【建築業界の基礎知識】建築における採光基準とは?計算方法などを分かりやすく解説
建物を建てるうえで、採光は快適な暮らしを実現する重要な要素の一つです。日当たりのよしあしは、建物の快適性を左右するだけでなく、そこで暮らす人の健康にも大きな影響を与えます。
そのため建物の採光性については、法律で明確な決まりが設けられています。今回は建築業界の基礎知識として、採光に関するルールや採光計算の方法をご紹介します。
目次[非表示]
- 1.建築における採光基準とは
- 1.1.採光に関する基本ルール
- 1.2.採光計算が必要な場所は居室のみ
- 2.採光の計算方法
- 3.居室の用途別に定められた割合とは
- 4.採光補正係数
- 4.0.1.■採光補正係数の考え方
- 4.0.2.■水平距離の考え方
- 4.0.3.■垂直距離の考え方
- 5.具体的なケースにおける採光補正係数の考え方
- 5.0.1.■開口部が道路に面しているケース
- 5.0.2.■開口部が川や線路、公園などに面しているケース
- 5.0.3.■開口部の直上に複数のバルコニーや庇があるケース
- 5.0.4.■隣地境界線が斜めになっているケース
- 5.0.5.■天窓の場合
- 5.0.6.■縁側がある場合
- 6.採光計算をするうえでの3つのポイント
- 6.1.基準をクリアする場合の計算簡略化
- 6.2.無窓居室の取り扱い
- 6.3.実際の採光性は現地の環境によっても異なる
- 7.2023年4月施行 住宅の採光規定に追加された緩和
- 7.1.住宅の居室における規定の緩和
- 7.2.緩和条件を採用する際の注意点
- 8.この記事を監修した人
建築における採光基準とは
「採光」は、日当たりの確保を指すケースが一般的です。建築基準法においては第28条で「居室の採光及び換気」として採光基準が定められています。
採光に関する基本ルール
建築基準法では建物の居室について、十分な採光のために窓や開口部を設けなければならないというルールになっています。居室の床面積に対して、一定面積の「採光のための窓、その他の開口部」を設ける必要があるとされているのです。
窓などの開口部面積が定められている理由には、健康のため(第28条)、災害時の避難のため(第35条)などが挙げられます。居室に対してあまりにも窓や開口部が小さければ、十分な日当たりが得られず、居住者の健康を害するおそれがあります。
また、火災時などに脱出ができないなどの安全面でのリスクも考えられるでしょう。そのため建物の設計を考える際には、それぞれの床面積に対して採光面積(開口部面積)を計算しなければならないと定められているのです。
採光計算が必要な場所は居室のみ
建築基準法では、採光計算が必要な場所は居室のみとされています。建築基準法上の居室とは「居住、執務、作業、娯楽その他これらに類する目的のために継続的に使用する室」のことです。
たとえば住宅のリビングや寝室、台所など、それ以外に学校の教室や病室、宿泊室などが居室に該当します。これらのエリアは後述する採光計算によって、基準以上の採光率を確保しなければなりません。
それに対して、納戸やバス・トイレ、玄関などは非居室にあたるため、採光計算は不要です。そのため、部屋自体は十分な広さがあっても、構造上十分な窓や開口部が設けられない空間は居室と表記することはできず、納戸やサービスルーム(DEN)として扱われます。
採光の計算方法
採光計算とは建築基準法に基づき、居室の有効採光面積を計算することを指します。有効採光面積の計算式は以下のとおりです。
<建築基準法に適合する有効採光面積の計算方法> 居室の床面積×居室の用途別に定められた割合≦窓・開口部の面積×採光補正係数 |
少し計算式のイメージがつかみにくいので、まずは基本的な考え方を整理しましょう。
計算式の考え方
- 左の項が大きいほど窓や開口部は大きくとらなければならない
- 採光補正係数が大きいほど窓の面積の下限の範囲を広げられる
つまり、同じ床面積であれば「用途別に定められた割合が小さい」あるいは「採光補正係数が大きい」ほうが窓を小さくできるため、設計の自由度は高くなると解釈できます。それでは、計算式におけるそれぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
居室の用途別に定められた割合とは
建築基準法では、居室の用途ごとに次の採光面積割合が決められています。
居室の用途 |
割合 |
幼稚園・小学校・中学校高校などの教室 |
1/5 |
住宅の居室 |
1/7(※1) |
病院などの病室、福祉施設等・下宿の宿泊室 |
1/7 |
上記以外の学校の教室、病院・福祉施設等の娯楽室、談話室 |
1/10 |
※1 床面で50ルクス以上の照度を確保できる場合は1/10に緩和される
用途別に定められた割合は、数値が大きいほど基準が厳しいという意味になります。つまり、端的に言えば教室や保育室はより大きな窓・開口部が必要であり、床面で50ルクス以上の照度を確保できる住宅居室は、窓・開口部の大きさがやや緩和されるということです。
この点については、実際に学校や幼稚園の教室を思い浮かべてみると、通常の居室より窓や開口部が大きいことからもイメージできます。
採光補正係数
採光補正係数とは、用途地域や隣地境界線までの水平距離を考慮した「採光のしやすさ」を示す数値です。基本的な計算方法は、以下のように用途地域ごとで分かれています。
用途地域 |
算出方法 |
住居系地域 |
D/H×6-1.4 |
工業系地域 |
D/H×8-1 |
商業系地域・無指定地域 |
D/H×10-1 |
※2 採光補正係数は最大で3までであり、マイナスになる場合は0とする
■用語の解説
- D(水平距離):開口部の直上にある建築物の部分から以下のいずれかまでの距離
- 当該建築物のほかの部分
- 隣地境界線
- 同一敷地内のほかの建築物
- H(垂直距離):開口部の中心から直上にある建築物の部分までの距離
採光補正係数についても、基本的な考え方を整理してみましょう。
■採光補正係数の考え方
- 採光補正係数が大きいほど有利になる
- 水平距離(D)が大きいほど有利になる
- 垂直距離(H)が小さいほど有利になる
- 商業系がもっとも有利で、工業系、住居系の順に不利になる
■水平距離の考え方
この点については、実際の建物をイメージしてみると理解がしやすくなります。ある障害物までの水平距離が長ければ(距離が離れていれば)、それだけ採光がしやすくなるので、採光補正係数は高くなります。
■垂直距離の考え方
一方、垂直距離については、10階建てのマンションなどを想像してみるとイメージしやすいでしょう。10階の部屋は窓から直上にある建築物までの距離(垂直距離)がもっとも短いため、採光がしやすくなり、採光補正係数が高くなります。
反対に、1階部分の部屋は窓からの垂直距離がもっとも長くなるため、採光補正係数は小さくなります。この点については、両者の日当たりの違いを考えてみると、簡単にイメージできるでしょう。
具体的なケースにおける採光補正係数の考え方
採光補正係数の考え方について、いくつかの具体例を通じて見ていきましょう。
■開口部が道路に面しているケース
開口部が道路に面している場合は、道路の反対側の境界線を隣地境界線とみなして計算します。また、一般的に道路に面する側は採光性が高いため、計算した採光補正係数が1を下回る数値であったとしても、1としてみなします。
■開口部が川や線路、公園などに面しているケース
この場合は、対象の川や線路、公園などの幅の1/2を隣地境界線の外側とみなして計算します。
■開口部の直上に複数のバルコニーや庇があるケース
この場合は、すべてのポイントで採光補正係数を算出し、もっとも厳しい箇所で採光計算を行うのが原則です。
■隣地境界線が斜めになっているケース
隣地境界線が斜めになっている場合は、開口部の中心から境界線に向かって引いた直線を垂直距離として扱います。ただし、凹凸などのいびつな形状になっている場合は、もっとも短い部分を垂直距離として扱うのが原則です。
■天窓の場合
天窓については、D/Hの計算を行ったうえで、さらに「3」をかけて計算します。ただし、前述のように採光補正係数の上限は3までであり、それを超える場合も3とみなされます。
■縁側がある場合
幅90cm以上の縁側がある場合は、D/Hの計算を行ったうえで、さらに0.7をかけて採光補正係数を求めます。
採光計算をするうえでの3つのポイント
採光計算については、いくつかほかにも意識しておきたいポイントがあります。ここでは計算を簡略化するテクニックも含めて見ていきましょう。
基準をクリアする場合の計算簡略化
前述のように、開口部が道路に面する場合は、最低でも採光補正係数は1以上となります。そのため、採光補正係数1でも十分に開口部の大きさの基準をクリアできる場合は、特に水平距離や垂直距離を求めなくても問題ありません。
確認申請図書などを作成する際には、「道路に面しているため採光補正係数は1とする」と記載すれば十分なので、手続きを簡略化できます。
無窓居室の取り扱い
採光が必須の用途ではない居室については、窓を設けなくても問題はありません。しかし、この場合は「無窓居室」として、防火避難規定における厳しい条件をクリアする必要があります。
防火避難規定は人命に関わることから、壁の材料や階段までの歩行距離などまで細かく定められているので注意が必要です。
実際の採光性は現地の環境によっても異なる
建築基準法による採光基準は、かなり細かな条件が反映されるものではあるとはいえ、あくまでも数値のうえでの計算結果です。基準を満たしていたとしても、立地によっては十分な日当たりを確保できないことがあるので注意が必要です。
快適な住環境を実現するために設計上の採光計算を行うときは、時間帯別の日差しの向きや周辺環境なども考慮しながら、十分な日当たりを確保できるようにしましょう。
2023年4月施行 住宅の採光規定に追加された緩和
2023年の4月に行われた建築基準法の改正では、建物の採光規定について大幅な変更がありました。なかでも、特に大きな影響が想定されるのが、住宅の居室に関する規定の緩和です。
住宅の居室における規定の緩和
従来のルールでは、住宅の居室における開口部の面積は、床面積の1/7以上と定められていました。しかし、本改正によって、「照明設備の設置などによって床面で50ルクス以上の照度を確保できる場合は1/10に緩和される」という内容に条件が変更されました。
50ルクスとは「10メートル先の人の顔や行動を明確に識別でき、誰であるか明確に分かる程度」の照度を指します。この基準はリビングなどで用いられる一般的な照明器具でも十分にクリアできるため、さまざまな住宅居室で規定緩和の恩恵を受けられるでしょう。
緩和条件を採用する際の注意点
前述のように、緩和条件はさまざまなケースで適用することが可能です。ただし使用する照明器具の照度が不十分な場合は、厳密に言えば違反建築物に該当してしまう点には注意が必要です。
基本的に住宅の維持管理は一般の方が行うので、緩和された条件で開口部を設計する場合はルールを徹底することが大切です。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:建築基準法上の「居室」とは?
A:建築基準法では、「居住、執務、作業、娯楽その他これらに類する目的のために継続的に使用する室」を居室と定義しています。たとえば住宅のリビングや寝室、台所など、それ以外に学校の教室や病室、宿泊室などが居室に該当します。
Q:建築基準法における採光の計算方法は?
A:建築基準法上の居室に該当する部屋では、「居室の床面積×居室の用途別に定められた割合≦窓・開口部の面積×採光補正係数」に適合するように窓や開口部の面積を確保する必要があります。
Q:採光補正係数とは?
A:採光補正係数とは、用途地域や隣地境界線までの水平距離を考慮した「採光のしやすさ」を示す数値です。用途地域によって計算式は異なり、基本的には商業系地域のほうが有利であり、工業系、住居系の順に不利になっていきます。
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この記事を監修した人
岩納 年成(一級建築士)
大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。
土地の目利きや打ち合わせ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。