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<新着>仕上がりが設計図や仕様書と違う!? 工務店が取るべき法的対応と責任について

仕上がりが設計図や仕様書と違う!? 工務店が取るべき法的対応と責任について

目次[非表示]

  1. 1.設計図や仕様書と異なる仕上がりが発覚した場合の初動対応
  2. 2.施工会社としての契約不適合責任とは何か?
    1. 2.1.履行の追完請求(修補・補足・代替)
    2. 2.2.代金の減額請求
    3. 2.3.損害賠償請求
    4. 2.4.契約の解除
  3. 3.工事のやり直し(修補)の対応判断と交渉のポイント
  4. 4.損害賠償請求リスクへの備えと社内法務対応のすすめ
  5. 5.執筆者
    1. 5.1.弁護士法人コスモポリタン法律事務所杉本 拓也(すぎもと たくや)

設計図や仕様書と異なる仕上がりが発覚した場合の初動対応

工事の完成後、設計図や仕様書と異なる仕上がりが判明した場合、工務店としては迅速かつ誠実な対応が求められます。まず、不一致がどの程度の差異なのか、設計図書や仕様書と現物を突き合わせて確認しましょう。色や仕上げ材の相違など軽微なものから、構造や寸法に関わる重大なものまで幅があります。

事実確認が済んだら、速やかに発注者に情報共有を行います。誠意ある説明を行い、原因調査と対応方針の検討を約束することが大切です。この段階で誠実な姿勢を示すことが、後の信頼維持に大きく影響します。

次に、社内で原因を調査します。施工ミスなのか、設計変更が正しく伝達されなかったのか、資材調達段階での問題なのかを明確にします。再発防止策についても、調査段階から検討を始めましょう。

さらに、証拠の保全を行うことも忘れてはなりません。問題箇所の写真撮影、工程表や設計図書の保存、社内報告書の作成など、後日の交渉や紛争時に備えて証拠を整理しておきましょう。記録はなるべく時系列に整理し、社内で共有する体制も整えておくと安心です。

施工会社としての契約不適合責任とは何か?

設計図や仕様書と異なる仕上がりは、民法上の「契約不適合責任」が問題となります。
これは、契約の内容(品質や性能、数量など)に適合した成果物を引き渡す義務を、施工会社が負っており、それに適合していなかった場合に法律上の責任を問われるものです。

民法第562条以下では、発注者は次のような権利を行使できると定められています。

履行の追完請求(修補・補足・代替)

発注者はまず、契約内容に適合するようやり直しや修補を求めることができます。工務店は無償でこれに応じる義務があります。たとえば、フローリング材が指定より低いグレードだった場合、仕様書通りの材料に張り替えることが求められます。

代金の減額請求

修補が不可能・困難な場合や発注者が追完請求を行わなかった場合は、成果物の価値低下に応じて代金の一部減額を請求されることがあります。たとえば、塗装の色味が指定と若干異なるが張り替えは大規模改修が必要な場合、一定金額を減額して和解する方法もあります。

損害賠償請求

不適合によって発注者に実損害が生じた場合は、その賠償義務も発生します。
たとえば引き渡し遅延により仮住まい費用が発生した場合、その費用を求められることがあります。

また、営業損失や信用毀損など間接的な損害も請求対象となる場合がありますが、これは「通常生じ得る範囲の損害」に限られることが多いです。

契約の解除

契約の目的が達成できない重大な不適合がある場合、発注者は契約自体の解除を選択できます。たとえば構造に重大な欠陥があり、安全性が担保されない場合などが該当します。この場合、工務店は請け負い代金の請求権を失い、既払金の返還義務を負う可能性があります。

これらのリスクを適切に限定するためには、契約書や発注書面の工夫が有効です。たとえば、軽微な不適合で修補に過大な費用がかかる場合は代金減額で対応する旨の条項を盛り込むことで、不合理な修補要求を防ぐことができます。

また、不適合の通知期間(通常は知った日から1年以内)や損害賠償範囲の制限を明確に定めておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。ただし、発注者が消費者の場合には消費者契約法上の制限も考慮が必要です。

工事のやり直し(修補)の対応判断と交渉のポイント

契約不適合が判明した場合、工務店としてまず判断すべきは、修補(やり直し)を行うべきかどうかです。判断基準は、費用対効果と損害拡大防止の観点が中心となります。建物の安全性や基本機能に関わる問題であれば、費用がかかっても早急に修補すべきです。一方、美観に関わる軽微な不適合で高額な費用を要する場合には、代金減額等の代替案も検討対象となります。

発注者との交渉では、修補内容とスケジュールを明確に提示することが求められます。「何を」「いつまでに」修補するのかを具体的に説明し、信頼感を持ってもらうことが重要です。修補時には発注者の生活や営業活動への影響にも配慮し、柔軟な対応を心がけましょう。

修補が不可能、または過大な負担を要する場合には、代金減額や和解交渉による解決を目指します。交渉内容は必ず書面に残し、後日のトラブルを防止します。

交渉過程での注意点として、安易な謝罪や責任全面承認は避けるべきです。誠意ある姿勢は大切ですが、事実関係が未確定の段階で全面的な責任を認めてしまうと、後の交渉で不利に働くおそれがあります。表現には慎重さが求められます。

特に高額な損害賠償請求が見込まれる場合や、責任の所在に争いがある場合には、早めに弁護士に相談し、発言内容や合意条件について助言を受けることをおすすめします。

損害賠償請求リスクへの備えと社内法務対応のすすめ

発注者から損害賠償請求がなされた場合、工務店としては冷静な姿勢で対応することが求められます。まず、契約書や施工記録、打ち合わせ記録などを整理し、自社が負うべき責任の範囲を明確にしましょう。

施工ミスに直接起因しない損害や、過大な請求には毅然と否認する姿勢が必要です。損害賠償は「相当因果関係」の範囲に限られます。過度な慰謝料請求などには慎重に対応しましょう。

また、発注者のクレームが民法上の通知期間(通常1年)や消滅時効(最長10年)を超えていないかも確認します。これらの期間を超えている場合には、責任追及が認められないこともあります。

損害賠償リスクに備えて、社内でも普段から証拠保全を徹底することが重要です。契約時の内容、施工中の変更事項、協議内容はすべて文書やデータで残す体制を整えましょう。

さらに、社内教育やマニュアル整備も不可欠です。施工管理マニュアルの見直しや、チェックリストの導入、社員への教育を徹底し、同様のトラブルを未然に防ぐことが求められます。過去の事例を共有し、注意喚起を行うことで、組織としての対応力も高まります。

最後に、万一紛争に発展しそうな場合は、早めに弁護士と連携しましょう。専門家の助言を得て、適切な対応を講じることが、工務店の信用維持と法的リスクの低減につながります。


●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。

Q:設計図と違う仕上がりが見つかった場合、すぐに修補すべきでしょうか?
A:
まずは事実確認と発注者への誠意ある説明が優先されます。すぐに修補の可否を判断せず、施工ミスの有無や影響範囲を調査し、費用対効果や損害拡大防止の観点から対応方針を検討しましょう。発注者との協議を丁寧に行い、修補が妥当か、代金減額など代替策が適切かを合意形成することが重要です。

Q:契約書で契約不適合責任を限定するにはどうすればよいでしょうか?
A:
契約書や約款に「軽微な不適合は代金減額で解決する」「不適合通知は引き渡し後1年以内に行う」といった条項を盛り込むことが有効です。ただし消費者契約では法的制約があるため、弁護士と相談のうえ、適法かつバランスの取れた条項を作成しましょう。施工記録の整備も責任限定の重要な備えとなります。

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執筆者

弁護士法人コスモポリタン法律事務所
杉本 拓也(すぎもと たくや)

単なる法的助言を行う法律顧問ではなく、企業内弁護士としての経験を活かして、事業者様により深く関与して課題を解決する「法務コンサルタント」として事業者に寄り添う姿勢で支援しております。国際投融資案件を扱う株式会社国際協力銀行と、メットライフ生命保険株式会社の企業内弁護士の実績があり、企業内部の立場の経験も踏まえた助言を致します。

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編集部
編集部
工務店・ビルダー、新築一戸建て販売会社様を支援すべく、住宅営業のノウハウや人材採用、住宅トレンドなど、様々なジャンルの情報を発信してまいります。

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