<新着>2025年建築基準法改正|木造3・4階建て住宅設計にかかわる改正内容や注意点を徹底解説
中高層の木造住宅が注目されるなか、2025年に建築基準法が改正されます。
これにより、木造3・4階建て住宅の設計・建築には、これまで以上に高度な対応が求められるようになります。
構造計算や防火規制、省エネ基準などの技術的な要件が見直され、実務に直結する変更が多く含まれています。設計者や建築関係者にとっては、こうした制度変更を正しく把握し、計画の初期段階から設計にチェックが必要になります。
本記事では、今回の法改正のポイント、設計時に注意すべき点、そして木造住宅の利点までを、専門的な視点からわかりやすく解説していきます。
目次[非表示]
- 1.木造3・4階建て住宅設計に関係する法改正の内容
- 1.1.構造計算の基準の変更
- 1.2.4号特例の縮小
- 1.3.省エネ基準の適合が義務化
- 2.木造3・4階建て住宅設計でかかる建築基準法の規制
- 2.1.高さ制限
- 2.2.道路斜線制限・北側斜線制限
- 2.3.日射制限
- 2.4.構造計算の義務
- 2.5.建ぺい率・容積率の制限
- 2.6.耐火・準耐火建築物の規定
- 3.木造3・4階建て住宅設計で気をつけるべき注意点
- 3.1.室内の温度差が大きい
- 3.2.メンテナンス費用が比較的かかる
- 3.3.移動の負担が大きい
- 4.木造3・4階建て建築物住宅の3つのメリット
- 4.1.軽量かつ耐震性能が高い
- 4.2.費用が比較的安価
- 4.3.木材利用の推進に貢献できる
- 5.執筆者
- 5.1.瀧澤 成輝(二級建築士)
木造3・4階建て住宅設計に関係する法改正の内容
躯2025年の建築基準法改正では、木造3・4階建て住宅の設計に大きくかかわる構造や省エネに関する基準が見直され、実務対応が求められます。
本章では、木造3・4階建て住宅設計に関係してくる主な以下3つについて解説していきます。
- 構造計算の基準の変更
- 4号特例の縮小
- 省エネ基準の適合が義務化
1つずつ解説していきます。
構造計算の基準の変更
(出典:国土交通省『建築確認・検査の対象となる建築物の規模等の見直し』)
2025年4月の建築基準法改正により、木造建築物に関する構造計算のルールが変わります。これまで、2階建て以下かつ延べ面積が500m2以下であれば構造計算は不要とされてきましたが、今後は延べ面積が200m2を超える建物について構造計算が義務化されます。
あわせて、壁量計算や柱の小径に関する基準も見直され、現場の実態に合った内容へと更新されます。これにより、より確実な安全性の確保が求められるようになります。
4号特例の縮小
小規模な木造建築に適用されてきた「4号特例」が、2025年の法改正で縮小されます。
改正後は建物の分類が見直され、2階建て以上、または延べ面積が200m2を超える建物については、構造や防火・避難に関する規定の審査が必要になります。
これまで審査を省略できていたケースでも、今後は建築確認申請とそれに伴う審査が必要になるケースが大幅に増える見込みです。
(出典:国土交通省『4号特例が変わります』)
設計初期から法適合を意識した対応がこれまで以上に求められるようになります。
省エネ基準の適合が義務化
2025年4月から、すべての新築住宅・建築物に省エネ基準の適合が義務化されます。
これまでは、一定規模以上の建物に限って求められていたものですが、改正後は建物の規模にかかわらず適用対象となります。
建築確認の手続きのなかで省エネ基準への適合性の審査が行われるようになり、基準を満たしていなければ着工できなくなります。
(出典:国土交通省『住宅・建築物の低炭素化に関する状況と対策ついて』)
木造3・4階建て住宅設計でかかる建築基準法の規制
木造の3・4階建て住宅は、建築基準法上で多くの規制を受けます。
階数が増えると法的なチェックポイントが増えるため、設計の際は十分に注意が必要となります。
主に関係する規制は以下の6つです。
- 高さ制限
- 道路斜線制限・北側斜線制限
- 日射制限
- 構造計算の義務
- 建ぺい率・容積率の制限
- 耐火・準耐火建築物に関する規定
本章では、それぞれの規制の内容について順を追って解説していきます。
高さ制限
都市計画区域内の建築物は、用途地域や高度地区の指定により、建築物の高さに制限が設けられています。第一種低層住居専用地域では、建築物の高さが10mまたは12mに制限されます。
建築基準法第20条第1項第2号では、木造建築物の高さが13mまたは軒高が9mを超える場合、構造計算適合性判定が必要とされています。
(出典:国土交通省『改正建築基準法について』)
道路斜線制限・北側斜線制限
建築基準法第56条に基づき、建物の高さは、前面道路や北側隣地への日照・通風を確保するために、斜線制限を受けます。
道路斜線制限では、前面道路の反対側境界線から一定の勾配(通常1:1.25)で引いた線を超えないように建物を設計する必要があります。
北側斜線制限では、北側隣地境界線からの距離に応じて、建物の高さが制限されます。
(出典:e-GOV法令検索『建築基準法第56条第1項第3号』)
日射制限
日影規制は、建築物が周囲に及ぼす日影の影響を考慮し、一定の制限を課すものです。
たとえば、第一種低層住居専用地域では、軒高が7mを超える建物や3階以上の建物に対して、冬至の日の午前8時から午後4時までの間、敷地境界線からの水平距離に応じて、日影の継続時間が制限されます。
これをクリアできない場合、建物形状を削るなどの対応が必要になるため注意しましょう。
構造計算の義務
2025年4月の建築基準法改正により、延べ面積が200m2を超える木造建築物には、構造計算が義務付けられます。これまでは、延べ面積が500m2以下の2階建て以下の建物では構造計算が不要でしたが、改正後は対象範囲が拡大されます。
壁量計算や柱の小径の基準も見直され、建物の安全性確保が強化されます。
建ぺい率・容積率の制限
建ぺい率は、敷地面積に対する建築面積の割合を示し、容積率は、敷地面積に対する延べ床面積の割合を示します。
これらの制限は、用途地域ごとに定められており、建築物の規模や形状に影響を与えます。
耐火・準耐火建築物の規定
防火地域や準防火地域において、木造3・4階建て住宅を建築する場合、耐火建築物または準耐火建築物とする必要があります。
主要構造部や外壁、開口部に対して、一定の耐火性能が求められます。
木造3・4階建て住宅設計で気をつけるべき注意点
木造3・4階建て住宅は、空間を有効活用できる一方で、構造や日常の使い勝手において注意すべき点がいくつかあります。
本章では、設計段階から意識しておきたい3つのポイントについて解説します。
室内の温度差が大きい
3・4階建てといった縦に長い住宅では、上下階の温度差がはっきり出やすくなります。
暖かい空気は上にたまりやすいため、冬は1階が寒く、夏は最上階が蒸し暑い状況になりがちです。
これを避けるには、断熱性能の高い建材の選定や、建物内の空気の流れを意識した設計が重要になります。
各階に適した空調設備の配置や、全館空調の導入、あるいは断熱等性能等級5以上を目指すなどの計画が必要になるため注意しましょう。
メンテナンス費用が比較的かかる
階数が増える分、維持管理のコストも増えます。
キッチンや浴室などの水まわりが上階にある場合、設備の交換や修繕時には、搬入・搬出に手間がかかり、コストが上がります。
外壁塗装や屋根工事の際には高所作業用の足場が必要になるため、費用が膨らむ点は避けられません。
あらかじめ耐久性の高い外装材を選ぶなど、ランニングコストを重視するのが大切です。
移動の負担が大きい
3階建て以上の家では、階段の上り下りが日常の負担になります。
洗濯や掃除などの家事に加えて、高齢の家族や小さなお子さんがいる場合は、安全面・利便性の両面で課題となります。
対策としては、洗濯乾燥機の導入や家事動線の工夫をするのに加えて、予算に余裕があれば家庭用エレベーターの設置を検討するのも現実的です。
生活の中心となる空間を1〜2階にまとめるなど、暮らしやすさを意識した間取り計画が重要になります。
木造3・4階建て建築物住宅の3つのメリット
木造3・4階建て住宅には、構造的な特性や環境性能の面から見て、さまざまなメリットがあります。特に、日本の気候風土や地震の多い国土に適しており、日本建築物の約8割を木造が占めています。
そんな木造建築物のメリットは主に以下の3つがあります。
- 軽量かつ耐震性能が高い
- 費用が比較的安価
- 木材利用の推進に貢献できる
それぞれのメリットについて、詳しく解説していきます。
軽量かつ耐震性能が高い
木造は、鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨造に比べて構造体そのものが軽く、地震の揺れによる建物への負荷(慣性力)が小さく抑えられる強みがあります。
地震の多い日本では、建物の重量を抑えること=耐震性の向上につながります。
2025年法改正後に義務化される構造計算(許容応力度計算等)や、バランスの良い耐力壁の配置計画を組み合わせることで、木造でも十分な耐震性能を確保できます。
費用が比較的安価
木材は加工しやすく、施工現場での作業もスムーズなため、工期が短縮しやすい利点があります。仮設工事費や労務費を抑えられて、RC造や鉄骨造に比べて総工費を抑えやすいのが特徴です。
近年では、プレカット工法や乾式工法などの普及によって、品質を維持しながら安定したローコスト住宅の供給も可能になっています。
木材利用の推進に貢献できる
木造建築は、環境負荷の低減にも大きく貢献します。農林水産省の資料によれば、木造建築物の建設時に排出されるCO₂は、鉄筋コンクリート造の約1/4にとどまります。
(出典:林野省)
再生可能資源である木材を活用することは、国内の森林資源の循環利用にもつながり、カーボンニュートラルの実現にも貢献ができます。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:2025年の建築基準法改正で、木造3・4階建て住宅にどのような影響がありますか?
A:構造計算の義務範囲が広がり、省エネ基準の適合がすべての新築建築物に求められます。これまで審査が簡略化されていた4号特例の対象が縮小され、より多くの住宅で建築確認申請が必要になります。設計や申請の手続きがこれまで以上に複雑になるため、計画初期からの準備が重要です。
Q:木造3・4階建て住宅で注意すべき設計上のポイントは?
A:上下階の温度差による住環境のばらつき、階数が増えることによるメンテナンスコストの上昇、日常の移動負担といった課題があります。快適性や利便性を確保するには、断熱や空調、動線の設計を丁寧に検討することが必要です。
Q:木造中高層住宅が日本で普及している理由は?
A:日本は地震が多く、軽量な木造構造が地震対策に適しています。加えて、都市部では敷地が限られるため、木造3・4階建ては空間を効率よく活用できる建て方です。木材の活用は環境配慮や脱炭素の観点でも評価されており、政策的な後押しも進んでいます。
Q:木造3・4階建て住宅のメリットは?
A:構造が軽いため地震時の負荷が小さく、耐震性が高い点が大きなメリットです。施工費用が比較的抑えられる点、再生可能資源である木材を使う点でCO₂排出量が少なく、環境負荷の低減にもつながります。費用・性能・環境のバランスに優れた選択肢といえます。
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執筆者
瀧澤 成輝(二級建築士)
住宅リフォーム業界で5年以上の経験を持つ建築士。
大手リフォーム会社にて、トイレや浴室、キッチンなどの水回りリフォームを中心に、外壁塗装・耐震・フルリノベーションなど住宅に関する幅広いリフォーム案件を手掛けてきた。施工管理から設計・プランニング、顧客対応まで、1,000件以上のリフォーム案件に携わり、多岐にわたるニーズに対応してきた実績を持つ。
特に、空間の使いやすさとデザイン性を両立させた提案を得意とし、顧客のライフスタイルに合わせた快適な住空間を実現することをモットーとしている。現在は、リフォームに関する知識と経験を活かし、コンサルティングや情報発信を通じて、理想の住まいづくりをサポートしている。