建築・施工管理

建築士法第25条の建築設計・工事監理等の業務報酬基準とは?ポイントを分かりやすく解説

建築士法第25条の建築設計・工事監理等の業務報酬基準とは?ポイントを分かりやすく解説

設計業務や工事監理業務を請け負う際には、建築士の意向で無制限に報酬を決められるというわけではありません。建築士法では、国が告示する「業務報酬基準」に準拠した代金を設定するように努めなければならないとされており、報酬の決まり方にはルールが設けられているのです。

今回は業務報酬基準の内容と具体的な計算方法、対象となる業務内容について詳しくご紹介します。また、2024年に行われた改定について、押さえておくべきポイントも併せて見ていきましょう。

目次[非表示]

  1. 1.建築士法における業務報酬基準とは?
  2. 2.業務報酬基準の計算方法
    1. 2.1.実費加算方法
    2. 2.2.略算方法
  3. 3.業務報酬基準の対象となる業務
    1. 3.1.建築士が行うことができる業務
    2. 3.2.標準業務
    3. 3.3.追加的な業務
    4. 3.4.略算方法になじまない業務
    5. 3.5.業務報酬基準になじまない業務
  4. 4.業務報酬基準の改正ポイント
    1. 4.1.略算表の改定
    2. 4.2.複合建築物に関する業務量の算定方法の見直し
    3. 4.3.業務の難易度による補正方法の見直し
  5. 5.この記事を監修した人
    1. 5.1.岩納 年成(一級建築士)

建築士法における業務報酬基準とは?

「業務報酬基準」とは、建築士が仕事を請け負うときの報酬について、国の告示によって具体的な計算方法を定めた基準です。建築士法第25条に基づくものであり、建築主と建築士事務所が設計・工事監理等の契約を行うときの業務報酬の計算方法などが示されています。

建築物の設計や工事監理は、建築士の独占業務となっています。そのため、報酬の不当な引き上げや、過当競争によって業務に支障が出ることを防ぐために、一定の基準が設けられているのです。

原則として、報酬は当事者間の合意のもとで定められるべきものであり、建築士事務所の独自の判断で決めることは可能とされています。しかし2014年の建築士法改正に伴い、第22条の3の4で、業務報酬基準に準拠した委託代金で契約を締結するよう「努めなければならない」と定められました。

あくまでも努力義務ではありますが、業務報酬基準が契約金額を決める重要な判断基準となるのは確かであるといえます。

(出典:e-Gov法令検索『建築士法』)

業務報酬基準の計算方法

業務報酬基準の計算は、主に2つの方法があります。費用を積み上げることで計算する「実費加算方法」と、実用性を考慮した「略算方法」の2種類であり、それぞれの考え方は異なります。

ここでは、国土交通省の『新しい業務報酬基準(令和6年国土交通省告示第8号)』をもとに、2つの計算方法について見ていきましょう。

実費加算方法

実費加算方法とはその名のとおり、実際にかかった費用を加算して計算する方法です。標準業務や追加的な業務が対象となり、直接人件費、直接経費、間接経費、特別経費、技術料等経費、消費税を個別に積み上げて合算します。

なお、それぞれの費用項目は、具体的に次のような費用を表しています。

費用項目

費用の内容

直接人件費

設計業務や工事監理などの業務に直接従事する者の人件費

直接経費

設計業務や工事監理などの業務のために直接必要となる人件費以外の費用

間接経費

建築士事務所を管理運営するために必要な費用のうち、当該業務に必要となる費用の合計

特別経費

建築主の特別な依頼に基づいて発生する費用

技術料等経費

設計業務や工事監理などの業務において発揮される技術力、創造力等の対価として支払われる費用

略算方法

略算方法は標準業務を対象としたより簡易的な計算方法です。まずは業務報酬基準の告示別添三に基づく「略算表」から直接人件費を算定し、これをもとに1.1を基本とする諸経費率をかけて直接経費・間接経費を含めた合計額を算出します。

そこに、個別に求めた特別経費や技術料等経費、消費税相当額を合算して、最終的な報酬金額を計算します。ここまでの流れを計算式にまとめると、以下のようになります。

■略算方法の計算式

不業務報酬=直接人件費×2.1+特別経費+技術料等経費+消費税相当


略算表とは、設計等の業務を行ううえで、標準的な業務内容である場合に必要な「業務人数・業務時間数」を建築物の類型・用途と面積に応じて示したものです。請け負う業務の内容と略算表を照らし合わせれば、直接人件費を簡易的に計算できるようになっています。

また、建築物の類型・用途については、別添二に詳しく記載されています。物流施設や教育施設などの15の類型から該当するものを選び、対応する略算表を参照して直接人件費を求めるのが基本的な流れです。

(出典:国土交通省『新しい業務報酬基準(令和6年国土交通省告示第8号)について』)

業務報酬基準の対象となる業務

業務報酬基準は建築士が行う業務のほとんどに適用可能です。ここでは、対象となる具体的な業務について解説します。

建築士が行うことができる業務

建築士が行うことができる業務は、建築士法第21条によって定められています。具体的には、「設計・工事監理」「建築工事契約に関する事務」「建築工事の指導監督」「建築に関する法令等に基づく手続きの代理」などが挙げられます。

業務報酬基準では、上記の業務を「標準業務」「追加的な業務」「略算方法になじまない業務」の3つに分けて取り扱います。

(出典:e-Gov法令検索『建築士法』)

標準業務

標準業務とは、個別の事例によって業務内容に大きな差が出ないとされる業務のことです。どのような業務が標準業務に該当するのかは、「令和6年国土交通省告示第8号」の別添一に詳しく記載されています。

たとえば、設計に関する標準業務としては、「設計条件の整理」や「インフラ供給状況の調査・関係機関との打ち合わせ」「各種図書の作成」「法令上の諸条件の調査」「概算工事費の検討」などが挙げられています。標準業務に含まれる業務内容は多岐にわたるため、別添の資料をもとに細かくチェックしておくことが大切です。

(出典:国土交通省『令和6年国土交通省告示第8号』)

追加的な業務

追加的な業務とは、業務報酬基準の対象となる業務のうち、標準業務に含まれないものです。標準業務に付随して行われるものについては、「令和6年国土交通省告示第8号」の別添四に詳しく記載されています。

たとえば、「立地や規模、事業の特性によって必要な許認可等に関する業務」「防災・減災、環境保全、地震に対する安全性等の評価に関する業務」「建築主以外の第三者に対する説明に関する業務」などが挙げられています。

(出典:国土交通省『令和6年国土交通省告示第8号』)

略算方法になじまない業務

略算方法になじまない業務とは、「建物の増改築・修繕、リノベーション」や「規模が著しく大きい・小さい建築物の施工」「複数の建築物の類型が混在するケース」などで発生する業務のことです。これらの業務については、略算方法では適切な費用を割り出すことが難しいため、実費加算方法を用いるのがふさわしいとされます。

業務報酬基準になじまない業務

業務報酬基準になじまない業務とは、そもそも標準的な計算が適していないイレギュラーな業務のことを指します。たとえば、「設計内容の芸術的性格が特に強い場合」「きわめて特殊な構造方法などを採用する場合」などが挙げられます。

これらの業務は、そもそも業務報酬基準に当てはめて報酬金額を決めるのが妥当といえないため、独自の計算方法で求めることとなります。

業務報酬基準の改正ポイント

2024年には実態調査の内容を踏まえて、5年ぶりに業務報酬基準が改正されました。最後に、主な改正のポイントをご紹介します。

略算表の改定

2024年の改正では、業務量に関する実態調査の結果を踏まえ、略算表の見直しが行われました。前回改定時に見送られた一戸建て住宅の業務量については、2026年から開始される「省エネ基準への適合義務化」に対応したものに変更されています。

また、設計・工事監理の標準業務には、「省エネ基準への適合に係る設計検討」「設計図書等の作成」が追加されています。

複合建築物に関する業務量の算定方法の見直し

近年増加傾向にある複合建築物については、用途や構造などにおいてさまざまなパターンが想定されることから、一律の略算方法を設けることは難しいと判断されました。そのため、今回の改正では複合建築物に関する業務量の算定方法が一本化され、シンプルなものになっています。

業務の難易度による補正方法の見直し

計算の補正を行う際の難易度係数については、よりきめ細やかに現状を反映させるため、複数の難易度係数を用いられる基準に改定されました。具体的には一戸建て住宅とそれ以外の建築物について、設計と工事監理等で異なる難易度係数を乗じることができるとされています。

たとえば特殊な形状の建築物または特殊な敷地上の建築物に該当する場合における一戸建て住宅の設計では1.29、工事監理等では1.59の難易度係数を乗じることが可能です。

(出典:国土交通省『新しい業務報酬基準(令和6年国土交通省告示第8号)について』)


●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。

Q:業務報酬基準とは?
A:
業務報酬基準とは、建築士が仕事を請け負うときの報酬について、建築士法第25条に基づいて具体的な計算方法を定めた基準です。建築士法第22条の3の4では、業務報酬基準に準拠した委託代金で契約を締結するよう努めなければならないと定められています。

Q:業務報酬基準の計算方法は?
A:
計算方法には「実費加算方法」と「略算方法」の2通りがあります。前者は実際にかかった費用を積み上げて計算する方法であり、後者は略算表に応じて人件費を概算し、それに合わせてその他の費用を計算していく方法です。

Q:2024年の業務報酬基準改定のポイントは?
A:
主な変更点としては、「略算表の改定」や「省エネ基準適合義務化を踏まえた標準業務の追加」が挙げられます。また、「複合建築物における業務量算定方法の一本化」や「難易度係数の見直し」も重要なポイントです。


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この記事を監修した人

岩納 年成(一級建築士)

大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。

土地の目利きや打合せ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。

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編集部
編集部
工務店・ビルダー、新築一戸建て販売会社様を支援すべく、住宅営業のノウハウや人材採用、住宅トレンドなど、様々なジャンルの情報を発信してまいります。

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