建築模型士とは?人気の理由と必要な資格について
建築に携わる職業にはさまざまな種類があります。それぞれの職業や仕事内容に対する理解を深めれば、自身に向いているキャリアや将来の方向性を見極めやすくなるでしょう。
今回は「建築模型士」という職業について、主な仕事内容や必要な資格・スキル、人気を集めている理由などを解説します。
目次[非表示]
- 1.建築模型士とは
- 2.建築模型士に必要な資格とスキル
- 2.1.特に必須の資格はない
- 2.2.図面の解読能力
- 2.3.模型の作成技術
- 2.4.建築に関する知識
- 2.5.CADを扱えるスキル
- 3.建築模型士として働く2つのパターン
- 3.1.企業内建築模型士として働く場合
- 3.2.フリーランス・副業で建築模型士として働く
- 4.建築模型士が人気の理由は?
- 4.1.建築模型士の給料・年収
- 4.2.建築模型士のやりがい
- 4.3.建築模型士の将来性
- 5.建築模型士に役立つ資格・講座
- 5.1.建築模型技工士インストラクター
- 5.2.建築模型製作技能講座
- 5.3.ミニチュアクリエイター
- 5.4.建築CADインストラクター
- 5.5.2次元CAD利用技術者試験(基礎・2級・1級)
- 5.6.3次元CAD利用技術者試験(2級・準1級・1級)
- 6.この記事を監修した人
- 6.1.岩納 年成(一級建築士)
建築模型士とは
建築模型士とは、住宅や施設などを建築する際に、設計された図案をもとにミニチュア模型をつくる職業を指します。ミニチュア模型は実際の建築物の1/50や1/100スケールのサイズでつくられるのが一般的ですが、建物の全体像を把握するため、とても精巧につくられます。
建築模型の目的
建築模型の目的は、建物の完成形を具体的にイメージできるような状態にすることにあります。用途によって建物のみの簡易的なものから、外観の詳細、庭、周囲の景観なども精巧に表現するものまで、さまざまなニーズに応える必要があります。
基本的には一戸建てや集合住宅などを一棟ごとに作成するケースが多いですが、都市開発や都市計画といった場面ではエリアすべてを模型で再現することもあるなど、規模やタイプは多種多様です。街や駅周辺一帯の俯瞰図を立体模型で表現する場合などでは、模型の規模もとても大きくなります。
建築模型の種類
建築模型には大きく分けて2つの種類があります。
1つめは、「プレゼンテーション模型」と呼ばれ、図面を3次元の形でアウトプットし、知識や経験がない相手にもイメージを伝えやすくするのが目的です。プレゼンテーション模型は、お客さまに対して説明をする際に用いられるため、外観なども緻密につくる必要があります。
一方、2つめの「スタディ模型」は、設計士などの専門家が空間のつくりや見え方、使い勝手などを大まかに検証するためにつくられるものです。3次元の形に起こすことで、動線や採光なども立体的に検討でき、改良の必要性などを細かく見極められるようになります。なお、スタディ模型はあくまでも専門家が空間を把握することを目的としているので、外観のデザインなどは簡略化されるのが一般的です。
建築模型士に必要な資格とスキル
建築模型士として働くためには、どのような能力が求められるのでしょうか。ここでは、必要なスキルについて解説します。
特に必須の資格はない
建築模型士は、特に資格を保有していなくても就くことができる職業です。建築に関する職業には国家資格が必要なものも多いですが、建築模型士は十分なスキルがあれば資格を持っていなくても働くことができます。
図面の解読能力
資格は必須でないといっても、建築模型士として働くにはさまざまなスキルが求められます。実務においてはまず、模型図面を正しく読み取れるかどうかが問われます。実際の建物をそのままミニチュアとしてアウトプットする必要があるため、図面を正確に解読できるスキルは必須の条件といえるでしょう。
模型の作成技術
実際に模型をつくるには、細かなパーツを作成できる技術や器用さが必要となります。模型のサイズが小さい分、細かな作業が多くなるため、緻密なプラモデルなどを黙々と仕上げられるような技術と集中力が求められます。
建築に関する知識
建築模型士として働くうえでは、建築に関する幅広い知識を身につけることも重要です。特に都市計画などで模型をつくるうえでは、関連する法律などにも詳しくなっておくとよいでしょう。
CADを扱えるスキル
図面作成に必要なCAD(Computer Aided Design)の知識や操作スキルも、建築模型士としての仕事を助ける重要な武器となります。CADで設計された図面をもとに作成するケースも多いため、自身でもある程度の操作はできるようにしておく必要があります。
建築模型士として働く2つのパターン
建築模型士としての働き方には、基本的に「企業内建築模型士として働く」か「フリーランス・副業で働く」の2つのパターンがあります。ここでは、それぞれの働き方について詳しく見ていきましょう。
企業内建築模型士として働く場合
ひとつは、設計事務所やハウスメーカーなどに就職して、企業内建築模型士として働くパターンです。基本的には営業や設計、工務といった仕事の一環として、建築模型の作製業務を担うことが多いです。
また、都市計画の提案などを企業で請け負う場合は、大規模なジオラマのような模型をチームで製作することもあります。企業に就職する大きなメリットは、蓄積されたノウハウや人脈を活用しながら、効率的に技術・経験を習得していける点にあります。
フリーランス・副業で建築模型士として働く
フリーランスや副業で働く場合は、企業内建築模型士として一定の経験を積んでから独立を目指すか、大学や専門学校などで必要なスキルを学んでから個人で働き始めるかの2つのケースがあります。自分で料金やスケジュールを設定できるため、働き方の自由度が高く、企業内模型士以上の収入を目指すことも可能です。
一方、一から独立する場合には人脈づくりや取引先の開拓を自分で行わなければならないため、企業に就職するよりも安定した受注を得るハードルは高いといえます。
建築模型士が人気の理由は?
建築模型士の魅力について、ここでは「給料・年収」「やりがい」「将来性」の3つの側面からそれぞれ見ていきましょう。
建築模型士の給料・年収
企業に勤める場合は、ほかの業務と兼務するのが一般的であり、専業の建築模型士として採用されるケースは多くありません。その企業の規模などによっても収入は異なりますが、スタート時点では年収300~400万円程度が基準といえるでしょう。
個人で働く場合は、案件ごとに単価を積み上げて最終的な収入が算出されます。一般的な単価は数千円~数万円のものが多いですが、高い技術や豊富な人脈がある場合、数十万円以上の大規模な模型製作の仕事を受注できるケースもあります。
建築模型士のやりがい
建築模型士のやりがいは、自らの手で計画から完成までを手掛けられる点にあります。基本的には1人で作業を完結させられるため、難しい模型を仕上げたときには大きな達成感を味わうことができるでしょう。
また、街づくりなどの大掛かりなプロジェクトに携われたときには、多くの人々の暮らしに関わる立場として確かなやりがいを感じることができます。
建築模型士の将来性
建築模型士の需要は、住宅や建物そのものの需要に紐づいて変動します。景気の動きによって仕事の量が変わる部分もありますが、空き家対策での建替えや中古マンションのリノベーションなどにも幅広く目を向ければ、安定して受注を獲得することも不可能ではありません。
ただし、3D CADの普及などにより、人力での模型づくりはニーズが減少していく可能性も考えられます。そのため、デジタル技術への適応は重要な課題といえる面もあります。
建築模型士に役立つ資格・講座
前述のように、建築模型士に必須の資格はありません。しかし、実務においては多様なスキル・知識を問われるため、習得する過程で資格をとっておくほうが便利です。ここでは、持っておくと役に立つ資格をピックアップしてご紹介します。
建築模型技工士インストラクター
さまざまな建築模型の作成技術を実務レベルで習得できる資格です。専用の講座を受講することで取得でき、カリキュラムには建築模型の基礎知識や道具の種類、カメラの使い方、設計事務所における住宅設計プログラムなどがあります。
建築模型製作技能講座
未経験から副業などでスタートさせたい方に適した講座であり、初心者向けのテキストと建築模型の製作キットを通じて効率的に学習できるのがメリットです。
ミニチュアクリエイター
ミニチュアの住宅や食べ物などを作成する技術を身につけられる講座であり、細かな造作などをつくる際に役立てられます。
建築CADインストラクター
CADに関する資格は汎用性が高く、求人においてはCAD経験者が優遇されるケースも多いです。建築CADインストラクターは、CADの扱い方を基礎から学べる資格のひとつです。
特に、建築業界で利用されることが多い「AutoCAD」や「JW_CAD」といったCADソフトを実務レベルまで習得できるので、実践的なスキルを身につけられるのがメリットです。
2次元CAD利用技術者試験(基礎・2級・1級)
2D CADを利用した製図スキルや関連知識の保有を証明できる資格です。1級は1年以上の実務経験が必要となるため、取得できれば求職時には有効なアピール材料になります。
3次元CAD利用技術者試験(2級・準1級・1級)
3D CADに関するスキルや知識を証明できる資格であり、建築業や製造業で重宝されやすいのが特徴です。3D CADのみで設計から試作、検証、顧客への提示などを完結させるケースも増えてきているため、将来性を考えると優先的に取得しておきたい資格といえます。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:建築模型士とは?
A:住宅や施設などを建築する際に、設計された図案に沿ってミニチュア模型をつくる職業を指します。作成する模型には、お客さまに分かりやすく提示するための「プレゼンテーション模型」と、設計士などの専門家が検証するための「スタディ模型」の2種類があります。
Q:建築模型士になるには?
A:建築模型士としての働き方には、大きく分けて「企業内建築模型士として働く」か「フリーランス・副業で働く」の2パターンがあります。企業に就職する場合は、基本的に専業で任されるケースは少なく、営業や設計といった業務を並行して担うことが多いです。
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この記事を監修した人
岩納 年成(一級建築士)
大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。
土地の目利きや打ち合わせ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。