建築主から突然工事をキャンセルされたらどうする?工事着工前と着工後の対処方法について解説!
目次[非表示]
- 1.工事の解除に関する民法のルール
- 2.工事の解除時の請求
- 3.工事着工前と着工後に請求できる費用
- 4.トラブルになった際の解決方法
- 4.1.1.仮差押え
- 4.2.2.通常訴訟・少額訴訟
- 4.3.3.強制執行
- 5.執筆者
工事の解除に関する民法のルール
請け負った工事に問題がないのに、建築主から突然キャンセルの申し入れがあった場合、工事を継続することができるのか、報酬についてはどうなるのかという問題があります。
請負契約の解除について、民法641条では、「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる」と規定されており、建築主(注文者)はどのような理由であっても、請負契約をキャンセルすることが可能です。
したがって、請負い会社は建築主からキャンセルの申し入れがあった場合には工事を継続することはできず、損害賠償による金銭的解決しか方法がありません。
【参考】
民法641条(注文者による契約の解除)
請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。 |
工事の解除時の請求
建物の工事を建築主が途中でキャンセルした場合、未完成工事の施工済み部分(既施工部分)の工事代金(出来高)を請求できる場合があります。
建物の工事の途中で、理由を問わず工事請負契約が終了した場合、途中まで出来上がった建物が残されることになりますが、この途中まで出来上がった建物に対して何も報酬が支払われないのは請負い会社 にとって不公平な結果となってしまいます。
そこで、以下のいずれかの理由で請負契約が中途終了する場合において、途中まで出来上がった建物の給付によって建築主(注文者)が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなして、請負い会社に出来高に対応する報酬を請求することができます。
- 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
- 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
なお、建築主(注文者)の責任で工事を最後まで終えられなかった場合は、請負い会社 は建築主(注文者)に対して損害賠償を請求できます。なお、出来高は請負代金そのものであるため、損害賠償とは異なる請求となります。
したがって請負い会社は、建築主(注文者)に対して損害賠償を請求すると同時に、出来高の支払いも併せて請求できることになります。
【参考】
民法634条(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。 一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。 二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。 |
工事着工前と着工後に請求できる費用
工事着工前にキャンセルされた場合、工事に必要な資材や設備の仕入れ費用、下請け会社や職人さんを手配していた場合については当該費用、契約締結までに打ち合わせや設計に要した実費や人件費等を請求できる可能性があります。
また、工事が完成していれば得られていたであろう利益(逸失利益)も請求することができます。
工事着工後にキャンセルされた場合は、請負い会社 がキャンセル時までに行った仕事に相応する代金分(出来高)を請求できることになります。出来高は、工事全体の進捗程度(出来高割合)によって計算することになりますが、工程表や契約書添付の内訳書などを参考に算出されることが多いです。
また、工事着工前と同様、工事が完成していれば得られていたであろう利益(逸失利益)も請求できる可能性があります。理論的には出来高部分の報酬請求と損害賠償請求は両方請求できることになりますが、実質的にはその内容は、重なり合うことになります。
上記以外に、違約金の定めが契約書にある場合は、当該違約金も相当といえる範囲で請求可能です。工事のどの段階においても、建築主(注文者)から工事のキャンセルの申し入れがあった場合、その旨を必ず書面(メールでも可)で受け取るとよいでしょう。
また、可能であれば、キャンセルの理由を明確にしてもらうことが望ましいでしょう。キャンセルが請負い会社 側の問題によるものか、建築主(注文者)都合によるものかによって、その後の対応が異なります。発注者都合であれば、その点を文書で確認し、明示してもらうことが重要です。これにより、後日請負い会社側の問題であるとされることを防ぐことができます。
さらに、キャンセルの申し入れがあった時点で、資材や設備の発注、作業員の手配は速やかにキャンセルまたは中止しなければなりません。発注者から明確にキャンセルの申し出があったにもかかわらず、その後請負い会社 の対応が遅れ、その結果として追加費用が発生した場合、その費用について損害賠償を請求することができない可能性があります。
最後に、キャンセル時点での工事の進捗状況や現場の状況を記録するために、写真撮影などの証拠を残すことが必要です。後に別の会社 が工事を引き継ぐ場合、出来高の査定が正確に行えなくなる恐れや、新たな会社から瑕疵(かし)を指摘されるリスクを防ぐためです。
トラブルになった際の解決方法
建築主(注文者)都合で工事請負契約が中途解除された場合、損害賠償請求や出来高請求を行いたい場合には、弁護士への依頼が推奨されます。
裁判所を利用しない解決方法として、請負い会社と建築主(注文者)が話し合いを行う方法です。弁護士が交渉に加わることも可能ですが、相手が応じなければ解決しません。
法的手続きを通じた解決方法について、いくつか紹介いたします。
1.仮差押え
裁判前に相手方の財産を動かせなくする手続きです。勝訴しても相手に資産がなければ回収できないため、事前に財産を差し押さえることが重要です。
2.通常訴訟・少額訴訟
法的根拠に基づいて裁判官に判断を仰ぐ方法です。支払いが60万円以下の場合、少額訴訟を選ぶこともできます。
3.強制執行
勝訴や和解後、相手が内容を実行しない場合、裁判所に申し立てを行い、相手の財産を差し押さえる手続きです。
これらの方法により、損害賠償や出来高の回収を図ることが検討されます。建築主と話して金額に折り合いがつかない場合は、早めに弁護士に相談することがいいでしょう。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:工事が着工前にキャンセルされた場合、請負い会社 はどのような費用を請求できますか?
A:工事着工前にキャンセルされた場合、請負い会社 は、資材や設備の仕入れ費用、下請け会社 や職人への手配費用、打ち合わせや設計にかかった実費や人件費を請求することができます。また、工事が完成していれば得られたであろう利益(逸失利益)も請求対象となる可能性があります。
Q:建築主から工事をキャンセルされた場合、請負い会社 が取るべき対応は何ですか?
A:建築主から工事キャンセルの申し入れがあった場合、その旨を必ず書面(メール可)で受け取ることが重要です。さらに、キャンセルの理由を明確にしてもらい、文書で確認しておくと後々のトラブルを防げます。もしキャンセルが請負い会社側の問題でない場合、建築主都合であることを確認し、資材や作業員の手配を速やかに中止することが求められます。現場の進捗状況や状況証拠として写真を残すことも大切です。
●関連コラムはこちら
≫ 隣地境界線とは?確認方法と建築時に隣地境界線のトラブルを回避する方法
≫ 土地の越境物には“覚書”が重要! 記載内容を紹介
執筆者
弁護士法人コスモポリタン法律事務所
杉本 拓也(すぎもと たくや)
単なる法的助言を行う法律顧問ではなく、企業内弁護士としての経験を活かして、事業者様により深く関与して課題を解決する「法務コンサルタント」として事業者に寄り添う姿勢で支援しております。国際投融資案件を扱う株式会社国際協力銀行と、メットライフ生命保険株式会社の企業内弁護士の実績があり、企業内部の立場の経験も踏まえた助言を致します。