『建てる時のCO2』を問われる時代へ。ライフサイクルカーボン入門

これまで住宅の脱炭素化は、断熱性能を高める、高効率設備を採用する、太陽光発電を設置するといった、「入居後」に使うエネルギーを減らす取り組みが中心でした。しかし現在、資材製造や輸送、施工、修繕、設備交換、解体・廃棄まで含め、建物が生涯を通じて排出するCO2を捉える「ライフサイクルカーボン」への関心が高まっています。
国土交通省は、2028年度を目途に、建築物LCA(ライフサイクルアセスメント)の実施を促す制度の開始を目指しています。LCAとは、住宅や建材がつくられてから使われ、解体・廃棄されるまでに与える環境負荷を総合的に評価する考え方です。2026年7月には国土交通省と経済産業省が制度の可能性を議論するシンポジウムを開催するなど、具体化に向けた動きも見られます。
現時点で、すべての戸建住宅に算定が義務付けられているわけではありません。ただし、建材や設備の環境情報が整備されれば、住宅会社にも新たな対応や説明が求められる可能性があります。今回の配信では、ライフサイクルカーボンの基本と、住宅会社が今から備えておきたいことを整理します。
住宅のCO2は、住み始める前から発生している
住宅に関わるCO2は、大きく2つに分けて考えられます。1つは、冷暖房、給湯、照明など、建物を使用する段階で発生する「オペレーショナルカーボン」です。これまでの省エネ住宅政策は、主にこの削減を対象としてきました。
もう1つが「エンボディドカーボン」です。木材、鉄、コンクリート、ガラス、断熱材、住宅設備などの製造をはじめ、現場までの輸送、施工、その後の修繕や交換、解体、廃棄などで発生するCO2を指します。ライフサイクルカーボンは、この2つを合わせて、建物の計画から使用、解体までを通して捉えるものです。
住宅の省エネ化が進み、居住時のエネルギー消費が減るほど、資材製造や施工時の排出が全体に占める割合は相対的に高まります。そのため、今後は性能値だけでなく、その性能をどのような材料や工法で実現したかも重要になっていくでしょう。
国は2028年度を目途に制度の開始を目指す
国は2025年4月に、建築物のライフサイクルカーボン削減に向けた基本構想をまとめました。これを受け、2028年度を目途に建築物LCAの実施を促す制度を開始する方針が示され、評価対象や算定方法、結果の表示方法などについて検討が進められています。
また、2026年度の「省CO2先導プロジェクト2026」では、戸建住宅を含む住宅・建築物を対象に、省エネやライフサイクルカーボン削減に寄与する先導的な取り組みを募集しています。補助事業の中でも、排出量を実際に評価する動きが始まりつつあります。
制度は、まず大規模建築物や先導的なプロジェクトを中心に進む可能性があります。ただし、評価に必要な建材・設備のデータが整備されれば、戸建住宅にも活用が広がると考えられます。住宅会社としては、算定義務の有無だけを見るのではなく、今後どのような情報が求められるのかを把握しておくことが重要です。
低炭素な材料を選ぶだけでは十分ではない
ライフサイクルカーボンを減らす取り組みとして、低炭素型の建材や木材の採用が挙げられます。実際に環境省は2026年度から、低炭素型建材を活用する新築ZEBへの支援を開始しており、材料の製造段階における排出量を重視する政策も具体化しています。
一方で、「木造なら環境負荷が低い」「地域材なら必ず低炭素」と一律に判断することはできません。産地、加工方法、乾燥工程、輸送距離、耐久性、交換頻度などによって、建物の生涯を通じた負荷は変わります。製造時の排出量が少ない材料でも、頻繁な交換が必要であれば、修繕や廃棄による負荷が増える可能性があります。
そのため、材料選定では初期の数値だけでなく、耐用年数や補修性、将来の再利用まで含めて考える必要があります。単に低炭素な材料を採用するのではなく、住宅全体の使われ方と合わせて判断することが大切です。
地域工務店は設計と情報整理から始められる
地域の工務店が、すぐに高度な算定システムを導入する必要はありません。まずは普段の設計や調達の中で、建物を長く維持しやすいか、修繕時の負担を抑えられるかを見直すことが現実的です。
例えば、雨仕舞や防水、通気を丁寧に計画し、構造体の劣化を防ぐことが挙げられます。配管や設備機器を点検・交換しやすく配置すれば、改修時に壁や床を壊す範囲を抑えられます。仕上げ材についても、全面交換ではなく部分補修が可能な材料や納まりを選ぶことで、廃棄物の削減につながります。
また、使用している建材や設備について、メーカーが環境情報を公開しているかを確認しておくことも重要です。環境省では、建築物のライフサイクル全体のCO2を算定する「J-CAT」などのツールや、算定に用いる排出原単位の情報を紹介しています。
今後の評価に備えるうえでは、材料の調達先、想定される交換時期、耐用年数などを社内で整理しておくことが基礎になります。
施主には暮らしの価値へ置き換えて伝える
ライフサイクルカーボンは、一般の施主にとってまだなじみの薄い言葉です。「CO2を〇〇kg削減した住宅です」と数値を伝えるだけでは、日々の暮らしとの関係が分かりにくい場合があります。
そこで、「長く使い続けられる」「修理や設備交換がしやすい」「家族構成の変化に合わせて改修できる」「廃棄する材料を抑えられる」といった、生活者が実感しやすい価値に置き換えて説明することが重要です。
地域材についても、輸送距離だけでなく、材料の産地や加工者が見える安心感、地域産業を支える意味などを合わせて伝えられます。ライフサイクルカーボンは、環境配慮を示すためだけの指標ではなく、耐久性や維持管理性、改修のしやすさを一体的に説明するための視点として活用できます。
住宅の脱炭素化は、入居後の省エネに加え、資材製造から解体・廃棄までを対象とする段階へ進みつつあります。地域の住宅会社にとっては、耐久性や補修性を見直し、建材情報を整理しておくことが第一歩です。住宅の生涯を見据えた提案は、今後の新たな差別化につながるでしょう。




