<新着>建築基準法における着手とは?着手に該当しない例と着手前に取り組むべきことを解説
建築工事を行う際は、法的なルールを遵守した正しい手続きを踏む必要があります。建築基準法では、工事の「着手」に関するルールも定められているので、内容を正しく把握しておくことが重要です。
今回は建築基準法における着手の定義について、具体的に「該当する行為」と「該当しない行為」 「着手前に準備すべきこと」などのテーマからまとめてご紹介します。
目次[非表示]
- 1.建築基準法上での「着手」の定義
- 1.1.着手と見なされる行為
- 1.2.着手に関するルール
- 2.工事の着手に当てはまらない行為の例
- 3.工事に着手する前に取り組むべき準備
- 3.1.確認申請の概要
- 3.2.確認申請が必要な3つのケース
- 4.確認申請に必要な書類
- 5.工事の着手における注意点
- 6.この記事を監修した人
- 6.1.岩納 年成(一級建築士)
建築基準法上での「着手」の定義
建築基準法上における着手とは、「工事を始める」ことを意味します。建設現場では着工という言葉が用いられることも多いですが、両者はほぼ同じ意味で使われます。
着手と見なされる行為
着手に当たる工事としては、具体的には「杭打ち工事」「山留め工事」「根切り工事」「地盤改良工事」などが挙げられます。矢板や堰板などで土の崩壊を抑える 山留め工事、基礎工事で土を掘る根切り工事、軟弱な地盤を強化する地盤改良工事など、敷地に関する工事も着手として扱われる点に注意が必要です。
着手に関するルール
着手について正しく把握しておくべき理由には、建築基準法第6条に規定されたルールが関係しています。第6条を簡潔に整理すると、次のような内容となります。
■建築基準法第6条の内容
建築主は、特定の建築物を建築・増築・大規模修繕・大規模な模様替えしようとする場合、工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事または建築副主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。 |
(出典:e-Gov『建築基準法』)
また、特定の建築物については、次のように規定されています。
1.一定以上の規模を持つ特定建築物(劇場・映画館・集会場、病院・診療所、ホテル、学校・体育館、百貨店、遊戯施設、倉庫など) |
一部の例外は設けられていますが、実際にはほとんどの建物に建築確認申請が必要とされています。これらの建物を建築する際には、工事の着手前に確認済証の交付を受けなければなりません。
つまり、建築確認や確認済証の交付を受ける前に地盤改良などを行った場合には、建築基準法違反となるので注意が必要であるということです。そのため、法令遵守の観点から見れば、「どの行為が着手に当たるのか」また「どの行為なら着手に当たらないのか」を正しく押さえておく必要があるのです。
着手には、「杭打ち工事」「山留め工事」「根切り工事」「地盤改良工事」などが該当します
工事の着手に当てはまらない行為の例
工事の着手と見なされない行為としては、以下のものが挙げられます。
■地盤調査のための掘削、ボーリングの実施 |
基本的に共通仮設関係の作業は、着手には当たらないと考えられます。また、土地を掘削する場合でも、地盤調査を目的としたものであれば着手とは見なされません。
これらの行為は、確認申請を行う前に開始しても問題がないと考えられています。そのため、工事のスケジュールをスムーズに進めるうえでは、確認済証の交付を待つ間にこれらの作業を進められるように工程を組んでおくのがベターといえるでしょう。
工事に着手する前に取り組むべき準備
これまで見てきたように、建築基準法上の工事に該当する行為に着手する前には、確認申請を行う必要があります。ここでは、確認申請の手続きや必要書類などについて整理しておきましょう。
確認申請の概要
確認申請とは、建物の安全性を確保するために、工事の着手前に建築基準法や各種条例に適合しているかの確認を受ける手続きのことです。工事の建築主あるいは委任状を受けた建築士が手続きを行うこととなっており、指定確認検査機関もしくは特定行政庁に必要書類を添付して申請します。
確認申請を受けた機関は、書類の内容を基 に審査を行います。結果が分かるまでには10日~2ヶ月程度の時間がかかるため、その間に「着手に当てはまらない行為」を進めておくのが一般的です。
その後、確認済証の交付が行われると、初めて工事の着手が可能となります。
確認申請が必要な3つのケース
確認申請が必要になるケースは、「建築物」「工作物」「昇降機」の3つに分けられます。
■建築物
確認申請が必要な建築物は前述した建築基準法第6条で定義されており、実際にはほとんどの建物に必要な手続きであると考えられます。なお、従来は都市計画区域外であれば確認申請が不要とされていた「4号建築物」(延べ面積500平米以下の木造2階建てなど)についても、2025年からは原則として確認申請が必要となります。
延べ面積200平米以下の木造平屋建てを除き、木造の一戸建てもすべての地域で建築確認が必要となるので注意しましょう。
(出典:e-Gov『建築基準法』)
(出典:国土交通省『2025年4月(予定)から4号特例が変わります』)
■工作物
工作物とは、建築基準法施行令138条で指定された次のものを指します。
・6mを超える煙突(ストーブは除く) |
これらの工作物についても、着手前に確認申請を行う必要があるので注意が必要です。
(出典:e-Gov『建築基準法施行令』)
■昇降機
昇降機とは、建築基準法施行令第146条で規定された次のようなものを指します。
・エレベーターおよびエスカレーター |
たとえば小荷物用の昇降機であっても、「不適切な大きさにより階段が通れなくなり、災害時に逃げ遅れてしまう」などの事態を防ぐために確認申請が必要となります。
(出典:e-Gov『建築基準法施行令』)
確認申請が必要になる3つのケースには昇降機も含まれます
確認申請に必要な書類
確認申請を行う際にはさまざまな書類が必要となります。代表的なものとしては、以下の書類が挙げられます。
必要書類 |
内容 |
審査受付表 |
申請者の連絡先や物件内容を記した受付表 |
確認申請書 |
住所や設計主、敷地面積、建ぺい率などを記載した申請書 |
建築計画概要書 |
建築後に一般に閲覧可能になる建築計画の概要書 |
委任状 |
施工会社が建築主の代わりに手続きを行うための書類 |
建築工事届 |
建築主の情報や工事予定期間、建物の用途を記した申請書 |
シックハウス計算表 |
シックハウス症候群を引き起こす空気の換気計画について記した書類 |
各種図面 |
・各階平面図、立面図、仕上げ表 |
書類がそろっていなければ手続きがやり直しとなってしまう可能性もあるので、抜け漏れがないように注意しましょう。
工事の着手における注意点
最後に、工事の着手に関する注意点をご紹介します。
確認申請が不要な場合も法に適合させる必要はある
今回解説したように、工事のなかには確認申請が不要の行為も存在します。しかし、確認申請がないからといって、当然ながら建築基準法に適合させなくても問題ないというわけではないので注意が必要です。
違反すれば罰則の対象となる恐れもあるため、設計者は建築基準法や各種条例に沿って、法に従って設計を行う必要があります。
確認申請後の間取りや設備の変更は不可
確認申請を行った工事については、提出書類に記載された内容に沿って進めていく必要があります。確認申請が済んでからは、基本的に間取りや設備の変更は基本的に行えません。
間取りや設備などを変更する場合は、原則として改めて確認申請が必要になるので注意しましょう。なお、間取りや設備に関する変更であっても、「軽微な変更」と認められる場合には、建築確認を行った後でも「計画変更申請手続き」を行うことで実施が可能です。
どのような工事が軽微な変更に当たるのかは、「建築基準法施行規則第3条の2」で規定されています。具体的な事例や判断基準については、国土交通省の資料にも記載されているので必要に応じてチェックしておきましょう。
(出典:e-Gov『建築基準法施行規則』)
(参考:国土交通省『軽微な変更の対象となる具体事例』)
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:どのような行為が建築基準法上の「着手」に当たる?
A:着手とは工事の開始のことであり、具体的には「杭打ち工事」「山留め工事」「根切り工事」「地盤改良工事」などが該当します。
Q:工事の着手に該当しないケースは?
A:「地盤調査のための掘削、ボーリングの実施」「現場の整地 」「地鎮祭」「現場の仮囲いの設置」「現場事務所の建設」「既設建物の除却」「現場への建設資材、建設機械の搬入」など、準備や共通仮設工事は着手に該当しないと判断されます。一方、地盤調査以外で土地に影響を与える行為は着手に当たる恐れがあるので注意が必要です。
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この記事を監修した人
岩納 年成(一級建築士)
大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。
土地の目利きや打合せ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。