<新着>建築構造におけるヤング係数(弾性係数)について分かりやすく解説
「ヤング係数」は物体の変形のしにくさを示す数値であり、建築分野においても重要な指標の一つです。今回はヤング係数が何を表す数値なのか、基本的な定義をしっかり確認したうえで、詳しい計算方法について見ていきましょう。
また、ヤング係数の大小がどのような意味を持つのか、実際に係数が大きい材料・小さい材料の具体例も踏まえながら解説します。
目次[非表示]
- 1.ヤング係数(弾性係数)とは
- 1.1.材料の変形のしにくさを表す数
- 1.2.ヤング係数と強度の違い
- 2.ヤング係数の計算方法
- 2.1.応力とは
- 2.2.ひずみとは
- 2.3.ヤング係数の計算式
- 2.4.コンクリートのヤング係数
- 2.5.ヤング係数比との違い
- 3.ヤング係数が大きい場合と小さい場合の特徴
- 3.1.ヤング係数が大きい場合
- 3.2.ヤング係数が小さい場合
- 4.材料ごとのヤング係数を比較
- 4.1.ヤング係数が大きい材料の例
- 4.2.ヤング係数が小さい材料の例
- 5.この記事を監修した人
- 5.1.岩納 年成(一級建築士)
ヤング係数(弾性係数)とは
物体の剛性を表す指標として、「ヤング係数」が挙げられます。建築分野においても、建材の特性を知るうえで重要な数値となるため、意味を正しく理解しておくことが重要です。
ここではまず、ヤング係数の概要について見ていきましょう。
材料の変形のしにくさを表す数
ヤング係数とは、「ヤング率」や「縦弾性係数」とも呼ばれるもので、材料の変形のしにくさを表す数のことです。数値が大きくなるほど部材は硬くて変形しにくく、低いほど柔らかくて変形しやすいと考えることができます。
材構造力学や構造設計において重要な概念とされており、名称はイギリスの物理学者であるトマス・ヤングに由来します。たとえば、木材・鉄鋼・コンクリートなどの材料の硬さを表現するときに用いられ、使用する材料によって単位が異なり、ヤング係数の捉え方にも違いがあるのが特徴です。
ヤング係数と強度の違い
前述のように、ヤング係数が高いほどその物体は硬く変形しにくい(=剛性)ことを意味しますが、これは「壊れにくい」ことを意味するわけではありません。物体の壊れにくさは「強度」と表現され、「変形しても元に戻る度合い」と「破断しない度合い」に分解されます。
つまり、頑丈な材料を選定するには、ヤング係数(剛性)と強度の2つの基準に目を向ける必要があるということです。
ヤング係数の計算方法
ヤング係数は「応力(σ:シグマ)」と「ひずみ(ε:イプシロン)」が比例関係にある領域であるとされています。ここでは、応力とひずみの定義について確認したうえで、ヤング係数の計算方法を見ていきましょう。
応力とは
応力とは、外力を受けたときに、内部に発生する単位面積当たりの抵抗力のことです。単なる力の大きさとは異なり、物体が力を受けたときに「内部に発生する抵抗力」のことを指しています。
たとえば、細長い物体を外から引っ張ったとき、物体の内部には引っ張る力と同等の「元に戻ろうとする力」が働きます。この元に戻ろうとする力を、物体の断面の面積で割ったものを応力と呼びます。
■応力の計算式
応力(σ)=外力/断面積 |
そのため、応力は物体や箇所ごとに異なり、製品設計では高い応力が発生する箇所があれば応力を下げ、応力に余裕があれば軽量化させるというのが基本的な考え方です。
ひずみとは
ひずみとは、物体が変形したときの「変形前の長さに対する変形量の比率」のことです。変形しやすい物体ほど変形量も長くなるため、ひずみも大きくなります。
■ひずみの計算式
ひずみ(ε)=変形量/元の長さ |
ただし、物体はある一定以上の大きな力を加えると、変形したまま元に戻れなくなってしまうこともあります。そのため、ひずみの計算では「元に戻れる範囲」と「元に戻れなくなってしまう範囲」を分けて考えなければなりません。
元の形状に戻れるひずみの量の範囲を「弾性域」と呼び、それをオーバーする範囲を「塑性域」と呼びます。また、元に戻れなくなってしまう境目のことを「降伏点」と呼びます。
ヤング係数の計算式
ヤング係数の計算において、重要な意味を持つのが「フックの法則」と呼ばれる定理です。フックの法則とは、「弾性域において、基本的に応力とひずみは比例関係にある」とする法則のことです。
弾性域では応力が増していくと、それに比例してひずみも大きくなっていきます。そして、降伏点を超えるとひずみだけが大きくなり、比例関係が成り立たなくなるという仕組みです。
このとき、弾性域におけるひずみと応力の比率をヤング係数と呼び、単位は「E」で表現します。上記の関係性を数式で表すと、次のようになります。
■フックの法則の計算式
応力(σ)=ヤング係数(E)×ひずみ(ε |
ここから、式を変形するとヤング係数の計算式は次のとおりです。
■ヤング係数の計算式
ヤング係数(E)=応力(σ)/ひずみ(ε) |
繰り返しになりますが、この計算式が成り立つのはあくまで弾性状態であることが条件であり、降伏点を超えて塑性域に入ってしまうとヤング係数は算出できません。
コンクリートのヤング係数
ここまで見てきたヤング係数の計算式は、主に剛性が一定である金属などで用いられるものです。コンクリートの場合はヤング係数が一定ではなく、強度と気乾単位・容積・質量によって決められます。
一般的なコンクリートのヤング係数は2万2,600N/mm2であり、剛性の高いコンクリートほど大きな数値となるのが特徴です。
ヤング係数比との違い
ヤング係数と混同されやすい用語に「ヤング係数比」があります。ヤング係数比とは、鉄筋のヤング係数とコンクリートのヤング係数の比率を示すものです。
鉄筋コンクリートの応力を計算する際に、本来ヤング係数が異なる鉄とコンクリートの力の分担を求める必要があり、このときに使われるのがヤング係数比です。ヤング係数とは異なる指標であるため、両者を混同して用いないように注意しましょう。
ヤング係数が大きい場合と小さい場合の特徴
ヤング係数の大きさによって、物体の性質にはどのような違いが見られるのでしょうか。
ここでは、係数が大きい場合と小さい場合の特徴について解説します。
ヤング係数が大きい場合
ヤング係数の数値が大きい材料には、鉱物・金属類・セラミックなどが挙げられます。ヤング係数が大きい材料はいずれも硬く、一定の力が加わるまでほぼ変形しないのが特徴です。
しかし、負荷が一定の基準を超えると一気に破壊してしまい、元に戻ることはありません。そのため、ヤング係数が大きい材料は、変形しないことが前提となる箇所に用いられるのが一般的です。
たとえば、さまざまな部材に加工される鉄や、エンジン部品などに用いられる窒化ケイ素、人工骨に使われるアルミナなどはヤング係数が高い素材の代表格です。
ヤング係数が小さい場合
ヤング係数の数値が小さい材料には、ゴム類・樹脂類・木材などがあります。これらは力が加わることで柔軟性が発揮され、伸びたりたわんだりして力を分散する特性があります。
そのため、力がかかっても一気には破壊しにくいため、柔軟性が求められる箇所、あるいは一定の柔軟性が許される箇所に用いられることが多いです。
材料ごとのヤング係数を比較
ヤング係数について理解を深めたところで、最後に主な材料ごとのヤング係数を比較してみましょう。
ヤング係数が大きい材料の例
ヤング係数が大きいものの代表格としては、次のような物質が挙げられます。
材料 |
ヤング係数(GPa) |
アルミニウム |
70 |
鉄 |
205 |
ガラス |
71.6 |
チタン |
106 |
ステンレス |
193 |
アルミ合金 |
70 |
炭化ケイ素 |
410~440 |
タングステン |
403 |
ヤング係数が400GPaを超えるタングステンは高密度・高融点の金属であり、耐熱性が非常に優れているのが特徴です。そのため、電球のフィラメントやX線管の陰極などに使用されます。
また、同じく400GPaを超える炭化ケイ素は耐熱性・耐摩耗性に優れる超高硬度のセラミックです。その特徴から、半導体プロセスの部材や耐摩耗部品として使用されることが多いです。
ヤング係数が小さい材料の例
次に、ヤング係数が小さいとされる材料を見ていきましょう。
材料 |
ヤング係数(GPa) |
ヒノキ |
13 |
ナイロン |
0.12~0.29 |
プラスチック |
0.7~4.0 |
ゴム |
0.001~0.005 |
木材のヤング係数は樹種によって異なり、一般的にスギやヒノキなどの針葉樹は低い傾向にあり、オークや樫などの広葉樹は高い傾向にあります。また、木は生き物であることから、その日の気温や天候によっても変わってくるのが特徴です。
そのため、数値だけでなく、地域の植生や気候なども踏まえた経験則が重要な判断材料となります。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:ヤング係数とは?
A:材料の変形しにくさを表す数のことであり、数値が大きくなるほど部材は硬くて変形しにくく、低いほど柔らかくて変形しやすいと判断できます。ヤング係数の計算は、物体の「応力(σ)」と「ひずみ(ε)」から求めることができます。
Q:ヤング係数が高い/低い材料にはどんなものがある?
A:ヤング係数が高い材料には「金属」や「セラミック」などがあります。反対に、ヤング係数が低い材料としては「ゴム」や「樹脂」「木材」などが挙げられます。ヤング係数が高い素材は変形してはならない部位に、ヤング係数が低い素材は柔軟性が必要な部位に用いられるのが特徴です。
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この記事を監修した人
岩納 年成(一級建築士)
大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。
土地の目利きや打合せ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。