長期優良住宅認定制度とは? 認定基準と建築後の対応について分かりやすく解説
近年の住宅業界では、空き家の増加や既存ストックの老朽化、地球環境問題への対応などのさまざまな課題に直面しています。
これまでの住宅建築では「つくっては壊す」といったフロー消費型が社会に根付いていました。しかし現在は、このような課題と向き合い、「いいものをつくって手入れしながら、長く大切に使う」という持続可能な社会を実現するストック型への転換が求められています。
そこで2009年6月4日に開始されたのが“長期優良住宅認定制度”です。2021年度末時点で累計135万戸以上の住宅が認定を受けており、その数は年々増加傾向にあります。
工務店・ビルダーでは、長期優良住宅の認定基準を把握して、問合せがあった際に分かりやすく説明できるように準備しておくことが必要です。
この記事では、長期優良住宅認定制度の概要と認定基準について詳しく解説します。
(出典:国土交通省『新・不動産業ビジョン2030(仮称)の全体像 【骨子案】』『長期優良住宅認定制度の概要について』『長期にわたって使用可能な質の高い住宅ストック形成』)
目次[非表示]
- 1.長期優良住宅認定制度とは
- 2.長期優良住宅の認定基準
- 3.長期優良住宅の認定を受けたあとは?
- 4.まとめ
長期優良住宅認定制度とは
長期優良住宅認定制度とは、長期にわたって良好な状態で使用できる措置を講じた住宅を評価して、国が認定する制度のことです。
2009年6月4日から新築住宅の分野で認定制度が開始されており、2016年4月1日からは既存住宅の増築・改築へと対象が広がりました。さらに2022年10月1日からは、既存住宅において建築行為を伴わない認定についても開始されています。
長期優良住宅の認定を受けるには、長期優良住宅の建築・維持保全計画を作成したうえで、着工前に所轄の行政庁へ申請する必要があります。
なお、低炭素住宅と長期優良住宅の違いについては、こちらの記事で解説しています。併せてご覧ください。
≫ 低炭素住宅と長期優良住宅は何が違う? 各メリット・デメリットを解説
(出典:国土交通省『長期優良住宅のページ』『長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について』)
長期優良住宅の認定基準
長期優良住宅の認定を受けるには、建築・維持保全計画を一定の基準に適合させることが必要です。ここでは、2023年4月時点での一戸建て住宅(新築)における8つの認定基準について解説します。
①耐震性
長期優良住宅の認定基準として、極めてまれに発生する地震による損傷レベルを低減する耐震性能を確保していることが挙げられます。
『住宅の品質確保の促進等に関する法律』(以下、品確法)に基づく住宅性能表示制度の耐震等級2または3に相当する耐震基準を満たすことが求められます。
▼耐震性の認定基準(いずれかに該当)
- 耐震等級(倒壊等防止)2以上(※)
- 耐震等級(倒壊等防止)1、かつ安全限界時の層間変形を1/100(木造の場合は1/40)以下
- 耐震等級(倒壊等防止)1、かつ各階の張り間方向およびけた行方向について所定の基準に適合するもの(鉄筋コンクリート造等に限る)
- 品確法に定める免震建築物
※2階以下の木造建築物等で壁量計算による場合にあっては等級3
出典:国土交通省『長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について』/e-Gov法令検索『住宅の品質確保の促進等に関する法律』
②劣化対策
長期優良住宅の認定基準を満たすには、数世代にわたって住宅の構造躯体を使用できるような劣化対策を講じることが必要です。
劣化対策等級(構造躯体等)等級3を満たすとともに、構造の種類に応じた基準が設けられています。劣化対策等級3とは、住宅性能表示制度の最高等級にあたります。
▼劣化対策の認定基準
構造の種類 |
劣化対策等級(構造躯体等)等級3かつ、構造の種類に応じた基準 |
---|---|
木造 |
|
鉄骨造 |
柱・梁・筋かいに使用している鋼材の厚さ区分に応じた防錆措置、または上記木造の基準 |
鉄筋コンクリート造 |
水セメント比を減ずる、またはかぶり厚さを増す |
国土交通省『長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について』『長期優良住宅認定制度の概要について』を基に作成
(出典:国土交通省『長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について』『長期優良住宅認定制度の概要について』)
③省エネルギー性
省エネルギー性能が確保されていることも、認定基準の一つです。
具体的には、断熱等性能等級5かつ、一次エネルギー消費量等級6を満たすことが求められます。断熱等性能等級5はZEH(※)基準相当で、一次エネルギー消費量等級6は住宅性能表示制度における最高等級にあたります。
※ZEH(net Zero Energy House:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロ以下にすることを目指した建物のこと。『ゼッチ』と呼ばれている。
(出典:国土交通省『長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について』『長期優良住宅認定制度の概要について』)
④維持管理・更新の容易性
長期優良住宅には、建築物の維持管理や更新のしやすさを評価する認定基準が設けられています。認定を受けるには、耐用年数が短い設備配管の点検・清掃・補修・更新を容易に行うための措置が講じられていることが求められます。
一戸建て住宅の場合、維持管理対策等級(専用配管)3相当の認定基準を満たすことが必要です。
▼維持管理・更新の容易性の認定基準
- コンクリート内の埋込み配管がない
- 地中埋設管上にコンクリートを打設しない
- 配管等の内面仕様・たわみ・抜け防止の措置が講じられている
- 排水管の清掃や掃除ができる開口が設けられている
- 主要接合部等の点検措置が設けられている
(出典:国土交通省『長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について』『長期優良住宅認定制度の概要について』)
⑤居住環境
長期優良住宅には、良好な景観や地域での居住環境を維持・向上するための配慮がなされていることが求められます。
建築区画エリアにおいて、地区計画や条例、建築協定、景観協定などが設けられている場合には、それらの内容と適合させる必要があります。規制の有無や基準については、認定申請を行う所轄の行政庁に確認しておくことが重要です。
(出典:国土交通省『長期優良住宅認定制度の概要について』)
⑥住戸面積
良好な居住水準を確保するための規模が確保されていることも、長期優良住宅の認定基準として定められています。
一戸建て住宅の場合、75m2以上という基準が設けられており、少なくとも1つ以上の階の面積が40m2以上あることが必要です。ただし、地域の実情によって所管行政庁が別に定める場合は、その面積要件に準じます。
(出典:国土交通省『長期優良住宅認定制度の概要について』)
⑦維持保全計画
長期優良住宅の認定を受けるにあたって、定期的な点検・補修に関する内容をまとめた維持保全計画を作成する必要があります。
維持保全計画を定める期間は30年以上となっており、定期的な点検の間隔は10年以内と定められています。
定期的な点検・補修の計画を定める部分は、以下のとおりです。
▼維持保全計画の認定基準
- 構造耐力上主要な部分
- 雨水侵入を防ぐ部分
- 給水・排水設備
(出典:国土交通省『長期優良住宅認定制度の概要について』)
⑧災害配慮
自然災害が発生した際に、被害を防止・軽減するための措置が講じられていることも認定基準の一つに含まれています。災害発生リスクのある地域では、所管行政庁が定めた措置を講じる必要があります。
(出典:国土交通省『長期優良住宅認定制度の概要について』)
長期優良住宅の認定を受けたあとは?
長期優良住宅の認定を受けたあとは、作成した維持保全計画に基づいて、計画的な点検や必要に応じて補修・改良を行うことが必要です。
また、定期点検や補修を行った際は、その状況に関する記録を作成して、保存しておくことが求められます。所轄行政庁から報告を求められた場合には、作成した記録の提出または報告を行います。
なお、住宅の劣化状況と点検・修繕の結果を踏まえたうえで、必要に応じて維持保全計画を見直すことも重要です。
工務店・ビルダーには、工事完了後の点検や補修、維持保全計画の見直しなどについても継続的にサポートしていくことが求められます。
(出典:国土交通省『長期優良住宅認定制度の概要について』『長期優良住宅のページ』)
まとめ
この記事では、長期優良住宅認定制度について以下の内容を解説しました。
- 長期優良住宅認定制度の概要
- 長期優良住宅の認定基準
- 長期優良住宅の認定を受けたあとの対応
長期優良住宅の認定を受けるには、耐震性や省エネルギー性、劣化対策など幅広い項目で一定の基準をクリアする必要があります。認定を受けたあとには、維持保全計画に基づいた定期的な点検や修繕などを行うことが求められます。
工務店・ビルダーでは、顧客に対して長期優良住宅のメリットや認定基準、認定後の対応をきちんと伝えたうえで提案することが重要です。また、建築後のサービスとして、定期点検や修繕といった維持保全のアフターサポートを行うことも検討してみてはいかがでしょうか。
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なお、長期優良住宅のメリットについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
≫ 施主に上手に伝える「長期優良住宅のメリット」9つ!気になるデメリットは?