<新着>工務店が活用できる資金調達方法を解説!補助金・助成金はどう使える?
資金繰りに悩まれたことはありませんか?
実は工務店や住宅メーカーは業務の契約形態や取引慣習の特徴から、中小規模だと比較的資金繰りに悩みやすい業種といわれています。
だからこそ、安定的に経営していくためにはいろいろな資金調達方法を知っておくことが重要です。
この記事では、中小規模の工務店が利用できる代表的な資金調達方法のメリットと注意点、住宅業界で活用できる補助金・助成金の例や上手な使い方について解説していきます。
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工務店は資金繰りに困りやすい?
工務店や住宅メーカーをはじめとする建設業の商慣習では、工事代金がすべて支払われるのは工事が終わってからとなっています。そのため、請け負った工事の材料費や外注費などの費用がかさむと資金繰りが悪化しやすいのです。
悪天候や材料の調達待ち、想定外のトラブルなどによって工期が遅れると当然入金も遅くなります。気をつけていないと、案件をたくさん請け負ったために倒産してしまう、なんてこともあり得るのです。
種々の契約の原則を定めた民法においても、請負業務の代金は後払いが原則とされています。
(出典:e-Gov 法令検索『民法 第三篇 第二章 第九節 請負』)
このため着手金等の名目で工事代金の一部を前払いしてもらうためには、工事請負契約書の中に特約として記載することが必要です。
前払いの金額や回数を増やせば資金繰りのリスクは下げられますが、一方で顧客離れにつながる恐れもあります。
たとえば注文住宅で施主が住宅ローンを工事代金に充てる場合、一般的に住宅ローンの融資金が振り込まれるのは住宅の引き渡しのタイミングとなるため、前払い金額が大きくなることは好まれません。
また宅地建物取引業法による規制対象となる工事では、完工前に受け取ることのできる手付金などの額に上限が定められていることも把握しておく必要があります。
(出典:e-Gov 法令検索『宅地建物取引業法 第五章 第一節 通則』)
こうした業界ならではの特徴をふまえて、資金調達の方法を知っておかなければなりません。
融資による資金調達
ここからは中小規模の工務店が利用できる主な資金調達方法を見ていきます。
まず挙げられるのは、融資による資金調達です。
一口に融資と言っても、お金の借り方によってメリットや注意点は異なります。
日本政策金融公庫
中小規模の工務店であれば、お金を借りる先として日本政策金融公庫が候補に挙がります。
略して「日本公庫」とも呼ばれる日本政策金融公庫は、中小規模の事業者の支援を目的に運営されている政府系金融機関です。
比較的低い金利で融資を受けられるほか、申し込む融資制度によっては保証人や担保が要らない場合もあります。ただし提出を要する書類が比較的多く、審査や手続きに時間がかかるため急ぎの資金調達には向いていません。
保証付融資
種々の金融機関からの融資を受けやすくする手立てとして「保証付融資」という方法があります。これは各地の信用保証協会から信用保証してもらって受ける融資で、返済が滞った場合に信用保証協会が立て替え払いを行うため、金融機関としてはリスクが下がり、融資の承認を得やすくなります。
保証してもらうためには所定の信用保証料がかかることに注意が必要です。
(出典:一般社団法人 全国信用保証協会連合会『初めての融資と信用保証』)
プロパー融資
信用保証協会の保証なしで銀行等の金融機関から受ける融資はプロパー融資と呼ばれます。
金融機関の審査に通れば比較的迅速に低金利で融資を受けられますが、借り手の事業実績や事業計画、信用力を基に返済能力が厳密に審査されるため、中小規模の工務店にとっては一般的に受けることが難しいとされています。
ファクタリングによる資金調達
次に、ファクタリングによる資金調達について見ていきます。
ファクタリングとは、工事代金などの売掛金の債権をファクタリング会社に売却して現金化することです。売掛金の回収期日よりも早く現金を受け取ることができます。
融資と違って信用情報に影響がなく、担保も不要で、最短即日で入金される点が大きなメリットといえます。
ファクタリングには「2者間ファクタリング」と「3者間ファクタリング」があります。
一般に2者間ファクタリングでは売掛先への通知が要らず、通常通り売掛金を回収した後にその売掛金をファクタリング会社に支払う流れとなります。売掛先に知られずに済むというメリットはありますが、10-20%前後の手数料がかかることに注意が必要です。
3者間ファクタリングでは売掛先の承諾を得たうえで債権を売却し、売掛金の回収はファクタリング会社が行います。手数料は比較的安く、1-10%前後が相場です。
手数料、売掛先への影響のほか、債権譲渡登記を求められる場合があることにもご留意ください。
補助金・助成金による資金調達
続いて、補助金・助成金による資金調達について見ていきましょう。
補助金は、主に設備投資やシステム開発投資の促進を目的として、個々の事業に対して支給される公的資金です。金額は比較的大きいですが、補助金制度ごとに全体の件数や予算の上限があり、申請しても採択されるとは限らないことに注意が必要です。
助成金は、主に従業員の雇用や労働環境の改善を目的として、事業者に対して支給される公的資金です。たとえば厚生労働省の所管する「雇用調整助成金」のように、金額は比較的小さいですが要件を満たせば原則支給されます。
(出典:厚生労働省『雇用調整助成金』)
住宅業界では住宅の耐震化や長寿命化、高齢者施設のバリアフリー化など、政策課題として重視されている事柄の促進を目的とした様々な補助金制度が設けられています。
国土交通省が所管する「長期優良住宅化リフォーム推進事業」や「サービス付き高齢者向け住宅整備事業」といった国による補助金制度のほか、都道府県など地方自治体ごとに設けられている補助金制度もあります。
(出典:国土交通省『令和7年度長期優良住宅化リフォーム推進事業』)
(出典:国土交通省『サービス付き高齢者向け住宅整備事業』)
これらの補助金を受給できれば、施主の費用負担を和らげながら案件の単価を引き上げることができます。
ただし補助金を利用しようとする際は、契約の時期や工期の設定に注意が必要です。
例として挙げた上記2つの補助金もそうですが、基本的に補助金制度は、
- 工事の着手前に申請して審査を受け、
- 支給が決まった後に着工し、
- 完工後に報告書を提出し、
- 決められた期限までに受理されれば支給される、
という流れとなります。
支給が決まる前に着工してしまったり、工期が遅れて報告書の提出が期限に間に合わなかったりすると、補助の対象から外れてしまうのでご注意ください。施主との工事請負契約もこれらをふまえて結ぶ必要があります。
また補助金の入金は完工後になります。工期中に支払う費用の額が大きいと当然資金繰りの悪化にもつながるため、注意が必要です。
長期的な経営改善につながる補助金
補助金の使い道は、工事費用だけに限りません。
経費の削減や業務の効率化につながる設備投資にも様々な補助金制度が設けられており、これらを活用することで長期的な経営改善を期待できます。
たとえば中小企業庁が所管する「IT導入補助金」の対象となるITツールの中には、住宅業界に特化した電子契約サービスなどがあります。
(出典:中小企業庁『IT導入補助金2025』)
契約書に貼る収入印紙の一つ一つは少額でも、積もり積もればなかなかの金額です。また、契約書を製本する手間や、関係者の多い工事では押印を求める手間も馬鹿になりません。
電子契約なら収入印紙は不要で、締結するための手間と時間も大幅に減らすことができます。
申請書類の準備や手続きの手間はかかりますが、IT導入補助金では導入しようとするITツールの提供事業者と協力して手続きを進めていくことになるため、補助金申請に慣れていなくても比較的取り組みやすいと言われています。
補助金・助成金の活用を始める第一歩としてもちょうどよいかもしれません。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:工務店は融資による資金調達を活用できる?
A:中小規模なら日本政策金融公庫の融資制度や信用保証協会の保証付き融資を活用するとよいでしょう。提出書類や信用保証料に注意を要します。
Q:ファクタリングって何?
A:工事代金などの売掛金債権をファクタリング会社に売って現金化すること。早く現金を受け取れますが、手数料や売掛先への影響、登記の必要性に気をつけてください。
Q:工務店は補助金・助成金を活用できる?
A:住宅業界では政策課題に応じた様々な補助金制度が設けられているほか、長期的な経営改善につながる設備投資にも補助金・助成金を活用できます。
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執筆者
杉山 啓(IMASSA認定マーケティング実務士、行政書士、統計調査士)
インターネット行動履歴データに基づくマーケティング支援を行うベンチャー企業に勤めていた際に、住宅、情報通信、出版、化粧品など多岐にわたる業界の大手企業を対象とするコンサルティングや法人営業に従事した。
2018年にマーケティング・ビジネス実務検定A級(IMASSA認定マーケティング実務士)、統計調査士、統計検定2級に合格。Uターン後は愛媛県内の道の駅でEC運営を担当し、月間のサイト訪問者数を前年比約2倍、売上を前年比約1.3倍に増やした経験ももつほか、非営利で哲学対話・哲学カフェのワークショップも継続的に主宰している。2024年に行政書士に登録し、企業間の契約書類作成等の法律業務も担う。