<新着>保証義務違反・瑕疵担保責任で訴えられた! 工務店が知っておくべき法的責任とトラブル予防のポイント
目次[非表示]
- 1.「契約不適合責任」「保証義務違反」とは?工務店が負う法的責任の基本
- 2.契約不適合責任・保証義務をめぐる主なトラブル事例
- 2.1.雨漏り・水漏れ
- 2.2.構造上の欠陥
- 2.3.仕上げ・設備の不具合
- 2.4.契約と異なる施工
- 3.訴訟・紛争で問われる主な論点
- 4.訴訟リスクを回避するためのトラブル予防のポイント
- 4.1.明確な契約書の作成
- 4.2.打ち合わせ記録の徹底
- 4.3.施主との密なコミュニケーション
- 4.4.保証制度の活用
- 5.執筆者
「契約不適合責任」「保証義務違反」とは?工務店が負う法的責任の基本
契約不適合責任とは、請け負い契約に基づき引き渡された建物の種類・数量・品質が契約内容に適合しない場合に、施工会社(工務店)が施主に対して負う法的責任です。
これは2020年4月の民法改正で従来の「瑕疵担保責任」が改められたもので、建物の引き渡し後に欠陥や不具合(契約との不一致)が見つかった場合に問題となります。たとえば契約で無垢材の床と定めていたのに合板を使ったようなケースでは、完成物の品質が契約より劣るため契約不適合責任が発生します。
契約不適合が認められると、施主は工務店に対し補修(修補)や代金の減額、損害賠償、契約解除といった救済を求めることができます。旧民法の瑕疵担保責任では損害賠償と契約解除のみでしたが、改正後は補修請求と代金減額請求も明文化されました。
ただし、こうした契約不適合責任を追及するには、施主が不具合を発見してから1年以内に工務店へ通知しなければなりません。
万一通知を怠ると、その不適合を理由とする請求権が消滅してしまうため注意が必要です(工務店が欠陥を知りながら引き渡した場合などはこの限りではありません)。
また、保証義務違反とは、工務店が契約や法律で定められた保証期間中に発生した不具合について、修補や保証対応を怠った場合に生じる責任です。契約上号している場合は契約を根拠に、また住宅瑕疵担保履行法を根拠として、工務店には一定期間の保証義務が課されるため、これに違反すると損害賠償や修補請求の対象となります。
契約不適合責任・保証義務をめぐる主なトラブル事例
実際に工務店と施主との間で問題となりやすい不具合には、次のようなものがあります。
雨漏り・水漏れ
屋根や防水施工の不備による雨水の浸入など。放置すると被害が拡大しやすく、早急な対応が必要な典型例です。
構造上の欠陥
構造耐力不足や施工不良による建物の傾き・沈下など。安全性に関わる重大な不具合であり、原因究明と補修を早期に行うことが求められます。
仕上げ・設備の不具合
壁や基礎コンクリートのひび割れ、タイルの剥落、電気・給排水設備の不良など、施工上の不備によって生じる見た目や機能面の問題です。
契約と異なる施工
契約書で合意した仕様と違う材料・工法が使われていたケースです。たとえば、指定されたものより質の劣る部材が使用されていた場合は典型的なトラブルになります。
こうした不具合が発覚すると、施主から「約束と違う」「施工ミスだ」として是正や賠償を求められ、紛争に発展することがあります。
特に雨漏りなどは建物の基本的機能に関わるため、発生すれば放置できません。工務店としては施工段階から十分注意し、引き渡し後も誠実に対応することが重要です。
訴訟・紛争で問われる主な論点
トラブルが訴訟など法的紛争に発展した場合、まず争点となるのは契約不適合(欠陥)の有無です。裁判では、施主側が「どの部分にどのような不具合があり、それが契約内容に適合しないか」を具体的に主張・立証する必要があります。工務店側としては、その不具合が本当に施工上の瑕疵といえるのかを争うことになります。
たとえば雨漏りでも、排水口の清掃不足が原因で雨水が侵入した場合は施工会社の責任にはできないでしょう。また外壁タイルの剥落についても、経年劣化によるものと認められる場合には施工上の問題ではないと主張されることがあります。このように、不具合の原因や責任の所在について双方の主張が対立することになります。
次に、損害賠償の範囲も争点になりやすいでしょう。欠陥によって建物や生活に生じた被害について、どこまで工務店が賠償すべきかが問題となります。施主側は修補費用だけでなく、雨漏りで家具が腐食した損害や健康被害、欠陥補修のための仮住まい費用など、幅広い損害の賠償を求めることがあります。
一方で工務店側は、それらの損害が本当に施工不良と因果関係があるのか、請求額が適切かといった点について反論することになるでしょう。実際、欠陥と損害との因果関係の立証責任は施主側にあります。
さらに、契約上の取り決めや手続き面も争点となります。たとえば契約書に契約不適合責任を免除・制限する特約が定められている場合、その有効性が問われます。契約不適合責任の規定自体は任意規定であり、当事者間で責任範囲や期間を調整することも可能です。
しかし実際には法律による制約があり、工務店が完全に責任を免れることはできません。新築住宅については住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)により、構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分の欠陥については引き渡しから10年間責任を負うことが義務付けられており、この期間を契約で短縮することはできません。
また、工務店が欠陥を知りながら告げずに引き渡した場合には、たとえ責任を負わない旨の特約があっても免責は認められません。
加えて、契約相手が一般消費者である場合、消費者契約法により一方的に工務店の責任を免除するような条項は無効と判断される可能性があります。契約書で責任期間や範囲を定める際には、これら法律上の限界に十分留意する必要があります。
訴訟リスクを回避するためのトラブル予防のポイント
法的トラブルを避け、施主との信頼関係を築くために工務店が講じるべき具体的な対策を確認しましょう。
明確な契約書の作成
契約段階で工事内容や仕様、工期、保証内容などを細部まで取り決め、口頭ではなく書面で合意します。事前に綿密な打ち合わせを行い、その結果を契約書に反映させておくことが重要です。契約内容が不明確なままだと、後になって「聞いていない」「約束と違う」などとトラブルになる恐れがあります。
打ち合わせ記録の徹底
工事中に生じた変更点や追加工事については、その都度書面やメールで記録を残しましょう。現場での口頭の約束だけでは「頼んでいない」「言った/言わない」の争いに発展しがちです。実際、変更合意の有無が後から争われるケースも多いため、打ち合わせの議事録を作成して双方で確認する習慣が重要です。
施主との密なコミュニケーション
施主とは契約前から引き渡し後まで、丁寧な説明と確認を重ねて信頼関係を築きます。設計上の制約や、やむを得ない仕様変更が生じる場合は早めに相談し、誤解を残さないように努めましょう。引き渡し後も定期点検や不具合への迅速な対応を行い、施主の不安を和らげることが大切です。迅速・誠実なアフターフォローによって、問題が深刻化する前に解決できる可能性が高まります。
保証制度の活用
新築住宅を建築する際は、法律により住宅瑕疵担保責任保険への加入が義務付けられています。保険加入時に実施される第三者機関の現場検査を活用すれば施工ミスの未然防止につながりますし、万一重大な欠陥が発覚した場合でも保険から補修費用が支払われるため、施主にとっても大きな安心材料となります。契約時には保険の内容(補償対象や期間)について施主にしっかり説明し、十分な理解を得ておくこともトラブル予防につながります。
以上のポイントを実践することで、施主との行き違いや認識不足によるトラブルを未然に防ぎやすくなります。工務店にとっても法的リスクを軽減し、円滑な施工と顧客満足の向上に寄与するでしょう。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:瑕疵担保責任と契約不適合責任は何が違うのでしょうか?
A:2020年の民法改正により瑕疵担保責任という制度は廃止され、契約不適合責任に一本化されました。基本的な考え方は似ていますが、契約不適合責任では「隠れた瑕疵」かどうかに関係なく契約との不一致全般が対象となり、施主が利用できる救済手段(補修請求や代金減額請求など)も増えています。
Q:工務店が契約書で契約不適合責任を免除することは可能でしょうか?
A:完全に免除することは難しいです。契約不適合責任は任意規定なので一定の制限を設けること自体は可能ですが、工務店が欠陥を知りながら隠していた場合は特約によっても責任を免れることはできません。また、新築住宅の構造や雨漏りに関する欠陥については法律で10年間の責任(住宅瑕疵担保責任)が義務付けられており、契約でこれを短縮することはできません。さらに、消費者との契約では一方的に工務店の責任を免除する条項は無効と判断される可能性が高く、免責には法律上の限界があります。
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執筆者
弁護士法人コスモポリタン法律事務所
杉本 拓也(すぎもと たくや)
単なる法的助言を行う法律顧問ではなく、企業内弁護士としての経験を活かして、事業者様により深く関与して課題を解決する「法務コンサルタント」として事業者に寄り添う姿勢で支援しております。国際投融資案件を扱う株式会社国際協力銀行と、メットライフ生命保険株式会社の企業内弁護士の実績があり、企業内部の立場の経験も踏まえた助言を致します。