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建設業で加入すべき保険とは?種類と選び方を詳しく解説

建設業で加入すべき保険とは?種類と選び方を詳しく解説

建設業は、労災事故や施工ミスなどにより、大きな損害の発生リスクが高いのが特徴です。建設業界で事業を行ううえでは、自社に合った保険の仕組みを活用し、万が一の事態に備えることも大切となります。

今回は加入が義務付けられている公的保険の種類と条件、建設業で特に重要度が高い民間保険の種類と特徴などを詳しくご紹介します。また、自社に合った保険を選ぶためのポイントや考え方についても見ていきましょう。

目次[非表示]

  1. 1.建設業で保険に加入する必要性
    1. 1.1.労災事故のリスク
    2. 1.2.施工ミスによる損害賠償リスク
    3. 1.3.資材の盗難・破損・紛失のリスク
  2. 2.建設業で加入すべき保険の種類
    1. 2.1.1.業務災害補償保険
    2. 2.2.2.建設工事保険
    3. 2.3.3.土木工事保険
    4. 2.4.4.組立保険
    5. 2.5.5.PL保険
    6. 2.6.6.法人向けの自動車保険
    7. 2.7.7.企業財産包括保険
  3. 3.公的保険の種類と未加入の場合のリスク
    1. 3.1.公的保険の種類と条件
      1. 3.1.1.■雇用保険
      2. 3.1.2.■労災保険
      3. 3.1.3.■公的医療保険
      4. 3.1.4.■公的介護保険
      5. 3.1.5.■厚生年金保険
    2. 3.2.公的保険に未加入でいるリスク
  4. 4.自社に合った保険を選ぶコツ
    1. 4.1.リスクと補償内容の相性をチェックする
    2. 4.2.複数の会社に見積もりをとる
    3. 4.3.保険会社の実績や担当者の対応も考慮する

建設業で保険に加入する必要性

建設業の業務には、人身事故や物損事故などのリスクがつきまとうものも少なくありません。さまざまなリスクから会社や従業員を守るには、安全管理を徹底することが第一ですが、万が一に備えて保険を活用することも重要です。

ここではまず、建設業における主なリスクを踏まえながら、保険の重要性について確認していきましょう。

労災事故のリスク

建設業は業務の性質上、重大事故を含む労災事故が発生しやすい業界とされています。厚生労働省の調査によれば、労災事故による死亡者数がもっとも多い業種が建設業であり、主な理由としては「墜落・転落」が挙げられています。

さまざまな安全への取組みにより、死亡者数そのものは全体として減少傾向にあるものの、熱中症を含む「高温・低温物との接触」による死傷者数は増加しているなど、依然として労災事故は大きなリスクであり続けています。

(出典:厚生労働省『令和5年労働災害発生状況の分析等』)

施工ミスによる損害賠償リスク

労災事故と並んで大きなリスクといえるのが、施工ミスによる損害賠償責任の発生です。具体的には「重機の操作ミスで建物を損壊してしまった」「足場が外れて隣地の建物を損壊してしまった」「落下物で歩行者をケガさせてしまった」といったものが挙げられます。

建設業における施工ミスは、ときとして大きな被害を生み出すこともあり、高額な損害賠償責任が発生するケースもあります。

資材の盗難・破損・紛失のリスク

資材の盗難や破損、紛失も事業運営に関わる重大なリスクの一つです。保管場所のセキュリティ対策が不十分であるなどの理由で、夜間に鉄骨や銅線といった資材が盗まれる事件も起こっており、場合によっては事業を中断しなければならないケースも考えられます。

また、従業員の操作ミスによって、建設機械や車両を破損してしまうケースもあります。工事用機械は高額なものも多く、破損の度合いによっては大きな損失につながる可能性があります。

建設業で加入すべき保険の種類

上記のように、建設業は日常的に大きなリスクと直面しており、リスク管理の負担が大きいのは業界全体の宿命ともいえます。経営の安定を図るためには、万が一に備えて保険に加入しておくことが重要です。

ここでは、建設業で特に重要性が高いとされる保険を7つピックアップして、それぞれの特徴をご紹介します。

1.業務災害補償保険

業務災害補償保険とは、賠償に関する保険の一つです。企業側の安全配慮義務違反によって死亡・後遺障害などの重大な事故が発生した場合、企業は従業員や家族から高額な損害賠償金を請求されるリスクがあります。

このように、通常の労災保険でカバーしきれないほどの大きな労働災害が発生した場合に、上乗せする形で補償してもらえるのが業務災害補償保険の特徴です。補償範囲は直接雇用の従業員だけでなく役員、派遣社員などを幅広くカバーしており、特約の種類も多いため、柔軟性が高いのも利点といえます。

2.建設工事保険

建設工事作業において発生した物損や、ミスに関連して発生した損害などをカバーする保険です。具体的には、「工事の対象物件に生じた損害」と「事故に関連して発生した火災などの損害」、「事故の処理・片付けに必要な費用」などを補償してもらえます。

ただし、対象となる建設工事は限定されているのが一般的であり、土木工事や船舶・橋などの工事は対象外とされることが多いです。保険会社や契約プランによってカバー範囲が異なるので、事前に詳しく確認することが大切です。

3.土木工事保険

土木工事で発生した損害をカバーする保険です。具体的には「大雨による土砂崩れなどの天災で生じた被害」「爆発や火災などの被害」「従業員の過失や第三者の故意によって生じた被害」など、土木工事に関する幅広い損害を補償してもらえます。

4.組立保険

組立保険とは、機械・構造物の据え付けや組み立て工事で生じた損失に特化した保険のことです。たとえば、「ビルの冷暖房や電気設備の据え付け」「ボイラーや発電プラントの組み立て」などの工事が対象であり、一般的な建築工事や土木工事、自動車などの車両組み立ては対象外です。

5.PL保険

PL保険は製造業などでも広く活用されている保険であり、「生産物賠償責任保険」とも呼ばれています。建設業においては、工事を行った結果として他人にケガを負わせたり、物品を損壊したりした場合に生産物責任が生じます。

たとえば、「引き渡し後に施工ミスで水漏れが発生し、室内が水浸しになった」「設置した塀が倒れて通行人がケガをした」「配線ミスで漏電し、火災が発生した」といった場合の損害は、PL保険でカバーすることが可能です。

6.法人向けの自動車保険

基本的な仕組みは一般的な自動車保険と同じですが、契約名義や補償範囲、保険料などが法人仕様になっているのが特徴です。すべての従業員が運転した場合のリスクに備えられるとともに、複数台同時に契約することで割引が適用されるなどのメリットがあります。

また、「搭乗者傷害事業主費用特約」や「法人他車運転特約」「企業・団体見舞い費用特約」など、法人契約ならではの特約も豊富に存在しています。

7.企業財産包括保険

企業が保有するすべての財産を対象とする保険であり、オフィスや倉庫、設備、重機などを幅広くカバーしているのが特徴です。特に建築資材は仕入れと消費がリアルタイムで行われているため、その都度保険をかけるのは現実的ではなく、手続きが煩雑になります。

企業財産包括保険であれば、加入後に増えた財産も一定範囲なら補償対象に含められるため、資材の損害に対する保険としても有効です。

公的保険の種類と未加入の場合のリスク

2020年10月の建設業法改正により、建設業でも社会保険への加入が実質的に義務化されることとなりました。それに伴い、建設会社が500万円以上の工事を請け負うときに必要な「建設業許可」を取得するためには、社会保険への加入が一つの要件となっています。

義務化された保険の加入を怠れば、経営上のさまざまなリスクが発生するため、状況に合わせて確実に手続きを行う必要があります。

公的保険の種類と条件

公的保険には、雇用保険・労災保険・公的医療保険・公的介護保険・厚生年金保険があります。ここでは、法人・個人事業主(一人親方)の違いも含めて、主な特徴や加入条件を見ていきましょう。

■雇用保険

雇用保険は労働者の全員が強制加入となっており、保険料は事業主と労働者の双方が負担します。例外的に学生や65歳以上は雇用保険の対象外であり、事業主や役員も加入できません。

■労災保険

雇用保険と労災保険を合わせて「労働保険」と呼び、労災保険は1人でも労働者を雇用している事業主はすべて加入義務が生じます。労災保険分は「全額事業主負担」となるのが特徴であり、基本的に個人事業主や役員は対象外となります。

■公的医療保険

法人あるいは常時従業員数が5人以上の個人事業主は、労働者・代表者・役員を強制加入させる必要があります。一方、常時従業員数が5人未満の個人事業主は適用外となるので、個人で国民健康保険に加入することとなります。

■公的介護保険

公的介護保険は、40歳以上64歳以下の方に加入が義務付けられた保険であり、会社員だけでなく個人事業主も対象となります。会社員は社会保険料とともに、個人事業主の場合は国民健康保険料とともに料金が徴収されます。

■厚生年金保険

法人あるいは常時従業員数が5人以上の個人事業主は、労働者・代表者・役員を強制加入させなければなりません。

公的保険に未加入でいるリスク

上記のように、雇用保険・労災保険は労働者を雇用するすべての事業者が、医療保険・厚生年金は法人あるいは常時労働者が5人以上の個人事業主が対象となります。公的保険に未加入のままでいると、「労働災害保険給付額の一部または全部が徴収される」「各種助成金が受けられない」「さかのぼって保険料が徴収され、追徴金も課される」などのペナルティが生じるので注意が必要です。

また、建設業特有の問題として「建設業許可が下りない」「入札や契約が難しくなる」といったデメリットが生じ、営業活動に支障をきたす可能性もあります。さらに、公的保険は福利厚生の土台となるため、未加入の状態でいれば求人活動でも大きく不利になり、「人手不足が深刻化する」可能性も生じるでしょう。

自社に合った保険を選ぶコツ

今回ご紹介したように、建設業には公的保険以外にもさまざまな種類の保険があります。自社に合った保険・プランを見極めるためのコツとして、特に重要なポイントを3つご紹介します。

リスクと補償内容の相性をチェックする

保険の補償内容や範囲は、取り扱われている商品やプランによって大きく異なるため、まずは内容を詳しく確認する必要があります。一見すると充実度が高いプランであっても、カバー範囲が自社の業務上あまり起こり得ない損害であれば、十分なリスク対策とはなりません。

自社の業種や業務内容を踏まえ、どのようなリスクが想定されるのかを丁寧に洗い出したうえで、相性の合う保険を見つけていくことが大切です。

複数の会社に見積もりをとる

保険料の設定は保険会社ごとに異なるため、複数の会社に見積もりを取り、料金設定が適正であるかどうかをチェックすることも大切です。自社が優先的に補償してもらいたい範囲をカバーしつつ、自社の規模と比べて保険料が高すぎないものを選びましょう。

保険会社の実績や担当者の対応も考慮する

保険を選ぶ際には、取り扱う保険会社そのものの安全性や財務の健全性にも着目しておくと安心です。万が一保険会社が倒産すれば、保険金を受け取れなくなってしまうリスクもあるため、極端に知名度が低い会社や実績の少ない会社は避けるのが無難といえるでしょう。

また、納得のいくプランを選ぶためには、担当者の対応にも目を向けることが大切です。保険会社はいざというときに頼る重要な相手となるため、担当者の能力や対応に問題がないか、質問などに素早く応じてもらえるかもチェックしておくとよいでしょう。


●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。

Q:建設業で重要度が高い保険にはどんなものがある?
A:
幅広いカバー範囲を持つ「業務災害補償保険」「建設工事保険」や「土木工事保険」、組み立て工事の損害をカバーする「組立保険」、などが重要度の高い保険として挙げられます。また、「PL保険」や「法人向け自動車保険」「企業財産包括保険」なども、建設業と相性のよい保険です。

Q:建設業で公的保険に未加入だとどんなリスクがある?
A:
「さかのぼって料金が請求される」「追徴金が生じる」といった基本的なペナルティのほかに、「建設業許可が下りない」「入札・契約で著しく不利になる」「人材確保が難しくなる」といったリスクも生じます。


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