建築・施工管理

建築基準法における積雪の基準とは?積雪荷重の算定方法と屋根の落雪対策について解説

建築基準法における積雪の基準とは?積雪荷重の算定方法と屋根の落雪対策について解説

建築基準法では、一定の建築物について積雪に関する基準が設けられています。建物の安全を守るためには、積雪による負荷(積雪荷重)を計算し、十分に耐えうるつくりを実現しなければなりません。

今回は建築基準法で定められた積雪の基準や積雪荷重の算定方法、屋根の落雪対策について詳しく解説します。

目次[非表示]

  1. 1.建築基準法上の積雪の基準
    1. 1.1.積雪荷重
      1. 1.1.1.■垂直積雪量
      2. 1.1.2.■積雪の単位荷重
      3. 1.1.3.■屋根形状係数
      4. 1.1.4.■レベル係数
  2. 2.積雪に対する構造計算
  3. 3.屋根における4つのタイプの落雪対策
    1. 3.1.融雪ネット
    2. 3.2.雪止め
    3. 3.3.融雪システム
    4. 3.4.無落雪屋根
  4. 4.屋根以外の部分の積雪対策
    1. 4.1.融雪剤をまく
    2. 4.2.散水ホースを設置する
    3. 4.3.雪囲いを設置する
  5. 5.この記事を監修した人
    1. 5.1.岩納 年成(一級建築士)

建築基準法上の積雪の基準

建築基準法では、建物の安全性を確保するために、積雪に関する基準が設けられています。具体的には、構造計算を必要とする建築物(木造以外の建物で2階以上の階数を有する、または延べ面積が200平米を超えるものなど)について、地域の状況に応じた「積雪荷重」を算定するとともに、構造計算で積雪時の構造耐力上の安全性が保たれることを検証することとされています。
まずは、積雪荷重の計算方法と考え方について見ていきましょう。

積雪荷重

積雪荷重とは、積雪によって建築物に加わる重さのことです。建築基準法施行令第86条では、「積雪荷重は、積雪の単位荷重に屋根の水平投影面積およびその地方における垂直積雪量を乗じて計算しなければならない」とされています。

具体的な計算式に反映させると、「垂直積雪量×積雪の単位荷重×屋根形状係数×レベル係数」で求めることができます。

(出典:国土交通省『建築基準法における積雪に関する基準について』)
(出典:e-Gov『建築基準法施行令』)

■垂直積雪量

「垂直積雪量」とは、国土交通大臣が定める基準に基づいて、各都道府県・市区町村が定める積雪量のことです。全国423地点の気象官署で収集された過去の数十年分のデータを基に、「区域の標準的な標高」と「区域の一定範囲に占める海域などの面積が占める割合」を考慮して、特定行政庁が規則で定めています。

■積雪の単位荷重

積雪の単位荷重は、建築基準法施行令の第86条2項により、「一般の地域で積雪1㎝当たり20N/平米以上としなければならない」と定められています。また、多雪地域では特定行政庁によって異なる定めを設けることができるとされており、1㎝当たり30N/平米以上が目安とされます。

(出典:e-Gov『建築基準法施行令』)

■屋根形状係数

屋根形状係数とは、屋根の角度や勾配を考慮する際に用いられる係数のことです。屋根に雪止めがない場合は、計算式に屋根形状係数(0≦1)を掛けて、積雪荷重を「軽減」することができます。

基本的な考え方としては、勾配が急なほど雪が積もりにくいため、積雪荷重が軽減されるということです。屋根形状係数は特定行政庁が別途で定めていることもありますが、基本的には√cos(1.5β)で求めることができます。(β:屋根の勾配)

なお、雪止めがなく、屋根の勾配が60度     を超える場合は屋根形状係数が「0」になり、積雪荷重も「0」とすることができます。これは、60度以上の急な勾配であれば、屋根に雪が積もることはないと考えるという意味です。

■レベル係数

レベル係数とは、風向きや気温、雪質などによって荷重を割り増さなければならない場合に用いられる係数です。そのため、特に指定がない場合は「1.0」とされます。

積雪に対する構造計算

続いて、積雪に対する構造計算の考え方について見ていきましょう。構造計算では、長期および短期の各応力度が、材料ごとに定められた長期・短期に生じる力に対する各許容応力度を超えないようにしなければなりません。

具体的な計算式は、以下のように定められています。

(出典:国土交通省『建築基準法における積雪に関する基準について』)

「固定荷重」とは、建物そのものの重さのことです。また、積載荷重とは「人や家具の重さ」を指します。

長期かつ一般の場合は、基本的に固定荷重と積載荷重のみで計算を行うことが可能ですしかし、多雪区域の場合は、長期であっても積雪時想定では「0.7掛けした積雪荷重」を加える必要があります。

また、短期における積雪時想定の計算では、一般も多雪区域も固定荷重・積載荷重・積雪荷重をすべて加えることとなります。そして、特に注意が必要なのは、多雪区域では「暴風時や地震時にも一定の積雪荷重を考慮しなければならない」という点です。

このように、多雪区域のほうがより厳しい基準が適用されることが分かります。

屋根における4つのタイプの落雪対策

屋根の落雪対策としては、以下の4つのアプローチが考えられます。

  • 融雪ネットを取り付ける
  • 雪止めを設置する
  • 融雪システムを設置する
  • 無落雪屋根を選ぶ

ここでは、それぞれの対策のポイントについて解説します。

融雪ネット

融雪ネットとは、屋根に敷いて雪を溶かすネット状の装置のことです。網目状のヒーターが内蔵されており、必要に応じて発熱することで雪を溶かすという仕組みです。

屋根の大きさや形状に合わせて取り付けることができ、雪や氷が固まるのを防ぐため、雪下ろしや落雪の心配がなくなるのがメリットといえます。なお、費用は設置面積によっても異なりますが、100万円程度が目安とされます。

雪止め

雪止めは、屋根に設置することで雪が落下するのを防ぐ金具のことです。屋根のさまざまな箇所に扇形や羽根付きなどの雪止め金具を取り付ける方法や、屋根の軒先に網状の雪止めネットを取り付ける方法などがあります。

雪止め金具の場合は、金具そのものがサビることで、屋根全体にまでサビが広がってしまう「もらいサビ」に注意が必要です。また、雪止めを設置する場合は、前述した「屋根形状係数」を反映できなくなり、雪止めなしの場合に比べて積雪荷重が大きくなってしまう点にも注意しておかなければなりません。

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屋根の落屑対策には、屋根に雪止め装置を設置するなどの方法が考えられます

融雪システム

融雪システムとは、屋根にパイプやヒーターを設置して雪を溶かす装置のことです。電気や灯油を熱源として、屋根の表面を温めることで雪を溶かすという仕組みであり、屋根の大きさや形状に合わせて設置できます。

無落雪屋根

無落雪屋根とは、あらかじめ雪が落ちないように設計された屋根のことです。代表的なものとしては、屋根の勾配を極端に抑えた「フラットルーフ方式」が挙げられます。

積雪量が多い地域などにおいて、雪下ろし作業をなくせたり、あるいは回数を減らせたりするというメリットがあります。傾斜がほとんどないため落雪の心配はありませんが、雪の重量によって建物への負荷が大きくなりやすいため、建物の構造を積雪荷重に十分耐えうる設計にする必要があります。

特に北海道などでは、屋根の中央部に広めの排水ダクトを設置し、中央に向けて屋根を傾斜させる「スノーダクト方式」が用いられることもあります。

この方法であれば、屋根に積もった雪は中央に向けて流れていくため、落雪の心配は全くありません。ただし、排水ダクトに泥や落ち葉、あるいは氷などが詰まると雨漏りが発生する場合もあるため、定期的なメンテナンスや対策が必要とされます。

屋根以外の部分の積雪対策

建物の積雪対策では、屋根以外の箇所にも十分に気を配る必要があります。ここでは、以下の対策方法について、具体的なポイントをご紹介します。

  • 融雪剤をまく
  • 散水ホースを設置する
  • 雪囲いを設置する

融雪剤をまく

比較的手軽に試せる方法として挙げられるのが、融雪剤の散布です。塩化カルシウムや塩化マグネシウムなどの融雪剤はホームセンターでも市販されているため、簡単に入手することができます。

玄関や駐車場、住宅を囲む歩道に散布しておけば、雪が固まるのを防ぎ、転倒事故などの予防につながります。なお、融雪剤に用いられる化学物質には、それぞれ異なる特徴があるので状況に合わせて選ぶのがコツです。

もっとも凝固点が低い塩化カルシウムは、短時間で雪を溶かすことができるため、すでに凍結してしまった道などに使用するのが適しています。一方、塩化マグネシウムや塩化ナトリウムは持続効果の高さと価格の安さに特長があります。

散水ホースを設置する

積もってしまった雪を溶かすために、融雪用の散水ホースを用意しておくのも一つの方法です。蛇口に差し込むだけで使えるため、屋外に専用の蛇口を設けておくとよいでしょう。

雪囲いを設置する

雪囲いとは、玄関や庭、窓などの出入り口に雪が積もり、ふさがってしまうのを防ぐための柵のことです。簡易的なものであれば数万円程度で取り付けることも可能です。

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建築基準法における積雪の基準として、積雪荷重の算定方法や構造計算時の注意点を確認しておきましょう


●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。

Q:積雪荷重とは?
A:
積雪荷重とは、積雪によって建築物に加わる重さのことです。具体的には、「垂直積雪量×積雪の単位荷重×屋根形状係数×レベル係数」の計算式で求めることができます。

Q:屋根の落雪対策にはどんな方法がある?
A:
融雪ネットや融雪システムなど、熱源となる装置を屋根に取り付ける方法が挙げられます。ほかにも、雪止めや、無落雪屋根を取り入れれば、落雪そのものを防ぐことも可能です。ただし、豪雪地帯では落下しなかった雪の重みが建物に加わる点に注意が必要です。


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この記事を監修した人

岩納 年成(一級建築士)

大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。

土地の目利きや打合せ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。

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編集部
編集部
工務店・ビルダー、新築一戸建て販売会社様を支援すべく、住宅営業のノウハウや人材採用、住宅トレンドなど、様々なジャンルの情報を発信してまいります。

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