<新着>異形鉄筋と丸鋼の違い|基本的な特徴やメリット・デメリット、施工方法などを解説
鉄筋コンクリート構造は、圧縮力に強いコンクリートと引張力に強い鉄筋を組み合わせた頑丈な構造であり、多くの建物で採用されています。鉄筋コンクリートの材料として用いられる鉄筋には大きく分けて「異形鉄筋」と「丸鋼」の2種類があり、それぞれ異なる性質を持っているのが特徴です。
この記事では、異形鉄筋と丸鋼の違いとそれぞれの特徴を解説したうえで、両者がどのように使い分けられているのかをご紹介します。
目次[非表示]
- 1.異形鉄筋と丸鋼の違い
- 1.1.リブが付いた異形鉄筋
- 1.2.凹凸のない丸鋼
- 1.3.日本における鉄筋の歴史
- 2.異形鉄筋のメリット・デメリット
- 2.1.コンクリートとの付着性能が格段に高い
- 2.2.効率的・合理的な施工が可能
- 3.丸鋼のメリット・デメリット
- 3.1.コンクリートとの付着が弱い
- 3.2.建材以外の用途がある
- 4.異形鉄筋と丸鋼の使い分け、施工方法の違い
- 5.施工方法の違い
- 6.この記事を監修した人
- 6.1.岩納 年成(一級建築士)
異形鉄筋と丸鋼の違い
建築工事に使われる鉄筋には、「異形鉄筋」と「丸鋼」の2種類があります。ここではまず、異形鉄筋と丸鋼の基本的な違いについて見ていきましょう。
リブが付いた異形鉄筋
異形鉄筋とは、リブや節と呼ばれる凹凸の突起が設けられた鉄筋のことです。異形鉄筋は、リブがあることでコンクリートがよく絡みつき鉄筋が抜けにくい形状になっているのが大きな特徴です。
英語では「Steel De-formed bar」と表現されることもあり、JIS規格(日本産業規格)には「SD○○」という材料記号で規定されています。現行の規格には「SD295A、SD345、SD390、SD490」の4種類があります。
このうち、もっとも広く流通しているのはSD345とされており、鉄筋材料のなかでは比較的にポピュラーな存在です。より大きな建築物を建てる際には、強度や靭性に優れたSD390が用いられることもあります。
また、SD490は鉄筋コンクリート用に用いられる鉄筋のなかではもっとも強度の高い材料であり、一般的な建築物ではあまり使用されていません。大規模な建造物や橋梁といった限定的な場面で採用されるのが特徴といえます。
凹凸のない丸鋼
リブが設けられた異形鉄筋に対して、ツルツルしたシンプルな棒状の鉄筋を丸鋼と呼びます。丸鋼は英語で「Steel Round bar」と呼び、材料記号では「SR○○」と表現されます。
丸鋼には「SR235」と「SR295」の2種類があり、SR295のほうが強度に優れています。
日本における鉄筋の歴史
歴史的に見れば、鉄の丸棒そのものは17世紀から海外で用いられており、日本でも官営の製鉄所が造られた明治期からは丸鋼が製造されていました。その後に鉄筋コンクリートという工法が誕生すると、丸鋼がそのまま用いられたため、大正期や昭和前期の古い建物の多くに丸鋼を用いた鉄筋コンクリートが使用されています。
しかし、アメリカでは19世紀の時点ですでに鉄棒とコンクリートの付着性について注目されており、1880年代後半には異形鉄筋が市販されていました。日本では依然として第二次世界大戦後まで丸鋼が主流となっていたものの、昭和28 (1953)年に異形鉄筋に関する規格が制定されると、昭和30年代からは次第に異形鉄筋が普及していきました。
異形鉄筋のメリット・デメリット
現在の建築では、建材として用いられる鉄筋のほとんどが異形鉄筋です。ここでは、なぜ異形鉄筋が主流となっているのか、その特徴について見ていきましょう。
コンクリートとの付着性能が格段に高い
異形鉄筋は、リブや節が付いていることで、断面積をあまり増やさずに表面積を増やすことができるのが特徴です。鉄筋の表面積が広いほど、コンクリートとの摩擦が強くなるため、その分だけ強度も高まります。
しかし、従来の丸鋼では、表面積を広げるためには、円周の直径を大きくするか、コンクリートとの付着長さそのものを長くとる以外の方法しかありませんでした。しかし、リブによって凹凸を設ければ、ほぼ同じ太さであっても表面積が格段に増えるため、コンクリートとの接触面ですべりが生じにくくなります。
そのため、シンプルな丸鋼よりもコンクリートと鉄筋の付着性能が格段に優れるのが大きなメリットです。
効率的・合理的な施工が可能
前述したように、異形鉄筋はコンクリートへの付着に必要な長さ・太さを短くできるのが特徴です。そのため、柱や壁などの断面が大きくなることを避けられるのも大きな利点といえるでしょう。
また、丸鋼では付着の弱さをカバーするために、端部を必ず折り曲げてフックを作る必要があります。あらかじめフック加工されたものを用いることも可能ではありますが、場合によっては現場で鉄筋を折り曲げる必要もあるため、大きな手間が発生してしまいます。
異形鉄筋の場合は、後述する例外を除けばフック加工が不要なため、施工の手間を減らせるのもメリットです。
丸鋼のメリット・デメリット
続いて、丸鋼の特徴について見ていきましょう。
コンクリートとの付着が弱い
異形鉄筋のように表面に凹凸がないため、コンクリートとの付着が弱く、すべりを防ぐためにさまざまな工夫が必要な点がデメリットです。異形鉄筋が広まる前は、比較的に製造が容易であることから、鉄筋コンクリート造の建築物にも広く使われていました。
しかし、現在ではコンクリートに丸鋼が使われることはほとんどないといえます。
建材以外の用途がある
丸鋼はシンプルな形状をしているため、幅広い用途があるのが特徴です。コンクリートへの付着という部分では異形鉄筋に劣りますが、二次加工を施されて、後述するように建材以外のさまざまな用途で使用されるケースがあります。
異形鉄筋と丸鋼の使い分け、施工方法の違い
これまで見てきたように、鉄筋コンクリート造の建材としては異形鉄筋が主流であり、今では丸鋼が用いられることはほとんどありません。しかし、現在でも丸鋼の製造は行われており、さまざまな場面で用いられています。
ここでは、異形鉄筋と丸鋼の使い分けや施工方法の違いについて見ていきましょう。
異形鉄筋は構造用鉄筋としての用途がメイン
異形鉄筋は、コンクリートやモルタルと付着させ、鉄筋コンクリート造の建物に使われる構造用材料として用いられるケースがほとんどです。橋梁などの大規模な建築物から鉄筋コンクリート造のビル、施設、住宅まで幅広く用いられています。
なお、耐食性を高めるために表面に溶融亜鉛メッキ処理や防錆剤塗装を施してあるものもあります。
丸鋼は二次製品の素材としての用途がメイン
前述のように、現在では丸鋼を構造用鉄筋として使用する機会はほとんどありません。昭和期前半以前の古い建物などには丸鋼を使用した鉄筋コンクリート造のものが現存していますが、加工の負担や安全性などを踏まえると、新たに用いられるケースはないといえるでしょう。
一方、丸鋼は円形で汎用性が高いことから、大型のものは機械や船舶などの構造材やみがき棒鋼などの二次製品の素材として用いられています。また、中型のものは大型サイズの用途に加えて、道路の基盤材や自動車部材などにも幅広く使われています。
小型のものは、機械部品やボルト、ナットなど二次製品の素材として用いられており、建築現場でも見かける機会は多いといえるでしょう。そうした意味では、鉄の丸棒のうちコンクリートの補強に特化したものが異形鉄筋であり、それ以外のものを丸鋼と考えるといいでしょう。
それぞれの素材によって強度や用途が異なり使い分けがされています
施工方法の違い
建築基準法施行令第73条では、次のような規定が設けられています。
鉄筋の末端は、かぎ状に折り曲げて、コンクリートから抜け出ないように定着しなければならない。ただし、次の各号に掲げる部分以外の部分に使用する異形鉄筋にあっては、その末端を折り曲げないことができる。 |
(出典:e-Gov『建築基準法施行令』)
このように、基本的には鉄筋の末端にフックを設ける必要がありますが、特定の部位以外で異形鉄筋を用いる場合にはフックが必要ないとされています。特定の部位とは柱やはりの出隅部分や煙突部のことであり、これにはそれぞれ「出隅部分の鉄筋はコンクリートのかぶり厚さが2方向になり、コンクリートが割れやすくなる」「煙突の鉄筋ではコンクリートが熱を受けて、付着低下を招くおそれがある」という理由が関係しています。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:異形鉄筋と丸鋼の違いとは?
A:異形鉄筋は表面にリブが付いた鉄筋であり、丸鋼は表面に凹凸がない鉄筋のことです。異形鉄筋のほうがコンクリートとの付着が格段に強いことから、現在では鉄筋コンクリート用に丸鋼が用いられることはほとんどありません。
Q:丸鋼の用途は?
A:鉄筋コンクリート造の構造部材として用いられることはほとんどなくなりましたが、機械や船舶などの構造材や道路の基盤材、自動車部材、機械部品やボルト、ナットなど二次製品の素材として幅広く用いられています。
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この記事を監修した人
岩納 年成(一級建築士)
大手ゼネコン会社にて、官公庁工事やスタジアム、免震ビル等の工事管理業務を約4年経験。その後、大手ハウスメーカーにて注文住宅の商談・プランニング・資金計画などの経験を経て、木造の高級注文住宅を主とするビルダーを設立。
土地の目利きや打合せ、プランニング、資金計画、詳細設計、工事統括監理など完成まで一貫した品質管理を遂行し、多数のオーダー住宅を手掛け、住まいづくりの経験は20年以上。法人の技術顧問アドバイザーとしても活動しながら、これまでの経験を生かし個人の住まいコンサルテイングサービスも行っている。