コストプッシュによって住宅価格は今後も上昇し続けるのか?それとも・・・
LIFULL HOME’S総研の中山です。
2025年に入っても円安傾向には大きな変化がなく、また建設業・運輸業の2024年問題に端を発した建設費&人件費の上昇も有効な解決策はほぼ皆無です。
このような状況が続いて住宅価格の上昇にも変化がなければ、住宅を購入したり、新たに自分の希望が叶う住宅を建てようと考えるユーザーが徐々に減少してしまうことは否めませんが、果たしてこの傾向にはいつ歯止めがかかりそうなのか、また変化の兆しはあるのかについて検証していきたいと思います。
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為替相場の動向:日米の政策金利差拡大による円安傾向に若干の変化あり?
2025年1月に2期目がスタートしたアメリカのトランプ政権ですが、自ら掲げた政策を実現するため、就任直後から大統領令を連発して日米欧を中心とした経済環境に影響を与え始めています。
この“トランプ2.0”と言われる政策は、
①規制緩和とトランプ減税による内需拡大
②関税引き上げによる国内産業の保護と主な製造業の国内回帰
③パリ協定からの離脱を前提とした石油や鉱物資源などの増産と輸出振興
などです。
これまで円安や人民元安をアメリカにとって大惨事と言ってきたトランプ大統領ですが、経済政策はいずれもインフレ&ドル高を招く可能性の高いものばかりですから、FRBはようやく沈静化し引き下げることができた政策金利を、再びインフレ抑止のために引き上げざるを得なくなる可能性が高まっています。
したがって、仮に日米の金利差が再び拡大するような事態になれば、円安には今後も歯止めがかからないと考えるべきでしょう。2021年1月に1ドル=103円台だった為替相場は2024年7月には1ドル=160円台に突入しましたから、わずか3年半で円の価値は約45%も落ちたことになります。
ただし、トランプ政権下で上記②の関税引き上げのタイミングや利率などについては依然不透明であるため、就任直後の警戒感が薄れて足元では1ドル=150円前後で推移しており、やや円高に振れている状況です(ドル建ての対米貿易黒字についてドルを売って円に換える動きも円高の一因です)。
建設資材の多くを輸入に頼る日本では、2021年に発生した輸入木材価格の急騰=ウッドショック以降、国産材の使用が徐々に拡大してはいますが、資材の大半を輸入に依存する構造には変化はなく、やはり今後の住宅価格を左右する要因としての日米の為替相場および政策金利の動きには今後も注視する必要があります。
建設業・運輸業の人件費の動向:上昇は2025年に入って頭打ちに?
続いて残業を含む労働時間に総量規制をかける“2024年問題”で大きく上昇した建設業・運輸業の人件費ですが、例えば型枠工は1年前から15.4%、配管工は17.9%、建設車両の特殊運転手は19.4%、ダクト工は21.1%などと、職種に関わらず軒並み15%以上の上昇を記録しています(日本建設業連合会調べ)。
また、2024年末に施行された「改正建設業法」によって、資材価格や人件費の高騰に伴う請負代金等の変更方法が契約書の法定記載事項となったため、当初契約した請負額を変更しないなどの請負金額を縛る契約書の文言は記載できなくなりました。
したがって、工期が長期間にわたる大規模なマンションやオフィスなどでは工事期間中に資材価格や人件費などの経費が上昇すれば、発注者である売主や施主はそれに応じる必要があり、建設コストの上昇分を契約に反映させやすくなりましたから、これも住宅価格全般の上昇要因となります。
ただし、ここ数年2024年問題だけでなく人手不足も加わって平均で1.5~2万円前後の上昇を記録していた人件費も、IoTやICTなどの導入促進によって一部の労務環境が改善されつつあり、今後の人件費の伸びが抑制される可能性が出てきました。
資材価格の高騰は予断を許さない状況が続いていますが、人件費については上昇が緩やかになり、落ち着きを取り戻すことが期待できそうです。
住宅地価の動向:都市圏&主要都市では今後も緩やかに上昇 郊外の実需エリアは横ばいに?
これだけ建設コストが全般的に上昇し住宅価格が上昇する状況にあっても、コロナ後の住宅需要は大きく落ち込むことはなく、堅調に推移しています。
これは依然として続く住宅ローンの低金利推移や住宅ローン減税、2025年には総額4,480億円に達する住宅関連の巨額な補助金などの公的な“住宅購入支援策”が豊富に用意されており、住宅ローン金利に先高観があってもなるべく金利の低いうちに住宅ローンを組みたい、35年を超える(最長は50年)超長期ローンで毎月の返済額を抑制したいなどの“住宅購入対策”を頼りに積極的に購入を検討する潜在需要層は決して減少してはいないと言えます。
この状況を反映して、住宅地価も堅調な推移を示しており、昨年9月に公表された都道府県地価調査(基準地価)でも全国平均で0.9%の上昇を記録し、特に東京圏は3.6%の高い上昇率となっています。
また札幌市、仙台市、広島市、福岡市の“地方四市”は東京圏を上回る5.6%もの上昇率を記録していますから、全国的に利用価値の高い土地から価格の上昇が強まっていることを示しています。ちなみに地方四市を除く地方圏は平均で‐0.1%ですから、わずかに下落しています。
最近の購入予定者の話を聞くと、新築でも中古でも構わないのでエリアも含めて自分の購入条件に合う土地および物件が見つかるまで辛抱強く待つというケース、および超長期ローンで毎月の可処分所得に少しでも余裕をもって生活したい、もしくは都心近郊での購入は諦めたので郊外でも交通条件の良いターミナル駅の近くで広めの住宅を購入したいなど、価格上昇期に合わせて巧みに購入戦略を微調整する(もしくは調整しないことを選択する)対応が目につきます。
ただし、都市圏での住宅価格の高騰を受けて、2024年の新設住宅着工戸数は約79万2,000戸とリーマン・ショック翌年の2009年以来15年ぶりの低水準となり、2年連続して前年割れを記録している状況にありますから、住宅需要は依然根強いことは確かでも、ニーズが新築から中古へと移っていることが浮き彫りです。
この点については、2025年4月からスタートする“新築住宅への省エネ基準適合義務化”が中古住宅との差別化につながることは明らかで、省エネ性能・断熱性能の高さが夏涼しく冬暖かい快適な住まいとなるだけでなく、年間の光熱費も大幅に抑制できますし、さらに夏季の熱中症や冬季のヒートショックの予防、また結露によるカビ・ダニの発生などを防止するといった健康面でのメリットもとても大きいですから、中古住宅を購入して断熱改修するコストを考慮すれば、そのまま最新の仕様・設備で居住可能な新築住宅に一日の長があると言えます。
まさに住宅にかかるコストはイニシャルだけでなくランニングも併せたトータルで考えるべき時代になったと言うべきでしょう。
その他:テレワーク併用時代の居住地選択はオンもオフもマイペースで過ごせるエリアが人気
2024年以降、本格的にコロナ禍後の社会環境に移行しても、コロナ禍で定着したテレワーク併用型の働き方は、特に子育て・ファミリー世代(35歳以上~)の居住エリアを大きく変えました。
もちろん上記の通り都市圏中心部・近郊での住宅価格の高騰が子育て・ファミリー世代を郊外方面へとスプロールさせたとも言えますが、例えば首都圏では都心から電車で1時間以上離れた郊外で比較的広めの住宅を購入・建築して住むというケースが増えています。
これは年間の移動人口=エリアの移動・転居による人口の社会増減のデータから明らかで、例えば東京都は2024年に移動人口が約8万人もの転入超過を記録しているのですが、35歳以上のファミリー世代は反対に2万人超の転出超過となっており、その多くは周辺の3県に転出していることがわかります。
しかも子供を連れて転出しているため、15歳未満の未成年者も約4千人の転出超過です。つまり住宅価格の高い東京都から郊外方面へ転出して、テレワークを活用しながら子育て&ファミリーライフを楽しむ世帯が増えているということなのです。
今回のまとめ:住宅価格の上昇を補う購入支援策が充実!ポイントは金利動向
このように、2025年の住宅価格を巡る各コストは、いずれも高止まりもしくはさらに上昇する可能性が極めて高く、4月以降の住宅性能適合義務化を考慮すれば、価格が下がる可能性はほぼないと言えますが、エリアによって価格の差が大きくなる傾向が明確化しています。
さらに住宅ローン金利も先高観があるものの、購入検討者は金利が上がらないうちに変動金利で、もしくは敢えて金利が変わらない固定金利で借り入れて、または超長期ローンを組んで、さらには郊外で比較的安価な住宅を、と様々知恵と工夫を凝らして住宅購入戦略を立てていますから、例えば補助金の有効活用や、住宅ローン控除の適用優遇について詳細な情報を提供できるか否かが、住宅品質を担保することと同じくらい重要な局面になってきます。
2025年は、住宅市況にも購入支援制度にも強い専門家として、ユーザーを強力にサポートすることが求められます。
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