外壁の全面打診調査は義務?調査のタイミングと調査方法を分かりやすく解説
建築基準法第12条では、一定規模以上の建築物の所有者に対して、建物の敷地や設備・構造などについて定期的に調査・報告をする義務を定めています。この調査の一つとして定められているのが、外壁の「全面打診調査」と呼ばれる点検です。
今回は全面打診調査の対象となるケースや範囲、実施しなければならないタイミング、具体的な実施方法についてご紹介します。また、調査を怠ってしまった場合に生じるリスクについても詳しく見ていきましょう。
目次[非表示]
- 1.外壁の全面打診調査とは
- 1.1.調査対象となる建物の種類
- 1.2.調査対象となる外壁の種類
- 1.3.調査が必要な範囲
- 1.4.全面打診調査が必要ないとされる例外
- 2.全面打診調査の方法は2種類
- 3.全面打診調査を実施するタイミング
- 4.全面打診調査を怠った場合の罰則
- 4.1.100万円以下の罰金
- 4.2.事故が発生した場合の賠償責任
- 4.3.外壁の剥落による事故の事例
- 5.この記事を監修した人
- 5.1.岩納 年成(一級建築士)
外壁の全面打診調査とは
外壁の全面打診調査とは、特定の建物について、外壁の落下事故などを防ぐために行われる全面的な調査とのことです。公共の安全に影響を与える建築物については、タイルなどの外壁落下による重大な事故を予防するため、定期的な検査が義務付けられています。
ここでは、全面打診調査が義務付けられている対象と範囲、例外について見ていきましょう。
調査対象となる建物の種類
建築基準法第12条1項では、一定規模以上の建築物を「特定建築物」として調査対象としており、その所有者に対して定期的な報告を求めています。特定建築物とは、具体的には、病院・学校・大型商業施設・ホテル・劇場・一定規模を超えるマンションなどのことであり、公共の安全に影響を与える規模が大きい特定の建物のことです。
特定建築物の所有者・管理者は、建築物の劣化・損傷および維持保全状況などを有資格者(一級建築士・二級建築士または特定建築物調査員)に調査してもらい、その結果を特定行政庁に報告しなければなりません。その調査の一つとして、2008年の改正によって新たに義務化されたのが外壁の全面打診調査が挙げられます。
建築基準法により、一定規模以上の建築物の所有者に対し建物の敷地や設備・構造などについて定期的に調査・報告することが義務づけられています
(出典:e-Gov『建築基準法』)
調査対象となる外壁の種類
調査対象となる外壁の種類としては、外装仕上げ材などのうち、タイル・石貼り(乾式工法を除く)・モルタルなどによるものが挙げられます。また、乾式工法以外で、固定方法不明の仕上げ材についても、原則として調査対象になります。
乾式工法とは、あらかじめ工場で生産されたパネルや合板などを現場に運び、施工時に貼り 付ける方法を主とする工法のことです。主に住宅建築では主流の施工法となっており、「工期が短い」「品質が安定する」といったメリットがあります。
それに対して、湿式工法は古くから用いられている伝統的な工法であり、「手作業のため自由度が高い」「さまざまな素材を使えるため高級感が出やすい」といった点がメリットです。その半面、施工には高い技術が求められるため、施工不良やメンテナンス不足によって壁材の「浮き」が発生するリスクがあります。
そのため、湿式工法で塗り付けられた外壁については、全面打診調査という比較的に大がかりな点検が義務付けられているのです。
調査が必要な範囲
全面打診調査が必要とされる箇所については、「外壁材の落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」と規定されています。これは、壁の前面かつ壁面高さの2分の1の水平面内に、公道や不特定多数の人が通行する道・広場などを有するエリアのことです。
なお、外壁沿いに植え込みなどの人が立ち入らないエリアがある場合は、そこが落下地点となる範囲の外壁(植え込みなどの目の前にある一定範囲の外壁部分)については打診対象範囲から除かれます。
全面打診調査が必要ないとされる例外
全面打診調査は、以下のケースにおいては実施しなくても差し支えがないとされています。
■例外
1.当該調査の実施後3年以内に外壁改修もしくは全面打診等が行われることが確実である場合 |
「1」については、たとえば維持保全計画書などに外壁改修・全面打診の時期が明確に記載されており、その内容に沿って実施される見込みであるケースを指します。「2」については、壁面の直下に落下物防護ネットを設置している場合などが該当します。
全面打診の目的は、あくまでも不特定多数の通行者の保護にあるため、必要な対策が講じられていれば実施の義務を免れるというのが基本的な考え方です。
全面打診調査の方法は2種類
外壁の全面打診調査の方法には、「打診法」と「赤外線法」の2種類があります。ここでは、それぞれの特徴について解説します。
(出典:国土交通省住宅局『建築基準法施行規則の一部を改正する省令等の施行について(技術的助言)』)
打診法
打診法とは、テストハンマーなどの専用の道具を用いて実際に壁面を打診し、試験者の聴覚によって判定する方法です。低層建築物の場合は、脚立やアップスライダーなどを利用すれば調査が行えますが、中層以上の建築物では足場やゴンドラの設置が必要となります。
そのため、後述する赤外線法と比べると調査費用が高くなってしまうのが難点です。しかし、調査と同時に補修工事も行えるため、大規模修繕を行うタイミングと併せて実施する際に採用されることが多いです。
赤外線法
赤外線法は赤外線を用いて外壁の劣化状況を確かめ、補修を要するかどうかを判断する方法です。赤外線装置でタイルの表面温度を測定し、正常な部分と比較しながら浮きが発生した異常部分を見極めます。
ゴンドラや足場を使用しないため、打診調査と比べると安価で実施が可能であり、安全かつスムーズに調査できるのがメリットです。また、2022年1月からは国土交通省によって「ドローンによる赤外線外壁調査法」も認められることとなりました。
これにより、従来の「地上赤外線法」のデメリットとなっていた、「高所の測定の難しさ」や「外壁の方角や凹凸による精度の低下」などの課題を解消できる可能性があると考えられています。
無人航空機を用いた赤外線調査による方法の明確化
(出典:国土交通省『定期報告制度における外壁のタイル等の調査について』)
全面打診調査を実施するタイミング
国土交通省は2005年に「外壁タイル等の落下防止対策に関する指導文書」を出し、建築基準法に基づく定期報告制度を見直しました。その結果として、2008年4月1日から、一定の歳月が経過した特定建築物に対して、全面打診調査の実施が義務化されることとなりました。
全面打診調査が必要なタイミングは、一般的に「竣工や改修から10年以内」とされています。しかし、より具体的に言えば、以下の日付が属する年度の「次の年度の4月1日」から起算して10年を超え、「最初の報告日」までとされています。
- 検査済証の交付を受けた日
- 外壁の全面改修が完了した日
- 全面打診等調査を行った日
「最初の報告日」とは、特定建築物の用途ごとに自治体によって決められた定期調査報告の日付のことです。また、定期調査中の目視や部分打診などによって異常が認められた場合も、全面打診調査の実施が必要となります。
(出典:国土交通省『外壁タイル等落下物対策の推進について』)
全面打診調査を怠った場合の罰則
全面打診調査は法律で定められた義務であり、怠った場合には罰則が科される可能性もあるので注意が必要です。ここでは、調査を怠ることによって生じるリスクを3つのポイントに分けて整理しておきましょう。
100万円以下の罰金
建築基準法第101条によって、特定建築物の調査・報告を怠ったり虚偽の報告した場合には、「100万円以下の罰金」に処されることが定められています。この調査・報告には、当然ながら全面打診調査も含まれています。
(出典:e-Gov『建築基準法』)
事故が発生した場合の賠償責任
外壁の剥落などによって事故が発生した場合は、民法第717条による損害賠償責任も発生する可能性があります。717条では、「土地の工作物の設置または保存の瑕疵によって他人に損害を生じたときには、その占有者が被害者に対して賠償する責任を負う」とされています。
また、「ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」とされているので、所有者に責任が及ぶ可能性も十分にあるといえるでしょう。
(出典:e-Gov『民法』)
外壁の剥落による事故の事例
実際に、外壁の剥落による事故は数多く起こっています。国土交通省が公表している「特定行政庁より報告を受けた建築物事故の概要」によれば、2010年度から2019年度までの10年間だけでも、壁タイルなどの落下事故は58件も起こったとされています。
そのなかには、死傷者が出ている事故もあり、外壁剥落が深刻な被害をもたらすケースは珍しくありません。たとえば、2018年10月には神奈川県で地上9階建てのビルの屋上から金属製のパネルが落下し、直撃を受けた歩行者1名が死亡するという重大な事故が発生しています。
その後の調査により、剥落した箇所が「点検困難な場所にあった」「塩害を受ける風雨に長年さらされていた」ことが原因とされており、定期点検・補修が適切に行われていれば防げた事故であると考えられます。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:外壁の全面打診調査はどのように行われる?
A:専用のハンマーで壁面を打診し、試験者の聴力で調査する打診法と、赤外線による調査を行う赤外線法があります。2022年からは、ドローンを用いた赤外線調査も国土交通省によって認められるようになりました。
Q:外壁の全面打診調査はいつ行うべき?
A:一般的には竣工・改修から10年ごとに1回行う必要があるとされています。また、定期調査(目視や部分打診など)によって異常が認められた場合にも、全面打診調査を行う必要があります。
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この記事を監修した人
岩納 年成(一級建築士)
大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。
土地の目利きや打合せ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。