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建設工事請負契約とは?記載内容と請負契約書の作成時の注意点について解説

建設工事請負契約とは?記載内容と請負契約書の作成時の注意点について解説

建設工事を受注する際には、建設工事請負契約の締結が必要となります。契約には法的な拘束力があることから、仕組みや内容については正しく理解しておかなければなりません。

今回は建設工事請負契約の内容や目的、契約書に記載すべき事項などをご紹介します。また、トラブルを未然に防ぐために、契約時に意識しておきたいポイントも確認しておきましょう。

目次[非表示]

  1. 1.建設工事請負契約とは
    1. 1.1.請負契約とは
    2. 1.2.建設工事請負契約書の作成義務
    3. 1.3.建設工事請負契約書の作成方法
  2. 2.建設工事請負契約書の記載すべき内容
    1. 2.1.法定記載事項
    2. 2.2.工事請負契約に関する規制
  3. 3.建設工事請負契約書を作成する目的
  4. 4.建設工事請負契約書を作成するときの注意点
    1. 4.1.工事が遅延した場合の対応を確認しておく
    2. 4.2.工事の範囲と保証内容についてすり合わせを行う
    3. 4.3.キャンセルした場合の違約金について確認しておく
    4. 4.4.契約書には印紙税がかかる
  5. 5.トラブルを未然に防ぐ建設工事請負契約を締結しよう
    1. 5.1.ローン特約
    2. 5.2.反社会的勢力の排除
    3. 5.3.管轄裁判所に関する合意
  6. 6.この記事を監修した人

建設工事請負契約とは

「建設工事請負契約」とは、建設工事の発注者・受注者間で締結する契約のことであり、工事の内容や契約条件を定めたものです。ここではまず、建設工事請負契約の基本的な内容について見ていきましょう。

請負契約とは

そもそも、請負契約とは請負人が仕事を完成することを約束し、注文者がその対価として報酬を支払う契約を指します。雇用契約などとは異なり「仕事の完成」が取引の目的であるため、細かな業務のプロセスなどは問われません。

決められた期限までに仕事が完成すれば、たとえば雨の日に休んだり、工事期間を短縮させたりすることも可能です。一方、仕事が完成しなければ、業務に着手していたとしても基本的には対価を受け取ることができません。

つまり建設工事請負契約は、「建物の完成や増改築・修繕などの完了」を仕事の完成として、発注者と受注者で請負契約を結ぶことを指します。

建設工事請負契約書の作成義務

建設業法第19条では、建設会社が工事を受注する際に「工事請負契約書」を作成したうえで契約を交わすことが義務づけられています。作成を怠った場合には、営業停止処分や建設業許可の取り消しが行われる可能性があるので注意が必要です。

(出典:e-Gov法令検索『建設業法第19条』)

建設工事請負契約書の作成方法

建設工事請負契約書は、国土交通省の中央建設業審議会が公表している「建設工事標準請負契約約款」を適用して作成されるケースが多いです。約款には、発注者と受注者の公平性を考慮したうえで、建設工事に関する標準的な契約条件が定められています。

そのため、テンプレートとして約款を適用すれば、契約書の信頼性を高めることにつながります。ただし、工事の具体的な内容によって定めるべき項目も異なるため、個別の条件については十分に精査したうえで調整することが大切です。

(出典:国土交通省中央建設業審議会『建設工事標準請負契約約款』)

建設工事請負契約書の記載すべき内容

建設工事請負契約書には、必ず盛り込まなければならない法定記載事項があります。ほとんどは建設工事標準請負契約約款でカバーされていますが、対応していない項目については、個別に設定しなければなりません。

法定記載事項

建設業法第19条1項では、建設工事請負契約書には以下の事項を盛り込む必要があるとされています。

■法定記載事項

  1. 工事内容
  2. 請負代金の額
  3. 工事着手の時期および工事完成の時期
  4. 工事を施工しない日または時間帯の定めをするときは、その内容
  5. 請負代金の全部または一部の前金払または出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期・方法
  6. 当事者の一方から設計変更または工事着手の延期もしくは工事の全部もしくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更または損害の負担・それらの額の算定方法に関する定め
  7. 天災その他不可抗力による工期の変更または損害の負担・その額の算定方法に関する定め
  8. 価格等(物価統制令第2条に規定する価格等をいう。)の変動・変更に基づく請負代金の額または工事内容の変更
  9. 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め

  10. 発注者が工事に使用する資材を提供し、または建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容・方法に関する定め

  11. 発注者が工事の全部または一部の完成を確認するための検査の時期・方法・引渡しの時期

  12. 工事完成後における請負代金の支払の時期・方法

  13. 契約不適合責任または当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容

  14. 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金

  15. 契約に関する紛争の解決方法

(出典:e-Gov法令検索『建設業法第19条』)

建設工事請負契約書では、工事に関する基本的な事柄だけでなく、請負代金や引き渡しに関する事柄、工期の延長や中止の場合の取り扱いなども定める必要があります。また、トラブル予防の観点から、損害賠償や違約金、不可抗力による損害などについても明記しておかなければなりません。

工事請負契約に関する規制

建設業法では、主に元請け業者から下請け業者への不当な取り扱いを避けるために、以下のような規制も定められています。

■契約条件に関する規制

  • 不当に低い請負代金の禁止(建設業法第19条の3)
  • 不当な使用資材等の購入強制の禁止(建設業法第19条の4)
  • 著しく短い工期の禁止(建設業法第19条の5)」

これらの規制に違反した場合には、勧告や公表処分の対象になるため契約内容には十分に注意が必要です。

建設工事請負契約書を作成する目的

建設工事請負契約書を作成する目的は、トラブルの予防とスムーズな解決を図ることにあります。建設工事は取引金額が大きく、トラブルが生じれば双方に大きな損害をもたらす可能性があります。

こうしたトラブルを防止するために、建設工事請負契約書として工事内容や仕様などを明確化することが第一の目的です。発注者と受注者の双方にとって、適正な条件(工事代金、工事内容など)を定められるため、金銭や仕上がりに関するトラブルを最小限に抑えることができます。

しかし、事前に契約を交わしていたとしても、天災などの不可抗力による損害や遅延が発生する可能性は拭えません。そこで、トラブルが発生した場合に備えてルールを取り決めておき、スムーズに解決を図るというのが第二の目的です。

どちらか一方の契約違反により、訴訟などに発展した場合でも、契約書があれば証拠資料となります。

建設工事請負契約書を作成するときの注意点

トラブルを未然に防ぐためには、契約書の記載内容について細心の注意を払う必要があります。ここでは、作成時の主な注意点について解説します。

工事が遅延した場合の対応を確認しておく

建設工事は、天候不順や資材納入の遅れなどにより、期日内に完成しないケースも少なくありません。工事の遅延によるトラブルを防ぐためには、あらかじめ遅れた場合の違約金について定めておくことが大切です。

ただし、災害などの不可抗力による工事の延長は、請負人が責任を負わないことを明記する必要があります。なお、標準約款では、遅れた日数につき「年14.6%」の違約金を請求できるものと定められています。

約款の数字をそのまま適用するかどうかは、発注者・受注者によって考え方が異なるので、契約時にきちんと話し合っておきましょう。

工事の範囲と保証内容についてすり合わせを行う

工事の細かな内容については、契約書にすべてを記載するのは現実的ではありません。しかし、範囲や内容を明確にしておかなければ、後からトラブルに発展するリスクもあります。

そこで、工事範囲については十分にすり合わせを行ったうえで別途書面を用意し、「別途書面に記載」のように内容を明らかにしておくと安心です。また、保証やアフターサービスについても、食い違いのないように丁寧に確認してもらうことが大切です。

キャンセルした場合の違約金について確認しておく

建設工事では、発注者側の事情によってキャンセルが発生する場合もあります。その時点ですでに受注者が資材を発注していていれば損害が発生してしまうため、キャンセルした場合の違約金についても詳しく定めておくことが重要です。

契約書には印紙税がかかる

契約書は課税文書となるので、印紙税が発生する点にも注意が必要です。印紙税は契約金額に基づいて計算され、工事請負契約には軽減措置が設けられています。

契約金額

税額(軽減措置適用後)

100万円を超え 200万円以下のもの

200円

200万円を超え 300万円以下のもの

500円

300万円を超え 500万円以下のもの

1,000円

500万円を超え1千万円以下のもの

5,000円

1千万円を超え 5千万円以下のもの

1万円

5千万円を超え 1億円以下のもの

3万円

1億円を超え 5億円以下のもの

6万円

5億円を超え 10億円以下のもの

16万円

10億円を超え 50億円以下のもの

32万円

50億円を超えるもの

48万円

(出典:国税庁『建設工事請負契約書の印紙税の軽減措置』)

ただし、契約書を電子化する場合は印紙税がかかりません。

トラブルを未然に防ぐ建設工事請負契約を締結しよう

建設工事請負契約書には、法定記載事項以外にも、当事者間の合意によって自由に条項を盛り込むことができます。ここでは、無用なトラブルを防ぐために、必須項目に加えて任意で設けておきたい項目を3つご紹介します。

ローン特約

ローン特約は、住宅の施工主が住宅ローンの審査に落ちてしまった場合に、無条件で契約解除を認める条項です。基本的に、住宅ローンの本審査は、建設工事請負契約が結ばれた後に行われます。
審査結果によっては、契約したにもかかわらず融資が下りないといった事態が発生する可能性もあるため、消費者保護の観点から盛り込んでおくケースが多いです。

反社会的勢力の排除

コンプライアンスの観点から、契約の当事者が暴力団員等に該当しないことを表明する反社会的勢力の排除に関する事項を盛り込むのも重要です。違反した際には、契約解除や損害賠償請求を求められるようにしておけば、無用なトラブルを避けることができます。

管轄裁判所に関する合意

万が一訴訟に発展した場合に備えて、契約書では管轄裁判所に関する合意条項を定めておくのも一般的です。特に双方の所在地が離れている場合は、どちらのエリアにするかによってコストや労力に差が生まれます。

管轄裁判所の設定はあくまで任意ではありますが、発注者の所在地によっては契約書に盛り込んでおいたほうがよいケースも多いです。


●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。

Q:建設工事請負契約とは?
A:
そもそも、請負契約とは受注者が「仕事の完成」によって、発注者が「対価の支払い」によって債務を履行する双務契約です。建設工事請負契約では、「建物の完成や増改築・修繕の完了」をもって仕事の完成とみなします。

Q:建設工事請負契約書の記載項目は
A:
建設工事請負契約書では、工事に関する基本的な事柄だけでなく、請負代金や引き渡しに関する事柄、工期の延長や中止の場合の取り扱いなどに関する項目が必須事項とされます。また、トラブル予防の観点から、損害賠償や違約金、不可抗力による損害などについても明記しておかなければなりません。

Q:建設工事請負契約書に盛り込んでおいたほうがよい事項は?
A:
法定記載項目に加えて、住宅の場合は、消費者保護の観点から「ローン特約」を盛り込むケースが多いです。また、トラブル予防のために「反社会的勢力の排除に関する項目」「管轄裁判所に関する合意」なども記載しておくと安心です。


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この記事を監修した人

岩納 年成(一級建築士)

大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。

土地の目利きや打合せ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。

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編集部
編集部
工務店・ビルダー、新築一戸建て販売会社様を支援すべく、住宅営業のノウハウや人材採用、住宅トレンドなど、様々なジャンルの情報を発信してまいります。

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