【建築業界の基礎知識】断熱材とは? 断熱材の仕組みとその種類、断熱材を選ぶときのポイント
断熱性は住まいの快適性を左右する重要なポイントです。特に近年では省エネ性能に優れた住宅設計の重要性が増しており、それに伴って断熱性の追求も欠かせないテーマとなっています。
今回は建築業界における基礎知識として、断熱材の仕組みや種類、断熱材を選ぶときに意識したいポイントなどをご紹介します。
目次[非表示]
- 1.断熱材とは
- 1.1.「断熱性が高い」とは?
- 1.2.断熱材の重要性
- 2.断熱材の基本的な仕組み
- 3.断熱材の主な種類
- 4.最新の断熱材はどんなものがある?
- 5.断熱材を選ぶときのポイント
- 6.この記事を監修した人
断熱材とは
断熱材とは、その名のとおり熱が伝わるのを遮るための資材のことです。熱の伝達を低減させることで、内部を一定に近い温度に保ちやすくなるため、断熱材は住宅用建材をはじめ冷蔵庫などの家電製品、生鮮食品の保冷箱などにも用いられています。
「断熱性が高い」とは?
一般に「断熱性が高い」という場合、具体的にはどのような状態を指しているのでしょうか。これには、物質が持つ熱伝導率が大きく関係しています。
物体間で熱が伝わる度合いのことを熱伝導率といい、熱伝導率が低いことを「断熱性が高い」と表現するのです。たとえば、アルミニウムや鉄、鋼といった金属は熱伝導率が高いため、測定環境にもよりますが熱伝導率(W/m・K)は100弱~400程度とされます。
一方、空気や二酸化炭素などの気体は、熱伝導率が0.1以下と低くなります。一般的に断熱材は「熱伝導率0.02~0.1W/m・K」の素材を指し、内部に空気層を設けることで熱伝導率を下げているのが特徴です。
断熱材の重要性
住宅において断熱性が重要になるのは、外気の影響を抑えることで室内の快適な温度環境を維持できるためです。断熱性が高ければ、内部は外部環境の影響を受けにくくなり、一定の温度が保たれやすくなります。
そのため、冷暖房効率がよくなり、省エネ性も向上するのが利点です。また、気密部材を適切に併用することによっては建物のすき間を埋める効果もあるため、気密性が高くなり、すき間風による温度差が抑制されます。
その結果、結露やカビが発生しにくくなるため、建材の寿命も長持ちさせやすくなるのも重要なメリットです。
断熱材の基本的な仕組み
断熱材は建物の壁や屋根・天井、床などの構造部の軸間に充填するか、あるいは張り付けて用います。気密部材なども併用し、適切な施工がされていれば、建物のすき間が解消されるため、断熱性のみならず気密性も向上します。
断熱材そのものは、ガラスなどを主原料とした無機繊維系や、無数の気泡を持った発泡プラスチック系などの材料でつくられています。前述のように、空気は熱伝導率が低いため、素材に空気を含ませることで断熱性を高めるというのが基本的な仕組みです。
たとえば無機繊維系の場合は、複雑に絡まった微細な繊維の間に空気を閉じ込めて熱の伝導を抑制します。また、発泡プラスチック系は無数の気泡が空気を保持し、その効果によって熱伝導を抑制します。
空気の層が厚いほど熱伝導の効率は低くなるため、基本的には断熱材が厚いほど断熱性能も高くなるのが特徴です。
断熱材の主な種類
断熱材の種類には、大きく分けて無機繊維系、木質繊維系、天然素材系、発泡プラスチック系の4系統があります。
代表的な品名 |
主な特徴 |
コスト |
|
無機 繊維系 |
・グラスウール |
・断熱性、不燃性に優れる |
安い |
木質 繊維系 |
・セルロースファイバー ・インシュレーションボード |
・断熱性にやや優れる ・結露になりにくい |
高い |
天然 素材系 |
・羊毛 |
・防虫効果がある |
高い |
発泡プラスチック系 |
・フェノールフォーム |
・断熱性に非常に優れる |
非常に高い |
繊維系
繊維系のうち、無機繊維系は無機物の繊維でつくる断熱材であり、代表的なものにはガラスを溶かして繊維状に加工したグラスウールがあります。また、木質繊維系には古紙を使ったセルロースファイバーなどがあります。
複雑な繊維で空気が逃げないようにする仕組みであり、低コストで断熱性を実現できるのが特徴です。一方、素材の中に水蒸気が入り込む余地があるため、長持ちさせるためには防湿加工が必要です。
天然素材系
天然素材系は羊毛や炭化コルクなどの天然素材でつくられており、環境や人体への負荷が小さいのが特徴です。一方、断熱性能に対して価格は割高な傾向にあります。
発泡プラスチック系
さまざまな種類のプラスチック系材料を加工によって発泡させて製造します。価格は繊維系に比べると高いものが多いものの、断熱性能は非常に優れているのが特徴です。
発泡プラスチック系では、無数の気泡に含まれた空気が熱を遮断する仕組みであるため、気泡が細かければ対流による熱伝導を防ぐことができます。また、繊維系では空気の断熱性を利用するのに対して、発泡プラスチック系ではさらに熱伝導率の低い気体を用いるのも特徴です。
そのため、高い断熱性能を実現できるのが利点とされています。なかでも、高性能フェノールフォームは最高ランクの断熱性能を持っています。
最新の断熱材はどんなものがある?
住宅建材はさまざまな形で進化を続けています。2024年現在、新たな断熱材として注目を集めているのが「真空断熱材」です。
真空断熱材とは、繊維の細いグラスウールを芯材として、空気や湿気を通さないガスバリアフィルムで包み、内部を真空状態にした素材のことです。さらに、内部には吸着剤が入れ込まれており、外部から空気や湿気が入ったときでもきちんと閉じ込められる構造になっています。
わずか4mmの厚さで100mmのグラスウールと同じ断熱性能を持ち、住宅の省エネ化を推し進める素材としての役割が期待されています。実のところ真空断熱材そのものは、これまでも家電製品やクーラーボックスなどで使用されてきました。
ただ、長期継続的に使用した場合の耐久性が証明されていなかったことから、住宅建材として普及することはありませんでした。しかしJISの規定による促進試験により、25年間の継続使用を想定しても熱伝導率に劣化が見られないことが確認されたのです。
厚みを抑えても高い断熱性能を発揮することから、新築での使用はもちろん、居住空間の圧迫を避けたい既存住宅のリフォームなどへの活用も期待されます。
断熱材を選ぶときのポイント
最後に、断熱性を選ぶ際に目を向けたいポイントをご紹介します。
断熱性能
これまで見てきたように、素材によって断熱性能には大きな違いが生まれることもあります。特に熱伝導率が低いとされている発泡プラスチック系断熱材は、薄くても高い断熱効果を得られるのがメリットです。一方、価格帯も素材によって異なるため、予算に応じて決めることも大切です。
火災時の安全性
断熱性能とともに意識したいのが火災時の安全性です。一般的にガラスを主原料とする無機繊維系のものは、耐火性が高いという性質を持っています。無機繊維系や木質系、天然素材系は燃えても有毒ガスが発生しないのが特徴です。
また、一部の発泡プラスチック系製品のなかにも同様の特徴のものはあります。各製品によっても耐火性や発煙の度合いなどは異なるため、断熱材を選ぶ際には細かな特性もチェックしましょう。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:断熱材の仕組みは?
A:断熱性能は熱伝導率が低ければ低いほど高くなります。そこで、素材に熱伝導率の低い気体を含ませることで断熱性を持たせたものが断熱材です。
Q:断熱材の種類は?
A:ガラスや古紙などを繊維状に加工してつくる繊維系断熱材や、羊毛などでつくる天然素材系、プラスチックを発泡させてつくる発泡プラスチック系があります。それぞれ特徴や価格帯には違いがあります。
Q:真空断熱材とは?
A:グラスウールでできた芯材をガスバリアフィルムで包み、内部を真空状態にした新しい断熱材です。従来の建築用断熱材と比べて断熱性能が抜群に高く、薄い状態でも高い断熱性を発揮するのが特徴です。
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この記事を監修した人
岩納 年成(一級建築士)
大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。
土地の目利きや打ち合わせ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。