建築基準法に違反する建築物とは? 発生を防止するための4つの対策
建築基準法とは、建物や敷地に関するさまざまな基準を定めた法律です。主な目的は国民の生命や財産、公共の福祉を守ることにあり、ほとんどの建築物に適用される基本的なルールともいえます。
今回は違反建築物について、発生してしまうパターンや引き起こされるリスクなどを解説します。また、違反建築物の発生を防ぐための対策についても詳しく見ていきましょう。
目次[非表示]
- 1.違反建築物とは
- 1.1.法令上の規定に違反する建築物
- 1.2.手続きに関する規制に違反する建築物
- 2.既存不適格建築物との違い
- 3.違反建築物によって生じるリスク
- 3.1.行政指導・行政処分・罰則
- 3.2.建築士・建設会社・宅建会社への措置
- 4.違反建築物の発生を防止するための4つの対策
- 4.1.建築士等への相談
- 4.2.建築士による工事監理
- 4.3.中間検査と完了検査の実施
- 4.4.危害防止措置の実施
- 5.この記事を監修した人
- 5.1.岩納 年成(一級建築士)
違反建築物とは
建築基準法に違反している建築物のことを違反建築物といいます。建築基準法は建物や敷地について最低限のルールを決め、住民や近隣の安全、財産などを守ることを目的とした法律です。
違反する建築物は近隣へ悪影響をもたらすだけでなく、倒壊や火災時の延焼などによって、人命にも被害を及ぼすような重大事故を引き起こす可能性があります。
法令上の規定に違反する建築物
建築物は「建ぺい率」や「容積率」などの決まりを守る必要があります。建ぺい率とは、敷地面積に対する建築面積の割合のことであり、平面の広さに関する規制です。
それに対して容積率とは、敷地面積に対する延床面積の割合のことであり、立体的な広さに関する規制です。いずれも安全性や景観などを確保することを目的に、土地ごとに具体的な数値が定められており、上限を超えれば違反となります。
特にDIYでの増改築などでは、知らず知らずのうちに違反してしまうケースが多く、注意が必要です。また、建築基準法における用途制限や防火に関するルールも守らなければならないものの一つです。
用途制限はエリアごとに決められている土地の用途のことであり、たとえば閑静な住宅街には一定以上の規模の商業施設や工場などは建てられないといったルールです。防火規制は防火地域や準防火地域と定められた土地では、建物の防火性能を一定以上の水準にしなければならないという決まりであり、一定の防火設備や延焼防止性能などが求められます。
一般的には、これらのルールに反したものを違反建築物と呼び、該当する場合は後述するさまざまなペナルティが発生することとなります。
手続きに関する規制に違反する建築物
違反建築物となってしまうもう一つのパターンは、適切な手続きがなされないまま施工されるという場合です。また、建築基準法においては、次のような手続きを踏む必要があると規定されています。
■建物の建築に必要な手続き
- 建築確認申請
- 確認済証の交付
- 中間検査
- 完了検査
- 検査済証の交付
上記の手続きが適切に行われていなければ、建築基準法に違反しているとみなされてしまうので注意しておきましょう。たとえば、建物の構造や仕様が建築確認申請で提出した図面と大きく異なる場合には、建築基準法違反に該当する恐れがあります。
既存不適格建築物との違い
既存不適格建築物とは、建築された時点(工事中も含む)の法的基準には適合していた建築物が、その後の法律の改正や、都市計画の変更などによって、現在の法的基準には適合しなくなったものを指します。
既存不適格建築物については、過去にさかのぼって現行の建築基準法が適用されることはありません。規定範囲内の増築や改築、あるいは軽微な修繕・模様替えなどであれば問題はありませんが、大がかりな増改築や修繕・模模様替えなどを行うときには、原則として、現行の法的基準に適合させる必要があるとされています。
このように、違反建築物と既存不適格建築物とでは「建てられたタイミング」や「適合の必要性」などに大きな違いがあります。
違反建築物によって生じるリスク
先にも述べたように、違反建築物は安全性や衛生管理、防災面などに問題があるため、建築基準法に基づいて行政から何らかの処分を受ける可能性があります。ここでは、具体的な処分の内容について解説します。
行政指導・行政処分・罰則
違反建築物に対しては、まず「行政指導」によって、現行法に適合させるための措置が求められます。違反する部分については、建築主が自らの費用で改善しなければなりません。
行政指導への対応はあくまで任意とされているものの、従わないときは強制力を伴った行政処分が行われる場合があります。さらに、行政処分に従わないときは、刑事罰や氏名の公表といったペナルティにつながる可能性もあります。
たとえば、工事停止命令に従わなかった場合には、3年以下の懲役または300万円の罰金に科せられるなど、重い罰を受けなければならないので注意が必要です。
建築士・建設会社・宅建会社への措置
違反建築物については、工事に関係した建築士や建設会社、宅建会社も責任が問われ、次のような行政処分が行われる可能性があります。
■工事関係者への措置
建築士 |
戒告、1年以内の業務停止、免許の取消し |
建設会社 |
1年以内の営業停止、許可の取消し |
宅建会社 |
1年以内の業務停止、免許の取消し |
違反建築物の発生を防止するための4つの対策
違反建築物があった場合は、使用停止命令などによって顧客や取引先に多大な影響を与えてしまう恐れがあります。適法かつ安全な工事を行うためには、正しい知識を得ておくとともに、違反が生じないような環境を整えることが重要です。
ここでは、違反を避けるための対策方法を4つに分けて見ていきましょう。
建築士等への相談
建築確認などの手続きにおいては、建築士等の専門家に相談し、不備や漏れがないように細かくチェックすることが大切です。
建築士による工事監理
建築基準法違反を避けるためには、設計図どおりに工事を行う必要があります。建築士による工事監理を実施し、その内容を報告してもらうような仕組みを整えましょう。
中間検査と完了検査の実施
建築基準法では、一部の例外を除き、中間検査・完了検査に合格しなければ建物を使用できないとされています。中間検査は基礎や柱などの主要構造部が法令の基準に適合しているかをチェックするものであり、合格しなければ先の工程に進むことが認められません。
また、完了検査は工事の完了後に受ける検査のことであり、合格すると「検査済証」が交付されます。検査済証が交付されなければ、原則として建物を使用することはできないので注意しましょう。
なお、建築工事を行ううえでは、基礎工事を始める前に、建築確認を行ったことを示す「確認済表示板」を設置する必要があります。設置を怠った場合は50万円以下の罰金となるのでこちらも注意が必要です。
危害防止措置の実施
建築工事の施工者は、その内容に応じて危害防止措置を講じる必要があります。たとえば、木造で高さが13mもしくは軒の高さが9m以上、または木造以外で2以上の階数を有するものを建築・修繕・除却する場合には、原則として地盤から高さ1.8m以上の仮囲いを設置しなければなりません。
また、工事箇所が地盤面から高さ7m以上、かつ工事現場の境界線から水平距離5m以内にある場合、あるいは落下物などで周辺に危害を与える恐れがあるときには、落下物防護の措置を行う必要があります。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:違反建築物とは?
A:建築基準法に違反している建築物のことです。大きく分けると、「構造や防火、用途、その他の措置など法令上の規定に違反している場合」と「決められた手続きを行っていない場合」の2つのパターンがあります。
Q:違反建築物との違いは?
A:既存不適格建築物は、現在の法的基準には適合していないものの、建築基準法が施行される前から存在していた、あるいは過去の法的基準の下に建築された建築物のことです。原則として、増改築などを行うときに、現行の法的基準に適合させれば問題が解消される点が、違反建築物との大きな違いです。
Q:違反建築物を建てることで生じるリスクとは?
A:違反建築物は、是正の行政指導や行政処分、罰則といった法的処分が下されるリスクがあります。また、業務停止命令などの処分が行われる可能性もあります。
●関連コラムはこちら
≫ 建築基準法はどのような法律?ポイントを分かりやすく解説
≫ 建築基準法における6つの道路種別を分かりやすく解説
≫ 建築基準法の“床面積”とは? 2つの種類と床面積の算定に含まれない部分を解説
この記事を監修した人
岩納 年成(一級建築士)
大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。
土地の目利きや打ち合わせ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。