<新着>建設業で週休二日を実現するには?現状と課題、改善策を解説
建設業界にとって、2024年は働き方改革を大きく進める重要なタイミングとなりました。時間外労働の上限規制適用により、業界全体での働き方が見直されるなかで、週休二日制への関心も高まりつつあります。
この記事ではまず、国土交通省の資料をもとに、建設業における週休二日の導入状況を解説します。そのうえで、週休二日を導入するメリットや実現のためのアプローチ、活用したい支援制度について詳しく見ていきましょう。
目次[非表示]
- 1.週休二日の導入状況は?建設業が抱える課題
- 1.1.「4週8休」の導入は2割程度
- 1.2.時間外労働の規制と労働力不足のジレンマ
- 1.3.人材の高齢化
- 2.週休二日を実現するメリット
- 2.1.企業・業界のイメージアップ
- 2.2.人手不足の解消
- 2.3.業務効率化の促進
- 3.建設業で週休二日を実現するための方法
- 3.1.現場の意識改革
- 3.2.テクノロジーの活用による業務効率化
- 3.3.給与体系や勤怠管理の見直し
- 3.4.工期・工事費用の見直し
- 4.国土交通省の支援内容
- 4.1.工期設定支援システムの運営
- 4.2.直轄工事におけるモデルケースの実行
週休二日の導入状況は?建設業が抱える課題
働き方改革の推進に伴い、近年の建設業界ではさまざまな形で労働環境の変化が生まれています。一方、他の業界と比べると推進のスピードは遅い側面もあり、まだ多くの課題が残されている感も否めません。
ここではまず、建設業が抱える課題を3つのトピックに分けて整理してみましょう。
「4週8休」の導入は2割程度
そもそも週休二日とは、1ヶ月のうち休みが二日以上ある週を1回以上設ける状態のことです。週休二日は多くの業界においてスタンダードとなっている働き方ですが、2024年時点において、建設業の週休二日制は義務ではありません。
あくまで努力目標とされていることから、週休二日が実現されていない企業も多いのが実情です。国土交通省が取りまとめた資料によれば、2020年時点における建設業の休日状況として、休日日数が週休二日以下の企業は全体の36.3%にものぼります。
また、いわゆる「完全週休二日制」にあたる4週8休を実現できている企業は、全体の2割程度にとどまっています。休日の少なさが年間労働時間の増加につながってしまっていることから、国土交通省の発表では、「公共工事から計画的に週休二日を推進する」との動きが示されています。
建設産業における働き方の現状
(出典:国土交通省『「働き方改革実行計画」について』)
(出典:国土交通省『最近の建設業を巡る状況について』)
時間外労働の規制と労働力不足のジレンマ
働き方改革のなかでも、特に重要な取り組みとなっているのが「時間外労働の上限規制」です。2019年4月に労働基準法が改正され、罰則付きで時間外労働の上限規定が設けられたことから、多くの業界では労働時間の見直しが急ピッチで進められました。
しかし、建設業においては5年間にわたって猶予されており、2024年4月から初めて時間外労働の上限規定が適用されることとなりました。具体的には、年間の時間外労働を360時間以内(特別条項を適用しても年間720時間以内)に収める必要があるというルールであり、建設業でも長時間労働の解消につながる動きとして期待されています。
しかし、労働者数が変わらないまま残業のみを減らせば、人手不足が生じてしまうのが課題です。労働力が足りなくなることで工期の調整が難しくなり、現場や管理者にしわ寄せがいってしまうだけでなく、労働時間の減少で給与が減ってしまうという問題も生じます。
人材の高齢化
就業者の高齢化も建設業が抱える大きな課題となっています。先ほども参照した国土交通省の資料によれば、労働者の年齢は55歳以上が35.5%、29歳以下は12.0%となっており、他の産業と比べて人材の高齢化が進んでいることが明らかにされています。
さらに、建設技能者数も60歳以上が全体の1/4を占めており、技術やスキルの継承が追いついていない点も大きな課題です。
建設業就業者の現状
(出典:国土交通省『最近の建設業を巡る状況について』)
週休二日を実現するメリット
上記の課題を踏まえて、建設業で週休二日を導入することにどのようなメリットがあるのか、3つのポイントに分けてご紹介します。
企業・業界のイメージアップ
先ほどもご紹介したように、建設業界は長時間労働や休日の少なさといった課題により、労働環境に関するマイナスイメージが存在しています。自社が率先して週休二日を実現することで、従業員の労働環境が改善するだけでなく、他社と比べてイメージを大きく改善できる効果が期待できるでしょう。
また、より大きな視野で見れば、業界そのもののイメージアップにもつながり、産業全体の成長にも結び付いていくと考えられます。
人手不足の解消
週休二日制を導入することで、労働環境への不安が軽減され、人材を募集しやすくなるのが大きなメリットです。また、働きやすい環境を整えれば、人材の定着率も高まりやすくなり、安定的に組織力を向上していくことができます。
特に現在は、時間外労働の上限規制適用により多くの企業が労働力不足を抱えていることから、労働環境を改善する重要性は高いといえるでしょう。
業務効率化の促進
新たに週休二日を実現するには、従業員1人あたりの労働時間が少なくなっても成り立つような仕組みを整えなければなりません。その過程においては、既存の業務の効率化が必要不可欠な条件となります。
「労働時間の削減」という目標を全社できちんと共有すれば、業務効率化に対する全体的な意識が高まり、社内DXの推進にもつながっていくでしょう。新たなITツールを導入したり、古いシステムを刷新したりするには、経営層や管理職層だけでなく、現場の協力が欠かせません。
全社一丸となってDXを進められれば、中長期的には生産性の向上にも結びついていきます。
建設業で週休二日を実現するための方法
建設業で現実的に週休二日を成り立たせるには、どのようなアプローチが必要になるのでしょうか。ここでは、代表的な取り組みをご紹介します。
現場の意識改革
まずは、労働時間の削減を実現するために、建設現場の意識を変えていく必要があります。長時間労働を是とする風潮を改め、効率的な労働で成果を出す動きを推奨していかなければなりません。
そのためには、評価基準や管理職者の考え方を見直し、単純な労働時間によらない人事評価が行える仕組みづくりが重要となります。
テクノロジーの活用による業務効率化
無理なく業務効率化を図るには、業務に応じたテクノロジーの活用がカギとなります。例えば、「BIM/CIMの導入によってデータ作成・管理を効率化する」「ドローンで高所や危険な箇所の作業を代替する」「クラウドサービスの活用で紙のやりとりを削減する」といった方法が考えられます。
点検作業や資材管理、情報共有などの多岐にわたる業務を自動化できる可能性があるため、活用次第では労働時間の大幅な減少につなげることが可能です。
週休二日制の実現には、後期の見直しや業務効率化が欠かせません
給与体系や勤怠管理の見直し
週休二日制に移行するうえでは、給与体系や勤怠管理に問題がないかもチェックする必要があります。例えば、日給制の給与体系が導入されている場合は、週休二日を取り入れることで収入が低下し、従業員に不安を感じさせてしまう恐れがあります。
安定して働いてもらうには、収入面での不安や不満が生じないよう、月給制に変えるなどの工夫が必要です。
工期・工事費用の見直し
現場の運営と休日日数の確保を両立させるには、工期の調整も不可欠な取り組みとなります。例えば、2020年に施行された改正建設業法では、著しく短い工期での発注を行う事業者を勧告・公表の対象にするなど、請負業者の労働環境を守るための仕組みが採用されています。
週休二日制にしても事業運営に影響が出ないよう、工期・工事費用についても細やかな調整を行うことが重要です。
国土交通省の支援内容
建設業における週休二日の実現は、国を挙げて取り組む主要な課題となっています。そこで、国土交通省では「働き方改革・建設現場の週休2日応援サイト」を開設し、週休二日工事の実施状況を情報発信するとともに、実現のためのさまざまな支援策を行っています。
工期設定支援システムの運営
「工期設定支援システム」とは、工期設定を行うにあたり、歩掛かりごとの標準的な作業日数や作業手順を自動で算出できるシステムのことです。国土交通省が無料で提供しているツールであり、建設工事のスケジュールを週休二日向けに合わせて自動的に計算してくれるのが大きな特徴です。
計算にあたっては地域別に雨休率を反映させたり、工種ごとに工期を求めたうえでバーチャートを作成したりと、現場の需要に即したさまざまな機能が備わっています。そのため、スケジュール管理に活用すれば、事務作業の負担を抑えながら週休二日を導入する手助けになるでしょう。
工期設定支援システムの概要
(出典:国土交通省『工期設定支援システム』)
直轄工事におけるモデルケースの実行
国土交通省が扱う直轄工事については、すでに週休二日の確保を促すためのさまざまな施策が導入されています。例えば、工期の算出においては、あらかじめ準備や後片付けに最低限必要な日数をスケジュールへ組み込み、無理のない設定が行えるように工夫されています。
また、「余裕期間制度」として、工期の30%以内かつ4ヶ月を超えない範囲で、余裕期間を設定できる仕組みも導入しているのが特徴です。これにより、週休二日の確保による不稼働日が生じても、無理なく工事を進められる環境が整えられています。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:建設業で週休二日はどのくらい進んでいる?
A:2020年時点において、休日日数が週休二日以下の企業は全体の36.3%に上り、週休二日の実現率は60%程度とされています。また、いわゆる完全週休二日制を導入している企業は、全体の2割程度にとどまります。
Q:工期設定支援システムとは?
A:建設業の週休二日を実現するために、国土交通省が無料で提供しているスケジューリングシステムです。週休二日に合わせて自動的にスケジューリングしてくれるほか、雨休率の反映なども行ってもらえるため、手軽に高精度の工期設定を行うことが可能です。