建築基準法の形態規制とは?基本ルールを分かりやすく解説
建築基準法には、建築物や敷地に関するさまざまな基準が定められています。そのうちの一つである「形態規制」は、その名のとおり建築物の形態に関する決まりの総称です。
今回は建築基準法の基本的な構成を簡単に確認したうえで、形態規制に関するルールを詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.建築基準法の基本的な構成
- 2.建築基準法の形態規制とは
- 3.形態規制その1:建築物の規模および街区密度の制限
- 3.1.容積率(第52条)
- 3.2.建ぺい率(第53条)
- 3.3.外壁後退(第54条)
- 3.4.高度利用地区(第59条)
- 3.5.総合設計制度(第59条の2)
- 4.形態規制その2:建築物の形状に関する規制
- 4.1.絶対高さ制限(第55条)
- 4.2.斜線制限(第56条)
- 4.3.天空率(第56条第7項)
- 4.4.日影規制(第56条の2)
- 4.5.高度地区(第58条)
- 5.この記事を監修した人
- 5.1.岩納 年成(一級建築士)
建築基準法の基本的な構成
建築基準法で定められている建築物等の基準は、「単体規定」と「集団規定」という2つの要素に大別することができます。ここではまず、建築基準法の基本的なポイントとして、それぞれの規定の内容について見ていきましょう。
1.単体規定:建築物の「中」を守るもの
単体規定とは、個別の建築物に関する安全性や衛生などを守るための規定です。主なものとして、構造部材や壁量といった「構造」に関する基準、耐火構造や避難階段のような「防火・避難」に関する基準、また、採光や給排水設備といった「一般構造・衛生・設備」に関する基準があります。
これらはいずれも、「建築物の中を守るためのルール」とまとめることができます。
2.集団規定:建築物の「外=周辺地域」を守るもの
集団規定とは、環境向上と安全を確保した街づくり、合理的な土地利用などを目的とした規定です。具体的には、敷地と道路の関係を決めた「接道規制」や用途地域ごとの建築制限を定めた「用途規制」などがあります。
接道規制は避難や消防経路の確保、用途規制は土地利用に際しての混乱防止を主な目的としており、いずれも「建物の周辺地域を守るためのルール」とまとめられます。そして、集団規定の一つとして定められているのが、今回詳しくご紹介する「形態規制」です。
なお、集団規定は都市の秩序を守るためのものであるため、適用範囲は「都市計画区域または準都市計画区域」に限定されています。それ以外の区域においては、条例などで個別に必要な制限を定めることとなっています。
建築基準法の形態規制とは
形態規制とは、建築物の形態(建ぺい率・容積率)や高さ(斜線制限・日影規制)などを制限するルールのことです。主な目的は、バランスのよい市街地環境を保つことにあり、都市計画という全体的な視点から個別の建築物を規制していくのが特徴です。
建築基準法のうち、形態規制に大きく関わる部分は主に第52条~第60条までの内容です。ここからは、形態規制の内容を2つに分け、より具体的なポイントを掘り下げて見ていきましょう。
形態規制その1:建築物の規模および街区密度の制限
形態規制の1つ目のポイントは、「建築物の規模と街区密度の制限」です。街区密度とは、一定のブロックに対する建築物の量のことです。
このように、形態規制の1つ目の側面は、建物の大きさや量を適切にコントロールすることを目的としているのが特徴です。ここでは、該当する条文と、その内容についてそれぞれ解説します。
容積率(第52条)
容積率とは「敷地面積に対する延床面積の割合」のことであり、建物の全体的な大きさの上限を決める制限です。建物の密度を規制することで、人口密度や都市インフラに与える負荷などをコントロールするのが目的です。
土地ごとの容積率は、「用途地域ごとの指定容積率」と「前面道路の幅に応じて計算する容積率」の2種類で決められ、より小さいほうの数値を採用することとなっています。また、一定の要件を満たす土地を対象とした規制緩和のルールも設けられています。
建ぺい率(第53条)
建ぺい率とは「敷地面積に対する建築面積の割合」のことです。建築面積とは、建物を上から見たときの広さのことであり、複数階ある建物では基本的にもっとも広いフロアの面積が対象となります。
容積率が立体的な広さを決める基準であるのに対して、建ぺい率は平面の広さを決める基準です。各敷地に一定のゆとりを持たせることで、建築物の採光や通風を確保したり、景観を保ったりすることを目的としています。
建ぺい率の上限も、都市計画によって用途地域ごとに定められており、一定の条件を満たす土地を対象とした規制緩和の仕組みも設けられています。
外壁後退(第54条)
外壁後退は、低層地域(第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、田園住居地域)の良好な住居環境を保護するためのルールです。具体的には、都市計画で1mまたは1.5mの外壁の後退距離の限度が定められた場合は、建築物の外壁をその分だけ後退させなければならないという決まりです。
外壁後退も日当たりや風通しの確保、火災時の延焼防止などを目的としています。
高度利用地区(第59条)
高度利用地区とは、土地が細分化された密集市街地などで一体的な再開発を行い、高層建築物を建てられるようにした地区のことです。高度利用地区では建築面積の最低限度が決められるため、小規模な土地開発を行うことはできません。
その結果として、土地同士の合筆が進み、合理的な再開発が行われていくという仕組みです。
総合設計制度(第59条の2)
総合設計制度とは、500平米以上の敷地で一定割合以上の空地を持つ建築物について、特定の条件を満たしたうえで特定行政庁の許可を得れば、容積率や高さ制限が緩和されるというルールです。
総合設計制度が活用された事例としては、「恵比寿ガーデンプレイス」や「青山一丁目スクエア」「新梅田シティ」などの都心部における大規模建築物が挙げられます。
形態規制その2:建築物の形状に関する規制
形態規制には、「建築物の形状そのものを規制する」という側面もあります。ここでは、該当する条文と、その内容についてそれぞれ解説します。
絶対高さ制限(第55条)
その名のとおり、建築物の高さを制限する規制です。現行の高さ制限には「絶対高さ制限」「斜線制限」「日影規制」などがあり、道路上空における開放性や建物の日当たり・採光の確保を目的としています。
このうち、絶対高さ制限は「第1種・第2種低層住居専用地域、田園住居地域」における高さ制限であり、低層住居の良好な環境を保護するために設けられたものです。これらのエリアでは、都市計画において10mまたは12mの高さ制限が適用されます。
斜線制限(第56条)
斜線制限とは、道路の境界線や隣地境界線からの距離、真北方向への距離に応じて決められる高さの制限です。道路や隣地の日当たりを妨げず、適度な風通しを確保したり、空中の圧迫感を和らげたりすることを目的としています。
天空率(第56条第7項)
斜線制限に関するポイントの一つであり、測定ポイントから正射影された場合(魚眼レンズで空を見上げた場合)に、建物が映っている範囲を除いて空がどのくらいの割合で見えるかを示した指標です。天空率が高ければ、それだけ空中に十分な空間が確保されていると判断されます。
天空率を求めたときに、斜線制限で確保される採光・通風などと同程度以上のものが確保されている場合は、斜線制限を適用除外できるとされています。
日影規制(第56条の2)
住居系の用途地域における日当たりを確保するために、隣地の一定範囲に対して、一定時間以上の日影を生じさせないように中高層の建築物の高さを制限する決まりです。具体的な対象エリアや規制の内容は、地方公共団体の条例で定めることとされています。
高度地区(第58条)
市街地環境の維持や土地利用の促進を目的に、建築物の高さについて特に詳細な制限を設ける地域のことです。高度地区の制限内容は各自治体により異なりますが、斜線型高さ制限と絶対高さ制限によって指定が設けられることとなります。
一般的な高さ制限とは異なり、導入の有無や内容については各自治体が判断するものとされています。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:形態規制とは?
A:建築物の形態や高さなどを制限するルールのことであり、主に建築基準法の第52条~第60条までの内容を指します。建築基準法の集団規定の一つであり、バランスのよい合理的な市街地環境を保つことを目的としています。
Q:形態規制の内容は?
A:形態規制の内容は、「建築物の規模と街区密度の制限」と「建築物の形状そのものの規制」という2つに分けることができます。前者は建物の大きさや量に対する規制、後者は建物の形に対する規制を指しています。
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この記事を監修した人
岩納 年成(一級建築士)
大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。
土地の目利きや打ち合わせ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。