2025年11月火災に関する法律改正で工務店が押さえるべきポイント

本記事では、2025年11月に施行される火災関連法の改正が注文住宅の家づくりにどのような影響を与えるのか、そして工務店が今から備えておくべき具体的な準備について詳しく解説していきます。
ぜひ最後までご覧ください。
2025年11月建築基準法(防火関係)内容まとめ
ここでは、2025年11月1日に施行される政令改正による、住宅実務に関わる防火規制の合理化の主な内容について下表にまとめました。
改正点 | 詳細 |
|---|---|
内装制限の見直し | 防火区画内の内装については、従来の「不燃・準不燃材料による施工」に加え、これと同等と認められる措置を講じた場合も認められるように見直し |
小屋裏隔壁の緩和 | 木造小屋組で建築面積が300m2を超える建築物についても、避難や防火上の安全に支障がないと認められる基準を満たす場合には、小屋裏隔壁等を設ける必要がなくなる |
無窓居室の判定基準の見直し | 無窓居室に該当するかどうかを判断する際の基準となる排煙口の必要面積について、従来の“一律”な基準を見直し、排煙口および給気口の設置位置や性能に応じて面積を設定することとする |
防煙壁として扱える対象の拡大 | 準耐火構造(下端~床面距離に条件あり)を防煙壁として扱えるよう追加。さらに天井面から50cm以上下方に突出する梁を防煙壁として扱えることを明確化 |
自然排煙口の建材規制緩和 | 排煙機を設けない自然排煙口については、不燃材料の使用要件を不要とする |
敷地内通路の見直し | 道路に面する部分に加え、避難や消火に支障がないと認められる周囲については、敷地内通路を設けなくてもよいとする(詳細は告示で規定) |
既存建築物への制限緩和の拡充 | 大規模修繕や模様替えの際に求められる現行基準への適合義務について、緩和措置の対象を拡大。新たに屋根・外壁・軒裏の防耐火性能に関する規定を追加 |
これらの法改正は2025年11月1日から施行されます。
※注意:既存の案件については、別途告示や経過措置が設けられる可能性があるため、詳細を確認することが重要です。
工務店が防火規制で押さえるべきポイント
ここでは、今回の法改正で工務店として必ず押さえるべきポイントについて解説していきます。
押さえるべきポイントは以下の3つになります。
- 区画と延焼の前提を早く固める
- 不燃・準不燃と貫通処理を計画図書に明示して変更を防ぐ
- 法改正に合わせて設計と運用を更新する
ではそれぞれ解説していきます。
区画と延焼の前提を早く固める
設計の初期段階では、まず区画と延焼に関する条件を明確にすることが大切です。
防火・準防火・22条区域の指定を確認し、延焼のおそれがある部分を図示して、開口部の等級や位置を決めます。
建物の階数や隣地・道路中心線までの距離で外皮仕様が確定しますので早めに判断しましょう。竪穴や吹き抜けの区画、排煙方式も初期に決めると後がスムーズです。ひさしや外壁の準耐火の要否も確認し、根拠を計画図書に記録しましょう。
不燃・準不燃と貫通処理を計画図書に明示して変更を防ぐ
仕上げ材だけでなく下地まで、不燃・準不燃仕様を計画図書に明記します。認定番号や厚み、施工条件を記録しておくと現場で迷いません。
防火区画の貫通は告示適合の貫通材や防火ダンパで処理し、建具は遮炎性能を証明しましょう。梁や天井との干渉は詳細図で先に解決し、配線・配管の変更時は影響を確認し承認を取り直すことが大切です。
法改正に合わせて設計と運用を更新する
法令の改正は常に確認し、適用開始日や経過措置を台帳で管理しましょう。標準仕様書やチェックリスト、写真様式も随時更新が必要です。
認定の改廃があれば代替仕様を標準化して対応しましょう。消防や確認検査機関との協議記録を残し、社内教育や是正対応のルールも定期的に見直すと安心です。
設計で考えるべき3つの火災防止対策
注文住宅の設計において、火災防止は居住者の安全を守るためには欠かせない部分になります。
ここでは、建築基準法改正の動向を踏まえつつ、工務店が設計段階で特に意識すべき以下3つの火災防止対策について紹介します。
- 延焼しにくい住宅設計を優先する
- 区画計画で火の通り道を遮断する
- 火災警報器を前提にした安全計画を立てる
では、それぞれ解説していきます。
延焼しにくい住宅設計を優先する
配置計画の初期段階で「延焼のおそれのある部分」を特定し、1階は隣地境界線または道路中心線から3m以内、2階以上は5m以内を基準として、防火設備を備えた外壁開口を計画します。
防火区画に接する外壁には、幅90cm以上のスパンドレル、または50cm以上突出する庇を準耐火構造で設け、火炎が上階へ回り込むのを防ぎます。加えて、地域指定に応じて屋根や軒裏の(準)耐火化も同時に担保することが重要です。
区画計画で火の通り道を遮断する
内部計画では、施行令112条の設計原則に基づき、階段・吹き抜け・シャフトなどの竪穴部における煙や炎の鉛直方向への拡大を抑える区画計画を優先します。
区画に接する外壁や床、庇は必要幅を確保したうえで準耐火構造とし、貫通する配管やダクトには告示や大臣認定に適合した貫通処理(FD等)を施し、その内容を図面や特記仕様書に明記します。
さらに、納まりを事前に確定するとともに、施工時には写真や記録を残すことで、設計意図を確実に担保することが重要です。
火災警報器を前提にした安全計画を立てる
住宅用火災警報器は、法令では「寝室」および「寝室のある階の階段上部」への設置が基本となっています。
加えて、台所などへの設置が各自治体の条例で義務づけられる場合もあります。機器は必ず規格適合品を選定し、平面図や天井伏図には型式と設置根拠を明記します。
引き渡し時には点検・交換サイクルを含む運用計画を施主に提示し、周知を徹底することが実効性を高める鍵となります。
住宅火災の統計|火災件数と主な原因
全国の統計から、住宅火災の現状と原因について確認していきましょう。
令和6年(2024年)の概数によると、全国の総出火件数は 3万7,036件 に達しており、これは1日当たり約101件、約14分に1件の割合で火災が発生している計算になります。そのうち建物火災は 2万908件 を占め、多くが私たちの生活空間で起きています。
住宅火災に限ると、令和5年(2023年)には 1万1,361件 発生し、前年より578件増加しました。住宅火災による死者数は 1,023人 に上り、そのうち65歳以上の高齢者が 762人(約74%) を占めています。この数字は、高齢者がいる家庭での火災対策がいかに重要かを強く示しています。
建物火災の主な原因(令和6年概数)は次のとおりです。
- こんろ … 12.6%
- 電気機器 … 9.7%
- たばこ … 8.2%
- 配線器具 … 6.9%
これらから、キッチンでの不注意や、電気製品・配線の不具合が大きな火災リスクになっていることが読み取れます。工務店としては、こうした統計を踏まえた設計提案が求められます。
具体的には、住宅用火災警報器を適切な場所に設置すること、電気配線の安全性を高めること、さらにIHクッキングヒーターなど火災リスクの少ない調理器具を積極的に提案できると顧客の安心・安全につながります。
記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:2025年11月の建築基準法改正では、どのような点が変わりますか?
A: 2025年11月改正も防火規制の合理化が中心です。具体的には、内装制限の見直し、小屋裏隔壁の緩和、無窓居室の判定基準の変更、防煙壁の対象拡大、自然排煙口の建材規制緩和、敷地内通路の見直し、既存建築物への制限緩和の拡充などが挙げられます。これらは設計・施工の判断に直結しますので、必ず最新情報を確認し、顧客への説明に反映させましょう。
Q:工務店が防火規制で押さえるべきポイントは何ですか?
A: 敷地が防火地域・準防火地域かどうかを必ず確認し、延焼のおそれのある部分は図面に明記します。開口部には防火設備を用い、屋根は不燃材料を使用、外壁や軒裏は防火構造とする必要があります。さらに、設計標準に改正内容を反映し、台帳で管理すること、そして各自治体の運用もチェックすることが欠かせません。
Q:注文住宅の設計で考えるべき火災防止対策は?
A:
①延焼のおそれがある箇所を特定し、防火設備付開口・庇・スパンドレル等で外皮を強化、地域指定に応じ屋根・軒裏の(準)耐火性能を確保する。②階段・吹抜・シャフトは区画し、貫通部は認定品で処理、施工時は写真等で性能を確認する。③寝室等には住宅用火災警報器を設置前提とし、型式・根拠・点検周期を設計図書に記録する。
Q:住宅火災の主な原因は何ですか?
A: 令和6年(2024年)のデータでは、「こんろ」「電気機器」「たばこ」「配線器具」が大きな原因となっています。特にキッチンでの不注意や電気製品・配線に関する不具合は火災につながりやすいため、工務店は設計段階から対策を講じる責任があります。
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執筆者
瀧澤 成輝(二級建築士)
住宅リフォーム業界で5年以上の経験を持つ建築士。
大手リフォーム会社にて、トイレや浴室、キッチンなどの水回りリフォームを中心に、外壁塗装・耐震・フルリノベーションなど住宅に関する幅広いリフォーム案件を手掛けてきた。施工管理から設計・プランニング、顧客対応まで、1,000件以上のリフォーム案件に携わり、多岐にわたるニーズに対応してきた実績を持つ。
特に、空間の使いやすさとデザイン性を両立させた提案を得意とし、顧客のライフスタイルに合わせた快適な住空間を実現することをモットーとしている。現在は、リフォームに関する知識と経験を活かし、コンサルティングや情報発信を通じて、理想の住まいづくりをサポートしている。



