偽装請負とは?判断基準と罰則・法的リスク、防止対策について解説!
目次[非表示]
- 1.偽装請負とは
- 2.偽装請負の判断基準
- 2.1.(1)自己の従業員の直接利用の場合
- 2.2.(2)発注者から独立した業務遂行の場合
- 3.偽装請負と判断された場合の法的リスクおよび罰則
- 3.1.1.労働者派遣法違反
- 3.2.2.職業安定法違反
- 3.3.3.労働基準法違反
- 3.4.4.厚生労働大臣による指導・助言、改善命令等
- 3.5.5.賃金請求のリスク
- 4.偽装請負と判断されないための対策
- 4.1.1.契約上の対応策
- 4.2.2.業務実態の把握・調査
- 4.3.3.従業員教育の実施
- 5.執筆者
偽装請負とは
偽装請負とは、形式上は請負契約の形態を取っているものの、実質的には派遣労働や直接雇用に該当する業務形態を指します。本来、請負契約では請負業者が自らの裁量で作業を行い、責任を負う必要がありますが、偽装請負の場合、発注者が作業者に対して直接的な指揮命令を行っていることが特徴です。
このような行為は、労働者派遣法や職業安定法などの法令に違反する可能性が高く、労働環境の悪化や雇用者と労働者双方にとって不利益をもたらすことがあります。
また、偽装請負に該当すると判断された場合には、発注者と受注者の双方に罰則が適用される可能性があるほか、発注者が受注者の従業者に対して労働契約の申し込みをしたとみなされ、発注者と受注先従業員の間で直接雇用が成立する等のリスクがあるため、注意が必要です。
偽装請負の判断基準
偽装請負かどうかを判断する際には、実質的に指揮命令関係があるかが重要な判断基準となります。
発注者が請負業者の従業員に対して、業務内容や手順を直接指示している場合、偽装請負と判断される可能性があります。この際、現場での直接的な管理が行われているかどうかが重要な判断基準となります。
具体的には、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年4月17日労働省告示第37号)に判断基準が示されています。
偽装請負に該当しない適切な請負・業務委託に該当するためには、受注者は以下の要件をすべて満たす必要があります。
(1)自己の従業員の直接利用の場合
- 受注者が、受注者の従業員に対する業務遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと
- 受注者が、受注者の従業員の労働時間の管理等を自ら行うこと
- 服務規律に関する指示を行う等、企業秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うこと
(2)発注者から独立した業務遂行の場合
- 業務遂行に必要な資金を自ら調達すること
- 業務処理について、事業主としてのすべての責任を負うこと
- 単に、肉体的な労働力を提供するものではないこと(機械設備や機材の調達や技術・経験の提供により業務を行うものであること)
偽装請負と判断された場合の法的リスクおよび罰則
偽装請負と判断された場合、企業には以下のような法的リスクと罰則があります。
1.労働者派遣法違反
労働者派遣事業を行う場合、厚生労働大臣の許可を受けなければなりません。したがって、偽装請負は、労働者派遣法に違反する行為とみなされる可能性があります。無許可での派遣労働は特に厳しい罰則の対象となり、罰金刑や事業停止命令が科されることがあります。
偽装請負が無許可での労働者派遣事業に該当する場合、派遣元事業主に対して「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科される可能性があります(労働者派遣法第59条第1号)。
2.職業安定法違反
適正な契約形態を装いながら実質的に派遣労働を行っている場合、一部の例外を除き、労働者供給事業の実施および労働者供給による労働者の受け入れを一律禁止している職業安定法に違反する可能性があります。
偽装請負が労働者供給に該当する場合、供給元・供給先の双方の事業主に対して「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科される可能性があります(職業安定法第64条第9号)。
3.労働基準法違反
労働者供給の場合、労働基準法第6条に定められる「中間搾取の排除」にも抵触する可能性があります。請負契約や業務委託契約が実質的に労働者供給と評価される場合には、供給元について、同時に労働基準法違反も成立する可能性が高いです。
労働者供給である偽装請負が、労働基準法違反の中間搾取に該当する場合、供給元の事業主に対して「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科される可能性があります(労働基準法第118条第1項)。
4.厚生労働大臣による指導・助言、改善命令等
偽装請負が認定された場合、行政指導が行われ、場合によっては事業名の公表や業務停止命令が下されることもあります。また、社会的な信用を失う可能性も高くなります。
5.賃金請求のリスク
実質的に労働者であることを前提として、労働者として時間外労働手当などを含む賃金を請求される可能性があります。
これらのリスクを回避するためには、実態に基づいた適切な契約形態を整備することが必要です。
偽装請負と判断されないための対策
偽装請負と判断されないためには、以下の対策を講じることが重要です。
1.契約上の対応策
契約書において、業務内容や責任分担を明確に規定します。請負契約であることを示すため、成果物に対する報酬形態を採用する等の対応とすることが重要です。
指揮命令を行わない旨を明記することも考えられます。これにより、請負業者の独立性を確保します。
2.業務実態の把握・調査
何よりも実態が重要であるため、現場での業務遂行状況を定期的に確認することが重要です。たとえば、発注者が直接的かつ具体的に作業を指示していないかをチェックします。
3.従業員教育の実施
契約内容や偽装請負に関連する法令遵守の重要性について、従業員に対する教育を定期的に行います。また、違法行為を防ぐための内部監査体制を整備します。
これらの対策を講じることで、偽装請負と判断されるリスクを低減し、法令遵守を確実にすることが可能です。また、専門家の助言を受けることで、適切な対応を迅速に講じることができるでしょう。
本記事の詳細については、以下もご参照ください。
- 厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」
- 厚生労働書「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年4月17日労働省告示第37号)
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:偽装請負とはどのようなものですか?
A:偽装請負とは、形式上は請負契約を装っているものの、実質的には派遣労働や直接雇用に該当する業務形態を指します。具体的には、発注者が受注者の従業員に直接指揮命令を行い、業務内容や手順を管理している場合などが該当します。これにより、労働者派遣法や職業安定法に違反する可能性が高く、発注者・受注者双方に法的リスクや罰則が科される場合があります。
Q:偽装請負と判断されないためにはどのような対策が必要ですか?
A:偽装請負を防ぐには、契約内容を明確化し、業務遂行責任を受注者が負う形を徹底することが重要です。具体的には、契約書で成果物に基づく報酬形態を採用し、指揮命令を行わない旨を明記します。また、現場での実態確認や従業員教育を定期的に実施し、内部監査体制を整備することで、法令遵守を確実にすることが求められます。
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執筆者
弁護士法人コスモポリタン法律事務所
杉本 拓也(すぎもと たくや)
単なる法的助言を行う法律顧問ではなく、企業内弁護士としての経験を活かして、事業者様により深く関与して課題を解決する「法務コンサルタント」として事業者に寄り添う姿勢で支援しております。国際投融資案件を扱う株式会社国際協力銀行と、メットライフ生命保険株式会社の企業内弁護士の実績があり、企業内部の立場の経験も踏まえた助言を致します。