定以上の戸数を提供する住宅事業者をトップランナーと位置づけ、省エネ基準よりも厳格な住宅トップランナー基準を適用する制度のことです。具体的には、外皮基準と一次エネルギー消費量基準について、建売戸建て、注文戸建て、賃貸アパート、分譲マンションの物件種別の数値目標が設定されています。
Q:2025年から住宅トップランナー基準はどのように変わる?
A:外皮基準については、トップランナー事業者が供給するすべての事業者に強化外皮基準が適用されます。また、一次エネルギー消費量基準では、平均BEIの目標が0.05 ~0.1程度引き下げられます。