自動車は通ることが可能?袋地通行権(囲繞地通行権)と幅員の関係・制限を解説
袋地の購入・活用を考える際には、公道へ出るための「袋地通行権(囲繞地通行権)」の仕組みやルールを正しく理解しておかなければなりません。袋地通行権の内容や範囲には、通路幅員などの周辺環境も大きく関係してくるため、状況に合わせた判断が求められます。
今回は袋地通行権の基本的な仕組みと通行料などのルール、自動車が通行できる可能性の有無などを民法や判例に照らし合わせて解説します。
目次[非表示]
- 1.袋地通行権とは
- 2.袋地通行権と幅員の関係と制限
- 2.1.通行場所・方法はもっとも損害の少ないものを選ばなければならない
- 2.2.自動車が通れるかどうかはケースバイケース
- 2.3.袋地通行権は原則有償
- 2.4.接道義務にも注意が必要
- 3.袋地通行権の通行料が無償になるケース
- 3.1.もともと通行料が無償だった
- 3.2.分筆・譲渡で袋地になった
- 3.3.共有していた土地を分割することで袋地になった
- 3.4.競売によって袋地になった
- 4.袋地通行権をめぐるトラブルや注意点
- 5.この記事を監修した人
- 5.1.岩納 年成(一級建築士)
袋地通行権とは
「袋地」とは、他人の所有地に囲まれて、そこを通らなければ公道へ出られない土地のことです。また、袋地を囲んでいる土地を「囲繞地(いにょうち)」と呼びます。
袋地はそのままでは公道に出入りすることができないため、たとえ所有していたとしても活用方法は極端に限定されてしまいます。そこで、民法第210条1項では、袋地の所有者に対して次のような権利が定められています。
民法第210条1項 |
(出典:e-Gov法令検索『民法』)
一般的には「袋地通行権」と呼ばれることも多いですが、「袋地を通行できる権利」ではなく、「袋地の所有者が他者の所有する囲繞地を通行できる権利」を指しているので、誤解がないように注意が必要です。
このように、袋地通行権は法律上当然発生する権利であるため、囲繞地の所有者には「自分の土地を勝手に行き来されてしまう」という不利益が生じます。
そこで、囲繞地の所有者の不利益を考慮し、袋地通行権にはさまざまな制限が設けられています。
袋地通行権と幅員の関係と制限
ここからは、袋地通行権で自動車の通行が可能かどうかについて詳しく見ていきましょう。そのためにはまず、袋地通行権に関する基本的なルールを把握しておく必要があります。
通行場所・方法はもっとも損害の少ないものを選ばなければならない
民法第211条1項によって、袋地通行権には以下の制限が定められています。
民法第211条1項 |
(出典:e-Gov法令検索『民法』)
このように、袋地通行権では、原則としてもっとも損害が少ないルート・方法を選ばなければならないという前提を押さえておく必要があります。
自動車が通れるかどうかはケースバイケース
結論から言えば、自動車で通行できるかの判断は個別の事案によるといえます。民法では、囲繞地の自動車通行について直接的な記載はありません。
しかし、平成18年の判例では、「自動車による通行を前提とする囲繞地通行権の成否および内容は、自動車通行を認める必要性と周辺の土地の状況、周辺の土地の所有者が被る不利益等を総合考慮して判断すべきである」と判示されています。
(参考:裁判所 最高裁判所判例集『最判平18年3月16日民集60巻3号735頁』)
たとえば、公道から袋地までの距離が相当あり、自動車の通行が認められないと生活に大きな支障をきたす場合であれば、自動車の通行を認める必要性は高いと考えられるでしょう。また、既存の道路ですでに自動車の通行が行われている場合も、囲繞地の所有者へ新たに与える不利益は小さいため、比較的に認められやすいと考えられます。
しかし、そもそも土地の幅員が狭く、自動車の通行を認めるとほかの利用者に大きな危険が及ぶ可能性がある場合には、自動車の通行が認められなかったケースもあります。特にこれまで自動車の通行が行われていない場合は、通路を拡幅したり別の土地に通路を設けたりする必要があるため、自動車通行が認められるハードルは高いといえるでしょう。
袋地通行権は原則有償
なお、民法第212条の規定により、袋地通行権では基本的に「通行料」が必要となります。
民法第212条 |
(出典:e-Gov法令検索『民法』)
具体的な金額については、法的な定めがないため、原則として当事者間の話し合いで決める必要があります。基本的には周辺の袋地通行権や駐車場料金などを参考にすることが多いです。
また、新たに道路を開設する必要がある場合は、その際の費用負担は袋地の所有者が負担しなければなりません。
接道義務にも注意が必要
袋地通行権と幅員について考えるうえでは、「接道義務」にも注意する必要があります。接道義務とは、新たに建物を建てる際に、その敷地が「幅員4m以上の道路に2m以上の間口で接していなければならない」というルールのことであり、建築基準法の第42条、第43条で定められた決まりです。
袋地そのものは接道義務を果たしていないため、新たに建物を建てるためには、囲繞地において少なくとも「間口2メートル」以上の幅員を認めてもらわなければなりません。接道義務をクリアできるかどうかは、土地を活用するうえで重要なポイントとなるため、必ず事前に確認しておきましょう。
袋地通行権の通行料が無償になるケース
これまで見てきたように、袋地通行権を利用するためには、原則として囲繞地の所有者に通行料を支払わなければなりません。通行料の支払い方法については特に決まりがありませんが、基本的には1年ごとに償金を払うこととされます。
ただし、どのような場合も通行料が必要というわけではありません。ここでは、通行料が無償になるケースをご紹介します。
もともと通行料が無償だった
前の所有者の時点から通行料が無償だった場合は、すでに「無償の通行地役権」が発生しているとみなされるため、囲繞地の所有者が新たに通行料を請求することはできません。
地役権とは民法第280条で定められた権利であり、続く第281条で示されているように、基本的には所有者が変わった場合でもそのまま引き継がれることとなっています。ただし、登記が正しく行われていない場合は、新たな所有者に対抗できないため注意が必要です。
民法第280条 民法第281条 |
(出典:e-Gov法令検索『民法』)
分筆・譲渡で袋地になった
民法第213条では、もともとは公道に面していた土地が分筆や譲渡によって袋地になった場合、袋地通行権に関する償金支払いは必要がないと設定されています。
民法第213条1項 民法第213条2項 |
(出典:e-Gov法令検索『民法』)
共有していた土地を分割することで袋地になった
共有していた土地を分割したことにより、袋地が発生したケースにおいても、上記と同じように袋地通行権は無償となります。
競売によって袋地になった
競売によって袋地が生じた場合も、上記の民法213条が適用され、基本的には無償の袋地通行権が発生します。
袋地通行権をめぐるトラブルや注意点
袋地通行権は他者の所有地を行き来する権利であることから、どうしてもトラブルを引き起こしてしまいやすい側面があります。ここでは、関連する代表的なトラブル例を見ていきましょう。
第三者に賃借した結果、袋地通行権を認めてもらえなくなった
代表的なケースとして挙げられるのが、所有していた袋地を第三者に貸したところ、囲繞地の所有者から「第三者の袋地通行権は認められない」と拒否されてしまうというものです。しかし、袋地通行権は人に紐づく権利ではなく、「土地に紐づく権利」です。
そのため、袋地や袋地に建てられた建物の借主にも袋地通行権が認められます。
工事用車両の通行に協力を頼んだが拒否されてしまった
過去には、袋地の建物を解体するために工事車両通行への協力を囲繞地の所有者に依頼したところ、拒否されてしまうというケースもありました。これについて、東京高等裁判所の判例では、民法209条1項を取り上げ、同条が適用されることを示しています。
民法第209条1項 |
(出典:e-Gov法令検索『民法』)
また、「建物の解体の必要性」「工事期間・通行時間」「重機の必要性」などを考慮し、本件では工事車両の通行は認められるものと判断されました。ただし、工事車両以外の自動車の袋地通行権については、もともとの建物が空き家だったことや解体予定であることを踏まえ、「日常生活に不可欠な利益とはみなされない」とされ、認められないという判決が出ています。
このように、同じ袋地であってもどこまでの権利が認められるのかは、あくまでもケースバイケースであるため注意が必要です。
無償の通行地役権が正しく引き継がれていない
袋地通行権に関する代表的なトラブルとして、前所有者から「無償で袋地を通行できる」と聞いて建物を購入したところ、囲繞地の所有者から「そうした契約は行っていない。通行料を払ってほしい」と言われてしまうケースが挙げられます。先にも述べたように、この場合は、厳密に言えば「無償の通行地役権」が生じていたかどうかが重要なポイントとなります。
登記などで、前所有者のときから通行料が無償であったことを証明できれば、支払う必要はないと考えられるでしょう。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:袋地通行権とは?
A:袋地とは他の所有者の土地(囲繞地)を通らなければ公道へ出られない土地のことです。袋地の利用のために、囲繞地を行き来できる権利のことを「袋地通行権(囲繞地通行権)」と呼びます。
Q:袋地通行権で自動車の通行は認められる?
A:囲繞地の自動車通行が認められるかどうかは、あくまでケースバイケースです。たとえば、「以前から自動車通行が行われていたかどうか」「自動車の通行が生活上必要不可欠かどうか」「十分な幅員を確保できるかどうか」「囲繞地の所有者にどのような損害やリスクを与えるか」などの要素を踏まえて、総合的に判断されることとなっています。
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この記事を監修した人
岩納 年成(一級建築士)
大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。
土地の目利きや打合せ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。