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<新着>工務店が知っておきたい、相続や共有の土地で増える境界確定・分筆登記の手続きと注意点

工務店が知っておきたい、相続や共有の土地で増える境界確定・分筆登記の手続きと注意点

相続や共有で権利関係が複雑化した土地を扱う場合、「境界確定」と「分筆登記」を正確に行わなければなりません。

手続きを怠ると、杭の打ち直しや設計変更による追加コスト、近隣トラブルからくる工期遅延など、工務店にとって致命的な損失につながる恐れがあります。そのため、現場担当者は法的要件から工程管理まで正しい流れを把握しておくことが求められます。

この記事では、境界確定・分筆登記の基本手順と、工務店が現場で押さえるべき注意点をわかりやすく解説します。

目次[非表示]

  1. 1.境界確定・分筆登記とは?
  2. 2.境界確定・分筆登記を行う基本の流れ
  3. 3.境界確定・分筆登記の期間と費用目安一覧
  4. 4.工務店が押さえるべき現場実務チェックポイント
    1. 4.1.着工前に境界標・確認書・面積差異を確認し、設計図と離隔寸法へ確実に反映する
    2. 4.2.立ち会い日程と官庁協議のリードタイムを工程表に織り込み、工期遅延リスクを先取りして管理
    3. 4.3.境界杭の破損防止、越境物の洗い出し、相続・共有者の同意取得を契約して現場管理に組み込む
  5. 5.境界確定・分筆登記でのトラブル回避するための注意点
    1. 5.1.既存の塀や生垣を境界と誤認せず、測量と書面で工事ラインを確定してから着工する
    2. 5.2.相続・共有・所有者不明地は専門家や筆界特定制度を早期に活用し、合意形成を迅速化する
    3. 5.3.分筆後の区画は接道要件・最低面積・越境リスクを事前に検証し、図面と記録を関係者で共有する
  6. 6.執筆者
    1. 6.1.瀧澤 成輝(二級建築士)

境界確定・分筆登記とは?

境界確定とは、隣地との境界線を測量し、双方の土地所有者が立ち会って位置を確認し、その合意内容を「筆界確認書」などの書面に残す手続きです。境界標(杭)を土地の要所に設置して位置を明示することで、将来のトラブルを未然に防ぎます。

分筆登記とは、一筆の土地を複数の区画に分け、それぞれに新しい地番を付与して法務局へ登録する手続きです。建築計画や売却、相続・贈与などで土地を複数人に分ける場合に欠かせません。具体的には、以下の目的のために行われます。

  • 登記簿と実際の境界が一致するため、融資審査や売買契約でのトラブルの回避できる
  • 建ぺい率・容積率や離隔距離を正確に算出することで設計トラブルの回避できる
  • 土地を公平に分割しやすくなり、相続人や共有者間トラブルを回避する


工務店にとっても、境界確定と分筆登記が済んでいる土地は設計・工程管理がスムーズになり、工期短縮や追加コスト抑制につながります。

逆に未確定のまま着工すると、杭の打ち直しや設計変更で大幅な遅延・費用増を招く恐れがあるため、計画段階で必ず確認しておきましょう。

境界確定・分筆登記を行う基本の流れ

境界確定・分筆登記は、以下の流れで進めます。

1.土地家屋調査士へ業務委託・事前調査
2.現地測量・既存図面との照合
3.隣地(官民含む)立ち会い・筆界確認書に署名押印
4.境界標の恒久設置・必要に応じて地積更正登記
5.建築計画を踏まえた分筆線の設計・分筆測量図の作成
6.法務局へ分筆登記を申請
7.新地番通知を受領し、建築確認や権利登記へ展開


境界立ち会い等で合意した内容を筆界確認書等にまとめたら、工程遅延を避けるため速やかに分筆登記を申請するのが望ましいです。
 ※分筆登記には法定の申請期限はありませが、1ヶ月以内の申請義務は報告的登記に関する一般原則とされています。

土地家屋調査士の測量が完了したら、速やかに図面と筆界確認書を取りまとめ、施主が実印を押した委任状を提出できるよう準備しておくと手続きが円滑です。隣地立ち会いや官庁協議が長引くと工期全体が遅延する恐れがあるため、工程表には境界確定と分筆登記をマイルストーンとして明示し、十分な遅延バッファを確保しておくと安心でしょう。

境界確定・分筆登記の期間と費用目安一覧

境界確定・分筆登記のスケジュールとコストは、敷地条件や隣地協議の進み具合で大きく変動します。資金計画や工程表が後ろ倒しにならないよう、あらかじめ相場を把握して余裕を持った見積もりを立てることが不可欠です。

ここでは、検討段階で押さえておきたい期間と費用の目安を下表にまとめました。

手続き区分
標準期間
延伸リスク(主な要因)
費用目安(税抜き)

境界確定

(民民のみ)
2〜4ヶ月
隣地所有者との日程調整・境界同意が難航
40万〜50万円

境界確定

(官民含む)
3〜6ヶ月
官庁協議待ち・官民立ち会いの再調整
60万〜80万円
分筆登記
申請〜完了2〜4週間
法務局からの補正指示
登録免許税:1,000円/筆


​​​​​​​なお、上記記載の期間や費用は、土地の形状・筆数・隣地協議の難易度などによって大きく変動するため、あくまでも参考値です。

ご計画の敷地条件に合わせた正確なスケジュールと見積もりを知りたい場合は、早めに土地家屋調査士や司法書士へご相談いただくことを強くおすすめします。

工務店が押さえるべき現場実務チェックポイント

境界確定や分筆登記が完了しても、工務店の現場では思わぬトラブルが潜んでいます。

ここでは、着工前から引き渡しまでに必ず押さえておきたい実務チェックポイントを3つご紹介します。

着工前に境界標・確認書・面積差異を確認し、設計図と離隔寸法へ確実に反映する

土地家屋調査士が設置した境界標と筆界確認書の数値を図面に照合し、面積のズレや測量誤差を正確に把握します。

離隔不足や建ぺい率オーバーが判明すると設計変更や工程延長に直結するため、BIM/CADに最新データを速やかに反映し、承認プロセスを一度で完結させることが重要です。

立ち会い日程と官庁協議のリードタイムを工程表に織り込み、工期遅延リスクを先取りして管理

隣地立ち会いや官民境界協議は決裁待ちなど不確定要素が多く、工程のボトルネックになりやすい部分です。ガントチャートに「境界確定」マイルストーンを設定し、十分なバッファを確保することで、基礎着工や確認申請の後ろ倒しを防げます。

週次で進捗をモニタリングし、先行して会社への影響を最小限に抑えましょう。

境界杭の破損防止、越境物の洗い出し、相続・共有者の同意取得を契約して現場管理に組み込む

重機搬入時に杭が折損しないよう、仮囲いや舗装カット位置を明示し、破損による再測量コストを回避します。

古い塀や植栽の越境は写真で記録し、撤去・移設の合意事項を契約書に明記。共有名義や相続登記未了の土地では、全権利者から早期に同意書を取得して、工事中断リスクを排除しましょう。

境界確定・分筆登記でのトラブル回避するための注意点

境界確定・分筆登記は手続きが複雑で、隣地や共有者との合意形成に時間がかかりがちです。

ここでは、法務と現場の両面でトラブルを回避するために確認しておきたい注意点を3つ解説します。

既存の塀や生垣を境界と誤認せず、測量と書面で工事ラインを確定してから着工する

ブロック塀・生垣・側溝などは便宜的な占有ラインにすぎず、筆界と一致しないケースが少なくありません。着工前に土地家屋調査士による現地測量で境界点を確定し、筆界確認書や境界確定図に署名・押印を取得したうえで設計図へ反映し、正式な工事ラインを設定します。

さらに、全職方に境界杭の位置と禁止行為を周知しておくことで、誤施工や近隣トラブルを未然に防げます。

相続・共有・所有者不明地は専門家や筆界特定制度を早期に活用し、合意形成を迅速化する

相続登記が未了だったり共有持ち分が多数に分散していたりする土地では、全権利者の同意が遅れれば工事が停滞します。司法書士・行政書士に依頼して相続関係説明図を整備しつつ、法務局の筆界特定制度やADRを利用して境界を確定すれば、合意形成までの期間を大幅に短縮できます。

工程表には専門家の選定と申請リードタイムを組み込み、意思決定の遅延リスクを最小化しましょう。

分筆後の区画は接道要件・最低面積・越境リスクを事前に検証し、図面と記録を関係者で共有する

分筆線を引いた結果、建築基準法の接道義務(幅員4m以上・間口2m以上)を満たさない区画や、最低敷地面積条例に抵触する区画が生じると、建築確認を取得できません。さらに越境物や高低差があれば外構コストが膨らみます。

分筆測量図と立面・断面図を用いて法規制と物理条件を多角的に検証し、その結果をクラウド上で共有して設計・施工・営業が同一情報を参照できる仕組みを整えれば、手戻りを防止できます。


●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。

Q:境界確定とは?
A:
隣地所有者が立ち会って境界線を測量し、合意内容を「筆界確認書」などに書面化し、境界杭を設置する手続きです。将来の近隣トラブルや杭の打ち直しを防ぎ、設計や融資審査の精度も高めます。

Q:分筆登記はいつまでに申請すべき?
A:
境界合意が成立した日(確定日)から1ヶ月以内が目安です。測量図と筆界確認書を早急に取りまとめ、施主が実印を押した委任状を用意しておくとスムーズに申請できます。

Q:着工前に工務店が必ず確認すべきポイントは?
A:
「①境界杭の位置と筆界確認書の数値」「②面積差異や離隔距離の再計算(BIM/CADへの即反映)」「③立ち会い日程・官庁協議のバッファ設定」の3点を工程表に組み込み、承認フローを一度で終わらせることが重要です。

Q:手続きにかかる期間と費用の相場は?
A:
民民のみの境界確定で2〜4ヶ月・40万〜50万円、官民を含む場合は3〜6ヶ月・60万〜80万円が一般的。分筆登記は申請から完了まで2〜4週間で、登録免許税は1,000円/筆です(いずれも目安)。

Q:よくあるトラブルと防止策は?
A:
既存の塀や生垣を境界と誤認しないよう測量結果を図面へ反映し、杭の破損を防ぐ仮囲いを設置。相続・共有地は司法書士や筆界特定制度を早期に活用し、越境物や接道・面積要件も事前にチェック。これらを徹底すれば追加コストや工期遅延を大幅に抑えられます。

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執筆者

瀧澤 成輝(二級建築士)

住宅リフォーム業界で5年以上の経験を持つ建築士。

大手リフォーム会社にて、トイレや浴室、キッチンなどの水回りリフォームを中心に、外壁塗装・耐震・フルリノベーションなど住宅に関する幅広いリフォーム案件を手掛けてきた。施工管理から設計・プランニング、顧客対応まで、1,000件以上のリフォーム案件に携わり、多岐にわたるニーズに対応してきた実績を持つ。

特に、空間の使いやすさとデザイン性を両立させた提案を得意とし、顧客のライフスタイルに合わせた快適な住空間を実現することをモットーとしている。現在は、リフォームに関する知識と経験を活かし、コンサルティングや情報発信を通じて、理想の住まいづくりをサポートしている。

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編集部
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工務店・ビルダー、新築一戸建て販売会社様を支援すべく、住宅営業のノウハウや人材採用、住宅トレンドなど、様々なジャンルの情報を発信してまいります。

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