<新着>盛土規制法とは? 住宅建設でも規制対象となる場合や許可申請手続きの流れを解説
一時期ニュースでも話題になっていた「盛土規制法」の運用がいよいよ本格的に始まっています。法改正のきっかけとなった大規模土砂災害では市街地近くの山間部への違法盛土が問題視されましたが、一般的な住宅建設のための宅地造成も盛土規制法の規制対象となる場合があることをご存じでしょうか。
対象となる場合、無許可での工事は厳しい罰則を受ける恐れがあるのはもちろんのこと、適法に工事を行うための手続きにかかる日数や手間は工期に大きく影響するかもしれません。
この記事では、盛土規制法の概要や許可申請ほか一連の手続きの流れとその注意点について、行政書士でもある執筆者が解説していきます。
目次[非表示]
盛土規制法とは?
そもそも盛土規制法とは、どういう法律でしょうか。
正式には「宅地造成及び特定盛土等規制法」といい、危険な盛土等を全国一律の基準で規制する法律です。2021年に静岡県熱海市で起こった大規模な土砂災害を機に、旧・宅地造成等規制法が大きく改正されて2023年5月26日から施行されました。
従来は自治体ごとにバラバラだった盛土や切土の規制に全国一律の基準が設けられ、違反した場合の罰則も最大3年以下の拘禁刑、1,000万円以下の罰金、法人に対してはさらに3億円以下の罰金、と強化されています。
対象となるのは、規制区域に指定された範囲内の盛土等です。
(出典:国土交通省『盛土・宅地防災:盛土規制法の概要』)
規制区域の指定は主に都道府県知事が行いますが、政令市、中核市など都道府県の事務の一部が移管された市では市長が行います。
実際の運用は今年度から始まった地域も多く、たとえば兵庫県では2025年4月1日から、愛媛県では2025年5月23日から、千葉県では2025年5月26日から規制区域が指定されています。東京都では2024年7月31日に規制区域の指定が始まっていますが、概ねどの自治体でもほぼ全域が規制区域に指定されているようです。
(出典:兵庫県『宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)について』)
(出典:愛媛県『盛土規制法のページ』)
(出典:千葉県『宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)』)
(出典:東京都『盛土規制法に基づく規制|宅地開発に対する規制等|東京都都市整備局』)
規制対象となる「盛土等」とは?
ではいったい何をすることが規制対象となるのでしょうか。
盛土規制法で規制対象とされている「盛土等」には、一定の高さを超える崖が生じる盛土や切土、さらには一定規模を超える土石の仮置きも含まれ、許可や届け出が必要になる場合があります。
たとえば宅地造成の場合、田んぼや畑だった土地に盛土をして道路の高さに合わせる、という工事をすることがあります。その際に1mを超える崖が生じると、盛土規制法に基づく許可が必要になります。
ちなみにここで言う「崖」は「地表面が水平面に対し30°を超える角度をなす土地で、硬岩盤(風化の著しいものを除く)以外のもの」と定義されています。
(出典:国土交通省『盛土・宅地防災:盛土規制法の概要』)
規制の基準は現場が「宅地造成等工事規制区域」に指定されているか「特定盛土等規制区域」に指定されているかによって異なります。国土交通省や各都道府県のウェブサイトには図付きの解説パンフレットや手引が掲載されているので、それらを参照しながら対応を検討してください。
なお、都市計画法第29条に基づく開発許可を受けた場合は盛土規制法に基づく許可も受けたものとみなされますが、後述する中間検査や定期報告などの手続きは必要となります。
盛土規制法により必要となる工事は?
規制対象となる場合、許可基準に適合するように安全対策工事を行う必要があります。
許可申請の際はこの安全対策の計画や工事の実施状況が審査されることになります。
必要となる工事の具体例としては、擁壁への水抜き穴の設置や、盛土内の排水工事などです。各都道府県等がガイドラインや技術基準、マニュアル等の名前で資料を公開しているので、それらの内容に沿って設計・施工してください。
工事の実施状況は中間検査や完了検査による確認を受ける必要もあります。また、工期中は定期報告も必要です。
許可申請等の手続きの流れ
ここからは許可申請等の手続きの流れを見ていきましょう。
まず東京都や愛媛県をはじめ多くの都道府県では、許可申請前に担当窓口に相談するよう求められています。
(出典:東京都『盛土規制法に係る手引(令和6年7月31日施行)02_手続編』p.31)
(出典:愛媛県『盛土規制法に基づく届出・許可申請の手引き(令和7年4月)』p.7)
新法の運用が始まったばかりで行政職員側もまだ慣れていないことが予想されます。事前相談以降もこまめに意思疎通を図るほうがよいかもしれません。
続いて書類手続きに入っていきますが、許可申請は工事主(盛土等に関する工事の請け負い契約の注文者または請け負い契約によらないで自らその工事をする者)が行うこととされているので申請者名義にご注意ください。
(出典:国土交通省『盛土規制法パンフレット 事業者用』p.6)
必要な書類はたくさんあります。
まず土地の所有者全員の同意書、盛土等を行うことについて周辺住民に周知を行ったことの報告書が必要です。周辺住民への周知方法は説明会の開催、文書の配布、現場での掲示とウェブページへの掲載などによると定められていますが、工事の内容によっては説明会の開催が必須となることもあるのでご注意ください。
(出典:東京都『盛土規制法に係る手引(令和6年7月31日施行)02_手続編』p.46)
許可申請書には技術的な基準に適合することを示す計算書や図面などのほか、工事主や工事施工者の信用力を示す書類の添付も必要となります。添付を要する書類は工事の規模によっても変わるため、各都道府県等の手引をよくご確認ください。
また、土地の面積に応じた手数料も必要です。
(出典:愛媛県『盛土規制法に基づく届出・許可申請の手引き(令和7年4月)』p.32)
許可証が交付されたら、工事現場に標識を掲示して着工し、着手届を提出します。
なおここで言う「着手」とは「工事現場において設計図書等と照合して行う最初のくい打ち等の土地の形質変更または土石の堆積が行われた時点」のことを指します。
(出典:愛媛県『盛土規制法に基づく届出・許可申請の手引き(令和7年4月)』p.24)
手続きは施工中にも必要です。
盛土前の地盤面や切土後の地盤面に排水施設を設置したら、中間検査申請書を提出して検査を受け、合格証の交付を受けなければその先の工事を進めることができません。
(出典:愛媛県『盛土規制法に基づく届出・許可申請の手引き(令和7年4月)』p.25)
また、施工中は3ヶ月ごとに定期報告を行うことが求められています。
ただし工事の規模によっては定期報告が免除される場合もあるので、各都道府県等の手引をよくご確認ください。
(出典:愛媛県『盛土規制法に基づく届出・許可申請の手引き(令和7年4月)』p.27)
盛土・切土等の工事が完了したら、完了検査申請書を提出して検査を受けなければなりません。土石の仮置き等の場合は、堆積した土石を除却した後に確認申請書を提出します。
(出典:愛媛県『盛土規制法に基づく届出・許可申請の手引き(令和7年4月)』p.26)
検査済証または確認済証の交付まで受ければ、一連の手続きは終了です。
許可申請にかかる時間や書類提出の時期に要注意
書類をたくさん用意しなければならないことに加えて、申請書を提出してから許可証が交付されるまでに時間がかかることにもご注意ください。
宅地造成のための盛土・切土については、許可申請の標準処理期間は東京都や愛媛県では30日とされていますが、宮城県では60日とされています。さらに、この日数には土日や祝日などの閉庁日は含まれないことにも注意を要します。
(出典:東京都『盛土規制法に係る手引(令和6年7月31日施行)02_手続編』p.33)
(出典:愛媛県『盛土規制法に基づく届出・許可申請の手引き(令和7年4月)』p.7)
(出典:宮城県『宅地造成及び特定盛土等規制法に基づく許可・届出制度の手引き』p.24)
加えて中間検査や完了検査も、申請書を提出してすぐに検査が済むわけではありません。東京都では、標準処理期間は中間検査で8日、完了検査で20日とされています。
(出典:東京都『盛土規制法に係る手引(令和6年7月31日施行)02_手続編』p.33)
また中間検査と完了検査は、対象となる工事の完了後4日以内に申請しなければならないという時期の定めもあります。
(出典:e-Gov法令検索『宅地造成及び特定盛土等規制法施行規則』第三十九条)
(出典:e-Gov法令検索『宅地造成及び特定盛土等規制法施行規則』第四十五条)
手続きに要する日数をふまえたスケジュールを組み、必要な申請をうっかり忘れることがないように、施工管理アプリ等もうまく活用して管理するとよいでしょう。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:盛土規制法とは?
A:正式には「宅地造成及び特定盛土等規制法」といい、危険な盛土等を全国一律の基準で規制する法律です。規制の運用は都道府県等が行い、概ねどの自治体でもほぼ全域が規制区域に指定されています。
Q:住宅建設も規制対象になる?
A:たとえば宅地造成の場合、田んぼや畑だった土地に盛土をして1mを超える崖が生じるような工事は盛土規制法に基づく許可が必要になります。規制対象となる場合、各都道府県等の定める許可基準に適合するように安全対策工事を行う必要があります。
Q:許可申請などの手続きの注意点は?
A:着工前の許可申請だけでなく、着工の届け出や中間検査、完了検査の申請も必要で、定期報告が求められる場合もあります。手続きは工事主の名義で行います。手続きにかかる日数や申請の時期に気をつけてスケジュールを組みましょう。
●関連コラムはこちら
≫ 【トラブル防止】土地の境界石がない場合の対処法
≫ 建築基準法の形態規制とは?基本ルールを分かりやすく解説
執筆者
杉山 啓(IMASSA認定マーケティング実務士、行政書士、統計調査士)
インターネット行動履歴データに基づくマーケティング支援を行うベンチャー企業に勤めていた際に、住宅、情報通信、出版、化粧品など多岐にわたる業界の大手企業を対象とするコンサルティングや法人営業に従事した。
2018年にマーケティング・ビジネス実務検定A級(IMASSA認定マーケティング実務士)、統計調査士、統計検定2級に合格。Uターン後は愛媛県内の道の駅でEC運営を担当し、月間のサイト訪問者数を前年比約2倍、売上を前年比約1.3倍に増やした経験ももつほか、非営利で哲学対話・哲学カフェのワークショップも継続的に主宰している。2024年に行政書士に登録し、企業間の契約書類作成等の法律業務も担う。