<新着>コストプッシュによる住宅価格高騰。それでも都心近郊で物件を購入したい居住者が選ぶのは・・・
LIFULL HOME’S総研の中山です。
前回に続いて、住宅価格の高騰に関するユーザーの対策・対処方法についてお話ししたいと思います。
前回は、単身世帯もしくは2人世帯だから平屋でもよいと思っている人が増えている、という趣旨のコラムをお届けしましたが、今回は家族と一緒に安心して住める自宅が欲しい、でも予算は限られているし夫婦ともに都内に勤務先があるので郊外に転居するのは現実的じゃない、と考えている多くのファミリー層がたどり着く住宅をテーマに取り上げます。
そのファミリー層がたどり着く答えの一つが、市街地中心部から程近いエリアに建つ“狭小3階建て住宅”です。土地の容積率・建ぺい率によっては4階建ても可能ですが、狭小な区画に3階建ての一戸建て住宅を建設もしくは購入するケースが多くを占めています。
ファミリーの居住スペースとプライバシー確保、通勤&通学も便利でマンションにはない自由度も
“狭小住宅”は既に一般に認知されている言葉ですが、“タワーマンション”などと同じく実は明確な定義はなく、おおむね15坪前後の土地=狭小地に建てられる住宅のこととされています(20坪未満の土地に建つ住宅との見解も見受けられますが都内だと現状ではほぼすべてが狭小住宅になってしまいます)。
狭小住宅のメリットは、主に経済的側面から語ることができます。
すなわち、狭小地なので土地の取得コストが比較的安価であること(都心ではそうも言っていられない状況ですが)、「小規模宅地等の特例」の適用対象であれば固定資産税・都市計画税の負担も少なくできること、多少狭くても住宅地として人気のエリアや利便性の高い市街地中心部に物件取得ができること、狭小でありながらさまざまな工夫によってデッドスペースを極力減らし効率的な居住空間を得られること、などがアピールポイントです。
勤務先や学校にも30分圏内であるとか、マンションよりも独立性が高く住宅の自由度も増すなど、コスパ、タイパに加えてスぺパ(スペースパフォーマンス)も高いのは、大きな魅力といえるでしょう。
また、天井高を高めに取って収納スペースを増やしたり、空間の開放感を高めたりといった工夫も狭小住宅ならではのポイントです。土地が狭いことをネガティブに捉えるのではなく、立地条件や建築条件を最大限活用して“狭いながらも楽しいわが家”にすることができるのが、都心近郊に住みたいユーザーにとって重要なのです。
もちろん、土地が狭いといっても階段や廊下など動線部分を含めて100m2程度の居住面積は創出できるわけですから、ファミリー層でもお互いのプライバシーを確保しつつ快適に生活することができますし、一戸建ては可変性も高いため、ライフステージが変化しても適宜改修しながら住み続けることができます。
メリットばかりじゃない 狭小3階建て住宅で留意すべきこと
いいことずくめの狭小3階建て住宅ですが、建築するにあたってはいくつか留意すべき点もあります。
まず、建築コストがやや割高になることが挙げられます。一般に3階建て住宅は2階建て住宅よりも工期も含めて1.5倍程度の建築費がかかるとされ、資材価格・人件費が高騰している現状では想定以上の大きな負担が発生する可能性も考えておく必要があります。
もちろん資材の共同購入やDXの導入による業務効率化など、原価をなるべく上げない工夫がユーザーへの大きなアピールになります。特に今後は住宅の断熱性・省エネ性に大きな注目が集まりますし、併せて気密性や防音性にも配慮が必要ですから、隣接する建物との関係性も狭小3階建て住宅においては留意しなければなりません。
また、これは避けられないことですが、3階建てである以上、上下の動線・移動が負担に感じられることはあり得ます。
現状ではよくても、年齢を経るにつれて階段の上り下りは負担になることが多いので、あらかじめ高齢化に備えてバリアフリーにすること、階段の傾斜を検討すること、手すりや足元照明を設置することなど、細かい配慮も大切です。
さらに、一戸建て住宅ですから長くお住まいになることを前提に、収納スペースの確保や日照・通風の工夫も見逃せない留意点ですが、これらの要素をすべて必要かつ十分に満たすとなると、どうしてもコストがかさんでしまいますから、ここはコストと居住性とのバランスをどのように取るのかが、腕の見せどころということになります。
吹き抜けや収納以外でも使用可能なロフトスペースを設置して生活空間を演出したり、スキップフロアやライトヤードもしくは坪庭的なスペースを確保して動線や視界にアクセントを加えることなども、ユーザーに好まれる工夫です。
このように、限られた土地に家を建てる狭小住宅では、一般的な一戸建て住宅に比べて建築コストや生活動線、採光・通風といった要素を特に念入りに検討・工夫し、コストと居住快適性のバランスを取る必要があります。
現状では大手ハウスメーカーも狭小住宅に注力し始めていますから、その特性に配慮した提案やエリアの適性に合わせた独自の工夫などが受注に向けた第一歩となります。
コストはとても重要な要素ですが、コストを絞るだけではイメージに合致した住宅はできませんから、コストをかける理由が明確な住宅、必要なものにしっかりコストをかけて無駄を省いた住宅などを提案できるよう、工夫を重ねていただきたいと思います。
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