工務店向け! 耐震・断熱性能向上とコストダウンできる設計のコツ紹介
資材価格や労務単価の高騰が続くなか、2025年4月からはすべての新築住宅において省エネ基準への適合が義務化され、住宅に求められる性能は年々厳しさを増しています。
限られた予算内で耐震性や断熱性をしっかり確保できなければ、工務店は価格競争に埋もれ、選ばれにくくなるリスクがあります。
こうした状況を乗り越えるためには、設計段階から「コスト」と「性能」の両面を最適化し、後戻りによる追加コストや値引きのプレッシャーを回避する戦略が欠かせません。
本記事では、今後の法改正への先回り対応に加え、外皮や構造における具体的な工夫、さらに「高性能」と「低コスト」を両立した最新の設計事例まで、工務店がすぐに実践できるヒントを詳しく解説します。
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コストダウンと高性能化を両立する重要な理由
2025年4月から、すべての新築住宅で省エネ基準への適合が義務化される一方で、資材価格や労務単価は依然として高止まりし、建築費の上昇が続いています。
加えて、省エネ性能を重視する生活者はすでに7割を超えており、「高性能」と「適正価格」の両立がこれまで以上に求められる時代になっています。
ここでは、こうした背景の下で工務店が直面する課題のヒントとして、注目すべき2つの主要な理由を解説します。
2025年4月から省エネ基準適合が全建築物で義務化になるため
省エネ基準の義務化により、断熱等性能等級5以上の確保や一次エネルギー消費量の削減が、適合判定をクリアするための必須条件となります。
申請直前に仕様を変更してしまうと、構造や意匠の再設計、あるいは設備の追加対応が必要になり、材料と人件費の手配が二重になることでコスト増は避けられません。こうした事態を防ぐには、設計初期の段階で外皮性能と設備容量を明確に定め、BIMや省エネ計算ツールを活用して性能数値を可視化しておくことが重要です。
これこそが、高性能と予算内での竣工を両立させる、唯一かつ最短のアプローチといえるでしょう。
資材価格・労務単価等の押上げで建築費は上昇すると想定されるため
木材・鋼材・断熱材といった主要資材は、円安や国際的な需給逼迫(ひっぱく)の影響を受け、高値が常態化しています。
加えて、技能者の不足に伴い労務単価も年々上昇しており、2024年問題による残業規制の強化によって工期の長期化リスクが加わることで、さらなるコスト増を招いています。
こうした外的要因によるコスト上昇を最小限に抑えるためには、設計段階から部材点数の削減やプレカットの活用、そして工程の短縮を徹底することが不可欠です。計画初期からコストと施工性を意識した設計を行うことが、価格競争に打ち勝つための鍵となるでしょう。
耐震・断熱性能向上させるための設計のコツ
ここでは、耐震・断熱性能を高めるための3つの設計のコツについて解説します。
- 断熱等級6を目安に、外皮・気密・日射遮蔽を一体で設計し、設備依存を抑える
- 耐力壁と柱をバランスよく配置し、屋根・外壁を軽量化する
- 高性能サッシと付加断熱を標準化し、部材発注を統一する
では、それぞれ解説していきます。
断熱等級6を目安に、外皮・気密・日射遮蔽を一体で設計し、設備依存を抑える
断熱等級6を実現するには、壁・屋根の充填+付加断熱、基礎断熱、連続した気密層を設計初期から一体的に計画することが重要です。
また、庇(ひさし)や外付けブラインドで夏の日射を遮りつつ、開口部は南面に集中させれば冬の日射を最大限に活用できます。こうした外皮性能の強化により、空調設備のグレードを下げることが可能となり、コスト削減にもつながります。
耐力壁と柱をバランスよく配置し、屋根・外壁を軽量化する
耐震性を上げるには、瓦屋根やモルタル外壁を軽量な金属屋根や窯業系サイディングに変更し、建物自体の重量を軽減させることが重要になります。
さらに、上下階の柱・耐力壁・開口位置をそろえて直下率を高め、偏心を抑えることで、過剰な壁量を避けつつ耐震等級3を効率的に確保できます。構造がシンプルになれば、基礎や金物も最小限で済み、材料・工事費の両面でコストダウンが可能です。
高性能サッシと付加断熱を標準化し、部材発注を統一する
断熱性能向上させるためには、樹脂フレーム+Low-Eトリプルガラスの高性能サッシを採用し、外壁には断熱シートを標準化させる方法があります。仕様を統一して一括発注することで、仕入れ単価の低減と施工の効率化が図れます。
たとえば、屋根・外壁面には「サーモバリア住宅用遮熱シート」を使用することで夏季の室温上昇を抑え、冷房設備の小型化にもつながります。これにより、設備コストと光熱費の両方を削減できます。
建築費のコストダウン設計で押さえる3つのポイント
建築費の高騰が続くなか、コストダウンに頭を悩ませている工務店も多いのではないでしょうか。
ここでは、設計段階から実践できる「建築費圧縮の3つのポイント」をご紹介します。
プレカット材積を削減し発注ロットを統一する
柱・梁・間柱などの構造材を910mmモジュールで統一し、プレカット工場での標準加工寸法に合わせて設計することで、端材の発生を抑え、材料ロスを10%未満に抑制できます。
加えて、同一仕様の部材を一括で大量発注することで単価を引き下げると同時に、現場での仕分けや加工の手間も軽減。資材費と労務費の両面からコストを圧縮でき、工期短縮にもつながります。
基礎形式を地盤強度に合わせ最適化する
地盤調査結果を基に、布基礎・ベタ基礎・小口径鋼管杭などを使い分け、過不足のない基礎設計を行うことが重要です。
地盤が強固な場合には、配筋ピッチを適正化することで、鉄筋とコンクリートの使用量を抑え、軟弱地盤では鋼管杭を必要最小限にとどめる設計で構造の安全性を確保します。
結果として、基礎工事の材料費と工期を大幅に抑えることができ、全体の建築費圧縮につながります。
仕上げ材は既製品・標準色を活用し“一点豪華主義”でメリハリをつける
外壁や床材には、耐久性・施工性に優れた既製品と標準色を採用することで、仕入れ価格の安定と施工精度の向上が見込めます。
そのうえで、玄関ドアやキッチン背面、洗面空間など視線が集まりやすいポイントにだけ、ハイグレードな仕上げ材や特注色を投入。こうした「選択と集中」の設計方針により、原価を抑えながらも空間にメリハリをつけられ、顧客満足度とコストパフォーマンスの両立が可能になります。
設計計画でここだけは削れない重要ポイント2選
コスト削減ばかりを優先すると、後々高くつく家になりかねません。ここでは、性能とライフサイクルコストを守るために絶対に削ってはいけない2つの要所を押さえます。
耐震・断熱・基礎・構造安全性はコスト削減してはいけない
耐震等級3、断熱等級6、適切な基礎配筋は、住まいの安全性と住む人の健康を守るための最低ラインです。
ここを安易に削ってしまうと、地震による倒壊や結露・腐朽による劣化リスクが高まり、結果として補強工事や修繕に数倍のコストがかかることもあります。
設計段階で構造計算と温熱計算をセットで実施し、必要な性能を数値として明確化することが、長期的に見て最も合理的で安価に済む手法です。
さらに、高い住宅性能は「長期優良住宅」の認定や、住宅ローン控除・固定資産税の軽減措置など、各種優遇措置の対象にもなり、施主にとっては資産価値を高める“攻めの投資”と位置づけられます。
快適性・維持管理性・光熱費のトータルコストを意識する
初期費用を抑えた住宅であっても、隙間風や温度ムラが大きいと冷暖房負荷が高くなり、長期的には光熱費の負担が膨らみます。
10年後には、トータルコストで高性能住宅を上回ってしまうケースも珍しくありません。そのため、気密・断熱とともに、計画換気や高効率設備の導入をセットで設計し、可変調湿素材やセルフクリーニング機能付き外壁など、メンテナンス性に優れた部材を選ぶことで、光熱費と維持費の両方を抑えることができます。
設計初期の段階でエネルギーシミュレーションとメンテナンス計画を行い、ライフサイクルコストを「見える化」することで、施主の納得感が高まり、紹介や口コミによる受注にもつながる好循環を生み出せます。
高性能でもコストダウンを実現した事例
ここでは、標準仕様を工夫してコストを抑えつつ性能を担保した2つのモデル事例をご紹介します。
スマイテ(木下工務店)|セミオーダーで高性能を低価格へ
延床25〜37坪を中心に、長期優良住宅相当の耐震・断熱性能を標準装備しながら、本体価格1,600万円台から実現。構造・設備・外皮の基本仕様を固定し、間取りと外観をセミオーダーとすることで設計工数と部材ロスを削減。
高性能×低価格を両立し、分譲・注文双方で販売を伸ばしています。
(引用:スマイテ(木下工務店))
R+HOUSE(全国)|建築家ネットワークでコスト均衡
全国の登録建築家が「断熱等級6・耐震等級3・BELS5つ星」を共通目標にプランニングし、部材をプラットフォーム発注。設計の自由度を保ちながら外皮・構造ディテールを共通化することで、設計料と工事原価を圧縮しています。
高性能かつデザイン性を担保したまま平均坪単価70万円台を実現し、地域工務店の武器となっています。
(引用:R+HOUSE)
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:なぜ“設計初期”からコストと性能を同時に考える必要があるのか?
A: 断熱等性能等級5以上や一次エネルギー消費量の削減を後から満たそうとすると、構造・設備の再設計や追加材料が発生して二重コストになる。設計初期に外皮性能と設備容量をBIMや省エネ計算ツールで可視化しておけば、追加費用を抑えつつ適合判定を確実にクリアできる。
Q:断熱等級6を目指す際の効果的な外皮設計のコツは?
A: 壁・屋根の充填+付加断熱、基礎断熱、気密層を一体で計画し、南面開口で冬の日射を取り込みつつ庇や外付けブラインドで夏の日射を遮ること。外皮性能を高めれば空調設備のダウンサイジングが可能となり、設備コストと光熱費の両方を削減できる。
Q:耐震等級3を確保しながら建築費を抑える構造上のポイントは?
A: 軽量屋根・軽量外壁を採用して自重を減らし、上下階で柱・耐力壁・開口位置をそろえて直下率を高めること。重心をそろえたシンプル構造にすれば、過剰な壁量や金物を避けられ、基礎や接合部のコストも最小限に抑えられる。
Q:建築費を圧縮するために設計段階で実践すべき3つの具体策は?
A:
1. プレカット材積の最適化:910mmモジュールで統一し、端材ロスを10%未満に抑える。
2. 地盤に合わせた基礎最適化:布基礎・ベタ基礎・小口径鋼管杭を使い分け、材料と工期を縮減する。
3. 仕上げ材の“一点豪華主義”:外装・床は既製品標準色でコストを抑え、玄関や水回りのみハイグレード仕上げにしてメリハリをつける。
Q:コスト削減を優先しても絶対に妥協してはならないポイントは?
A: 耐震等級3、断熱等級6、適切な基礎配筋など「構造安全性」と「外皮性能」は妥協してはいけない。ここを削ると地震被害や結露・腐朽で補修費が跳ね上がり、長期的にかえって高コストになる。構造計算と温熱計算をセットで実施し、長期優良住宅認定や税制優遇につなげることが最も合理的。
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執筆者
瀧澤 成輝(二級建築士)
住宅リフォーム業界で5年以上の経験を持つ建築士。
大手リフォーム会社にて、トイレや浴室、キッチンなどの水回りリフォームを中心に、外壁塗装・耐震・フルリノベーションなど住宅に関する幅広いリフォーム案件を手掛けてきた。施工管理から設計・プランニング、顧客対応まで、1,000件以上のリフォーム案件に携わり、多岐にわたるニーズに対応してきた実績を持つ。
特に、空間の使いやすさとデザイン性を両立させた提案を得意とし、顧客のライフスタイルに合わせた快適な住空間を実現することをモットーとしている。現在は、リフォームに関する知識と経験を活かし、コンサルティングや情報発信を通じて、理想の住まいづくりをサポートしている。