建設業界で人手不足を乗り切るには? 外国人労働者を受け入れる方法や注意すべき点を解説
少子高齢化に伴う労働人口の減少などにより、国内ではさまざまな業界で人手不足の状態が長期化しています。建設業界も例外ではなく、どのように安定した労働力を確保するかは多くの企業にとって主要な経営課題ともいえるでしょう。
今回は人手不足を解消する方法の一つとして、外国人労働者を受け入れる方法やメリットについて解説します。また、外国人雇用を実施する際の注意点も併せてご紹介します。
目次[非表示]
- 1.建設業界における人手不足の課題
- 1.1.人材獲得競争の激化に伴う需給のミスマッチ
- 1.2.為替の影響
- 1.3.人材派遣サービスの利用制限
- 2.外国人労働者を受け入れる方法
- 2.1.特定技能外国人制度の創設
- 2.2.特定技能の種類
- 2.3.建設分野における受け入れ企業の義務
- 3.外国人労働者を受け入れることで得られるメリット
- 3.1.人手不足の解消につながる
- 3.2.年齢構成の若返りを図れる
- 3.3.社内の活性化につながる
- 3.4.助成金・補助金などの活用が可能
- 4.外国人労働者を雇用する際の注意点
- 4.1.在留資格と在留期間を十分に確認する
- 4.2.文化の違いに配慮する
- 4.3.特定技能人材の受け入れ要件をクリアする
- 5.業務効率化も併せて検討してみよう
建設業界における人手不足の課題
建設業界における人手不足は、具体的にどのようなことが背景にあるのでしょうか。まずは建設業界が抱える代表的な課題を3つに分けて見ていきましょう。
人材獲得競争の激化に伴う需給のミスマッチ
建設業界で人材不足が続いている理由の一つには、労働人口の減少による人材需給のミスマッチがあります。建設業界では災害対策やインフラ整備などの需要が伸びているのに対し、就業者数はここ10年で20万人も減少しており、人材獲得競争が激化しているのです。
就業者の高齢化も大きく進行し、総務省の「労働力調査」によれば、55歳以上が35.9%を占める一方で、29歳以下は11.7%となっています。こうした需給バランスの悪化により、ビジネスチャンスを手にしても人員不足によって十分に生かせないといったケースは決して少なくありません。
為替の影響
外国人労働者の雇用においては、為替レートの影響も強く懸念されます。現在は長期的な円安が続いており、多くの外国人労働者の母国通貨に対して円相場は下落傾向です。
円安の状況下では、従来と同じような賃金で設定しても十分なアピール材料にならないため、外国人雇用のハードルが高くなります。
人材派遣サービスの利用制限
建設業で人材不足が起こりやすい背景には、人材派遣サービス利用の制限も挙げられます。職業安定法第32条により、土木・建築業の現場作業員を人材エージェントが紹介することは禁じられているのです。
事務職や営業職、施工管理などは認められているものの、現場の担い手を確保する手段にはならないため、人材確保の難しさにつながっています。
外国人労働者を受け入れる方法
人手不足を解消する方法の一つとして、外国人労働者を受け入れることが挙げられます。ここでは、建設業において外国人労働者を受け入れる仕組みについて見ていきましょう。
特定技能外国人制度の創設
外国人雇用に関する法制度は、近年急速に改革が行われている分野です。特に大きな転換点となったのは、2018年に成立した改正出入国管理法であり、これにより新たな在留資格である「特定技能外国人制度」が創設されました。
特定技能外国人制度とは、深刻な人手不足を抱える14の分野において、一定の専門性や技能、日本語能力を持った外国人の受け入れを促進するための制度です。2019年4月から受け入れが可能となっており、14の分野には建設業も含まれています。
即戦力となる外国人の受け入れが可能となり、人手不足の解消に向けた特効薬としての効果が期待されます。
特定技能の種類
特定技能には、「相当程度の知識または経験が必要な業務に従事する外国人向け」の在留資格である「特定技能1号」と、「さらに熟練した技能を要する業務に従事する外国人向け」の「特定技能2号」の2種類があります。2号の要件を満たせば、家族の帯同も可能となり、在留期間の更新に上限がなくなるなどの大きなメリットが生まれます。
建設分野における受け入れ企業の義務
建設分野においては、外国人の不法労働や失踪などを避けるために、特定技能外国人を受け入れる企業に対してさまざまな手続きが義務付けられています。受け入れを行う企業は、特定技能外国人の受け入れ計画を作成して、国土交通省の認定を受けなければなりません。
さらに、その後も計画の実施状況について、国土交通省または適正就労監理機関から確認を受けることが義務付けられています。国の機関と密接に連携をとることで受け入れ企業の信頼性が高まるため、帰国していた技能実習修了者も呼び寄せられるなど雇用の柔軟性が高まっています。
外国人労働者を受け入れることで得られるメリット
国土交通省が公表している資料(「建設分野における外国人材の受入れ」)によれば、建設業界で働く外国人の数は、2012年から2021年までの10年で10倍近くまで増加しました。2022年時点において、建設業界で活躍する外国人労働者数は約11万人にのぼり、これは全産業の約6.4%に当たる数値です。
ここでは、外国人労働者を受け入れるメリットについて、4つの視点から見ていきましょう。
人手不足の解消につながる
外国人労働者を受け入れる直接的なメリットは、安定した人材確保につながる点です。国内だけを見れば労働力は着実に減少しており、採用競争はますます厳しくなっています。
転職の一般化などによって、採用しても早期離職されてしまうリスクも高くなりました。外国人労働者にも採用の目を向けることで、人材確保の可能性が大きく広がり、人手不足の解消につながる策を見つけられるようになります。
年齢構成の若返りを図れる
先にも述べたように、建設業においては人材の高齢化が進んでおり、若年層の就業者が少ないのが課題となっています。外国人労働者には若手の人材が多いため、積極的な受け入れによって、社内の若返りを図れるのも大きなメリットです。
社内の活性化につながる
多様な価値観を持つ人材を受け入れることで、社内にさまざまな変化が生まれ、コミュニケーションが活性化します。特に若手の労働者が増えれば、自然と社内に活気が生まれるため、既存の従業員にもよい影響が期待できるようになるでしょう。
助成金・補助金などの活用が可能
外国人雇用については、さまざまな助成金・補助金制度が確立されています。たとえば「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」では、外国人労働者の就労環境整備計画を実施するなどの要件を満たすことで、職場に定着してもらうためにかかった経費の一部が助成されます。
また、国だけでなく自治体が主導して支援制度を行うところもあるなど、外国人を受け入れやすくなっているのも重要なポイントです。
外国人労働者を雇用する際の注意点
外国人労働者は、国内の人材と比べて受け入れ時の注意点が多いのも確かです。ここでは、建設業で受け入れを行うにあたって、特に注意しておきたいポイントを3つご紹介します。
在留資格と在留期間を十分に確認する
外国人労働者を雇用するときには、在留資格を十分に確認する必要があります。在留資格にはさまざまな種類があるため、日本での就労が認められていても、「建設業では働けないケース」や「単純作業ができないケース」などもあります。
また、技能実習や特定技能1号については在留期間に制限があるので、必ず期限をチェックし、必要に応じて更新の手続きを行うようにしましょう。
文化の違いに配慮する
外国人とのコミュニケーションにおいては、文化の違いなどによるトラブルを未然に防ぐ工夫も必要です。一口に外国人といっても、国によって価値観や働き方には違いがあるため、まずは個別に基本的な考え方を理解しておくとよいでしょう。
そのうえで、日本での就労に不慣れなメンバーに対しては、日本で働く際の基本的なルールやビジネスマナーを教えることも大切です。
特定技能人材の受け入れ要件をクリアする
建設会社が特定技能外国人を受け入れる際には、いくつかの条件をクリアしなければなりません。
■特定技能外国人の受け入れ要件
- 適切な雇用契約を結ぶこと(賃金、業務内容、休暇、帰国に関する取り決めなど)
- 受け入れ機関自体が適切であること(各種法令の遵守、適切な手続きの完了など)
- 外国人を支援する体制があること
- 外国人を支援する計画が適切であること
- 国土交通大臣による建設特定技能受入計画認定を受けていること
受け入れ計画や支援体制に関しては、たとえば「受け入れ企業が建設業者団体の会員であるか、一般社団法人建設技能人材機構(JAC)の賛助会員であること」などが条件となっています。また、建設特定技能受入計画の認定を受けた後は、「FITS(国際建設技能振興機構)」の受け入れ後講習や巡回指導を受ける必要もあります。
ほかに、国土交通省や出入国在留管理庁への報告なども義務付けられているため、受け入れに手続きについては専門機関に相談してみるのも一つの方法です。
業務効率化も併せて検討してみよう
今回ご紹介したように、外国人労働者の雇用にはさまざまなルールが存在しているため、適切に受け入れるには専門知識とノウハウが必要となります。不慣れな場合は、短期的な人材確保の方法としての活用が難しいケースもあるので、外国人雇用とは異なるアプローチからも人手不足の解消に努めるとよいでしょう。
建設分野においては、ICTの活用による業務効率化も重要な取組みとなります。たとえば、工程や図面をスマホ・タブレットで管理し、遠隔地からも監理できるようにカメラを設置するなどの方法を導入することで、資料の準備・共有、担当者の移動といったロスを削減可能です。
ペーパーレス化によってデータの一元管理が行われれば、連携ミスなどのヒューマンエラーも少なくなり、限られた人員でも効率的に業務を遂行できる環境が整います。また、ドローンによる高所点検作業などが実現されれば、従業員の安全確保にもつながります。
ICTの活用によって業務効率化が進めば、結果として外国人労働者にとっても働きやすく、定着しやすい環境を整えることにもつながるでしょう。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:特定技能外国人制度とは?
A:2018年の出入国管理法改正によって創設された制度であり、深刻な人手不足を抱える14の分野において一定の専門性や技能、日本語能力を持った外国人の受け入れを促進するための仕組みです。14の分野には建設業も含まれています。
Q:建設業で外国人労働者を受け入れるメリットは?
A:人材不足を直接的に解消する方法になり得るのに加え、若手の人材が多いため、組織の若返りや活性化を図れるのがメリットです。特に建設業では人材の高齢化が進んでいることから、若い外国人労働者の受け入れによる影響がプラスに働きやすいといえます。
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