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<新着>首都直下地震とは?想定される被害と建設会社が取り組むべき備え

首都直下地震とは?想定される被害と建設会社が取り組むべき備え

地震大国とも呼ばれる日本では、将来的にさまざまな地震のリスクが想定されており、国レベルでの対策が進められています。なかでも、特に大きな被害が想定されているのが、「首都直下地震」です。

今回は、首都直下地震で想定されている被害の内容や必要な対策について解説したうえで、個々の建設会社が備えるべきことをご紹介します。

目次[非表示]

  1. 1.首都直下地震とは
  2. 2.首都直下地震で想定される被害の全体像
    1. 2.1.揺れによる被害
    2. 2.2.火災による被害
    3. 2.3.インフラ・ライフラインへの被害
    4. 2.4.経済的被害
  3. 3.想定される建物被害の詳細
    1. 3.1.揺れによる建物被害
    2. 3.2.液状化による建物被害
    3. 3.3.急傾斜地崩壊による建物被害
    4. 3.4.火災による建物被害
    5. 3.5.津波による建物被害
  4. 4.防災・減災対策で被害はどのくらい軽減される?
    1. 4.1.耐震化率の向上による軽減効果
    2. 4.2.家具等の転倒・落下・移動防止対策による軽減効果
    3. 4.3.火災被害の抑制による軽減効果
  5. 5.首都直下地震に備えて建設会社がすべきこと
    1. 5.1.建設会社の役割
    2. 5.2.BCPとは
  6. 6.この記事を監修した人
    1. 6.1.岩納 年成(一級建築士)

首都直下地震とは

「首都直下地震」とは、首都圏で発生するマグニチュード7クラスの「直下型地震」を指します。震源は東京だけに限定されるわけではなく、文部科学省の地震調査研究推進本部によれば、「東京都、茨城県、千葉県、埼玉県、神奈川県、山梨県を含む南関東地域のどこか」が想定されています。

「直下型地震」とは、内陸の直下で起こる地震のことであり、海のプレートで起こる海溝型地震と比べると規模は比較的小さく、被害範囲も20~30km程度と予想されています。しかし、都市部などの直下で発生し、かつ震源が浅い場合は、想像以上の大きな被害につながる可能性があるとされる地震です。

特に首都圏には人口が集中しており、数多くの建物があることから、被害のリスクはとても大きいとされます。さらに、首都中枢機能への甚大な影響も懸念されており、国レベルで防災・減災対策が進められています。

首都直下地震で想定される被害の全体像

首都直下地震が発生した場合、実際にはどのような被害のリスクがあるのでしょうか。ここでは、内閣府を中心に構成された中央防災会議の報告結果より、被害の全体像を見ていきましょう。

揺れによる被害

地震の揺れによる被害は、「全壊家屋約17万5,000棟」「建物倒壊による死者数最大約1万1,000人」と想定されています。また、建物被害に伴う要救助者は最大で「約7万2,000人」となっています。

火災による被害

市街地の火災による被害は、「最大約41万2,000棟の焼失」と「最大約1万6,000人の死者数」が実態として想定されています。揺れによる被害と合わせると、最大で「建物の倒壊・焼失は計約61万棟」「死者数は計2万3,000人」とされており、大きな被害が発生することが見込まれています。

インフラ・ライフラインへの被害

インフラ設備やライフラインへの被害は、次のようにまとめられています。

  • 電力:約5割の地域で停電し、1週間以上不安定な状況が続く
  • 通信:9割の通話規制が1日以上継続。メール遅配の可能性
  • 上下水道:都区部で約5割が断水。約1割で下水道の使用ができない
  • 交通:開通までに地下鉄は1週間、私鉄・在来線は1ヶ月程度要する。都区部の一般道はガレキや放置車両等の発生で深刻な交通麻痺が発生
  • 港湾:非耐震岸壁では復旧には数ヶ月を要する
  • 燃料:タンクローリーの不足、深刻な交通渋滞等により、非常用発電用の重油、軽油、ガソリン等の供給が困難になる

いずれも復旧には時間がかかることから、備蓄や代替などによる急場の対策は必須となります。

経済的被害

最終的な経済被害は、建物等の直接的なもので「約47兆円」、生産・サービスの低下によるものを含めると「合計で約95兆円」にものぼるとされています。

想定される建物被害の詳細

東京都の『首都直下地震等による東京の被害想定(2022年5月25日公表)』では、各種の被害に関する想定がさらに詳しく公表されています。ここでは、建物被害にフォーカスして、想定されるリスクを掘り下げて見ていきましょう。

揺れによる建物被害

震度6弱以上の揺れにより、耐震性の低い建物や高経年のビル・マンションの倒壊、中間階の圧壊の発生リスクが生じます。さらに、新耐震基準に適合する建物でも、経年劣化の影響などにより全半壊し、被害規模が増加する可能性があるとされています。

また、地震発生以降も余震などの影響で、本震では倒壊しなかった建物が倒れるなど、さらなる被害拡大のリスクが想定されています。

液状化による建物被害

東京湾岸の埋め立て地や河川沿岸部などを中心に、液状化で約1,500棟の居住困難な被害が発生するとされています。沈下量は最大でも10cm未満とされていますが、5cm以上の沈下で継続的な居住や日常生活は困難になると示されています。

また、その後のリスクとして想定されているのが、噴砂などによって舞い上がった砂塵の影響です。呼吸への影響や視界不良により、屋外での行動に影響が出てしまうとされています。

急傾斜地崩壊による建物被害

土砂災害警戒区域などでは、斜面の崩壊によって家屋の倒壊や集落の孤立、河川の閉塞が発生するとされています。東京都では、特に多摩東部直下で地震が発生した場合に、最大の被害が発生すると想定されています。

火災による建物被害

同時多発的な火災による建物の大規模な焼失は、特に重大なリスクとして想定されています。スプリンクラーなどの設備がない一般の集合住宅では、耐火造であっても多数の火災が発生する可能性があり、初期消火が行われなければ住戸全体に延焼してしまいます。
特に、断水の影響がある地域では消火が困難となり、被害が拡大してしまうのが大きなリスクです。地域によっては延焼が拡大し、約3日間にわたって断続的に燃え広がる恐れもあると示されています。

津波による建物被害

首都直下地震は内陸型の地震であるため、都内において河川や海岸の堤防を越えるような津波被害は想定されていません。また、水門の閉鎖によって、津波の遡上による影響も基本的にはブロックできると想定されています。

ただし、局所的な沈下や護岸の隙間などにより、市街地に浸水する可能性はあるとされています。

防災・減災対策で被害はどのくらい軽減される?

東京都では、上記の被害想定に基づき、各種の防災対策が行われてきました。ここでは、『首都直下地震等による東京の被害想定(2022年5月25日公表)』より、各種の被害がどの程度軽減されるのか、取り組みの効果を示した推計について見ていきましょう。

耐震化率の向上による軽減効果

2020年の時点で、東京都における住宅の耐震化率は92%とされています。そのうえで、仮にすべての建物が新耐震基準を満たした場合、全倒壊数および死者数は「約6割減少」すると推計されています。

さらに、すべての住宅が「2000年の建築基準法改正」に伴う基準をクリアすれば、現況よりも「約8割減少」するとの試算が行われています。

家具等の転倒・落下・移動防止対策による軽減効果

2020年の時点で、家具の転倒や落下、移動防止対策の実施率は57.3%とされています。資料では、仮にこの数値を引き上げた場合に、どの程度の軽減効果が見られるのかが試算されています。

それによれば、実施率を75%まで引き上げた場合で「死者・重傷者数は約4割減少」、実施率が100%まで引き上げられれば「死者・重傷者数は約8割減少」と試算されています。

火災被害の抑制による軽減効果

火災被害の抑制については、「電気を要因とする出火の低減」と「初期消火率の向上」が促進された場合の効果が次のように推計されています。

■現況と対策の想定モデルケース

現況

電気を要因とする出火の対策率8.3%、初期消火率の向上36.6%

促進1

電気を要因とする出火の対策率25%、初期消火率の向上60%

促進2

電気を要因とする出火の対策率50%、初期消火率の向上90%


​​​​​​​■促進が実現した場合の効果

促進1

焼失棟数、死者数ともに約7割減少            

促進2

焼失棟数、死者数ともに約9割減少

首都直下地震に備えて建設会社がすべきこと

これまで見てきたように、首都直下地震では人命・建物に甚大な被害を及ぼすリスクが想定されています。一方で、適切に対策が進めば、被害が大幅に軽減されることも示されています。

被害の予防と拡大の抑制といった点では、建設業界にもさまざまな社会的使命が備わっているといえるでしょう。最後に、首都直下地震に備えて個々の建設会社がすべきことについて簡潔に確認しておきましょう。

建設会社の役割

まずは、「防災・減災に向けた取り組みの推進」が重要な役割といえます。耐震化率の向上や設備の適切な導入・管理などは、個々の建設会社が責任を持って遂行していくべき課題です。

さらに、家具等の転倒・落下防止につながる仕組みの導入や呼びかけ、初期消火の重要性の呼びかけなども対策を進める後押しとなるでしょう。また、「災害復旧時における問題点の解決に向けた提言」なども、建設会社が担える役割のひとつです。

そのうえで、災害からの復旧を目指すためには、建設会社自身が迅速に復旧支援活動を行えるような仕組みづくりも重要です。そして、そのために必要となるのが、「事業継続計画(BCP)」の策定です。

BCPとは

BCPとは、災害などの発生時に業務が中断するのを避けるため、あるいは中断しても速やかに事業を再開するために準備しておく計画のことです。建設会社の場合は、災害時のインフラ復旧やがれきの処理、倒壊建物の処理などのさまざまな役割が期待されます。

そのため、日ごろから災害時の基本方針や復旧のマニュアル整備、被害を最小限に食い止める仕組みなどを構築しておくことが、社会的に見ても重要な意味を持ちます。首都直下地震のリスクを細かく想定し、BCPを丁寧に策定しておけば、「事業の継続」や「被害の極小化」はもちろん、「企業の社会的責任を果たす」ことにもつながるでしょう。


●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。

Q:首都直下地震とは?
A:首都圏で発生するマグニチュード7クラスの大規模な「直下型地震」のことです。直下型地震とは内陸の直下で起こる地震のことであり、震源が浅い場合は大きな被害に直結する可能性があります。

Q:首都直下地震で想定される被害は?
A:
揺れによる被害と火災による被害を合わせると、「建物の倒壊・焼失は計約61万棟」「死者数は計2万3,000人」と推計されています。また、経済被害は建物等の直接的なもので「約47兆円」、生産・サービスの低下によるものを含めると「合計で約95兆円」にものぼるとされています。

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この記事を監修した人

岩納 年成(一級建築士)

大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。
土地の目利きや打ち合わせ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。

編集部
編集部
工務店・ビルダー、新築一戸建て販売会社様を支援すべく、住宅営業のノウハウや人材採用、住宅トレンドなど、様々なジャンルの情報を発信してまいります。

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