建設業界で女性を雇用するメリットと働きやすい職場環境づくりための取組み7選
建設業界は長らく男性主体の気質が強かったこともあり、就業者の女性比率が低いという特徴を持っています。それだけに、自社で女性の活躍を促すことができれば、人手不足が解消されるだけでなく、他社との大きな差別化にもつながります。
今回は、建設業界で女性を雇用するメリットと、女性人材を受け入れるうえで必要な取組み・施策について詳しく見ていきましょう。
目次[非表示]
- 1.建設業界で女性を雇用するメリット
- 1.1.人手不足の解消
- 1.2.女性ならではの視点を生かせる
- 1.3.コミュニケーション能力や仕事の丁寧さが期待できる
- 2.建設業界における女性の就業者数と課題
- 2.1.建設業の女性就業者数は他産業に比べて低い
- 2.2.建設業に女性が集まりにくい理由
- 3.働きやすい職場環境づくりのための取組み7選
- 3.1.積極的な情報発信によるイメージの改善
- 3.2.女性向けスペースの確保・整備
- 3.3.女性のワークライフバランスの向上
- 3.4.女性管理職の増加
- 3.5.ハラスメント対策の強化
- 3.6.多様なキャリアの提示
- 3.7.助成金の活用
- 4.女性の採用を増やすためのポイント
- 4.1.入社前後のフォローを適切に行う
- 4.2.地域や団体に協力してもらう
- 4.3.女性従業員の声に耳を傾けて自社の現状・課題を分析する
- 4.4.女性の視点に立って求人票を作成する
建設業界で女性を雇用するメリット
一般的に建設業界は肉体的な負荷が大きく、どちらかといえば男性に適した環境であるというイメージを抱かれがちです。しかし、実際には女性の労働力が重要な役割を果たす場面も多く、積極的な雇用によって企業にはさまざまなメリットが生まれます。
まずは、建設業界で女性を雇用する利点について見ていきましょう。
人手不足の解消
女性の雇用に目を向けることは、人手不足の直接的な解消につながります。現代の建設業界では、慢性的な人手不足が続いており、仕事の需要に対して労働力の供給が追いついていない状態です。
女性を含めた多様な人材を受け入れることで、企業全体としての労働力が増強されるため、市場における競争優位性を高められるのがメリットです。
女性ならではの視点を生かせる
個人差はあるものの、女性は男性目線では見落としてしまうような部分に気づける視点を持つ人が多いのが特徴です。たとえばインテリアデザインや設計などの分野においては、女性ならではの視点を生かすことで、デザイン性や実用性の向上が期待できます。
また、施工管理の分野においても、こまやかな配慮によって職人同士の連携が強化されたり、事故を未然に防いだりするといった効果が期待できるでしょう。異なる視点を取り入れることで、サービスや品質の向上を図れるのは、女性人材を受け入れる大きな利点です。
コミュニケーション能力や仕事の丁寧さが期待できる
女性はコミュニケーション能力が高い人が多いのも特徴といえます。基本的に、建設業の仕事はチームで遂行するため、どのようなポジションであってもコミュニケーション能力は不可欠のスキルです。
傾聴力や共感力が高い人材であれば、接客や取引先との商談において活躍が期待できるとともに、社内の人間関係向上にも寄与するでしょう。また、男性と比べて仕事を丁寧に進める女性人材も多く、品質管理やスケジュール管理、設計図作成などで能力を発揮するケースも少なくありません。
建設業界における女性の就業者数と課題
建設業の仕事では、さまざまな分野で女性の活躍が期待されるものの、女性従業者の数はそれほど多くありません。ここでは、具体的なデータを基に、女性雇用に関する現状と課題を解説します。
建設業の女性就業者数は他産業に比べて低い
総務省の「労働力調査年報(2023)」によれば、建設業全体における就業者は全体で483万人とされています。対して女性の就業者数は88万人となっており、これは全体の約18%に当たる数字です。
参考までに、その他の主要な業界における女性比率を求めると、製造業では「約30%」、宿泊業・飲食サービス業では「約62%」、情報通信業では「約29%」、卸売・小売業では「約53%」と、いずれも建設業より高い数値になります。データを踏まえると、建設業での女性比率は相対的に低く、まだ十分に改善の余地が残されていることが分かります。
建設業に女性が集まりにくい理由
建設業が他業種と比べて女性が集まりにくいとされる理由の一つには、「職場環境の整備が進んでいないイメージがある」といった点が挙げられます。たとえば、工事現場における仮設トイレや更衣室などは、女性専用のものの設置が難しいケースもあります。
また、現場での業務においては、重量物や大きなものを扱う作業もあるため、どうしても肉体的な負荷に対する懸念も考えられるでしょう。そのうえで、やはり大きな足かせになっていると考えられるのが、「建設業界全体に対する男性主体のイメージ」です。
近年では、女性が働きやすい環境への改善に努める企業が増えてはいるものの、業界全体としては「肉体的な負荷が大きい」「口調や態度が厳しい人が多い」といったイメージを拭えているわけではありません。そのため、女性ならではの視点を生かしたいと考えている企業も、仕事に対する十分な理解が得られず、応募数の確保が難しくなっているのです。
働きやすい職場環境づくりのための取組み7選
これまで見てきたように、建設業では女性の人材確保が大きな課題となっており、国もさまざまな取組みを主導しています。たとえば、国土交通省が公表している「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」では、女性活躍に向けた業界全体の戦略として多様な施策が打ち出されています。
ここでは、女性が働きやすい職場環境をつくるための具体的な施策を7つに分けて見ていきましょう。
積極的な情報発信によるイメージの改善
先にも述べたように、建設業界に女性人材が集まりにくい背景には、認知度の不足によるネガティブなイメージも大きく関係しているといえます。そこで、実際に建設業界で働いている女性従業員にインタビューを行い、各種メディアを通じて情報発信に取り組むのも有効な方法です。
どのような働き方があるのか、どのようにキャリアを築いていけるのかを実体験をもとにアピールすることで、求職者に対するイメージの改善につながります。
女性向けスペースの確保・整備
女性向けのトイレや更衣室などを完備することも、女性の受け入れを進める重要な施策です。オフィスはもちろん、現場においても女性従業員の利用を想定した環境づくりを進めることで、多様な人材を受け入れやすくなります。
女性のワークライフバランスの向上
建設業は長らく男性主体の業界であったことから、出産や子育てなどと両立する女性へのサポートが手薄といったイメージを持たれることもあります。まずはしっかりと産休・育休制度を整えたうえで、現場復帰を希望する女性のサポート体制を構築しましょう。
たとえば、「繁忙期を迎えたときのフォロー体制を明確にする」「育児と両立できるポジションやキャリアを確立する」「産休・育休制度に関する従業員教育に力を入れる」といった取組みが挙げられます。働きやすい体制を整備し、独自のサポート制度などを設けられれば、求人を行う際にも自社の魅力としてアピールできます。
女性管理職の増加
女性の育成に力を入れ、管理職や技能者を増やしていくことも重要です。実際に活躍する女性の従業員が増えれば、求職中の女性人材にとっても理想的なお手本となるため、自社で働くイメージを持ってもらいやすくなります。
ハラスメント対策の強化
新たに女性の雇用に力を入れる場合は、これまでの社風や文化を見直し、ハラスメント対策を強化することも大切です。男性主体の職場では、ハラスメントに該当するような発言や振る舞いが放置されやすいリスクもあるため、研修などを行って意識改革を進める必要があります。
厚生労働省が運営するポータルサイト「あかるい職場応援団」では、ハラスメント対策のマニュアルや研修用動画が公開されているので、社内で活用してみるのもよいでしょう。
多様なキャリアの提示
女性雇用を促進するためには、多様なキャリアプランを提示し、幅広い人材に訴求することも肝心です。施工管理や設計など、事務職以外の仕事でも活躍できる点をアピールすることで、より多彩な人材への応募を検討してもらいやすくなるでしょう。
助成金の活用
女性の雇用促進については、国の助成金を活用するのも有効です。たとえば、「若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)」は、建設業に若年者や女性を呼び込む施策を行う際に活用できます。
女性の採用を増やすためのポイント
女性の雇用を増やすためには、自社の採用活動を見直したうえで、必要に応じて改善を図らなければなりません。ここでは、女性人材の獲得を目指すうえで重視したいポイントをご紹介します。
入社前後のフォローを適切に行う
まずは、せっかく採用できた人材が流出してしまうのを防ぐために、採用のミスマッチを軽減させる工夫が必要となります。特に入社前や入社直後は精神的な負担も大きく、何かと不安を感じてしまいやすい時期であるため、丁寧なフォローが必要です。
たとえば、内定者を対象に研修や懇談会を行い、自社や従業員との距離を縮めてもらうのが有効です。また、入社後については通常の新入社員研修に加えて「メンター制度」を取り入れてみるのもよいでしょう。
メンター制度とは、直属の上司や先輩以外で立場や年齢の近い先輩従業員が一対一でつき、主に精神面にフォーカスしてサポートを行う仕組みのことです。キャリアや仕事、人間関係の不安などを相談できるメンターがいれば、女性の従業員も安心して組織になじみやすくなります。
地域や団体に協力してもらう
応募の母集団を増やすためには、自社の認知度を高めて多くの人に魅力を知ってもらう必要があります。広告やSNSの運用などに力を入れるとともに、地域や団体にも積極的に働きかける施策が有効です。
そのうえで、協力を求める際には、できるだけ条件を柔軟に検討する必要があります。たとえば、教育機関に働きかけを行う際には、専門技術を持った理系の学生のみを対象に考えると、どうしても女性の対象者が限定されてしまいがちです。
「コミュニケーション能力」や「マネジメント能力」なども含めて、幅広い視点で候補となる人材を視野に入れていくことが大切です。自社の教育システムを向上させれば、専門知識を入社後に学んでもらい、第一線で活躍してもらうことも十分に可能となるでしょう。
女性従業員の声に耳を傾けて自社の現状・課題を分析する
女性の求人を行ううえでは、現在働いている女性従業員にヒアリングやアンケートを行い、自社の現状・課題を分析するのも効果的です。「どのような点が女性にとって働きやすいのか」「どの点を改善すれば若い女性人材に入ってもらえるか」などを丁寧にヒアリングすることで、思いがけない改善点が見つかることもあるでしょう。
女性の視点に立って求人票を作成する
求人票や求人広告は、女性の視点を踏まえた内容を心がける必要があります。たとえば、育児や介護のサポートが充実しているのであれば、その点を強くアピールするのがセオリーです。
また、求人情報は写真にもこだわり、清潔感や安心感を与えられるかどうかを見極めましょう。実際に活躍している女性の姿や整理整頓されたオフィスの写真などを活用し、よい印象を与えられるように工夫することが大切です。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:建設業の人材育成の課題は?
A:建設業においては就業者の高齢化が目立ち、全体的に若手の割合が少ない傾向が見られます。建設技能者の割合も60代以上が4分の1を占めるため、若手世代への技術継承が喫緊の課題となっています。
Q:建設業で社内アカデミー(社内大学)を導入するメリットは?
A:技術や知識をテキストにまとめることで、スムーズに人材育成が行えるようになるのがメリットです。ほかにも「若手同士の横のつながりが広がる」「キャリア形成に活かせる」「社内に育成ノウハウが蓄積される」といったさまざまなメリットがあります。
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