2025年建築基準法改正で何が変わる?改正された重要ポイントを分かりやすく解説
建築技術や社会情勢の変化などにより、建築基準法はさまざまな改正が行われています。2025年の建築基準法改正では、特に住宅供給のあり方を大きく変える可能性があるため、的確に要点を押さえておくことが大切です。
この記事は2025年に行われる建築基準法改正について、具体的な変更点をご紹介します。また、併せて2023年、2024年にすでに行われた改正内容も整理してみましょう。
目次[非表示]
- 1.2025年改正建築基準法の背景と目的
- 2.改正ポイント1:建築確認・検査の対象が見直される
- 2.1.4号建築物の廃止と新分類
- 3.4号特例の縮小
- 4.改正ポイント2:構造計算が合理化される
- 5.改正ポイント3:防火規定が合理化された(2024年4月に施行済み)
- 6.改正ポイント4:集団規定が合理化された(2023年4月に施行済み)
- 6.1.高さ制限の特例許可の拡充
- 6.2.建ぺい率、容積率に関する特例許可の拡充
- 6.3.機械室等の容積率不算入の認定制度
- 7.改正ポイント5:既存建築ストックの長寿命化(2023年4月、2024年4月に施行済み)
- 7.1.住宅における採光規定の見直し
- 7.2.一団地における総合的設計制度等の対象行為の拡充
- 7.3.既存不適格建築物の増築時における現行基準の遡及適用の合理化
- 7.4.一定範囲の増築等で遡及適用しない規定・範囲の追加
- 8.この記事を監修した人
2025年改正建築基準法の背景と目的
2025年4月に行われる建築基準法の改正により、建築物に関するさまざまな基準や手続きが変更されます。ここではまず、改正の基本的な内容と背景・目的について見ていきましょう。
改正の概要
改正の主なポイントとしては、「建築確認・審査」「審査省略制度」の対象範囲の変更、構造・省エネに関する図書の提出の追加などが挙げられます。具体的な内容については、5つのポイントで後ほど詳しく見ていきましょう。
改正が行われる背景
今回の改正は、2050年までのカーボンニュートラルの実現などに代表される、「地球温暖化対策」の推進が背景にあります。建築分野はエネルギー消費の約3割を占めるとされており、法規制に伴う省エネ対策を行うことで、大きな効果が見込まれているのです。
たとえば、新設住宅を省エネ基準に適合させるために、そのチェック機能として建築確認申請が用いられるようになります。現行法では多くの住宅で建築確認申請が免除されているため、その対象を見直すために4号特例の縮小などが盛り込まれています。
また、改正内容には、温室効果ガスの吸収源対策として「木材の利用拡大」を促すことを目的としたものもあります。
(出典:国土交通省住宅局『改正建築基準法について』)
改正ポイント1:建築確認・検査の対象が見直される
ひとつめの改正ポイントとして挙げられるのが、「4号特例の縮小」です。ここでは、その具体的な内容について解説します。
4号建築物の廃止と新分類
4号特例とは、「4号建築物」に分類される以下の建物について、建築士が設計や工事監理を行っていれば、建築確認等を省略できる制度のことです。
■4号建築物の条件
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改正により、4号建築物は廃止となり、新2号建築物・新3号建築物に区分されることとなります。
■4号建築物の新たな区分
新2号建築物 |
・木造2階建て |
新3号建築物 |
・木造平屋建て(延べ面積200m2以下) |
4号特例の縮小
4号建築物の廃止に伴い、それまで建築確認・検査が不要であった新2号建築物は、すべてのエリアで対象とされるようになりました。また、新3号建築物についても、都市計画区域内で建てる場合は建築確認・検査が必要となります。
建築確認・検査が必要な範囲 |
審査省略制度の有無 |
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新2号建築物 |
すべての地域 |
対象外(なし) |
新3号建築物 |
都市計画区域内 |
対象(あり) |
そして、それまですべての4号建築物は審査省略制度の対象となっていましたが、新たに新2号建築物に分類されるものについて対象外となります。また、新2号建築物は新たに「構造関係規定等の図書」と「省エネ関連の図書」の提出が求められるようになりました。
これにより、以下のような影響が想定されます。
■4号特例縮小による影響
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改正ポイント2:構造計算が合理化される
法改正により、高度な構造計算が求められないとされる建物の範囲が広がりました。それまで「高さ13m超」の木造一戸建ては高度な構造計算が必要とされ、一級建築士にしか設計・工事監理が行えないとされていました。
しかし、省エネ性を求める流れのなかで、全体的に住宅のつくりが高くなっていることから、一級建築士のみでは負担の偏りが生じてしまうことが懸念されます。そこで、簡易な構造計算(許容応力度計算)で建築できる範囲が拡大され、次の範囲については二級建築士でも設計できることとなりました。
■二級建築士が可能な設計・工事監理の範囲の拡大
改正前 |
改正後 |
高さ13m以下かつ軒高9m以下 |
階数が3以下かつ高さ16m以下 |
改正ポイント3:防火規定が合理化された(2024年4月に施行済み)
建築基準法の改正の一部は、すでに2024年4月にも行われています。そのうちのひとつが、「防火規定の合理化」です。
改正の背景
2024年までの規定では、延べ面積3,000m2超の大規模建築物を建てる際には、「柱・壁などを耐火構造とする」あるいは「3,000m2ごとに耐火構造体で区画する」必要がありました。しかし、基準を満たすと木材が不燃材料で覆われてしまうため、木材の質感を生かすことができないのが難点とされていました。
さらに、耐火構造体による区画は設計上の制約が大きく、実現のハードルが高い点に課題があります。また、従来の防火規定は「建物の階数ごとにきめ細やかな基準となっていない」「構造部材を例外なく耐火構造としなければならない」などの柔軟さを欠く面もありました。
このように、不十分な規定の設計により、どうしても構造に木材を利用しづらいのが問題となっていたのです。
改正の変更点
そこで、3,000m2を超える大規模建築物については、木材利用の促進を図るために、構造部材の木材をそのまま見せる「あらわし」による設計を可能としました。また、階数に応じて要求される耐火性能基準の合理化によって、中層建築物でも木材を利用しやすくなりました。
さらに、「防火上・避難上支障がない範囲での部分的な木造化を可能にする」「別棟として扱える低層部分は木造化を可能にする」「防火壁の設置範囲を合理化する」などの変更により、構造部分への木材利用が促進されやすくなります。
改正ポイント4:集団規定が合理化された(2023年4月に施行済み)
すでに2023年4月に施行された改正内容としては、「集団規定の合理化」が挙げられます。集団規定とは、建築物の高さや建ぺい率・容積率、建築物の用途、道路などに関する規定のことです。
省エネ改修などの工事では、必要な設備や部材を導入するにあたって、建物全体の高さや面積、容積に影響が生まれるケースもあります。そこで、規定の合理化を行い、やむを得ない場合に限って以下のような特例許可が行われることとなりました。
高さ制限の特例許可の拡充
屋根の断熱改修や屋上への省エネ設備の設置によって、やむを得ず建物の高さが制限を超えてしまう場合は、一定の条件のもとで特例が適用されるという制度です。たとえば、屋根の通気層を設けるために高さが増加した場合、高効率の熱源設備を屋上に設けて高さが増加した場合などが該当します。
建ぺい率、容積率に関する特例許可の拡充
外壁の断熱改修や日射を遮るための庇の設置を行った結果、やむを得ず建ぺい率や容積率の上限を超えてしまった場合に、一定の部分については不算入されるという特例です。
機械室等の容積率不算入の認定制度
住宅や老人ホームなどにおける給湯設備の機械室などについては、省令が定める基準に適合していれば、建築審査会の同意を得ることなく特定行政庁が容積率への不算入を認定できるようになりました。
改正ポイント5:既存建築ストックの長寿命化(2023年4月、2024年4月に施行済み)
既存建築物のストック数は年々増加しており、国としてどのように活用していくかが大きなテーマとなっていました。そこで、既存建築ストックの長寿命化や有効利用を進めるために、建築基準法の細かな規定が見直され、現状に応じた合理化が行われました。
ここでは、改正の具体的な内容について見ていきましょう。
住宅における採光規定の見直し
住宅の居室に必要な採光を行うために、従来は床面積の1/7以上の開口部面積の確保が必要とされてきました。しかし、事務所やホテルといった採光規定が適用されない建物を住宅へ用途変更する場合などでは、この規定が大きなハードルとなっていた面もあります。
そこで、原則は1/7以上としつつも、一定の条件(必要な照明設備の設置など)を満たしていれば、1/10にまで開口部の大きさを緩和することが可能になりました。
一団地における総合的設計制度等の対象行為の拡充
一団地の総合的設計制度等とは、複数の建物を一つの団地として扱うことで、各建物における接道義務などの要件を省略し、設計の自由度や良好な住環境を確保するための制度です。従来の規定では、団地の建築(新築・増築・改築・移転)にのみ適用されることとされてきましたが、大規模修繕や大規模な模様替えにも適用範囲が拡大されました。
既存不適格建築物の増築時における現行基準の遡及適用の合理化
従来の規定では、既存不適格建築物を増改築したり、大規模な修繕・模様替えをしたりする場合には、建築物全体を現行の基準に適用させなければならないとされてきました。しかし、建物全体を現行の防火規定・集団規定などに適合させるには、実質的に大きな時間・コストの負担が発生してしまいます。
そこで、安全性の確保などを前提としたうえで、増改築における各種規定の遡及適用については、以下のように合理化されることとなりました。
■合理化の内容
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一定範囲の増築等で遡及適用しない規定・範囲の追加
従来の規定によれば、接道義務・道路内建築制限によって既存不適格となっている建築物は、省エネのための改修であっても現行規定が遡及されることとなっていました。そのため、建物の省エネ化を希望していても、現実的に大規模なリフォームなどは難しいとされてきたのが実情です。
そこで、「市街地環境への影響が増大しないと認められる大規模の修繕・大規模の模様替えを行う場合」は、現行基準を適用しないこととされました。改正により、築年数が経過した建物でも省エネ改修を行いやすくなり、活用の幅が広がっていくと考えられます。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:4号特例の縮小とは?
A:4号特例の縮小とは、4号建築物として扱われていた建物が新2号建築物、新3号建築物に分類され、特定適用の範囲が狭まったことを指します。すべての新2号建築物建築と都市計画区域内の新3号建築物は確認・検査を求められることとなり、新2号建築物については審査省略制度の対象外となります。
Q:2023年、2024年に行われた建築基準法の改正内容は?
A:主な改正内容としては、「防火規定の合理化」「集団規定の合理化」「既存建築ストックの長寿命化に向けた規定の合理化」が挙げられます。それぞれ木材の積極的な活用や省エネ改修の促進、建築ストックの有効利用などを目的に行われました。
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この記事を監修した人
岩納 年成(一級建築士)
大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。
土地の目利きや打合せ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。